業務上過失致死傷罪の責任追及への対策【弁護士が解説】

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家


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業務上過失致死傷罪として責任追及されるのはどのような場合でしょうか?

Answer

他人の生命や身体に危険が生じるような業務を実施している際に、過失行為によって人を死傷させた場合に、その行為者自身や現場監督者などが責任追及されることになります。

 

業務上過失致死傷罪とは

業務上過失致死傷罪は、刑法においては以下のように規定されています。

刑法211条1項

刑法211条1項前段

業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金に処する。

業務上過失死傷罪は、①業務上必要な注意を怠ったことで、②人を死傷させた場合に成立する犯罪類型です。

ここでいうところの「業務」とは、人の生命身体に危険が生じる行為を反復・継続して行うことを指します。反復・継続して行う予定の行為であれば、最初の1回目の行為で他の人を死傷させてしまった場合にも業務上過失致死傷罪が成立することになります。

業務上の過失でない場合には、過失致傷罪(刑法209条1項)、過失致死罪(同法210条)が成立することになりますが、それぞれの量刑は、過失致傷罪の場合は30万円以下の罰金又は科料、過失致死罪の場合には50万円以下の罰金となっており、業務上過失致死傷罪がより重い量刑になっています。

このように、業務上過失致死傷罪の量刑が重くなっているのは、人の生命身体に危険が及ぶ行為を反復・継続して行う以上、より注意を払って行為しなければならないという考え方に基づいています。

 

 

法人が罰せられる?

監督 イメージ実際に業務中に過失により人を死傷させた従業員本人が、業務上過失致死傷罪として罰せられるのは当然ですが、直接過失行為を行った従業員でなくても、現場監督者など、その現場を管理すべき立場にある従業員や役員も業務上過失致死傷罪の責任を負わなければならない場合もあります。

このように、業務上過失致死傷罪は、業務上の災害について、自分の過失によって他の従業員や第三者を死傷させた者や、現場監督者などの管理責任者個人の責任を追及するものです。

労基署が担当する労働安全衛生法や労働基準法のような両罰規定はないので、従業員が業務上過失致死傷罪の被疑者として、送検されたとしても、当然に会社も送検されるわけではありません。

 

 

業務上過失致死傷罪として送検されたケース

荷積み中の事故

貨物船港に停泊していた貨物船で、積み込み中の鉄パイプと船内の壁に作業員が挟まれ3人が死傷した事故について、現場責任者らが業務上過失致死傷罪で送検されました。

事故は、貨物船のクレーンで鉄パイプ36本(重さ計約18トン)を積み込み中、振動で船が揺れて鉄パイプが船壁に向かって振れ、付近にいた作業員3人が挟まれ、2人が死亡し1人が重傷を負った事故です。

この事故について、作業員の退避状況の確認を怠って鉄パイプの移動を指示した現場班長と、鉄パイプの動線上に作業員がいることに気付きながら作業を続けたクレーン操縦者と副班長が業務上過失致死傷罪で送検されています。

 

パロマ湯沸器の死亡事故

パロマ工業製のガス瞬間湯沸かし器の不具合により一酸化炭素中毒事故が発生し死傷者を出したことで、同社の社長らが業務上過失致死傷罪で起訴され有罪判決を受けました。

事故の原因は、パロマ工業製品自体に欠陥があったわけではなく系列サービス業者の不正改造が原因であったと認定されています。

にもかかわらず、有罪判決となったのは、過去に同様の事故が発生しており、そのことについて社長らも認識していたことから、死亡事故の発生が予見でき、また、一般消費者に注意を喚起したり、流通を停止し、改善措置を図るなどして、死亡事故の発生を防止することができたはずであると裁判所は判断しているのです。

 

 

会社の責任

① 刑事罰

上記のとおり、会社の中で死傷事故が発生した場合、

会社が業務上過失致死傷罪に問われることはありません。

しかし、会社は労働安全衛生法に違反しているとして、処罰される可能性があります。

すなわち、労働安全衛生法は、事業者に対して、労働者の危険又は健康障害を防止するための措置を講じるよう義務付けています(第20条から第25条の2)。

具体的には下表のとおりです。

条文 事業主が講ずべき措置の内容
第20条
  • 機械、器具その他の設備(以下「機械等」という。)による危険
  • 爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険
  • 電気、熱その他のエネルギーによる危険
第21条
  • 掘削、採石、荷役、伐木等の業務における作業方法から生ずる危険
  • 労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険
第22条
  • 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害
  • 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害
  • 計器監視、精密工作等の作業による健康障害
  • 排気、排液又は残さい物による健康障害
第23条 労働者を就業させる建設物その他の作業場について、通路、床面、階段等の保全並びに換気、採光、照明、保温、防湿、休養、避難及び清潔に必要な措置その他労働者の健康、風紀及び生命の保持のため必要な措置
第24条 労働者の作業行動から生ずる労働災害を防止するため必要な措置
第25条 労働災害発生の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、労働者を作業場から退避させる等必要な措置
第25条の2 【建設業等の事業の場合】

  • 労働者の救護に関し必要な機械等の備付け及び管理を行うこと。
  • 労働者の救護に関し必要な事項についての訓練を行うこと。
  • 爆発、火災等に備えて、労働者の救護に関し必要な事項を行うこと。

 

上記の義務に違反した場合、企業は6ヵ月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります(109条1号・ただし、25条の2条第2項違反の場合は50万円以下の罰金)。

 

労基署から労働安全衛生法違反を指摘される場合については、こちらのページをご覧ください。

 

労働基準監督署の調査や対応などについて、よくあるご相談はこちらのページにまとめています。

 

② 安全配慮義務

労働契約法は、会社に対して、「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」ことを義務付けています(5条)。

これは、安全配慮義務と呼ばれています。

会社内で事故が発生して従業員が死傷した場合、会社側に安全配慮義務違反があったとして、従業員やその遺族から、損害賠償請求をされる可能性があります。

これは、いわゆる民事上の責任となり、刑事罰とは異なります。

しかし、安全配慮義務違反の損害賠償請求は、賠償額が億を超えることが多々あり、会社のダメージは少なくありません。

 

安全配慮義務について、詳しくはこちらのページをご覧ください。

 

 

会社が取るべき対応方法

【有時の場合】

①事故の拡大の防止

会社内で死傷事故が発生した場合、会社の物的(設備、備品など)・人的(安全教育の不徹底、未熟さなど)な環境において、何らかの問題があった可能性があります。

問題点があればそれを除去して事故の拡大を防止すべきです。

 

②事実関係の調査

死傷事故の発生を防止するためには、死傷事故の内容を特定するだけではなく、その原因や背景事情も調査すべきです。

例えば、被害者やその親族等からのヒアリング、加害者、目撃者、上司等からの事情聴取、事故現場の検証などを実施すべきでしょう。

具体的な調査方法については、事案によって異なるため、労災事案に精通した弁護士に相談しながら助言をもらうとよいでしょう。

 

③労基署や警察への対応

死傷事故が発生した場合、労基署の調査や警察の捜査が行われる可能性が高いと思われます。

決して嘘はつかずに誠実に対応する必要があります。

しかし、捜査機関が会社に問題があったという先入観を持ち、有罪ありきで捜査を進める可能性があります。

そのため、捜査には慎重に対応すべきです。

例えば、捜査機関が作成する供述調書に署名をすると、後から、撤回したくても、書き直すことができずに刑事裁判において不利な証拠として採用される可能性があります。

警察等の供述調書は、犯罪の立証のために、事実とは異なる捜査側のストーリーで作成されることがあるため注意が必要です。

このような捜査機関への対応については、刑事事件に精通した弁護士に相談されることをお勧めいたします。

 

④被害者との交渉

被害者から会社に対して、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をされることがあります。

この場合、被害者と示談交渉していく必要があります。

安全配慮義務違反の場合、損害の費目が慰謝料、逸失利益、休業損害、後遺障害慰謝料など多数に上り、その算定方法が複雑です。

また、労働者側に過失が有る場合も多く、その場合は過失相殺が問題となります。

さらに、労働者側が労災などの給付を受けている場合、損益相殺なども問題となります。

そのため、専門家に相談して適切な額を算定することが必要です。

また、被害者との示談交渉を弁護士に依頼されることも検討すべきでしょう。

 

⑤裁判対応

裁判例示談交渉が成功しなかった場合、刑事裁判や民事裁判となることが予想されます。

 

 

【平時の場合】

会社内の死傷事故は、未然に防止すべきです。

そのため、普段から、安全のためのマニュアルの整備、従業員教育、危険を防止する措置の徹底などを行っていく必要があります。

 

 

まとめ

以上、業務上過失致死傷罪が問題となるケースへの対応方法について、詳しく説明しましたがいかがだったでしょうか?

上記はあくまで一般的なポイントであり、事故の内容や社内の状況によってとるべき方法は異なります。

死傷事故への対応については、労働問題に詳しい弁護士へご相談されることをお勧めしています。

デイライト法律事務所には、企業の労働問題を専門に扱う労働事件チームと犯罪を専門とする刑事事件チームがあり、死傷事故については、複数の弁護士が連携して対応しています。

まずは当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。

 

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