労働基準法とは?休憩・労働時間・有給の違反例をわかりやすく

監修者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者


労働基準法とは、労働者の労働条件についての最低基準を定めた法律です。

従業員の労働条件は、原則として会社と従業員との間で雇用契約を締結して決定されますが、その際、たとえ合意があっても下回ることのできない最低の労働基準を定めているのが労働基準法です。

万が一、労働基準法を下回る労働条件を定めてしまうと、そのような定めは無効となるばかりか、場合によっては刑事罰が科されることもあります。

この記事では、労働基準法について、その内容や特徴、違反となる主なケースや違反とならないためのポイントなどについて、弁護士が解説します。

労働基準法違反とならないために、ぜひ最後までお読みください。

労働基準法とは?

労働基準法とは、労働者の労働条件の最低基準を定めた法律です。

労働条件にはさまざまなものがありますが、労働基準法では労働時間や休日、休憩、賃金などの重要な労働条件について規定が設けられています。

 

労働基準法はどんな法律?

労働基準法は、労働条件について定めた基本的な法律であり、次のような特徴があります。

 

最低基準である

労働基準法は従業員の労働条件に関する法律ですが、この法律で提示されている労働条件は、従業員にとって望ましい「標準的な基準」ではなく、少なくとも満たす必要のある「最低基準」です。

つまり、労働条件が労働基準法の基準を下回るのは法律違反なので論外ですが、それではこれを上回っていればそれでOKかというと、そうではありません。

労働基準法の基準はあくまでも「最低基準」ですので、単にこれを満たせばよいわけではなく、これを上回るような条件としていくことが望まれるのです。

これは単なる理想論ではなく、労働基準法上でも明確に記されているのです。

根拠条文
(労働条件の原則)
第一条 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

  • この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

引用:労働基準法|電子政府の総合窓口

実際には、労働基準法の基準、すなわち適法となるギリギリの基準を採用している会社も多いのが現状ではあります。

しかし労働条件を向上させることは、労働基準法の趣旨にかなうことはもとより、より優秀な人材を獲得するという点からも望ましいものです。

「法の基準を満たしているから問題ない」ではなく、一歩踏み込んで従業員の労働条件を設定するよう、積極的に検討するのがよいでしょう。

 

違反には刑罰が科せられる場合も

労働基準法の定めの中には、労働時間の上限や休日の日数など、規定に違反すると刑罰が科せられるものが多数存在します。

刑罰が科せられるということは、言い換えると、これらの規定に違反することは犯罪行為であるということです。

従業員を雇う側の会社の方が、雇われる側の従業員よりも立場が強く、一方的に不利な条件を押しつけるといったことを防止するため、労働基準法違反は犯罪として厳しく取り締まられることになるのです。

 

労働基準法の目的とは?

労働基準法は、労働条件の最低水準を定めるものであり、その目的は労働者の保護にあります。

従業員を雇い入れるのは、「雇用契約」という契約の一種です。

そのため、従業員の労働条件は、一般の契約と同じく、会社と従業員との間の自由な交渉によって合意されるのが原則的な考え方です。

根拠条文

(労働条件の決定)
第二条 労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。

  • (略)

引用:労働基準法|電子政府の総合窓口

たしかに、会社は公的機関ではない民間の組織にすぎず、特別な権力を有するわけではありませんが、事業を遂行するだけの規模を有する点で、一個人である労働者とは交渉力の点で大きな格差があります。

労働条件を当事者の自由な合意に完全にゆだねると、契約自由の名の下に、どんどん労働条件が切り下げられていくことが懸念されます。

歴史的に見ても、労働者は劣悪な環境の中で権利を勝ち取ってきたという経緯があります。

そこで労働基準法では、会社と労働者の対等な関係を確保するために、あえて合意によっても下回ることのできない最低の基準を設けているのです。

仮にこの条件を下回った労働条件を合意しても、そのような合意は無効となり、労働基準法の基準が適用されます。

根拠条文
(この法律違反の契約)
第十三条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。

引用:労働基準法|電子政府の総合窓口

 

労働基準法の対象となる人とは?

労働基準法の対象となるのは「労働者」であり、「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」とされています(労働基準法9条)。

参考:労働基準法|電子政府の総合窓口

言い換えると、会社に対して労働を提供し、その対価として賃金を受け取っている人が「労働者」あり、具体的には次のような例が労働者に当たります。

  • 正社員
  • 契約社員
  • パートタイマー
  • アルバイト従業員
  • 派遣社員

 

労働基準法が適用されない人の例

労働基準法の対象となるのは、単純化すると「仕事をして給料をもらっている人」ですが、一見これに該当するように見えても、労働基準法が適用されない人がいます。

労働基準法が適用されない人の例としては、たとえば次のようなものがあります。

労働基準法の適用については、そもそも労働基準法の適用対象ではなく全面的に適用されない場合のほか、一部の規定が適用されない例もあるため、どの範囲で適用外になるのかについて注意が必要です。

 

船員

船員は、海上で生活するという特殊な職業であり、一般の労働者と勤務の実態が大きく異なることから、労働基準法の適用対象外とされています(労働基準法116条1項)。

参考:労働基準法|電子政府の総合窓口

 

家族

労働基準法は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については適用されません(労働基準法116条2項)。

参考:労働基準法|電子政府の総合窓口

このようなケースでは、雇用主と従業員というよりは、家族の事業を手伝っているだけとみることができ、労働者としての性質に乏しいといえるからです。

 

個人事業主

個人事業主は、他人に雇われて働くわけではなく、自らが事業の主体として事業を行っている立場です。

そのため労働基準法上の「労働者」には当たらず、労働基準法は適用されません。

ただし、個人事業主が労働者に当たらないのは、自らが事業の主体であるからであり、会社の指揮命令下で管理されているような場合、事業の主体とはいえません。

このような場合、いわゆる「偽装請負」として、実質的には雇用主と従業員の関係にあると判断されることもあり得ます。

 

公務員

公務員は、職種にもよりますが、国家公務員については全面的に、地方公務員については部分的に、労働基準法を適用しないものとされています(国家公務員法付則6条、地方公務員法58条3項)。

公務員は公務に従事するという特殊性を有し、民間の労働者と同列に語ることはできないことから、労働基準法の適用が除外されているのです。

もっとも、公務員の労働条件については国家公務員法や地方公務員法に定められており、その内容は労働基準法と大きく異なるものではありません。

実際にどのような労働条件となるかは個別に確認する必要がありますが、イメージとしては、民間の労働者と概ね似たような労働条件になっていると考えることができます。

 

管理監督者

「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」、いわゆる「管理監督者」については、労働基準法の規定中、労働時間、休憩及び休日に関する規定については適用されません(労働基準法41条2号)。

参考:労働基準法|電子政府の総合窓口

管理監督者は、「経営者と一体的な立場にある者」とされ、経営に近い立場にあることから、労働時間や休憩等の規定について適用しないものとされています。

注意が必要なのは、管理監督者が経営者と一体的な立場にあるといっても、あくまで経営者ではなく、従業員、すなわち「労働者」であることには変わりはない点です。

そのため、管理監督者であっても労働基準法が適用されるのが原則であり、労働時間等の規定に限って適用が除外されているに過ぎません。

「管理監督者は労働者ではなく、労働基準法が適用されない」といった誤解をしないよう、注意してください。

管理監督者についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。

 

労働基準法と施行規則の関係

労働基準法は、「労働基準法」という法律の本体を指しますが、これを補う決まりとして、「労働基準法施行規則」というものが存在します。

法律の施行規則とは、法律レベルでは決めきることができない運用上の細目などを定める省令のことです。

労働基準法の中に、「厚生労働省令の定めるところにより」といった表現が出てきた場合は、施行規則をはじめとする省令を参照し、具体的な内容を確認する必要があります。

 

 

労働基準法の主な内容と違反となるケース

労働基準法は、従業員の労働条件の最低基準を定めた法律です。

ここでは、労働基準法が定める主な労働条件と、違反となるケースをご紹介します。

労働基準法の主な内容と違反となるケース

 

労働時間の原則(労基法32条)

労働基準法では、労働時間についての定めがあります。

労働基準法は、労働者を保護するための法律です。

労働時間については、短い分には労働者にとって不利益とならないため、労働基準法での規制は主に上限ということになります。

具体的には、休憩時間を除いて、1日あたり8時間、1週間あたり40時間が労働時間の上限とされ、これを超えて労働者に労働させてはならないとされています(労働基準法32条)。

参考:労働基準法|電子政府の総合窓口

実際には、労働基準法36条に定める協定(通称「36協定」)を締結することにより、これを超えて従業員に労働させること、すなわち残業をさせることは可能です。

ただし、それは36協定という特別な協定の締結によってはじめて可能となるものであり、労働基準法上の原則としては、1日8時間、1週40時間が労働時間の上限とされています。

労働基準法における労働時間の詳しい考え方は、こちらの記事をご覧ください。

 

労働時間についての違反例

労働時間について違反となるのは、次のような例が考えられます。

  • 36協定を締結せずに、1日8時間又は1週40時間を超えて労働させた
  • 36協定で定めた残業時間の上限(限度時間)を超えて残業させた
  • 36協定の対象期間外に残業を命じた

36協定を締結せずに従業員に残業をさせるのは、労働基準法のルールに根本から背くものですが、36協定を締結しているからといって油断してはいけません。

36協定を締結している場合であっても、協定で定めた限度時間を超えたり、36協定の対象期間を経過していたりといった形で、残業が違法となってしまうこともあり得ます。

 

休憩時間(労基法34条)

休憩は、労働者が労働時間の途中において、休息のために労働から完全に解放されることを保障されている時間のことをいいます。

労働基準法における休憩のルールは、次のようになっています。

  • 労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩を与えること
  • 休憩は労働時間の途中に与えること
  • 従業員に一斉に与えること
  • 休憩時間は従業員に自由に利用させること

労働基準法における休憩時間についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。

 

休憩時間についての違反例

休憩時間について労働基準法違反となる例として、次のようなものが考えられます。

 

労働時間が8時間を超えているのに、1時間の休憩が与えられていない

1日の労働時間が8時間ちょうどであれば、ギリギリ8時間を「超えて」はいないため、45分の休憩が与えられていれば足ります。

しかし従業員が1分でも残業すると、その瞬間に、「1日の労働時間が8時間を超えているのに、休憩が45分しか与えられていない」という状況が生じます。

このようなケースでは、残業時間中に少なくとも15分の休憩を取得させることによって、トータルで1時間の休憩を確保する必要があります。

 

休憩時間の自由利用が保障されていない

休憩時間とは、労働からの完全な解放が保障されている時間のことをいいます。

労働から完全に解放されることが保障されるためには、会社の指揮命令から離れて自由に過ごすことができる必要があり、これを「休憩時間の自由利用の原則」といいます。

自由利用との関係で問題になりやすいのは、「手待ち時間」といわれるものです。

手待ち時間とは、現に何かの仕事をしているわけではないが、会社からの指示があればいつでも業務に当たれるように待機している時間のことをいいます。

実際の事例で休憩時間と認められるか、手待ち時間に当たるのかは、ケースバイケースの判断となりますが、休憩時間と認められるためには、自由利用が許されていたのかがポイントとなります。

事務所などで昼食を取りつつも、来客や電話の際には対応することが求められているようなケースでは、手待ち時間と判断される可能性があるため、注意する必要があります。

 

休日(労基法35条)

休日とは、従業員としての労働義務が課されない日のことをいいます。

労働基準法上、従業員には休日を「毎週少くとも一回の休日を与えなければならない」とされています。

つまり、最低でも週に1日の休日を与えることが、労働基準法上の最低基準ということになります。

労働基準法上の休日についての解説は、こちらの記事をご覧ください。

 

休日についての違反例

休日について労働基準法違反となりやすいのは、次のような例です。

 

1日8時間勤務の従業員について、週に1日に休日しか与えられていなかった。

週に1日の休日が最低ラインであるとご紹介したため、問題ない例のように思えるかもしれません。

しかし、労働時間の項目で解説したとおり、1週間の労働時間は40時間が上限とされています。

そのため、1日の労働時間が8時間である従業員については、5日間の勤務で労働時間の上限に達することとなり、実質的には週に2日の休日を与える必要があるということになります。

この場合、厳密に言えば休日の規定ではなく労働時間の規定に対する違反ではありますが、休日の規定を考えるに当たっては、労働時間についても考慮する必要があることを忘れないようにしましょう。

残業の規制(労基法36条)

労働時間の項目で解説したとおり、労働時間の原則的な上限は、1日8時間、1週40時間です。

従業員がこの上限を超えて勤務すると労働基準法違反となるのが原則ですが、一定の条件を満たした場合、例外的にこれを超過する、すなわち残業することが許されます。

その条件が、労働基準法36条に基づいて、労働組合(労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)との間で書面による協定(36協定)を締結することです。

ただし、36協定を締結しさえすれば、いくらでも残業し放題というわけではありません。

36協定の締結によって労働時間の上限を超えることは許されますが、残業時間についても法律上の上限があり、それを逸脱するとやはり労働基準法違反となってしまいます。

具体的な残業時間の上限は、次のとおりです。

月45時間以内、かつ年360時間以内(労働基準法36条4項)

さらに、36協定に「特別条項」という条項を付すことにより、この限度を超えることができますが、その場合でも、次のすべての条件を満たす必要があります。

  • 時間外労働が年720時間以内
  • 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  • 時間外労働と休日労働の合計が、直近の2~6ヶ月の平均において80時間以内
  • 時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6回まで

残業の定義については、こちらの記事をご覧ください。

 

残業についての違反例

残業に関して労働基準法違反に注意したい例として、次のようなケースが考えられます。

 

限度時間を超えて従業員に残業させる

36協定を締結せずに従業員にさせるのは労働基準法違反ですが、たとえ36協定を締結していても、「限度時間」を超えて残業させることは許されません。

「限度時間」とは、1ヶ月に残業できる上限の時間であり、36協定を締結する際に取り決めます。

残業の上限を「月45時間」と解説したため、36協定の締結によって月45時間までの残業が可能になるとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、これは誤りです。

月45時間というのは、残業できる時間の上限ではなく、限度時間を設定する際の上限なのです。

つまり、限度時間は月45時間以内の範囲で定めなければならないため、限度時間を45時間とした場合には月の残業時間の上限は45時間となりますが、限度時間を30時間と取り決めた場合には、月30時間が残業の上限になるということです。

 

毎月30時間以上残業させる(特別条項を使用しないケース)

従業員に毎月30時間以上残業させた場合、36協定が締結されていても、労働基準法違反となります。

「限度時間は月に45時間まで設定できるのでは?」と思われた方は、今いちど限度時間の上限をご確認ください。

限度時間の上限は、「月45時間以内、年360時間以内」です。

限度時間には、月単位だけでなく、年単位の上限も存在するのです。

年に360時間ということは、月平均でいえば30時間ということになります。

月の限度時間を45時間に設定したからといって、毎月のように30時間を超える残業を命じていると、年間の限度時間に抵触する可能性が出てきます。

残業の限度時間は、月単位だけでなく、1年単位の上限についても注意を払う必要があります。

 

有給休暇(労基法39条)

有給休暇は、正式には「年次有給休暇」といい、従業員が有給、つまり給料を受け取りながら取得できる休暇です。

労働基準法における有給休暇の主なルールは、次のとおりです。

  • 従業員の雇い入れから6ヶ月経過し、かつその間の全労働日の8割以上出勤したときに付与する。
  • 付与日数は、最初の年は10日間であるが、その後勤務を継続すると付与日数が増えていき、最大で年20日の有給休暇を付与する必要がある。
  • 有給休暇は、原則として従業員が希望する日に取得させる必要があるが、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季にこれを与えることができる(時季変更権)。

有給休暇についての詳しい解説は、こちらの記事をご覧ください。

 

有給休暇についての違反例

有給休暇について労働基準法違反となるのは、次のような例です。

 

違法な時季変更権の行使

会社は従業員の有給休暇の取得日を変更できる「時季変更権」という権利を有していますが、これを行使できるのは、従業員の有給休暇取得が「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます。

そして「事業の正常な運営を妨げる場合」を簡単に認めたのでは、会社は時季を変更し放題となってしまい、従業員の有給休暇を取得する自由が大幅に制約されてしまいます。

そこで、時季変更権は、単に繁忙期や人手不足といった抽象的な理由では認められません。

時季変更権は、会社の側で代替人員の確保に努めるなどの措置を講じて、それでもなお事業の運営に支障がでる場合に、はじめて行使することが認められます。

時季変更権の行使が適法なものと認められるためのハードルは高いため、安易に行使すると違法となり得ることに注意してください。

 

従業員の取得日数が年5日未満

有給休暇は、従業員が自らの意思で取得するものです。

そのため、職場に有給を取りづらい雰囲気があったり、業務が常時多忙であったりといった事情のために、なかなか従業員が有給休暇を取得できないという事態が生じ得ます。

有給休暇が余った場合は、付与された翌年に限って繰り越すことができるものの、それより前の未消化分は時効により消滅してしまいます。

せっかく法律で有給休暇が付与されたとしても、実際に従業員が取得できなければ意味がありません。

そこで労働基準法が2019年に改正され、年に10日以上の有給休暇が与えられている従業員については、会社の側で時季を指定するなどして、付与から1年以内に少なくとも5日間を取得されることが義務化されました(労働基準法39条7項)。

参考:労働基準法|電子政府の総合窓口

有給休暇の取得を従業員の判断にまかせっぱなしにするのではなく、会社の側でもきっちり取得状況を管理するようにしましょう。

 

就業規則の作成と周知(労基法106条)

就業規則を作成した場合、次のような方法によって、従業員に就業規則を周知する義務があります。

なお、これらの全てを実行する必要はなく、従業員が自由に閲覧できる状態になっているのであれば、どの方法を選んでも構いません。

  • 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は、備え付ける
  • 従業員に書面を交付する
  • パソコン等の電子機器上にデータを掲示し、いつでも閲覧可能な状態にする

就業規則の周知を怠ると、労働基準法の周知義務に違反するだけでなく、就業規則そのものが従業員に適用されず効力を有しません(労働契約法7条)。

参考:労働契約法|電子政府の総合窓口

就業規則は作成して終わりではありませんので、労働基準法違反とならないよう適切に取り扱う必要があります。

就業規則の周知については、こちらの記事もご参照ください。

 

就業規則についての違反例

就業規則は、内容面だけでなく、周知義務を果たすなど、手続き的な部分でもルールがあります。

就業規則の違反例としては、たとえば次のようなものが考えられます。

 

就業規則の内容が、労働基準法の基準を下回る

就業規則では各種の労働条件が定められますが、労働基準法によって労働条件の最低基準が定められているため、就業規則によってこれを下回る労働条件を定めることはできません。

仮に就業規則が労働基準法以下の条件を定めている場合、その箇所は無効となり、労働基準法の定める労働条件が適用されることになります(労働基準法13条)。

参考:労働基準法|電子政府の総合窓口

 

就業規則が適切に周知されていない

就業規則は、事業場への掲示や書面の交付などの方法で従業員に周知する義務があります。

その趣旨は、どのような労働条件が適用されるのかを従業員に対して明らかにし、後出しや不意打ちのような形で従業員に不利益を与えないようにする点にあります。

そのため、就業規則が適切に周知されているといえるためには、従業員がその内容をいつでも把握できる状態にあることが重要です。

たとえば、キャビネットに収納されているが通常は施錠状態にあったり、社内の共通フォルダーに電子データがアップされているが、パスワードが設定されていたりといった場合には、周知されているとは言いがたくなります。

 

賃金支払いの5原則(労基法24条)

賃金は労働条件の中でも特に重要なものであり、労働基準法には賃金の支払いに関する規定が置かれています。

労働基準法には、賃金の支払いについて次の5つのルールが定められており、「賃金支払いの5原則」と呼ばれます。

 

通貨で支払うこと(通貨払いの原則)

給料は通貨、つまり日本円で支払う必要があり、これを通貨払いの原則といいます。

現物支給のような形を許容すると、従業員にとって不利な給与体系を強いられるおそれがあるため、国内で最も汎用的に利用できる法定通貨での支払いが義務づけられているのです。

通貨払いの原則との関係で問題となるのは、給与の支給を銀行振り込みによった場合です。

銀行預金は通貨そのものではありませんが、いつでも自由に引き出すことができる点で上記のような弊害がなく、実質的には通貨で払ったのと大差ありません。

従業員にとっても、多額の現金を持ち歩くより銀行振り込みの方が安心というメリットがあります。

そこで、従業員の同意を得ることにより銀行振り込みによって給料を支給することが認められており、実際に多くの会社ではこの方法が採用されています(労働基準法施行規則7条の2第1項)。

参考:労働基準法施行規則|電子政府の総合窓口

 

従業員本人に直接支払うこと(直接払いの原則)

給料は従業員本人に直接支払うことを要し、これを「直接払いの原則」といいます。

「代理人」を自称するような人物が間に介入することで、いわゆる「ピンハネ」のような状態になることを防止するため、給料は従業員に直接支払うものとされているのです。

 

全額を支払うこと(全額払いの原則)

賃金は、従業員に全額を支払う必要があり、これを「全額払いの原則」といいます。

賃金を全額支払うのは当然のこと思われるかもしれませんが、使用者側がさまざまな理由を付けて給料の一部しか支払わないといった搾取を防ぐために、全額支払うべきことが明記されているのです。

全額払いの原則には例外があり、法令で認められているもの(税金や社会保険料)や労使協定で協定したもの(福利厚生費や労働組合費)については、給料から差し引いて支給することができ、俗に「天引き」と呼ばれます。

 

毎月1回以上支払うこと(毎月払いの原則)

賃金は、毎月1回以上支払う必要があり、これを「毎月払いの原則」といいます。

給与所得によって生計を立てている労働者にとって、給料を数ヶ月まとめて支給するといったことをされると、日々の生活が立ちゆかなくなるおそれがあります。

そこで、賃金は毎月1回以上支払うものとされています。

 

一定の期日を定めて支払うこと(一定期日払いの原則)

賃金は、単に毎月1回以上支払うだけでなく、一定の期日を定めて支払う必要があり、「一定期日払いの原則」といいます。

仮に賃金の毎月1回の支払いが確保されていたとしても、それがいつかはっきりしなければ、生活設計に支障がでます。

そこで賃金は、毎月1回以上、しかも一定の期日に支給する必要があるとされているのです。

一定の期日とは、「毎月〇日」といった形で明確に特定する必要があり、「毎月第4金曜日」のような記載では特定したことにはならないと考えられています。

 

賃金についての違反例

賃金について労働基準法違反となるのは、上記の5原則に反した場合です。

この原則の違反として特に発生しやすいのは、「割増賃金の不払い」です。

割増賃金とは、従業員が時間外や、深夜、休日などに勤務した際に、通常の賃金を一定の割合で割り増して支払うものです。

割増賃金の計算は複雑であり、計算を誤って過少に賃金を支給してしまうと、本来支給すべき額に満たないことになるため、全額払い原則の違反となるのです。

残業代の計算については、こちらの記事をご覧ください。

 

 

労働基準法違反とならないためのポイント

労働基準法違反とならないためのポイント

労働基準法について正しい知識を身につける

労働基準法違反とならないためには、労働基準法について正しく知っておく必要があります。

当たり前のことのように思えるかもしれませんが、労働基準法は多彩な労働条件について非常に複雑なルールを設けているため、これを正確に把握することは簡単ではありません。

細かなルールをすべて追いかけるよりも、基本的なルールや理念、考え方などをきっちり理解する方が有益といえます。

労働基準法については、インターネットからも多くの情報を得ることができ便利ではありますが、必ずしも正確性が保証されているわけではなく、玉石混淆といえます。

手軽に情報が得られたとしても、内容が間違っていたのでは何の意味もありません。

労働基準法についてインターネットでお調べになる際は、専門家によって執筆されているか、情報量が豊富でサイトの作成にしっかりと注力されているかといった点から、信頼できそうな情報源を見極めることが大切です。

 

労働問題に強い弁護士に相談する

労働基準法に違反しないためには、労働問題に強い弁護士に相談することも重要です。

上記のとおり、労働基準法の定めは難解かつ複雑であり、法律の専門家以外がそのすべてを正確に理解するのは非常に困難です。

かといって、会社は使用者の立場で従業員を雇用する以上、その内容を把握することは必須であり、「知らなかった」では済まされません。

労働基準法の定めには、違反に対して刑事罰が定められているものもあり、厳守することが求められます。

そこで、労働基準法に関してご不明な点があるようであれば、労働問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。

労働基準法は、労働問題に関係する法律の中でも最も基本となるものであり、労働問題に注力している弁護士であれば、その内容を深く理解しています。

労働問題では、労働基準法のみならず、労働契約法や労働安全衛生法など、関連する法律が複合的に関係してくるケースも多くあります。

労働問題に関して全面的なサポートを受けるのであれば、ぜひ労働問題に強い弁護士への相談をご検討いただきたいと思います。

労働問題における弁護士選びの重要性については、こちらの記事をご覧ください。

 

 

労働基準法についてのQ&A

労働基準法では何時間働いたら休憩?

労働基準法では、何時間働いたら休憩かは決まっていません。

 

労働基準法で決まっているのは「休憩時間の長さ」であって、「休憩時間までの長さ」ではないからです。

労働基準法では、休憩を「労働時間の途中に与えなければならない」とだけ定められおり、労働時間の途中であれば、それをいつ与えるかの時期についての制限はないのです。

そのため、たとえば午前9時から午後6時まで(うち休憩1時間)の条件で働いている場合、始業を午前10時にしたり終業を午後5時としたりすることは、休憩を「労働時間の途中」に与えているとはいえないため許されませんが、午前9時から午後6時までの間であれば、いつ与えても構いません。

また、30分の休憩を2回与えるといったように、休憩を分割して与えることも可能です。

そして、先ほど解説したとおり、労働時間が6時間を超える場合には休憩を与えなければならないとなっています。そのため、6時間00分ピッタリまでは休憩は法律上は不要です。

現実には、ぴったりに終わることは難しいので、5時間や5時間30分で休憩なしというのが多いでしょう。

 

 

まとめ

この記事では、労働基準法について、その内容や特徴、違反となる主なケースや違反とならないためのポイントなどについて解説しました。

記事の要点は、次のとおりです。

  • 労働基準法とは、労働者の労働条件の最低基準を定めた法律である。
  • 労働基準法では労働時間や休日、休憩、賃金などの重要な労働条件について規定が設けられており、これは最低基準であるから下回ることは許されない。
  • 労働基準法は労働者の保護を目的としており、違反に罰則が定められているものも存在する。
  • 労働基準法は、従業員の労働時間や賃金、休日、休憩などの基本的な労働条件について詳細なルールを定めており、違反しないためには、労働問題に強い弁護士に相談することがおすすめである。

当事務所では、労働問題を専門に扱う企業専門のチームがあり、企業の労働問題を強力にサポートしています。

Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。

労働問題でお困りの際は、当事務所の労働事件チームまで、お気軽にご相談ください。

この記事が、労働問題にお悩みの企業にとってお役に立てれば幸いです。

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