是正勧告を受けると、ブラック企業として公表されますか?
最近、「ブラック企業」という言葉をよく耳にしますが、是正勧告を受けただけで、そのことを公表されることはあるのでしょうか?
平成27年5月より、送検された事案だけでなく、是正勧告を受けた段階で企業名を公表される制度が導入されています。
平成29年1月からは、公表基準も厳しくなっており、2箇所以上の事業場で月80時間を超える時間外・休日労働がある企業は、公表のリスクがあります。
ブラック企業の公表
近年、「ブラック企業」という言葉をテレビやラジオ、インターネットなど、あらゆる媒体で耳にします。平成24年からは「ブラック企業大賞」という不名誉な賞を決定するという動きもあります。
ブラック企業の定義は法律用語ではないため、明確にはありませんが、労働法令違反が重大で、労働環境が劣悪な企業を指すと考えられています。
こうしたブラック企業の要因の一つとして、長時間の時間外労働の常態化があります。この長時間の時間外労働を強いている企業について、厚生労働省が公表基準を定めています。
平成27年までは、基本的に是正勧告という行政指導段階で企業名を公表することはありませんでした。
しかしながら、長時間労働に対する取締りの強化の一環として、送検される以前の是正勧告段階で、一定の基準を満たす企業については、公表することになりました。
公表基準の推移
平成27年改定
平成27年5月18日付基発0518第1号では、以下の要件をいずれも満たす場合には、企業名を公表することとなっていました。
社会的に影響力の大きい企業であること
具体的には、複数の都道府県に事業場を有している企業であって、中小企業基本法でいう中小企業に該当しないものをいうとされています。
違法な長時間労働が相当数の労働者に認められ、このような実態が一定期間内に複数の事業場で繰り返されていること
ここでいう「違法な長時間労働」については、労働時間、休日、割増賃金について、労働基準法違反の事実が存在し、かつ、1か月あたりの時間外・休日労働時間が100時間を超えている場合をいいます。
また、「相当数の労働者」については、1箇所の事業場において10名以上の労働者又は当該事業場の4分の1以上の労働者が該当するとされています。
そして、「一定期間内に複数の事業場で繰り返されている」という点については、概ね1年間程度の間に3箇所以上の事業場で違反がある場合を指すとしています。
この基準により企業名を公表されたのが、千葉県に本社のある「株式会社エイジス」という企業です(平成28年5月19日)。
千葉労働局より公表された情報によれば、この企業では、4つの事業場で、10名以上(最大18名)、最長で約197時間の時間外・休日労働が存在していたとされています。
この企業の事案が是正勧告の段階の公表として全国で初めての事案だったため、報道も大きくなされました。
平成29年改定
この公表基準は、平成29年1月に再度改定されています(平成29年1月20日付基発0120第1号)。主な変更点は以下のとおりです。
・概ね1年間程度の間に3箇所以上の事業場で違反がある場合
→2箇所以上(本社で2回以上も含む。)の違反が認められること
・1か月あたりの時間外・休日労働時間が100時間を超えている場合
→80時間を超える時間外・休日労働がある場合
注意点
基準の改定により、1年以内に2箇所以上の事業場で、1か月80時間を超える時間外・休日労働が発覚した場合、企業名の公表の可能性が出てきます。
この公表制度について、厚生労働省は、当該企業への制裁ではなく、あくまでその事実を広く社会に情報提供することにより、他の企業における遵法意識を啓発し、法令違反の防止の徹底や自主的な改善を促進させ、もって、同種事案の防止を図るという公益性を確保することを目的とすると位置づけています。
しかしながら、公表された企業は、当然マスコミなどを通じて、企業名を明らかにされるわけですので、事実上社会的な信用や企業イメージの悪化は避けられません。
こうした悪影響が及ばないように、日頃から労働時間の管理を行うことが重要になってきています。
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