事務所内の喫煙は労働基準監督署の調査対象になりますか?
事務所内でタバコを吸う従業員がいて、吸わない従業員が禁煙にしてほしいと言っています。労働基準監督署の調査対象になりますか?
受動喫煙に対する対策は、健康の保持に対する措置として労働基準監督署の所管事務となっています。したがって、調査対象ではありますが、受動喫煙対策には、違反への罰則がなく、努力義務にとどまっているため、調査に来る可能性はそれほど高くありません。
受動喫煙対策
労働安全衛生法は65条の3において、企業が労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならないと定めています。
近年、健康気運の高まりとともに、喫煙に対する意識も変わっています。全面禁煙や分煙化が至る所で進められており、タバコ業界は、通常の紙タバコより有害物質の含有量が少なく、受動喫煙の影響がない電子タバコを発売するなどしています。
こうした状況で、労働安全衛生法は平成26年の改正で受動喫煙について、新たに以下の条項を定めました(同法68条の2)。
「事業者は、労働者の受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう。)を防止するため、当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるよう努めるものとする。」
したがって、企業は事務所内での喫煙について、全面禁煙化するか、分煙化して、喫煙室を作るなどの対策が求められています。これは、企業規模や従業員数を問わず、すべての事業場が対象となっています。
この点、テナント契約により、事務所を賃借しているケースでは、ビル自体が全面禁煙化していたり、喫煙室を設置していたりするので、ビルのルールに従えばよいケースもありますが、自社ビルや工場などの場合には、事業場ごとに喫煙ルールを定める必要があります。
国としても、労働者の健康保持増進に関する措置の適切かつ有効な実施を図るため、受動喫煙の防止のための設備の設置の促進その他必要な援助に努めるとされており(安衛法71条1項)、中小企業を対象に屋外喫煙所や喫煙室などの設置にかかる費用の助成を行っています(受動喫煙防止対策助成金)。
この助成金は設備費用の半分(上限200万円)を補助するものです。
こうした助成金が用意された背景には、従業員が50名未満の事業場では、禁煙、分煙化があまり進んでいなかったという事情があります(全体の全面禁煙・分煙の取組み率は2011年の47.6%から翌年の2012年には61.4%と順調に推移しています。)。
受動喫煙対策の具体的な対応
設備面での施作(ハード面)
・敷地内全面禁煙
・屋内全面禁煙
・空間分煙(喫煙室)
・換気の充実(空気清浄機などの設置)
計画や社員教育(ソフト面)
・分煙担当者・部署の決定
・分煙計画の作成
・社員教育の実施
・事務所内への掲示
労基署の関わり
受動喫煙対策は、前述のとおり労働安全衛生法に定められたものであるため、この法律の施行について、権限が与えられている労基署は必要があれば調査を行うことができます。
その意味では、36協定の締結違反や賃金不払いなどの違反と同じく、労働基準監督官が事業場に調査に来る可能性もゼロとは言い切れません。
ただし、受動喫煙対策については、労働安全衛生法の文言上、「しなければならない」ではなく、「努めるものとする」と規定されているにとどまっているため、努力義務にすぎません。
したがって、対策を講じないからといって罰則が科せられるわけではないという現状からすれば、労基署の調査業務の優先順位は低いと考えられます。
しかしながら、ハラスメントなどの問題とともに、従業員が受動喫煙を強いられているとして、労基署に相談するなどした場合には、その他の問題と合わせて調査を行うということはあり得ます。
女性の社会進出や喫煙に対する意識の変化などからすれば、現状の努力義務から受動喫煙対策の義務化という法改正も可能性があるところです。
実際、2020年の東京オリンピック、パラリンピックに向けて、厚生労働省は、飲食店などサービス業の施設内では原則禁煙とする罰則付きの法制度の導入を本格的に検討しており、この流れが従業員の健康保持を目的とする労働安全衛生法にも影響することも考えられます。