従業員に見せていない就業規則は有効ですか?
就業規則を策定しましたが、従業員には見せていませんでした。
このような場合も労基署から違反していると指摘されますか?また、このような就業規則は有効でしょうか?
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、従業員へ周知しなければなりません。
また、採用時又は採用直後において労働者が当該就業規則の内容を知り得る状態になければ、当該就業規則は労働契約の条件とはなりません。
就業規則の作成・届出義務がある事業場
就業規則は、すべての企業が作成しなければならないというわけではありません。就業規則を作成する義務があるのは、常時10人以上の労働者を使用する使用者です。
この場合、使用者は、就業規則を作成するだけでなく、作成した就業規則を所轄の労基署に届けなければなりません(労基法89条)。
常時10人以上の労働者の「常時10人以上」とは、状態として10人以上の労働者を使用していることをいいます。
したがって、通常は10人未満で、繁忙期のみ10人を超えるような場合は該当しません。
また、「労働者」とは正社員だけではなく、パートタイマーや契約社員も含まれます。ただし、人材派遣会社から派遣されている派遣社員や同じ構内の下請会社の労働者は除かれます。
さらに、常時10人以上を使用しているか否かは、企業単位ではなく、個々の事業場で判断されます。
したがって、例えば、1企業が東京と福岡に2つの事業所を持っていて、東京が7名、福岡が9名の場合、合計すると16名ですが、いずれの事業場も10名未満なので、就業規則の作成義務はないことになります。
上記は就業規則を労基署へ届け出るときに使用する書式のサンプルです。特に様式は決まっていませんが、参考として掲載しています。
就業規則の意見聴取
就業規則は、作成にあたって当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、又は、労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません(労基法90条)。
「労働者の過半数で組織する労働組合」とは、当該事業場のすべての労働者のうち、その過半数を占める労働者が加入している労働組合をいいます。
「労働者の過半数を代表する者」とは、当該事業場の全部の労働者の過半数を超えるものによって代表された者をいいます。
この場合、部長などで労働基準法41条2号の管理監督者に該当する者は代表者となることはできません(労基則6条の2・1項1号)。
また、代表の選出方法は、選挙、投票や話合いによるべきで、会社経営者などが指名で選出すると労基法違反となります(同規則6条の2・1項2号)。
中小企業においては、労働者の過半数で組織される労働組合が存在しないことが多く、多くの場合は労働者の過半数を代表する者から意見を聴取することとなります。
「意見を聴く」とは、文字どおり「意見を求める」ということで、同意を得る必要まではありません。企業側としては、意見を尊重すべきですが、法律上はその意見に拘束されることはありません。
上記は意見書(従業員代表の場合)のサンプルです。特に様式は決まっていませんが、参考として掲載しています。トラブル防止のために本人に署名押印をしてもらうようにしてください。
就業規則の周知義務
使用者は、就業規則を作成し、労基署へ届けるだけでなく、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は、備え付けること、書面を交付すること、又はコンピュータを使用した方法によって、労働者に周知させなければなりません(労基法106条1項、労基則52条の2)。
使用者がこの周知義務を履行しない場合、30万円以下の罰金に処せられます(労基法120条1号)。
また、就業規則の周知は労基法違反を回避するだけではなく、就業規則の効力発生要件でもあるため極めて重要です。
すなわち、労働契約法は、労働契約を締結する場合において労働条件を詳細に定めずに労働者が就職した場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に「周知」させていた場合には、労働契約の内容は、「その就業規則で定める労働条件によるものとする」と規定しています(労契法7条本文)。
この「周知」は、上記労働基準法上の周知とは異なり、「実質的に見て当該事業場の労働者集団に対して当該就業規則の内容を知りうる状態においていたこと」と解されています(菅野199頁)。
したがって、採用時又は採用直後において労働者が当該就業規則の内容を知り得る状態になければ、当該就業規則は労働契約の条件とはなりません。
なお、就業規則の周知が契約内容を補充する効果を有するのは、労働契約において詳細な条件を定めていなかった場合です。就業規則の内容と異なる労働条件を個別に合意していた場合、原則として、個別合意の方が優先されます(労契法7条)。
ただし、個別合意で定めた労働条件が就業規則で定める基準に達しない場合、その個別合意の労働条件ではなく就業規則で定める基準が契約内容となります(労契法12条)。これを就業規則の最低基準効といいます。
例えば、就業規則に定める賃金とは異なる低額の報酬支払を合意する場合、就業規則に定める賃金が労働契約の内容となると考えられます。
就業規則の届出の流れ
実務上の留意点
上記のとおり、就業規則の作成義務があるのは、常時10人以上の労働者を使用する使用者です。しかし、常時10人未満であっても、労使間のトラブル防止のために作成すべきです。
作成する場合、厚生労働省のモデル就業規則をインターネット上からダウンロードすることも可能です。
しかし、この就業規則はあくまでモデルであり、企業の経営戦略や個別の事業場の実情を踏まえたものではありません。
また、就業規則は一度作ると、労働者側に不利益に変更するのは難しい場合があります。作成する際は、就業規則にくわしい専門家に相談の上、企業の経営戦略や事業場の実情に整合したものにすることをおすすめします。
また、就業規則を策定しても、周知していない企業が多く見受けられます。上記のとおり、就業規則の策定は効力発生要件でもあるので、周知を確実にするようにしてください。
就業規則について、詳しくは労働問題に詳しい弁護士へご相談ください。