労働基準監督署とは?相談のメリットやデメリットを解説
労働基準監督署とは、会社に対する監督や労災保険の給付等を行うところです。厚生労働省が管轄しています。
会社が労働法をきちんと守っているかを調査、指導をするところです。
この記事では、労働基準監督署とはどんなところか、労働基準監督署の主な役割、相談するメリット、デメリットなどについて、解説します。
ぜひ参考にされてください。
目次
労働基準監督署とは?
労働基準監督署(ろうどうきじゅんかんとくしょ)とは、会社が労働基準法、労働安全衛生法といった労働法令をきちんと守っているかどうかをチェックし、必要があれば会社に指導をし、改善するように、働きかける機関です。
また、労働基準監督署では、労災事故の対応もしています。
さらに、労働法令への違反が悪質な会社があった場合に、警察と同じように逮捕や捜査をする権限も労働基準監督署にはあります。
労働基準監督署は、厚生労働省の管轄で、全国に321署と4つの支署があります。
通常は略称として、労基署、労基、監督署などと呼ばれています。
労働基準監督署で対応している主なものは次のような事例です。
- 時給が安く最低賃金を下回っている
- 給料がきちんと払ってもらえない
- 残業しているのに残業代が出ない
- 有給休暇が取れない
- 休憩時間が約束と違って、取れない
- 労災を申請させてくれない
- 健康診断を受けさせてもらえない
労働基準監督署の基本的使命
憲法は、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と規定しています(憲法第27条第2項)。
これを受けて、労働基準法(労基法)、労働安全衛生法、最低賃金法など、労働に関するさまざまな法律が制定され、会社に対して、さまざまな義務を課しています。
国は、このような労働関係法令の実効性を確保するため、会社がこれらの法令をきちんと守っているかをチェックし、違反がある場合は会社に法令を守ってもらうために、必要な指導、改善指示をとらなければなりません。
その役割を担っているのが労働基準監督署なのです。
労働基準監督機関の組織と事務
この機能を担うため、労働基準監督機関として、国の機関である厚生労働省(本省)のほかに、各都道府県に都道府県労働局が置かれ、さらに都道府県労働局の下に労働基準監督署が置かれています。
厚生労働省→都道府県労働局→労働基準監督署の順に現場である会社に近いといえます。
労働基準監督署は、都道府県労働局の指揮監督を受け、労働局の担当事務の一部を実際に任されている機関です(設置法22条)。
労働局では、毎年監督計画という計画を作成し、その年に重点的に取り組む課題、問題を示します。
これを受けて、労働基準監督署が、会社に違反がないかをチェックしたり、改善を促したりするという関係です。
労働基準監督署の具体的な事務については、下図のとおりです(厚生労働省組織規則第790条)。
労基署の所掌事務
①労働契約、賃金の支払、最低賃金、労働時間、休息、災害補償その他の労働条件に関すること。
②労働能率の増進に関すること。
③児童の使用の禁止に関すること。
④産業安全(鉱山における保安を除く。)に関すること。
⑤労働衛生に関すること(労働者についてのじん肺管理区分の決定に関することを含み、鉱山における通気及び災害時の救護に関することを除く。)。
⑥労働基準監督官が司法警察員として行う職務に関すること。
⑦政府が管掌する労働者災害補償保険事業に関すること。
⑧労働者の保護に関すること。
⑨家内労働者の福祉の増進に関すること。
⑩前各号に掲げるもののほか、法律(法律に基づく命令を含む。)に基づき労働基準監督署に属させられた事務に関すること。
労働基準監督署は、労働基準法などの関係法令に関する各種届出の受付や、相談対応、監督指導を行う監督課、機械や設備の設置に係る届出の審査や、職場の安全や健康の確保に関する技術的な指導を行う「安全衛生課」、仕事に関する負傷などに対する労災保険給付などを行う「労災課」、会計処理などを行う「業務課」から構成されています(署の規模などによって構成が異なる場合があります)。
職員構成
労働基準監督署は、①労働基準監督官、②労働技官、③労働事務官という3種類の職員で構成されています。これを3官制度といいます。
労働基準監督官は、会社の監督、法令違反の強制捜査、送検等の業務を行っています。監督官は全国に3000名ほどいます。
労働技官は、事業場の災害調査、ボイラー検査等の技術的業務を行っています。
労働事務官は、一般事務、会計・経理事務、労災保険事務等の業務を行っています。
労働基準監督署に相談できること
労働基準監督署は、未払い残業代、給与の遅配、最低賃金、時間外労働、休憩時間、有給休暇、労災問題などについて、相談することができます(労働基準法102条等)。
①未払い残業代
会社が残業代を支払ってくれない場合、労働基準監督署に相談できます。
残業代が一応支払われているものの、適法な金額ではないケースも同様に相談できます。
②給与の遅配
会社が給与の支払日に給与を支払ってくれない場合、労働基準監督署に相談できます。
会社から一応給与が支払われていても、全額ではないケースも相談可能です。
③最低賃金
最低賃金(時間額)は各都道府県ごとに定められています。
会社が支払う給与が仮に雇用契約どおりであったとしても、この最低賃金を下回っていれば違法です。
この場合、労働基準監督署に相談することができます。
④時間外労働
時間外労働が違法な場合、労働基準監督署に相談することができます。
違法な場合の典型例としては、36協定※を締結せずに、時間外労働をさせている場合があげられます。
※36協定とは、労働基準法36条に基づく協定のことを指します。法定労働時間を超えて従業員に残業をしてもらう場合には、会社側と労働者側で36協定を締結しなければなりません。
⑤休憩時間
労働基準法上、休憩時間は、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を与えなければいけないとされています(労働基準法34条1項)。
これに違反していると、労働基準監督署に相談することができます。
⑥有給休暇
法律上有給休暇を与えなければならないのに会社が有給休暇を付与していない場合、労働基準監督署に相談することができます。
従業員が有給休暇を申請したのに、これを理由もなく認めない、なども場合も同様に相談可能です。
⑦労災問題
会社が労災保険に加入しない、労災発生時に申請手続きに協力しない、などの場合に労働基準監督署に相談することが可能です。
労働基準監督署の主な業務
それでは、労働基準監督署のそれぞれの部署がどのような業務を行っているかを解説していきます。
監督課の主な業務
監督課では、労働基準監督署の中心業務である、労働に関する申告や相談の受付を行っています。
①申告・相談の受付
法律で定めている労働条件に関する相談や、勤務先が労働基準法などに違反していることについて、会社を調査して行政指導をしたほしいという従業員からの申告を受け付けています。
②臨検監督(監督指導)
労働基準法などの法律に基づいて、定期的に、あるいは働く人からの申告などをきっかけに、会社の工場や事務所などに立ち入り調査を行って、機械・設備や帳簿などを会社から提出してもらい、従業員の労働条件について、違反がないかどうかの確認を行います。
調査の結果、労働法令への違反が認められた場合には、会社に対し、改善するように指導します。
この指導を是正勧告(ぜせいかんこく)といいます。
また、事故が起こる危険性の高い機械・設備などについては、その場で使用停止などを命ずることもできます。
③司法警察事務
会社が、度重なる指導にもかかわらず改善を行わない、違反を繰り返している場合など、重大・悪質な事案については、労働基準法などの違反事件として、取調べ等の任意捜査や捜索・差押え、逮捕などの強制捜査を行い、検察庁に送検します。
つまり、労働基準監督署の監督官は、警察と同じように、捜査をしたり、証拠品を押収したり、場合によっては逮捕することもできるという強力な権限を持っているのです。
会社は、監督官のことを無視したり、対応を疎かにするわけにはいかない理由がここにあります。
安全衛生課の主な業務
安全衛生課は、労働安全衛生法などに基づき、働く人の安全と健康を確保するための措置が講じられるように会社への指導などを行っています。
具体的には、クレーンなどの機械の検査や建築工事に関する計画届の審査を行うほか、事業場に立ち入り、職場での健康診断の実施状況や有害な化学物質の取扱いに関する措置(マスクの着用など)の確認などを行っています。
労災課の主な業務
労災課は、労災事故を担当しています。
労災(ろうさい)とは、「労働災害」を省略したもので、従業員の仕事が原因で、または従業員の通勤中に発生したケガ、病気、障害、死亡のことをいいます。
労災について定めた法律である、労働者災害補償保険法という法律に基づいて、従業員の労災事故を調査したり、支給額を決定したりしています。
具体的には、けがをした本人やご遺族の請求を受けて、関係者からの聴き取り・事故現場の検証・医師と面談して意見を聞くといった必要な調査を行った上で、労災保険の支払いを行っています。
業務課の主な業務
業務課は、労基署全体の庶務、経理等を担当しています。
会社でいうと総務部の役割です。
業務課には主に労働事務官が配置されています。
労働基準監督署に相談するメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
|
|
労働基準監督署に相談するメリット
無料で相談できる
労働基準監督署は民間の会社ではなく、厚生労働省が管轄する行政機関です。
そのため、労働問題に関する相談が無料でできます。
従業員としては、国の機関が対応してくれるという安心感はあるでしょう。
必要に応じて会社を調査、指導してくれる
労働基準監督署は、会社が労働法令に違反しないように監督する機関です。
そのため、相談の結果、違反が判明すれば、会社に対して、違反を改善するように指導してくれます。
その指導によって、会社の職場環境が改善されるという可能性もあるため、メリットになり得ます。
このメリットは、従業員だけでなく、会社にもあります。一見すると会社にはメリットがないように思えますが、違反が改善して職場環境が改善できれば従業員の定着率が上がったり、トラブルが大きくならずにすむこともあります。
労働基準監督署に相談するデメリット
相談できる内容が限られている
上で解説したとおり、労働基準監督署は法律を根拠として活動しており、職務内容は法律で定められています。
労働問題には様々なものがありますが、「相談できるもの」と「相談できないもの」があるので注意が必要です。
相談できる内容の例 | 相談できない内容の例 |
---|---|
|
|
法律の専門家ではない
労働基準監督署には労働基準監督官などの専門職がいますが、この方々は司法試験を通過した、法曹(弁護士、裁判官、検察官)ではありません。
労働法令についての基本知識はもちろん習得されているはずですが、法律の専門家ではないため、争点についてミスリードの可能性が懸念されます。
例えば、残業代請求が認められるか否かについて、本来認められる可能性が高いのに「認められない」と回答するなどです。
違反が明確なものであれば、労働基準監督署も積極的に対応してくれるでしょうが、評価が分かれるような場合には、裁判官ではないため、立場上会社に働きかけることは難しくなるケースも出てきます。
そのため、複雑な事案については、労働問題にくわしい弁護士へ相談なさったほうが良いでしょう。
相談者の代理人ではない
また、労働基準監督署は、行政機関であり、基本的に中立的な立場にあります。
すなわち、依頼者の利益のために動いてくれる弁護士とはどうしても異なります。
例えば、労働基準監督署が、一人の従業員のために、その人に代わって会社に対して未払い残業代を請求し、状況を逐一報告し、有利な条件で示談交渉をまとめてくれるといったことはありません。
労働基準監督署は、未払い残業代について、法令違反があればその点を会社に指摘し、結果として残業代が支払われることはありますが、相談者の代理人である弁護士とは根本的に異なるので注意しましょう。
会社で働きにくくなる
労働基準監督署から会社に連絡が入ると、結果として働きにくくなる可能性があります。
「匿名」を希望すれば、通報したことが会社に知られないこともあるかもしれませんが、ケースによっては特定される可能性があるので注意しましょう。
労働基準監督署の相談窓口
労働基準監督署は、全国に所在しています。
ご自宅のそばの労働基準監督署については、こちらから調べることが可能です。
参考:都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧|厚生労働省
労働基準監督署に相談(通報)する流れ
労働基準監督署へ従業員が相談する流れは以下のようになります。
資料の整理
相談する前の段階として、労働基準監督署に相談したい内容を整理しましょう。
労働基準監督署に相談できる内容は、「相談できる内容が限られている」で紹介した表のとおりです。
そのため、まずは困っていることが相談できるものなのかを確認しましょう。
その上で、実際に労働基準監督署に相談に行く際には、その資料を準備しましょう。
例えば、給与明細や残業に関する資料、上司とのやりとりのメールなどです。
実際に相談
次に、資料を整理したら実際に労働基準監督署に相談することになります。
相談方法は電話や窓口に実際に訪問しての相談があります。
電話相談の場合には、資料を直接労働基準監督署の人に見てもらうことが難しいため、相談の結果、労働基準監督署が会社へ調査を実際に行う可能性は面談の場合に比べて低くなってしまうでしょう。
そのため、会社に調査を実施してほしいということであれば対面での相談を選択すべきでしょう。
逆に、調査に入ってほしい場合には、労働基準監督署が会社に調査を実施する以上、最後まで匿名で調査を終えることは難しくなる可能性はあります。
もちろん、労働基準監督署の職員が第三者に積極的に話すことはしませんが、会社としても、調査が入った場合には、誰かが労働基準監督署に相談したということは考えが及ぶことも多いでしょう。
労働基準監督署が会社へ調査を実施
従業員が労働基準監督署に相談した結果、調査を実施すべきと判断したものについては、労働基準監督署が会社に対して調査を実施することになります。
もちろん、相談したすべての案件が調査されるわけではないため、なかには調査までは進まないケースも出てきます。
調査になる案件については、書面を送付する書面調査や直接会社を訪問する実地調査、労働基準監督署に会社担当者の訪問を求める方法などにより調査が行われます。
違反があれば指導・是正勧告
調査の結果、労働基準法などの関係法令に違反する事実が確認された場合には、労働基準監督署から口頭での指導や一定の期間を定めて改善を促す是正勧告が出されます。
是正勧告が出された場合、会社は改善を求められた事項について、どのような改善策を取ったのかを書面にまとめ、期限までに是正報告書を提出しなければなりません。
事案によって再調査
是正報告書が会社から提出された時点で調査としてはいったん終了となりますが、その後一定期間が過ぎたのちに、労働基準監督署の方で再度状況を調査、確認する再調査を行うこともあります。
どのようなケースで再調査を実施するかについては、労働基準監督署が判断するため、相談した従業員には決定権はありませんが、違反が継続しているということであれば、再度労働基準監督署に相談するということは可能です。
労働基準監督署に関するQ&A
労働基準監督署に相談する意味はない?
労働基準監督署に相談する目的や内容によっては意味がないケースもあります。
先ほど解説したように、労働基準監督署への相談にはメリット・デメリットがあります。
トラブル解決の選択肢の一つとして、検討することには意味があるといえるでしょう。
また、例えば、「会社の違法行為を正したい」などの想いがあれば、労働基準監督署に通報し、会社に是正を促してもらうという点で、十分意味があるでしょう。
労働基準監督署を動かすにはどうすればいい?
労働基準監督署に相談したけどまったく動いてくれない、というケースは多く見受けられます。
まずは現状について確認するため、相談を担当してくれた労働基準監督官に連絡を取るべきですが、状況によっては労働問題にくわしい弁護士(労働者側)に相談するなどの他の方法も検討しましょう。
労働基準監督署にタレコミしたらどうなる?
会社に労働法令に関する違反がある場合、労働基準監督署から会社に対して事実関係の調査が入ると予想されます。
そして、違反を改善するように具体的な指導(是正勧告)がなされたり、悪質な法令違反がある場合は逮捕や送検される可能性もあります。
会社としては、監督署の調査に適切に対応する必要があります。顧問弁護士に調査の対応のサポートを依頼するということも検討しましょう。
まとめ
ここまで、労働基準監督署とはどんなところか、従業員が労働基準監督署に相談するメリットやデメリットについて、解説しました。
労働基準監督署は、無料で相談できるため、労働トラブルの解決の選択肢として検討対象となります。
しかし、相談できる内容が限られている、中立的な組織である、などの理由により、問題が解決できない可能性もあります。
そのような場合、従業員の方々は、労働者側の労働問題を扱う弁護士に相談なさることをお勧めいたします。
なお、デイライトでは主として企業側の相談に対応しております。
デイライトには、労働基準監督署の調査対応を含め、労働事件に特化した労働事件チームがあります。
オンラインなどを用いて全国的な相談対応を行っていますので、労働基準監督署への対応で悩まれている方はぜひ一度ご相談ください。