長時間労働について労基署が調査・確認する事項を教えて下さい。

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者


経営者のイメージイラスト従業員に長時間労働をさせた場合に、労基署が調査・確認する事項はどのようなものでしょうか?

 

Answer

弁護士西村裕一イラスト法定労働時間を超えて就労させるための36協定を締結し労基署に届けている、就業規則等で時間外労働の定めがあり労働契約の内容となっているか、時間外労働の上限を超えていないか、割増賃金は適切に支払われているか等の事項が主に確認される事項です。

労働時間の規制

法定労働時間

労働基準法において、労働時間は、1週間で40時間を超えてはならず、1週間の各日については、1日8時間を超えてはいけません(労基法32条)。これは、労働時間に関する規制の大原則です。

したがって、仮に就業規則に、始業午前8時~終業午後6時、休憩午前12時~午後1時との1日9時間の所定労働時間を規定していたとしても、最後の1時間の部分は無効となります。

 

36協定について

原則として、法定労働時間を超えて労働者を働かせることはできませんが、いわゆる36協定を締結していれば、法定労働時間を超えて労働者を働かせることができます

36協定は、事業場の労働者の過半数を組織する労働組合があれば、当該労働組合と協定し、労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する者と締結することになります。

ただし、36協定を締結しただけでは、労働者を法定労働時間を超えて働かせることはできません。所在地を管轄する労働基準監督署長に届出をした上で、就業規則に規定を設けるなどして、労働契約上の根拠が必要となります。

また、休日労働をさせる場合においても、同様に労使間で協定を締結する必要があります。

法定時間を超えて就労させる要件は、以下のとおりです。

①事業場の過半数の労働者が加入する労働組合あるいは事業場の過半数を代表する労働者と36協定を締結

②所在地を管轄する労働基準監督署に届出

③労働協約や就業規則による契約上の根拠があること

上記の条件を満たすことで、法定労働時間を超えて労働者に就労させることができますが、無制限に労働時間を延長できるわけではなく下表のとおり制限があります。

 

時間外労働の限度時間

期間 時間外労働の上限時間
1週間 15時間
2週間 27時間
4週間 43時間
1カ月 45時間
2カ月 81時間
3カ月 120時間
1年 360時間

 

 

割増賃金の支払

割増賃金が発生するケース

労働者を法定労働時間を超えて働かせた場合や休日に労働させた場合、もしくは午後10時~午前5時までの間に就労させた場合には、その時間に応じて割増賃金を支払わなければなりません(労基法37条)。

 

割増賃金の計算方法について

割増賃金は、①1時間あたりの賃金を算出して、②割増率に応じて金額を加算し、割増賃金の対象となる時間を乗じることで算出されます。

①1時間あたりの賃金額の算出

月給制においては、基本給に各種手当を加算した賃金額(通常賃金)を月における所定労働時間数で除することで算出します。

通常賃金に加算される手当は、下記の手当以外の全ての手当が加算されることになります。

①家族手当

②通勤手当

③別居手当

④子女教育手当

⑤住宅手当

⑥臨時に支払われた賃金

⑦1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

 

②割増率について

割増率に関しては、下表のとおり労働基準法に定められています。

時間外労働 1時間あたりの賃金✕1.25以上

※但し、60時間以上を超える時間外労働については50%以上を加算しなければならない(適用除外の中小企業は除く)。

深夜労働 1時間あたりの賃金✕1.25以上
休日労働 1時間あたりの賃金✕1.35以上

条件が重なった場合には、その分の割増率も加算されることになります。

すなわち、時間外労働が深夜(午後10時~午前5時)に及んだ場合には、50%以上の加算をしなければならず、休日労働が深夜に及んだ場合には、60%以上を加算しなければなりません。

 

 

違反事例

長時間労働を原因として、労働基準監督署から是正勧告や指導を受けた例を紹介します。

情報処理事業者の事例

≪事例の概要≫

パソコン心臓・脳疾患を発症した労働者について、36協定で定める上限時間(特別条項:月80時間)を超えて、発症前の直近6か月平均で月92時間の時間外労働を行わせていた。

この労働者以外の労働者についても、21名の労働者に対し、36協定で定める上限時間を上回る月100時間を超える違法な時間外労働を行わせていた。最も時間外労働が長い労働者で月約200時間となっていた事案。

≪労働基準監督署の対応≫

・労働基準法第32条(労働時間)違反を是正勧告

・36協定の不適切な運用について原因を分析し、適切な運用を図るための具体的な再発防止対策を検討するよう指導

 

製造業者の事例

≪事案の概要≫

製造工場イメージ労働基準監督官による監督指導において、36協定で定める上限時間(特別条項:月120時間)以内に抑えるため、労働時間を管理する一部の役職者がタイムカードを不正打刻(具体的には、月120時間を超える可能性がある労働者のタイムカードを上司が回収し、定時で打刻)し、月120時間を超える違法な時間外労働を11名の労働者に行わせ、かつ、過少に打刻された分の割増賃金を支払っていない事実が認められた事案。

≪労働基準監督署の対応≫

・労働基準法第32条(労働時間)違反を是正勧告

・36協定の不適切な運用について原因を分析し、適切な運用を図るための具体的な再発防止対策を検討するよう指導

・月80時間以内への削減について専用指導文書により指導

・タイムカードの不正打刻についてその原因を分析し、具体的な再発防止対策を講ずるよう指導

・労働基準法第37条(割増賃金)違反を是正勧告

・労基署の指導内容や違法な長時間労働の実態を本社の経営トップに報告して、全社的な改善を図るよう指導

 

引越業者の事案

≪事案の概要≫

引越業者自動車運転者4名について、36協定で定める上限時間(月125時間)を超えて、違法な時間外労働(最も長い労働者で月約160時間)を行わせるとともに、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)を超えて労働を行わせた事案。

≪労働基準監督署の対応≫

・労働基準法第32条(労働時間)違反を是正勧告

・改善基準告示第4条
((ⅰ)1箇月の総拘束時間が320時間を超えていること、(ⅱ)1日の最大拘束時間が16時間を超えていること、(ⅲ)勤務終了後、継続8時間以上の休息時間を与えていないこと)違反を是正勧告

・36協定の不適切な運用について原因を分析し、適切な運用を図るための具体的な再発防止対策を検討するよう指導

・月80時間以内への削減について専用指導文書により指導

・過重労働による健康障害防止措置について専用指導文書により指導

 

 

労働基準監督署の関わり

解説する弁護士のイメージイラスト36協定を締結せずに法定労働時間を超えて労働者を就業させることや、適切な割増賃金を支払わなかった場合には、罰則が設けられています(労基法119条1号)。

また、近年では、長時間労働により精神疾患に罹患する労働者が増加しており、最悪自殺に至るケースもあり、企業が長時間にわたり労働を強いることについて社会的批判が高まっているところです。

したがって、労基署としても、違法な長時間労働には厳しい姿勢で臨んでおり、上記の例のように是正勧告を出し、是正勧告にも応じない悪質な例に関しては送検手続も辞さない態度で企業の長時間労働の是正を図ろうとしています。

企業としては、労基署からの指導が入った場合には、真摯に受け止め、できうる限りの是正をして、誠実に労基署に対応をしなければなりません。

是正勧告などが出され、労基署への対応が分からないという経営者の方は、専門の弁護士に相談することをお勧めします。

弊所では企業側の労働問題を数多く扱っている弁護士がご相談に対応いたしますので、ご安心してご相談ください。

 

 

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