定期監督ではどのような点が調査の対象となっていますか?
定期監督では、毎年重点事項が定められ、当該計画に従って、調査を行っています。
平成29年度は、長時間労働に対する監督の強化や第三次産業や陸上貨物運送業での労災事故防止などとなっています。
定期監督とは
定期監督とは、労基署の臨検監督のうち、厚生労働省で毎年春に作成される方針に基づいて、対象となる事業場を選別した上で行うものです。
その意味では、実際の労働者からの労働法令違反についての相談によって行われる申告監督や労働災害が発生してから行われる災害時監督と違い、日頃から労基署が調査を行うことで、未然に労働法令違反による弊害の発生を防止する、あるいは最小限に抑える目的でなされる調査と位置づけることができます。
定期監督の対象
上述のとおり、定期監督の前提となる方針は、毎年4月の年度初めに厚生労働省が全国の都道府県労働局長宛に行政通達という形で出しています。
これは「地方労働行政運営方針」と呼ばれるもので、労働行政を取り巻く情勢やその年での課題、行政機関としての基本的な対応指針や重点施策が記載されています。
各都道府県労働局は、厚生労働省が示す全国的な方針を踏まえて、それぞれの地域で特に重視する項目などを決定し、実際に定期監督を進めていきます。
平成28年の重点事項
平成28年度の労働基準監督行政における重点事項は下図のとおりでした。
対象の事項としては、働きすぎ防止に向けた取組みの推進がまず挙げられており、具体的には、「適切な労働時間管理及び健康管理に関する窓口指導、監督指導等を徹底する。」と定められています。
そして、「特に、各種情報から時間外労働時間が1か月当たり100時間を超えていると考えられる事業場や長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場に対して、引き続き監督指導を徹底する。」とされており、100時間を超える時間外労働が行われている事業場は監督の対象となる可能性が高かったはずです。
賃金不払については、「重大又は悪質な事案に対しては、司法処分を含め厳正に対処する。」と示されており、最低賃金違反や多数の労働者への賃金不払の事案は、送検されることも十分にあり得ます。
実際に、福岡労働基準監督署平成28年2月24日の事案では、派遣事業を営む法人が労働者5名に最低賃金法以下の賃金しか支払っていなかった事案について、法人はもとより代表者個人も送検されています。
また、注力業種として、平成28年度は自動車運転者が第一に挙げられていました。したがって、運送業を定期監督の主な対象に据えていたと考えられます。
その他にも、介護労働者や派遣労働者、医療機関の労働者にも言及されています。社会福祉事業や派遣の多い建設業、看護師の夜勤といった交代勤務の多い医療機関の調査を念頭に置いていたと思われます。
労災事故については、方針の中で第三次産業、とりわけ社会福祉施設を最重点業種としており、小売業や飲食業にも言及されています。
このように、その年の厚生労働省の地方労働行政運営方針を紐解くことで、労基署がどの分野を調査するかという重点項目や対象業種がわかります。
平成28年度地方労働行政運営方針の概要
(1)雇用環境改善の推進
(2)働き過ぎ防止に向けた取組の推認
(ア) 長時間労働の抑制及び過重労働による健康障害防止に係る監督指導等
(イ) 過労死等防止対策の推進
(3)労働条件の確保・改善対策
ア 法定労働条件の確保等
(ア)法定労働条件の確保等
(イ)賃金不払残業の禁止
(ウ)若者の「使い捨て」が疑われる企業等への取組
(エ)未払賃金立替払制度の迅速かつ適切な運営
イ 特定の労働分野における労働条件確保対策の推進
(ア)自動車運転者
(イ)障害者
(ウ)外国人労働者・技能実習生
(エ)介護労働者
(オ)派遣労働者
(カ)医療機関の労働者
(キ)パートタイム労働者
ウ 労働時間法制の見直し内容の周知
エ 「労災かくし」の排除に係る対策の一層の推進
(4)最低賃金制度の適切な運営
(5)労働者が安全で健康に働くことができる環境づくり
ア 労働災害を減少させるための業種横断的な取組
(ア)転倒災害防止対策
(イ)交通労働災害防止対策
(ウ)非正規雇用労働者等対策
イ 労働災害を減少させるための重点業種別対策
(ア)第三次産業
(イ)製造業
(ウ)建設業
(エ)陸上貨物運送事業
ウ 化学物質による健康障害防止対策
エ 職場におけるメンタルヘルス・健康管理対策
オ 石綿健康障害予防対策
(ア)建築物解体における石綿ばく露防止対策の推進
(イ)石綿の輸入禁止の徹底等
カ 職業性疾病等の予防対策
(ア)熱中症予防対策
(イ)じん肺予防対策
キ 受動喫煙防止対策
ク 安全衛生優良企業公表制度の周知
(6)労災補償の迅速・適切な処理等
ア 労災保険給付の迅速・適正な処理
(ア)標準処理期間内の迅速・適正な事務処理等
(イ)脳・心臓疾患事案及び精神障害事案に係る迅速・適正な処理
(ウ)石綿救済制度等に係る周知徹底及び石綿関連疾患の請求事案に係る迅速・適正な処理
(エ)マイナンバーの適切な取扱い
イ 休業(補償)給付と障害厚生年金等の併給調整の確実な実施
ウ 労災診療費の支払の適正化
(ア)労災診療費の適正払いの徹底
(イ)労災診療費算定基準改定に係る対応
エ 第三者行為災害に係る適正な債権管理等
オ 行政争訟に当たっての的確な対応
(7)署の窓口サービスの向上、各種権限の公正かつ斉一的な行使
(8)社会保険労務士制度の適切な運営
(9)家内労働対策の推進
ア 最低工賃の新設・改正の計画的推進及び周知の徹底
イ 家内労働法の履行確保
平成29年度の重点事項
そして、今年度(平成29年度)の重点事項についても発表されましたが、下図のとおりとなっています。
平成28年と大幅な変更はありませんが、労働災害について、陸上貨物運送事業が建設業などより先に言及されていたり、長時間労働についてはより厳しく対応していくことが盛り込まれていたりと気をつけるべきポイントを把握することができます。
こうした方針を踏まえて、自社の労務管理に問題点がないかセルフチェックをされることをお勧めします。制度が未整備の場合には、社労士や弁護士に相談するのが賢明です。
平成29年度地方労働行政運営方針の概要
(1)「働き方」の推進などを通じた労働環境の整備・生産性の向上
ア 仕事と生活の調和の実現
(ア)長時間労働の抑制及び過重労働による健康障害防止に係る監督指導等
(イ)労働者の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインの周知・徹底
(ウ)過労死等防止対策の推進
イ 労働条件の確保・改善対策
(ア)法定労働条件の確保等
a 基本的労働条件の確立等
b 賃金不払残業の防止
c 若者の「使い捨て」が疑われる企業等への取組
d 未払賃金立替払制度の迅速かつ適正な運営
(イ)特定の労働分野における労働条件確保対策の推進
a 自動車運転者
b 外国人労働者、技能実習生
c 障害者
d 介護労働者
e 派遣労働者
f 医療機関の労働者
g パートタイム労働者
(ウ)労働時間法制の見直し内容の周知
(エ)「労災かくし」の排除に係る対策の一層の推進
ウ 最低賃金制度の適切な運営(最低賃金額の周知徹底等)
(2)労働者が安全で健康に働くことができる職場づくり
ア 治療と仕事の両立支援
(ア)企業文化の抜本改革
(イ)企業と医療機関との連携強化及び患者に対する相談の充実
イ 第12次労働災害防止計画の最終年度における労働災害を防止するための安全対策
(ア)重点業種への取組
a 第三次産業
b 陸上貨物運送事業
c 製造業
d 建設業
(イ)労働災害防止に係る業種横断的対策に当たっての留意事項
a 転倒災害防止対策
b 交通労働災害防止対策
c 非正規雇用労働者等対策
ウ 第12 次労働災害防止計画の最終年度における労働者の健康確保のための取組
(ア)化学物質による健康障害防止対策
(イ)職場におけるメンタルヘルス・健康管理対策
a メンタルヘルス対策の推進
b 労働者の健康管理対策の推進
c 小規模事業場への支援の周知、利用勧奨
(ウ)石綿健康障害予防対策
a 建築物解体における石綿ばく露防止対策の推進
b 石綿の製造禁止の徹底等
(エ)職業性疾病等の予防対策
a 熱中症予防対策
b じん肺予防対策
(オ)受動喫煙防止対策
エ 労働安全衛生行政の運営に係るその他の業務について
(ア)安全衛生優良企業公表制度の周知
(イ)ボイラー等の製造時等検査の登録機関への移行
(ウ)安全衛生教育等の推進について
(3)労災補償の迅速・適切な処理等
ア 労災保険給付の迅速・適正な処理
(ア)過労死等事案に係る迅速・適正な処理
(イ)石綿救済制度等に係る周知徹底及び石綿関連疾患の請求事案に係る迅速・適正な処理
(ウ)請求人等への懇切・丁寧な対応
(エ)マイナンバー制度への適切な対応
イ 労災補償業務の効率化
(ア)相談員等の積極的活用
(イ)職員等の能力向上を図るための効果的な研修の実施
(4)署の窓口サービスの向上、各種権限の公正かつ斉一的な行使
(5)社会保険労務士制度の適切な運営
(6)家内労働対策の推進
ア 最低工賃の新設・改正の計画的推進及び周知の徹底
イ 家内労働法の履行確保