賃金未払いの是正勧告による送検をされない方法はありますか?

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者


質問割増賃金の未払いが発覚し、労基署から是正勧告が出されました。送検されないようにするにはどうすればよいでしょうか?

 

Answer

弁護士竹下龍之介イラスト是正の期限内に割増賃金の未払い分を労働者に支払って、是正報告書を労基署に提出しましょう。法違反状態が解消され、その他に問題がなければ送検リスクは解消されます。

 

労働災害発生を理由とする送検

赤色灯労働基準監督署は、人の生命や健康は一度失われてしまうと取り返しがつきませんから、人の生命・健康を脅かすような法違反に関しては、司法処分をする傾向にあります。

労働災害が発生し、その原因に法違反が関係しており、しかも死亡災害や重大災害であれば、送検されることを覚悟しなければなりません。

したがって、この場合に送検されないためには、そもそも法違反を犯さないことはもちろんですが、労働災害が発生させないように日々取り組む必要があります。

厚生労働省は、労働災害を発生させないために、職場のリスクアセスメントを実施しすることを推進しています。リスクアセスメントとは、職場の潜在的な危険性又は有害性を見つけ出し、これらを除去、低減するための手法です。

労働災害の発生を理由とする送検をされないようにするためには、リスクアセスメントを実施し、職場から労働災害発生の危険因子を払拭しておくことが一番の対応策といえます。

 

 

労災かくしを理由とする送検

労働災害が発生し、労働者が死傷した場合には、労基署に労働者死傷病報告をしなければなりません。

「労災かくし」とは、故意に労働者死傷病報告を労基署に提出しなかったり、虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を労基署に提出するような場合を指します。

使用者が労災かくしをするのには様々な理由があるのでしょうが、絶対にしてはいけません。隠していたとしても、労働者に申告されればすぐに発覚しますし、虚偽の内容を報告しても、どこか矛盾点や不自然な点が出てきて発覚することは十分ありえることです。

労災かくしは、使用者が故意に行うことなので言い訳ができません。労災かくしが発覚した場合には、ほぼ間違いなく送検されることになりますので、絶対にしてはいけません。

 

 

長時間労働や未払い賃金を理由とする送検

長時間労働や未払い賃金の法違反があった場合でも、悪質かつ重大な違反であれば、送検リスクは高いといえます。

ただし、賃金の不払い(割増賃金も含む)に関しては、労働者の所得を確実にすることを優先させるために、早期に是正させるようまず行政指導先行されることが多いです。労働時間関係についても同様に行政指導を先行させる傾向にあります。

したがって、労基署から是正勧告(行政指導)が出された段階で、その法違反状態を是正しておくことが重要です。是正勧告には、是正する期限が設けられていますので、その期間内に法違反状態を解消しておけば、送検されることはないと考えられます。

万一、是正期限に間に合いそうにない場合には、間に合わない理由を労働基準監督官にしっかり説明しなければなりません。

是正勧告が出されてから、誠実に対応しているものの、やむを得ず期限に間に合わなかったという場合であれば、直ちに労働基準監督官が送検することはないでしょう。

近年では、過労死や過労自殺が社会問題化しているため、悪質な長時間労働に関しては、労基署も厳しい姿勢で臨んでいます。また、未払い賃金(割増賃金を含む)の問題に関しても、労働者の中で意識が高まっており、労基署に直接告訴する労働者も増加しているようです。

使用者には、法違反がないよう適切に労務管理をすることが求められています。

 

 

弁護士等の専門家への相談

労働問題が発生した場合には、やはり専門家である弁護士や社会保険労務士などに相談すべきです。労働事件を多く取り扱う弁護士や社会保険労務士であれば、労基署の対応にも慣れています。

是正勧告が出された場合でも弁護士が間に入って、労働者と和解の交渉をしながら、並行して労働基準監督官と協議し、平穏に事件解決できる場合もあります。

また、万一、送検されたとしても、最終的に起訴されないために、状況に応じたアドバイスをすることもできます。

労働問題が発生した場合には、社内で悩むのではなく、まず専門家に相談することをお勧めします。

 

 


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