労働関係の書類の保管期間は?【弁護士が解説】
企業が従業員を雇用する上で作成する書類については、法律によって一定の保管期間が定められています。
したがって、雇用契約書やタイムカードといった書類は、従業員が退職したからといってすぐに処分してはいけません。
書類の保存義務
企業と従業員との関係を規定する法律の一つである労働基準法は、使用者に対し、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類については3年間の保存義務を課しています(同法109条)。
これは労働関係の紛争解決及び監督上の必要から、その証拠を保存するために、労働関係に関する重要書類について、一定期間保存すべき義務を定めたものと解されます。
雇入れに関する書類としては、雇用契約書や労働条件通知書といったものがあります。
タイムカードの保存義務
先ほどの労働基準法では、タイムカードについては、保存すべき書類として明記されてはいません。
そこで、タイムカードについて、保存義務があるのかどうかが問題となりますが、労働基準法が企業に保存求めている趣旨が、重要な労働関係書類を保存しておくことで、紛争が生じないようにする、生じた場合でも解決できるようにという点にあることからすれば、労働基準法109条の「その他労働関係に関する重要な書類」には、例えば、出勤簿、タイムカード、労使協定書等も該当すると考えられます。
したがって、タイムカードについても保存義務があります。
なお、行政解釈(通達)でも、始業・終業時刻など労働時間の記録に関する書類は「その他労働関係に関する重要な書類」に該当するとし、関係する書類としては、使用者が自ら始業・終業時刻を記録したもの、タイムカード等の記録、残業命令書及びその報告書並びに労働者が自ら労働時間を記録した報告書などがあるとしています(平成13年4月6日基発第339号)。
保存義務に違反した場合には?
雇用契約書やタイムカード、賃金台帳や労働者名簿といった書類の保存を怠った場合については、罰則が定められています。
具体的には、保存義務に違反した使用者は30万円以下の罰金となっています(120条1号)。
保存義務違反が明らかになるのは、労基署が臨検調査に入ったときが多いです。
すなわち、労基署が企業に労働法令を遵守しているかどうかを確認する際に、雇用契約書やタイムカード、賃金台帳、労働者名簿の開示を求めることがあります。
このときに開示ができなければ、保存していないことが判明してしまうことになり、悪質と判断されれば、是正勧告にとどまらず、上記の罰金を科されるリスクがあります。
保存期間の一覧
これまで解説してきたとおり、企業は雇用関係書類を3年間保存しなければなりません。
それでは、3年間というのは、「いつから」3年間なのでしょうか?
実は、この「いつから」については、それぞれの書類によって異なってきます。
書類の保存期間
書類の種類 | 保存期間の起算日 |
---|---|
労働者名簿 | 労働者の死亡、退職又は解雇の日 |
賃金台帳 | 最後の記入をした日 |
雇入れ又は退職に関する記録 | 労働者の退職(解雇)又は死亡の日 |
災害補償に関する記録 | 災害補償が終わった日 |
賃金その他労働関係に関する重要な書類 | その完結の日 |
例えば、労働者名簿は、労働者の死亡、退職、解雇の日から3年間となっています。
したがって、5年間企業に勤めた従業員についていえば、5年間 + 3年間 = 8年間、書類を保存しておかなければならないことになります。
タイムカードはどのくらい保存すべき?
タイムカードについては、「賃金その他労働関係に関する重要な書類」に該当するため、その完結の日から3年間保存すればよいことになります。
つまり、賃金の支払いを行った給料日から少なくとも3年間は保存しておくことが必要です。
なお、タイムカードは従業員からの未払残業代請求においても重要な証拠となります。
この点、残業代請求の請求期間はこれまで2年間でしたが、2020年以降3年間となる方向で議論が進んでいます(2019年12月時点)。
そうすると、企業としては、法律の保存期間を超えて、5年間程度の保存をしておくことが弁護士としては望ましいと考えます。
時効前後の就労実態の変化などを確認することができるようにするためです。
パソコンで保存する場合の注意点
近年は、ペーパレス化が進んでおり、様々な書類がパソコンで作成されるようになっています。
そこで、労働関係に関する書類をパソコン等で作成し、電子データとして保存する企業が増えています。
このような場合、労働関係に関する書類をわざわざ紙で出力して保存しておかなければならないのかが労働基準法上明らかではないため問題となります。
この点について、行政解釈(通達)は、光学式読み取り装置(OCR)により、読み取り、画像情報として光磁気ディスク等の電子媒体に保存する場合、①画像情報の安全性が確保されていること、②画像情報を正確に記録し、かつ、長期間にわたって復元できること(詳細は下図を参照)のいずれの要件も満たすときは保存義務違反とはならないとしています(平成8年6月27日基発第411号)。
電子媒体へ保存する要件
①画像情報の安全性が確保されていること
- 故意又は過失による消去、書換え及び混同ができないこと
- 電子媒体に保存義務のある画像情報を記録した日付、時刻、媒体の製造番号等の固有標識が同一電子媒体上に記録されるとともに、これらを参照することが可能であること
- 同一の機器を用いて保存義務のある画像情報と保存義務のない画像情報の両方を扱う場合には、当該機器に保存義務のある画像情報と保存義務のない画像情報のそれぞれを明確に区別する機能を有していること
②画像情報を正確に記録し、かつ、長期間にわたって復元できること
- 電子媒体、ドライブその他の画像関連機器について、保存義務のある画像情報を正確に記録することができること
- 法令が定める期間にわたり損なわれることなく保存できること
- 電子媒体、ドライブ、媒体フォーマット、データフォーマット、データ圧縮等のデータ保管システムについて、記録された画像情報を正確に復元できること
また、労働基準監督官の臨検時等、保存文書の閲覧、提出等が必要とされる場合に直ちに必要事項が明らかにされ、かつ、写しを提出し得るシステムとなっていること
賃金台帳やWEB勤怠を導入している企業の勤怠データなどは、パソコンで保存しておいてもよいでしょうが、雇用契約書といった従業員との契約に関わる書類については、従業員に署名、押印を求めるべきですので、紙ベースで原本保存しておくほうが多くの企業にとって有益でしょう。
労働書類の重要性
今回、解説したとおり、企業が従業員との間で作成する書類については、法律で保存義務が課せられているほど、重要な書類になります。
雇用契約書など、従業員との契約内容を定める書類については、労使トラブルを防ぐためにもとりわけ重要なものです。
そのため、労働関係の書類の作成については、労働問題に詳しい弁護士へ相談の上進めるのが望ましいといえます。
具体的には、雇用契約書のチェックや作成を弁護士に依頼することが可能です。