偽装請負とは?【違反例とポイントを弁護士が解説】 

執筆者
弁護士 鈴木啓太

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士


偽装請負とは、実態は労働者派遣であるものを、形式的には請負契約として偽装しているケースを指します。

偽装請負は違法行為にあたり、以下のような様々な罰則に処される可能性があります。

  • 労働者派遣法5条1項に違反した場合は、偽装請負を行った注文主と請負業者に対して、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
  • 職業安定法44条・45条に違反に該当した場合は、供給元、供給先ともに1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
  • 偽装請負を行い中間搾取が認められる場合は、労働基準法6条に違反することになり、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金

その他にも、①行政指導(派遣法第48条第1項)、②改善命令(同法第49条)、③勧告(同法第49条の2第1項)、④企業名の公表(同法第49条の2)などの処分の可能性があります。

このページでは、偽装請負について判断ポイントや罰則、防止するための対策などについて弁護士が詳しく解説いたします。

偽装請負とは?なぜ禁止されているのか

偽装請負とは?

偽装請負とは、実態は労働者派遣であるものを、形式的には請負契約として偽装しているケースを指します。

労働者を派遣する場合には、労働者派遣法(正式名称:労働者派遣事業の適正な運営の確保および派遣労働者の保護等に関する法律)に規定されている許可・届出の手続き(労働者派遣法第5条等)、派遣可能期間(同法第40条の2等)などの規制を受けることになります。

偽装請負は、こうした法を潜脱するものであり、また、労働者の権利を害する危険性があるため、違法であり罰則規定も設けられています。

偽装請負は、労働者派遣法の平成15年改正により、製造業への労働者派遣が解禁されて以降、大企業でも違反があり社会的問題となりました。

アウトソーシングする際には、偽装請負の形態になっていないか十分に注意する必要があります。

偽装請負は、以下の4つのタイプに分けられます。

代表型 請負業者が、自己の雇用する労働者を発注主の事業場で就労させているが、その労働者の就労についての指揮命令(労務管理)を行わず、これを発注主に委ねているようなケース
形式だけ責任者型 請負業者が発注主の現場に責任者を置いているものの、その責任者は発注主の指示を伝えるだけで、実質的に発注者が指示しているようなケース
使用者不明型 業者Aが業者Bに仕事を発注し、Bは別の業者Cに再委託して、Cの労働者がAの現場に行って、AやBの指揮命令下で仕事をするようなケース
一人請負型 業者Aが業者Bに労働者を斡旋し、Bはその労働者と労働契約は結ばず、個人事業主として請負契約を結び、指揮命令下において仕事をさせるパターン

参考:偽装請負について|厚生労働省東京労働局

偽装請負の意図はなくても、偽装請負と認められかねないケースも見られますので、禁止されている態様を十分に把握し、自社で同様の態様がとられていないか注意すべきでしょう。

 

請負と労働者派遣の区別

請負とは、一方が仕事の完成を約束して、他方がそれに対して報酬の支払いを約束するものです。

請負の場合、注文主が請負業者に対して業務処理を請け負わせて、請負会社が請負会社の従業員を指揮命令して業務処理をさせることになります。

請負に関する図

労働者派遣は、派遣元事業主が派遣先に派遣労働者を派遣し、派遣労働者は派遣先の指揮命令下で就労します。

労働者派遣事業の図

請負契約であるにも関わらず、注文主が請負会社の従業員を指揮命令することになれば、形式は請負、実態は労働者派遣となり偽装請負になってしまうのです。

 

偽装請負が禁止される理由

中間搾取の危険性

上記の一人請負型では、業者Aは雇用契約関係にない労働者を業者Bに斡旋して業者Bの指揮命令下で就労させます。

業者Aは、業者Bから斡旋の報酬を得て、その報酬の中から業者Aのマージンを確保し、残りを労働者に報酬として支払うという中間搾取の構図ができあがり、労働者の報酬が不当に低額になる危険性があります。

一人請負型の中間搾取の危険性に関する図

 

労働者の立場が不安定になる危険性

労働者派遣の場合、派遣先と直接の雇用契約があるわけではないため、突然派遣切りされるリスクや、派遣先の変更によって職場環境が変化するなど、通常の雇用契約と比べて労働者の立場が不安定になります。

こうした労働者の不安定な立場を保護するために、労働者派遣は、労働者派遣法により規制されているのです。

したがって、無許可で派遣が行われる偽装請負は、規制を潜脱しているため、事業者による労働者への不当な権利侵害が発生する危険性があります。

また、上記した一人請負型の場合、どの業者とも雇用契約を締結していないため、労働関連法(労働基準法など)の保護を一切受けることができません。

 

 

偽装請負の判断ポイント

請負(業務委託、準委任を含む)と労働者派遣の根本的な違いは、業務に従事する際の指揮命令系統にあります。

請負の場合には、請負会社が自社の労働者に指揮命令を行いますが、労働者派遣の場合には、派遣先が労働者の指揮命令を行うのです。

請負契約の場合に、発注元の会社が請負会社の労働者を指揮命令しないように注意しなければなりません。

 

合法的な請負

請負会社が労働者に対して「雇用契約+指揮命令」を行い、発注元で業務を遂行するケースの場合、指揮命令は請負会社から発せられるため、偽装請負とはならず合法です。

 

偽装請負

請負会社が労働者に対して「雇用契約」を行うにとどまり、「指揮命令」を発注主(就労場所の事業者)が行いながら勤務する場合をいいます。

この場合、指揮命令は実際の就労場所の事業者(発注主)から発せられるため、偽装請負とみなされ、違法行為となります。

 

構内請負の場合の注意点

上記のとおり、業務処理請負と労働者派遣の区別で重要なのは、(実質的な)指揮命令者が誰なのかということです。

この点、建設現場等でよく見られる構内請負の場合は、誰の指揮命令下で作業を行っているかが不明確になる場合があります。

構内請負とは、請負会社が請け負った業務を、注文者の事業所内で行う場合です。

この場合、同じ事業所内に、注文者関係者と請負会社関係者がいるため、請負会社の従業員がいったい誰の指揮命令下にあるかが不明確になることがあります。

構内請負の場合の注意点

構内請負の場合において、従業員が、実際は請負会社ではなく注文者の指揮命令下で就労していた場合は、偽装請負になります。

他方、請負会社の指揮命令下で就労している場合であっても、偽装請負の疑義を生じさせないための対策を講じるべきでしょう。

例えば、注文者の事業所内に、請負会社の事業所を独立して設けること等が考えられます。

 

 

偽装請負の罰則

労働者派遣法

労働者派遣法では、労働者派遣事業を行う場合には、厚生労働大臣の許可が必要であると規定しています(労働者派遣法5条1項)。

労働者派遣法5条1項

(労働者派遣事業の許可)

第五条 労働者派遣事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。

偽装請負であると評価されると、許可を受けずに派遣業を行ったとして、この規制に違反することになります。

違反した場合、偽装請負を行った注文主と請負業者に対して、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金の罰則が設けられています(同法59条2項)。

引用元:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov 法令検索

 

職業安定法

職業安定法では、労働者供給事業又は、労働者供給事業者からの労働者の受け入れについて、労働組合が無償で行う場合を除いて、一律に禁止しています(職業安定法44条、45条)。

職業安定法 44条・45条
(労働者供給事業の禁止)
第四十四条 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。(労働者供給事業の許可)
第四十五条 労働組合等が、厚生労働大臣の許可を受けた場合は、無料の労働者供給事業を行うことができる。

労働者供給事業とは、労働者を供給する契約に基づいて、支配関係にある労働者を他社の指揮命令下で就労させることをいいます。

労働者供給事業は、供給した会社がマージンを受け取るなど労働者が中華搾取される可能性があるため、法律で一律に禁止されているのです。

偽装請負で労働者供給事業に該当すると評価されれば、この禁止規制に違反するとして、供給元、供給先ともに1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる可能性があります(64条9号)。

引用元:職業安定法|e-Gov 法令検索

 

労働基準法

労働基準法では、一律に中間搾取を禁止しています(労働基準法6条)。

労働基準法6条

(中間搾取の排除)

第六条 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。

偽装請負を行い中間搾取が認められる場合には、この規制に違反することになります。

違反した場合、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金の罰則が設けられています(労働基準法118条1項)。

引用元:労働基準法|e-Gov 法令検索

 

その他処分の可能性

偽装請負によって労働者派遣を受けた場合、派遣先は無許可事業主から労働者派遣を受けている(労働者派遣法第24条の2)として、以下のような処分の対象になります。

  1. ① 行政指導(派遣法第48条第1項)
  2. ② 改善命令(同法第49条)
  3. ③ 勧告(同法第49条の2第1項)
  4. ④ 企業名の公表(同法第49条の2)

企業名が公表されれば、企業のブランドイメージは低下し、事業に支障が出る可能性もあります。

 

 

注意!知らない間に偽装請負になっているケースも

自社が偽装請負を意図的に行わないのは当然のことですが、不注意により、偽装請負の一端を担ってしまう可能性があります。

労働者の派遣元が、派遣業の許可を得ずに、労働者と業務委託契約などを締結し、自社に当該労働者を提供しているような場合には、偽装請負の受け入れ企業ということになってしまいます。

上記したとおり、偽装請負の罰則は受け入れ会社側にも適用されることになりますので、知らないうちに、違法行為をして罰則が科されないように十分に注意する必要があります。

基本的なことですが、派遣契約を締結する際には、相手会社が派遣業の許可を得ているか必ず確認しましょう。

 

 

偽装請負を防止するための対策

偽装請負を防止するための対策

派遣、請負についての正確な情報を理解する

偽装請負と評価されないためには、これまで説明した派遣、請負の内容を正確に把握して、禁止されている請負(偽装請負)はどのような形態なのかを理解することが出発点といえます。

少しでも懸念点があり、自社では判断がつかない場合には、早期に弁護士に相談された方がいいでしょう。

 

請負契約の明確化・詳細化

事前に内容を十分に協議した場合でも、作業の進捗に応じて変更が生じることはどの業務においてもよくあることです。

その際、発注元が請負会社の労働者に変更の指示命令を直接行うと、発注元が労働者に指揮命令を与えたと判断されかねません。

したがって、請負契約を行う場合は、事前に仕様書等を詳細に定め、業務に変更が生じた場合においても、当事者間で変更部分について協議して、請負会社が自社の労働者に指揮命令すべきです。

発注元としては、作業時間や仕事の進め方などについては、請負う会社側の裁量に委ねることも必要でしょう。

 

就業場所を注視

請負会社の労働者が発注元へ出張して作業を行う場合がありますが、その際は請負会社の労働者が発注元の指示命令に従っていないことを客観的に説明できるようにする必要があります。

例えば、机の配置を工夫することで、発注元からの直接的な指示命令を受けていないことを明示することが考えられます。

請負会社の労働者と発注元の労働者が混在した状態で作業に従事すると、発注元の労働者と同視されかねませんので、注意が必要です。

会社としては、適宜、現場の従業員にヒアリングをするなどして、発注元の指揮命令下に置かれていないか確認することをお勧めします。

 

発注元の技術指導に注意

発注元が行う技術指導が指示命令とみなされるレベルにまで達しないように注意する必要があります。

 

 

まとめ

以上、偽装請負について、意義やチェックポイントについて、詳しく説明しましたがいかがだったでしょうか?

偽装請負と判断されてしまうポイントは、一見してわかりにくい部分にも存在している場合があります。

したがって、偽装請負とみなされないようにするためには、労働諸法の専門家に早めに相談されることをお薦めします。

偽装請負となるか否かは、ケース・バイ・ケースですので、上記は参考程度にとどめ、詳しくは労働問題に詳しい弁護士へご相談ください。

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