労働基準監督官が行う司法警察員の職務はどのようなものですか?
日本における捜査の第一時次な担当者は司法警察職員です。
すなわち、刑事訴訟法は、「司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査する」と規定しています(刑訴法189条2項)。
同法は、司法警察職員のほかに、検察官や検察事務官にも捜査権限を認めていますが、数から言えば、圧倒的に司法警察職員が多いといえます。
捜査機関としての司法警察職員は、縦の関係において司法警察員と司法巡査に分けられ(刑訴法39条3項)、横の関係において一般司法警察職員と特別司法警察職員に分けられています(刑訴法190条)。
司法警察員と司法巡査
司法巡査は、司法警察員を補助して個々の事実行為的な捜査を行うことができるにすぎません。そのため、司法警察員には与えられているが、巡査には与えられていない権限があります(下図参照)。
なお、司法巡査といえども、被疑者や参考人の取り調べ等はなしえます。
司法警察員にのみ与えられている権限の例
※括弧内は刑訴法の根拠条項
①各種令状請求権(199条2項・218条3項)
ただし、緊急逮捕の場合における逮捕状請求権を除く。
②逮捕された被疑者を釈放又は送致する権限(203条・211条・216条)
③事件の送致・送付の権限(246条・242条・245条)
④告訴・告発・自首の受理権限(241条・245条)
⑤検察官の命により検視する権限(229条2項)
労働基準監督官は司法警察員であり、上記の権限が与えられていることになります。
一般司法警察職員と特別司法警察職員
一般司法警察職員以外の者で、特別の事項について司法警察職員として捜査の職務を行う特定の行政庁の職員等を総称して特別司法警察職員といいます。
この特定の行政庁の職員は、本来の職務を行うに際して犯罪を発見する機会が多く、その犯罪については、その職員の有する職務上の専門知識を活用した方が捜査の実効を期し得る場合が多いことから司法警察職員とされています。
労働基準監督官のほかに、例えば、海上保安官、自衛隊の警務官、麻薬取締官、皇宮護衛官などが該当します。
労働基準監督官の司法警察職員としての職務
労働基準監督官は、労働関係法令違反の罪について、特別司法警察職員となります。
例えば、労働基準法は、「労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う」と定めています(同法102条)。
その他、労働基準監督官が特別司法警察職員としての権限を有する労働関係法令は下図のものがあげられます。
特別司法警察職員の権限を有する主な法律
※括弧内は根拠条項
①労働基準法(第102条)
②労働安全衛生法(第92条)
③最低賃金法(第33条)
④賃金の支払の確保等に関する法律(第11条)
⑤じん肺法(第43条)
⑥家内労働法(第31条)
⑦炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法(第14条)
⑧作業環境測定法(第40条)
労働基準監督官には、上図の法律に違反する罪については、自ら捜査、逮捕(現行犯逮捕・緊急逮捕・令状逮捕)、逮捕の際の令状によらない差押え・捜査・検証及び令状による差押え・捜査・検証等の権限があります。
また、事件を検察官に対して送致する(いわゆる送検)ことも行うことができます。
検察官との関係
司法警察職員たる労働基準監督官は、労働関係法令に違反する犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査し、法律に特別の定めがある場合を除き、事件を検察官に送致しなければなりません(刑訴法189条2項・246条)。
検察官にも捜査権があり、司法警察職員との間の調整を図る必要があるため、検察官には司法警察職員に対する一定の指示権・指揮権が認められています。
司法警察職員は、この検察官の指示又は指揮に従わなければなりません。
そのため、労働基準監督官には、いわば2人の上司がいることとなります。1人は日常業務を指揮命令する同じ機関(労基署など)の上司、もう一人は事件の担当検察官です。
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