労災保険給付の請求は派遣元と派遣先どちらの証明が必要ですか?

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者


質問派遣先の工場で、就業中に派遣元の従業員が怪我をしました(労災該当事案)。労働基準監督署長に労災保険給付の請求を行いたいのですが、派遣元と派遣先のどちらの事業主の証明が必要になりますか?

Answer

弁護士森内公彦イラスト派遣元が労災保険の適用事業主となりますので、派遣元事業主の証明が必要になります。

 

労災補償制度

労働者災害が発生した場合、被災した労働者(または、その遺族)は、労働基準監督署長に保険給付(例:休業補償給付)の申請を行います(労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」といいます。)第12条の8第2項)。

これを受けて労働基準監督署長は、支給または不支給の決定をすることになります。

保険給付の内容としては、
①傷病の療養のための療養(補償)給付、
②療養のための休業補償としての休業(補償)給付、
③治癒しても障害が残った場合の補償としての障害(補償)給付、
④被災者が死亡した場合の遺族(補償)給付、
⑤死亡した場合の葬祭費用としての葬祭料(葬祭給付)、
⑥1年6か月を経過しても治癒していない場合の補償としても傷病(補償)年金、
⑦障害(補償)年金または傷病(補償)年金を受ける者の介護費用としての介護(補償)給付があります。

労災保険給付

・療養(補償)給付
・休業(補償)給付
・障害(補償)給付
・遺族(補償)給付
・葬祭料(葬祭給付)
・傷病(補償)年金
・介護(補償)給付

※業務災害の場合は、名称に「補償」が付き、通勤災害の場合はこれが付きません。

労災保険給付申請の際、「災害の原因及び発生状況」や「療養の給付を受けようとする指定病院等の名称及び所在地」(労災保険法施行規則(以下「労保規則」といいます。)第12条第1項3号、4号、同条第2項)等について、事業主証明(申請書への署名)が必要になります。

 

 

労働者派遣事業における労災補償の責任の所在

解説する弁護士のイメージイラスト労働者派遣事業における事業主の災害補償責任を、派遣元事業主と派遣先事業主のいずれが負うかについて派遣法においては、派遣元事業主が負うこととされています。その理由としては、

①派遣元事業主は、労働者の派遣先事業を任意に選択できる立場にあった上で労災事故の起きた派遣先と労働者派遣契約を締結しているのだから、労働者を派遣したことに責任があること

②派遣元事業主は派遣労働者を雇用し、業務命令に基づいて派遣先の事業場において就労させているのだから、雇用主として、派遣先の事業場において派遣労働者の安全衛生が確保されるよう十分配慮する責任があること

③業務上の負傷・疾病に係る解雇制限の規定(労基法第19条第1項)あるいは、補償を受ける権利の退職による不変更の規定(労基法第83条第1項)は、労働契約関係の当事者である派遣元事業主に災害補償責任があることを前提としていること

といったものが挙げられています。

 

 

労災保険適用事業主

労災保険法第3条第1項には、「この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする。」と規定されています。そして、同項の「使用する」については、労働契約関係にあるという意味に解されています。

そのため、労災保険については、派遣労働者と労働契約関係にある派遣元事業主が適用事業主となります。

したがって、派遣元から労災保険料が徴収されますし、労災が発生した場合においては、派遣元事業主の証明(署名)が必要になります。

 

 

派遣先事業主の関わり

報告書労災が発生した際、事業者は所轄の労基署に労働者死傷病報告を提出しなければなりません(安衛法第100条、安衛則第97条)。

もっとも、実際に労災が発生したのは派遣先ですので、事故状況を最もよく知っているのは通常派遣先です。そのため、派遣先事業者も所轄の労基署に労働者死傷病報告を提出しなければなりません。

したがって、派遣の場合、派遣元・派遣先の事業者がそれぞれ事業場を所轄する労働基準監督署長に、労働者死傷病報告書を提出する義務があります(派遣法第45条第15項)。

また、派遣先事業者は、所轄労働基準監督署長に提出した労働者死傷病報告書の写しを派遣元事業者に送付しなければなりません(派遣規則第42条)。

労働災害関係

派遣元事業主 派遣先事業主
労災保険料 支払義務あり 支払義務なし
労災保険適用 あり なし
事業主証明 必要 不要
死傷病報告書 提出義務あり 提出義務あり

※派遣元にも写しを送付しなければならない。

 

労災問題は、実際に起こってしまった場合には適切な対応が必要になります。とりわけ派遣労働関係においては、より複雑になることも少なくありません。

こうした問題への労働問題に精通した弁護士に相談することが必要不可欠です。当事務所へ是非ご相談ください。

 

 


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