退職代行にどう対応すればいい?【弁護士解説】
退職自体は仕方がないと思われます。
しかし、弁護士以外の業者が退職代行を行う場合、弁護士法違反(非弁行為)の可能性があります。
また、非弁行為ではなくても、退職するには原則として、一定の期間前の申し入れが必要です。
したがって、従業員に対して、引き継ぎ等を求めることはできる可能性があります。
なお、退職のトラブルを防止するためには、就業規則や雇用契約書の内容を工夫することがポイントとなります。
- 従業員が退職代行業者を通じて退職を申し込んできた
- 従業員が無断で、突然会社に来なくなった
- 弁護士から退職の申し入れ書が送付されてきた
当法律事務所の労働事件チームには、このような会社からのご相談が多く寄せられています。
従業員の一方的な退職は、正当性が認められない場合もあります。
また、突然の退職で会社に悪影響が生じる場合があるため、慎重に対応すべきです。
退職代行への対応について、企業側弁護士が詳しく解説しますので、参考にされてください。
退職代行とは
退職代行とは、代行業者が従業員本人に代わって、退職の意向を会社に伝えるサービスのことをいいます。
近年、労働力(人手)不足が続く中、会社にとって従業員を確保することが死活問題となっています。
会社の多くは、採用活動に力を入れており、できるだけ退職者を減らそうと努力しています。
会社が従業員を大切にするのは良いことですが、行き過ぎた「退職防止」の取り組みは、退職者の自由意志を阻害してしまう可能性があります。
その結果、従業員が会社を辞めたくても「辞めることができない」又は「辞めにくい」といった状況となることが考えられます。
退職代行業者は、このような社会問題や労働者のニーズを捉えて、従業員に代わって、退職の申し入れをするというサービスを行っています。
退職代行の5つのトラブル・問題点
退職代行は、一見すると、消費者(従業員)のニーズを満たすサービスですので、何ら問題がないようにも思えます。
しかし、以下にあげるようなトラブルが考えられるため注意が必要です。
トラブル①非弁行為の可能性がある
退職代行は、非弁行為と言って、弁護士法に違反する可能性が高いと思われます。
弁護士法は、法律事務について、弁護士しか取り扱ってはならないと規定しています(72条)。
そして、この弁護士法第72条に違反する行為を、「非弁行為」といいます。
退職代行は、この非弁行為に該当する可能性が高いのです。
この問題については、後記において詳しく紹介します。
トラブル②法令等に違反する可能性がある
雇用契約も、契約である以上、従業員からの一方的な退職の申し出(契約解除)は、法令等の制限に違反する場合があります。
また、やむを得ない事由が労働者の過失によって生じたものであるときは、会社に対して、損害賠償の責任を負います(民法628条)。
具体例9月30日に退職を希望している場合
退職の申し入れは、前月の8月15日までに行わなければなりません。
トラブル③人間関係のトラブルの可能性
雇用契約は、基本的には短期間ではなく、長期間継続する契約です。
日雇いなどの一時的なものも存在しますが、多くは正社員であり、高齢となるまで勤務する従業員が多いのが特徴です。
また、雇用契約は、会社と労働者との間の契約ですが、会社組織の中で、上司、同僚、部下などの多くの人とコミュニケーションを取りながら、信頼関係を土台として成り立っています。
このように、長い期間に渡って、多くの人と接触するため、退職は、人間関係のトラブルを引き起こす原因となることがあります。
これまで一緒に働いてきた職場の仲間が別れの挨拶をせず、突然出社しなくなると、ショックを感じる従業員が生じます。
また、そのような無責任な行動を許すことができずに非難するなど、トラブルに発展するおそれがあります。
トラブル④業務の引き継ぎに支障が出る
従業員が突然出社しなくなると、これまでその従業員が行ってきた業務や顧客の引き継ぎなどができません。
そのため、他の従業員の負担が大きくなったり、業務に混乱が生じる可能性があります。
トラブル⑤損害賠償請求の可能性
従業員の一方的な退職で、会社の業務に支障が出て、業績が悪化すると、会社が損害賠償請求を行う可能性があります。
従業員の退職を理由とする会社の損害賠償請求は簡単には認められないと思われますが、あまりにも悪質な場合は、損害賠償請求を視野に入れて検討してもよいでしょう。
退職代行が非弁行為となる場合
上記のとおり、退職代行サービスは、非弁行為として、弁護士法第72条に違反する可能性があります。
ここでは、どのような行為が非弁行為となるのか解説します。
弁護士法は、弁護士でない者の法律事務の取扱について、次のとおり規定しています。
退職の意志表示の代行
退職代行サービスは、従業員に代わって、雇用契約の解除の意思を通知するというものです。
したがって、「法律事件に関して」「代理」していると考えられます。
従業員から一切金銭を受領しない(無報酬)のであれば、「報酬を得る目的」がないといえますが、通常、退職代行業者は、報酬を得ているので、非弁行為に該当すると思われます。
退職代行業者の中には、会社とは交渉せず、退職の意思を伝えるだけだから「使者」に過ぎず「代理」していないなどと主張する業者もあるようです。
しかし、退職の意思表示は、雇用契約の解除という契約に関する重要な行為です。
したがって、仮に、「代理」ではなくても、「法律事務」の取り扱いに該当すると思われます。
退職の有効性の主張
上記のとおり、退職はまったく無制限ではありません。
退職が法令等の制限に違反し、会社から有効性を争われたり、損害賠償請求をされたりした場合、それに対して、退職の有効性を主張するのは、もはや「使者」とはいえず、「代理」であることは明らかといえるでしょう。
したがって、非弁行為に該当すると思われます。
未払い賃金等の請求
退職する従業員の中には、会社から退職金を支払ってもらっていない、未払いの残業代がある、など会社に給与債権を持っている場合があります。
このような未払い賃金等について、弁護士以外の退職代行業者が会社に請求するのは明らかに非弁行為に該当すると思われます。
退職代行への対応
上記の問題点を踏まえて、退職代行業者から退職の連絡が来たときの対応方法について、説明いたします。
法令に違反しないかを確認
退職代行業者が弁護士以外の場合、弁護士法に違反している可能性があります。したがって、弁護士が代理人となっているか否かを確認します。
通常、弁護士が書面を差し出す場合、従業員氏名だけでなく、「代理人弁護士・・・・」と代理権があることを表示します。
したがって、弁護士名が記載されているかを確認すればよいでしょう。
会社を無断欠勤し、突然の退職申し入れは、法令に違反している可能性があります。
この点については、判断が難しいと思われるので、労働問題に詳しい弁護士へ相談された方がよいでしょう。
就業規則等に違反しないかを確認
退職申し入れが法令に違反していないとしても、会社の就業規則に違反している可能性があります。
したがって、就業規則の退職規定に違反していないを確認すべきです。
もっとも、会社の就業規則に合理性が認められなければ、制限自体が無効となる可能性があります。
そのため、専門家に就業規則を確認してもらうなどして対応すべきです。
業務への支障を確認
従業員が引き継ぎも行わず、突然、会社を退職することで、どの程度の悪影響が生じるかを確認します。
具体例
話し合いでの解決を検討
従業員の身勝手な退職によって、企業に損害が生じる場合、訴訟を提起するという選択肢もあります。
しかし、一般的に、裁判は長期化したり、企業の負担が大きくなる傾向があります。
そのため、まずは話し合いでの解決を検討するほうが良いでしょう。
法的措置の検討
相手が話し合いの提案を無視したり、不誠実な対応に終止したりする場合、訴訟提起を含めた法的措置を検討します。
損害賠償請求訴訟が典型ですが、従業員に求める内容によって、取るべき法的措置は異なります。
まとめ
以上、退職代行への対応について、詳しく説明しましたがいかがだったでしょうか?
上記はあくまで一般的なポイントであり、退職した従業員や会社が置かれた状況で、とるべき方法は異なります。
退職代行への対応については、労働問題に詳しい弁護士へご相談されることをお勧めしています。
デイライト法律事務所の企業法務チームは、退職する従業員の対応に関して、多くの解決実績を有しています。
まずは当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。
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