管理監督者とは【弁護士が解説】

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家


質問 社長名ばかり管理職として、労働基準監督署から勧告の対象となるのはどのようなケースですか?

 

管理監督者とは、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」のことをいいます。

実際に管理監督者に該当するケースは少ないため、未払い残業代を請求されると支払い義務が認められるリスクがあります。

 

 

管理監督者とは

管理監督者に関する規定

会社のイメージ画像労働基準法は41条で、労働時間、休憩、休日の規制が適用されない者として、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」を挙げています(同条2号)。

この、事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者のことを管理監督者といいます。

管理監督者が労働時間や休憩、休日の規制対象から除外されている趣旨ですが、このような地位にある者は、事業主に代わって労務管理を行う立場であり、一般労働者の労働条件を決定し、当該条件に従って労働者を管理する以上、監督者の労働時間については、監督者自身に裁量が認められ、また、それに見合った報酬も得られるので、労働時間規制を及ぼすのは不適当であると考えられたとされています(菅野474頁)。

ただし、注意が必要なのは、深夜労働については、労働基準法41条では適用除外になっていないことです。

したがって、管理監督者に当たる者が深夜労働を行った場合には、深夜の部分については割増賃金を支払わなければなりません。

その意味では、管理監督者だから労働時間管理を一切しなくてよいというのは誤った考えであり、使用者としては、最低限の就労状況を把握しておかなければなりません。

管理監督者に対する通達

管理職イメージ具体的にどのようなケースで管理監督者としての取扱いが認められるかについては、行政解釈として、通達が出されています。

すなわち、「監督若しくは管理の地位にある者」とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意味であり、名称にとらわれずに、実態に即して判断すべきものであるとされています(昭和22年9月13日基発17号、昭和63年3月14日基発150号)。

管理監督者の解釈例規(昭和63年3月14日基発150号)

(1)原則

法に規定する労働時間、休憩、休日等の労働条件は、最低基準を定めたものであるから、この規制の枠を超えて労働させる場合には、法所定の割増賃金を支払うべきことは、すべての労働者に共通する基本原則であり、企業が人事管理上あるいは営業政策上の必要性等から任命する職制上の役付者であれば全てが管理監督者として例外的取扱いが認められる者ではないこと。

(2)適用除外の趣旨

これらの職制上の役付者のうち、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理監督者として法第41条による適用の除外が認められる趣旨であること。

従って、その範囲はその限りに、限定しなければならないものであること。

(3)実態に基づく判断

一般に企業においては、職務の内容と権限等に応じた地位(以下、「職位」という。)と経験、能力等に基づく格付(以下、「資格」という。)とによって人事管理が行われている場合があるが、管理監督者の範囲を決めるに当たっては、かかる資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があること。

(4)待遇に対する留意

管理監督者であるかの判定に当たっては、上記のほか、賃金等の待遇面についても無視し得ないものであること。

この場合、定期給与である基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般従業員に比し優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要があること。

なお、一般労働者に比べ優遇措置が講じられているからといって、実態のない役付者が管理監督者に含まれるものではないこと。

(5)スタッフ職の取扱い

法制定当時には、あまり見られていなかったいわゆるスタッフ職が、本社の企画、調査等の部門に多く配置されており、これらスタッフの企業内における処遇の程度によっては、管理監督者と同様に取扱い、法の規制外においても、これらの者の地位からして特に労働者の保護に欠けるおそれがないと考えられ、かつ、法が監督者のほかに、管理者も含めていることに着目して、一定の範囲のものについては、同法第41条第2号該当者に含めて取扱うことが妥当であると考えられること。

 

管理監督者に対する裁判例

前述の通達を踏まえて、裁判において、管理監督者に該当するかどうかが具体的に争われた事例が複数あります。

【判例】育英舎事件(札幌地判平成14年4月18日労判839号58頁)

(事案の概要)

塾イメージ学習塾の営業課長として勤務していた労働者が未払賃金を請求した事案。学習塾側が管理監督者として取り扱っていたと主張。

(判旨)

札幌地裁は、管理監督者の判断基準について、以下のように述べた。

「管理監督者に当たるかどうかを判断するに当たっては、その従業員が、雇用主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められているかどうか、自己の出退勤を始めとする労働時間について一般の従業員と同程度の規制管理を受けているかどうか、賃金体系を中心とした処遇が、一般の従業員と比較して、その地位と職責にふさわしい厚遇といえるかどうかなどの具体的な勤務実態に即して判断すべきものである。」

その上で、
①学習塾の意思決定が基本的に社長にあり、社長の決済が必要となっていること、
②当該労働者がタイムカードの打刻を余儀なくされていたこと、
③原告の給与が営業課長以前とそれほど変わりがなく、他の事務職員でも同じような賞与を受け取っていることを認定して、管理監督者には当たらないと判断した。

ここ10年ほどの間では、以下の日本マクドナルド事件(東京地判平成20年1月28日労判953号10頁)のような、全国的に多店舗展開を営む飲食業の店長といった労働者が管理監督者に該当するかが問題になるケースが増えています。

こうした状況を受けて、平成20年9月には、「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」という通達も出されています(平成20年9月9日基発0909001号)。

【判例】日本マクドナルド事件(東京地判平成20年1月28日労判953号10頁)

(事案の概要)

マクドナルドイメージ全国でハンバーガーショップを経営する会社で店舗の店長として、当該店舗に勤めるアルバイト従業員の採用や時給、勤務シフト等の決定をはじめとする労務管理や店舗管理を行っていた労働者が管理監督者として争われた事案。

(判旨)

東京地裁は、店長の労務管理につき、以下のように評価している。

「店長は、アルバイト従業員であるクルーを採用して、その時給額を決定したり、スウィングマネージャーへの昇格を決定する権限や、クルーやスウィングマネージャーの人事考課を行い、その昇給を決定する権限を有しているが、将来、アシスタントマネージャーや店長に昇格していく社員を採用する権限はない」上、「アシスタントマネージャーに対する一次評価者として、その人事考課に関与するものの、その最終的な決定までには、OCによる二次評価のほか、上記の三者面談や評価会議が予定されているのであるから、店長は、被告における労務管理の一端を担っていることは否定できないものの、労務管理に関し、経営者と一体的立場にあったとはいい難い。」

また、店長に与えられた権限については、以下のように判断して、最終的に管理監督者には当たらないと結論づけている。

「店長は、店舗の運営に関しては、被告を代表して、店舗従業員の代表者との間で時間外労働等に関する協定を締結するなどの権限を有するほか、店舗従業員の勤務シフトの決定や、努力目標として位置づけられる次年度の損益計画の作成、販売促進活動の実施等について一定の裁量を有し、また、店舗の支出についても一定の事項に関する決裁権限を有している。

しかしながら、本社がブランドイメージを構築するために打ち出した店舗の営業時間の設定には、事実上、これに従うことが余儀なくされるし、全国展開する飲食店という性質上、店舗で独自のメニューを開発したり、原材料の仕入れ先を自由に選定したり、商品の価格を設定するということは予定されて」おらず、「店長会議や店長コンベンションなど被告で開催される各種会議に参加しているが、これらは、被告から企業全体の営業方針、営業戦略、人事等に関する情報提供が行われるほかは、店舗運営に関する意見交換が行われるというものであって、その場で被告の企業全体としての経営方針等の決定に店長が関与するというものではな」く、経営者と一体となる権限が与えられているとはいえない。

近年の裁判所の判断基準については、
①職務内容が少なくともある部門全体の統括的な立場にあること、
②部下に対する労務管理上の決定権限につき一定の裁量権を有し、人事考課・機密事項に接していること、
③管理職手当などで時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、
④自己の出退勤を自ら決定する権限があること
を挙げているとされています(菅野475頁、ゲートウェイ21事件(東京地判平成20年9月30日労判977号74頁))。

したがって、企業が管理監督者として取り扱う上では、この基準に従って、対象者をチェックしていく必要があります。

ここまで紹介した裁判例も含めて、管理監督者が争われた裁判例のうち、多くが管理監督者に当たらないとされていますが、医療法人徳洲会事件(大阪地判昭和62年3月31日労判497号65頁)は、管理監督者性が認められた数少ない裁判例として参考になります。

【判例】医療法人徳洲会事件(大阪地判昭和62年3月31日労判497号65頁)

(事案の概要)

病院イメージ病院の看護師の人員募集の職務を行っていた労働者が管理監督者として認められるかが争われた事案。

(判旨)

大阪地裁は、以下のような事実を認定して、管理監督者に当たると結論づけている。

「原告は、被告の給与制度上事務職掌五等級職員として格付けされ、人事第二課長の肩書を有し、給与面でも課長職として処遇されており、その役職に相応する手当として、別表(三)記載のとおり、責任手当が支給されてきたこと、原告の主たる職務内容は、看護婦の募集業務の全般であり、右業務の責任者として、自己の判断で看護婦の求人、募集のための業務計画、出張等の行動計画を立案し、これを実施する権限が与えられ、右業務の遂行にあたっては、必要に応じて原告を補助すべく、被告の本部及び被告経営の各病院の人事関係職員を指揮、命令する権限も与えられていたこと、従って、原告は、勤務日(出張を除く。)の各出退時刻についてタイムカードを刻印するように義務づけられていたけれども、これは給与計算上の便宜にすぎず、出勤日における実際の労働時間は、原告の責任と判断により、その自由裁量によりこれを決定することができたこと、そして、原告の担当する職務の特殊性から、夜間、休日等の時間外労働の発生が見込まれたため、包括的な時間外(深夜労働を含む。)手当として、実際の時間外労働の有無、長短にかかわりなく、別表(三)記載のとおり、特別調整手当が支給されてきたこと、原告は、看護婦募集業務の遂行にあたり、一般の看護婦については、自己の調査、判断によりその採否を決定し、採用を決定した看護婦については、自己の裁量と判断により、被告が経営する各地の病院にその配置を決定する人事上の権限まで与えられ、婦長クラスの看護婦についても、その採否、配置等の人事上の最終的な決定は、被告の徳田理事長に委ねられていたものの、その決定手続に意見を具申する等深く関わってきた」。

医療法人徳洲会事件の事案は他の事案と違い、看護婦の採用計画から、実際に採用活動に至るアプローチ、募集者の面接、採否の決定に至るまでがこの労働者に委ねられており、出退勤の自由がかなりあったという点が管理監督者としての取扱いを認める方向に働いたといえます。

 

 

管理監督者の労働基準監督署の調査の特徴

弁護士宮﨑晃画像先ほど紹介した飲食店や小売店の店長の取扱いに関する通達が出されているように、管理監督者の該当性については、労働基準監督署としても、近年違反に対する調査に力を入れている分野といえます。

しかしながら、他方で、管理監督者の解釈基準が抽象的であり、具体的な適用については、形式的、画一的な判断ができないという特徴もあります。

したがって、従業員のほとんどすべての者を管理監督者として取り扱い、時間外労働に対する賃金を一切支払っていないといった、明らかに管理監督者に該当しない悪質なケースのみが送検の対象になってくると考えられます。

それ以外の、裁判で争われるような判断が難しいケースについては、単なる指導や改善勧告に止まる場合が多いでしょう。

もちろん、再三にわたる改善要求に全く応じないといった場合には、悪質と判断されて送検されるリスクはありますので、調査が入った場合には注意が必要です。

管理監督者について、ご不明な点やお困りのことがある企業の方はお気軽に専門家である弁護士にご相談ください。

 

 

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