時短とは?【弁護士が徹底解説】
時短とは、労働時間の短縮のことをいいます。
法律上必ず労働時間を短縮しなければならない場合のほか、企業が生産性を上げるために自主的に労働時間を短縮する場合も含まれます。
- 不必要な残業を無くすにはどうすればいいですか?
- 長時間労働を削減して働き方改革を行いたい・・・
- 法律上、労働時間を短縮しなければならない場合とは?
当法律事務所の労働事件チームには、このような会社からのご相談が多く寄せられています。
企業が持続的に成長していくためには、不必要な長時間労働を減らして生産性を上げていくことが不可欠です。
また、時短勤務は、法律上、必ず行わなければならい場合があります。
ここでは、時短制度や長時間労働の削減方法等について、企業側弁護士が詳しく解説しますので、参考にされてください。
時短とは
時短とは、一般的に労働時間を短縮して勤務することをいいます。
時短は、大きく分けて、以下の2つがあります。
(2)会社独自で取り組んでいる制度
もともと、時短という言葉は、(1)法律上の制度を指していました。
子育てや介護などの理由から、通常の勤務時間で働くことが難しい労働者を支えるための制度として、育児・介護休業法上、一定の場合、勤務時間の短縮が事業主に義務付けられており、これを時短と呼んでいました。
しかし、最近、長時間労働の是正や働き方改革がクローズアップされてきており、法律上の義務としてではなく、企業が自主的に勤務時間を削減すべく様々な取り組みを始めました。
そして、現在では、このような企業独自の取り組みについても、時短と呼ばれるようになりました。
以下では、時短について、法律上の制度、会社独自の取り組みの例について、詳しく解説します。
法律で時短勤務が義務付けられている場合
子供の育児のための時短勤務
3歳までの時短勤務
会社は、1日の所定労働時間を原則として6時間とする措置を含む措置を講ずる義務があります。
ただし、労使協定によって以下の労働者は対象外とすることが可能です。
- 勤続1年未満の労働者
- 週の所定労働日数が2日以下の労働者
- 業務の性質又は業務の実施体制に照らして、所定労働時間の短縮措置を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者
3歳以降の時短勤務
会社は、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者に関して、育児休業に関する制度、所定外労働の制限に関する制度、所定労働時間の短縮措置又はフレックスタイム制等の措置に準じて、必要な措置を講ずる努力義務があります。
介護のための時短勤務
会社は、次の措置のいずれかを、利用開始から3年の間で2回以上の利用を可能とする措置を講ずる義務があります。
- 所定労働時間を短縮する制度
- フレックスタイム制
- 始業・終業時刻の繰上げ、壙下げ
- 労働者が利用する介護サービスの費用の助成その他これに準ずる制度
ただし、労使協定によって、以下の労働者のうち所定労働時間の短縮措置等を講じないものとして定められた労働者は対象外とすることが可能です。
- 勤続1年未満の労働者
- 週の所定労働日数が2日以下の労働者
育児・介護休業法における制度の概要について、くわしくはこちらのページもご覧ください。
【Q&A1】時短はパートも対象?
パートだからといって、時短の対象外とはなりません。
【Q&A2】時短で迷惑との声が上がっている場合
時短勤務の社員がいると、その社員ができなくなった業務を他の社員が代わりに対応することになって、業務量が増えるなどの問題が発生します。
その場合、業務量が増えた社員から、迷惑などの陰口や、不満が出ることがあります。
このような不平不満に対して、どのように対応すべきか、というご相談があります。
結論としては、社員教育が重要です。
時短制度の法律の内容やその制度の目的について周知すべきです。
そのためには、経営陣が法制度のについて知っておかなければなりません。
また、単に法律上の義務としてではなく、会社の経営方針として、「柔軟な働き方」「ダイバーシティの推進」「女性が働きやすい職場」などを推進することを伝えると、社員の理解が得られ、モチベーションを上げる効果もあります。
それでも極一部の社員からは不満の声があるかもしれませんが、その場合、個別に面談するなどしてマネジメントを行っていくとよいでしょう。
【Q&A3】時短で給与はどうなる?
時短を理由として、その社員に対して、不利益な取扱を行うことは法律上禁止されています。
したがって、時短を社員に対して、不合理な賃金の減額はできません。
もっとも、労使関係の大原則として、ノーワーク・ノーペイの原則があります。
これは、働かなければ報酬はないという原則です。
したがって、時短勤務の程度に応じた給与の一部カットは認められます。
具体例 時短勤務労働時間が6時間になった場合
所定労働時間が8時間で基本給20万円の社員
時短勤務労働時間に対応して、基本給を15万円にすることは許されるでしょう。
20万円 ☓ 6/8 =15万円
なお、就業規則にも、時短の際の給与の取り扱いについては規定しておくべきです。
第●条 育児短時間勤務中の給与は、基準内賃金を時間換算した額を基礎とし、実労働時間に応
じて支給する。
【Q&A4】時短でボーナスはどうなる?
ボーナスについても、上記で解説したとおり、ノーワーク・ノーペイの原則で考えてよいでしょう。
この場合も、就業規則に、時短の際のボーナスについて規定しておくべきです。
第●条 期末手当・勤勉手当を支給する場合における育児短時間勤務期間中の期末手当、勤勉手当の
支給基礎額は、短縮した時間についてはその基礎としない。
2 賞与算定対象期間に育児短時間勤務期間が含まれる場合においては、短縮した時間に対応する賞与は支給しない。
【Q&A5】時短は男性には適用されない?
時短の対象外とできるのは、上述したとおりです。
男性であることを理由に時短勤務を認めないという扱いはできません。
もっとも、日本の会社は、「子育ては女性が行う」という風潮があります。
近年、少しずつ改善されているようですが、働き盛りの男性が職場で「子育てのため時短を希望します」とは言いにくいのが現状です。
会社としては、男性でも時短の対象となることを明示したり、推奨してよいと思います。
そのような企業の先進的な取り組みは、企業イメージを向上させるとともに、従業員満足度を向上させて離職防止など、プラスの方向に行くと思われます。
【Q&A6】時短の従業員が残業できる?
時短は、労働時間を短縮する制度です。
したがって、残業は制度の内容と矛盾するようにも思えます。
しかし、法律上、時短は所定労働時間を短縮するものであって、時間外労働を禁止する効果はありません。
したがって、残業は可能です。
もっとも、3歳に満たない子を養育する労働者が時間外労働の免除を請求した場合、残業させてはなりません。
この時間外労働の制限は、育児休業法、時短とは別に設けられた制度です。
時間外労働の免除の請求がない場合、理論上は残業が可能だとしても、基本的にさせるべきではないと思われます。
不測の事態が起こって対応が必要な場合や、当該労働者の希望がある場合などに限定すべきでしょう。
会社独自の取り組みの時短制度
ここでは、法律上の義務としてではなく、自発的に労働時間を短くするための各種取り組みについて、ご紹介します。
①残業の許可制
不必要な残業を防止し、労働時間を短縮するための取り組みとして、残業の許可性があります。
これは、社員が時間外労働を希望する場合、事前に会社に届け出が必要というものです。
残業を許可性にすることで、労働時間の短縮に一定の効果が出ると思われます。
もっとも、この場合、残業の許可制について、就業規則に明記すべきです。
第●条(時間外労働命令)
1.会社は、業務上の必要性がある場合、三六協定に基づき第31条に定める所定労働時間外に労働を命じることがある。
2.やむを得ず時間外労働の必要性が生じた場合、従業員は事前に所定の用紙により会社に申し出て、許可を得なければならない。従業員が、会社許可なく業務を実施した場合、当該業務の実施に該当する部分の通常賃金及び割増賃金は支払わない。
また、就業規則に規定するだけではなく、実際に運用することが大切です。
無許可の時間外労働を黙認していた場合、後から残業代を請求されても、「許可がないから支払い義務はない」という反論は通らない可能性が高いと思われます。
②終業時刻を強制的に運用する
例えば、「夜8時以降の残業を絶対的に禁止する」などの措置が考えられます。
就業規則に規定し、上司から指導徹底することで、不必要な残業を削減する効果が期待できます。
会社によっては、ある時刻になると、電気を消すなどして強制的に運用している場合もあります。
③人事評価基準の見直し
これは、人事評価の中に、「生産性」などの基準を設けて、不必要な残業の有無を評価する手法です。
かつて、日本の企業では、「遅くまで残っている社員がやる気がある」という風潮がありました。
しかし、企業にとって重要なのは、単位労働時間あたりの業績の向上、すなわち、生産性の向上です。
評価基準を見直し、生産性が高い従業員について、昇給させたり、賞与を多く支給したりすることで、労働時間の短縮につながると思われます。
④兼業・副業の許可
労働時間が短くなると、これまで残業代をもらっていた社員の手取り給与が減少する可能性があります。
給与が減ることを社員が嫌がると、不必要な残業をしてしまう可能性があります。
このような事態を回避するために、副業を許容するという手法があります。
ただし、副業は、企業機密の漏洩や勤務時間管理の問題が生じる危険があります。
副業については、こちらのページで詳しく解説しています。
ぜひ、御覧ください。
時短勤務導入の3つのポイント
①労働法令を遵守する
会社が独自に時短を導入する場合、気をつけなければならないのが労働法令に違反しないようにするということです。
上記のとおり、従業員に対し、何らかの義務(例えば、残業の事前申請)を課す場合、就業規則の根拠が必要となる場合が多くあります。
したがって、何か新しい取り組みを行う場合、労働問題に詳しい専門家の助言を得ながら進めていくことをお勧めします。
②社員のモチベーションを上げる
時短の導入で大切なのは、「従業員視点に立つこと」です。
これらは、従業員視点の経営であり、これからの会社経営においては不可欠な要素であると思われます。
社員のモチベーションや満足度が向上することで、企業の業績が向上し、人材が定着すると考えられるからです。
③効果を検証する
企業が独自の取り組みを行ったとき、一定期間経過後に、どのような効果があったか検証することが重要です。
検証の方法としては、労働時間を集計し、施策の導入前後を比較して実際に労働時間が減少したか、という定量評価が考えられます。
また、従業員らにアンケートを行って、満足度を調査するという定性評価も考えられます。
まとめ
以上、時短の様々な制度や取り組みについて、詳しく説明しましたがいかがだったでしょうか?
上記はあくまで一般的な説明であり、会社が置かれた環境や経営戦略によって、とるべき方法は異なります。
時短の具体的な方法については、労働問題に詳しい弁護士へご相談されることをお勧めしています。
デイライト法律事務所の労働事件は、時短に取り組もうとする企業に対して、サポートを行っております。
まずは当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。
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