労基署はどのような場合に最低賃金に関する違反を指摘しますか?
労基署から最低賃金に関する違反を指摘されるのは、どのような場合ですか?
例えば、外国人労働者と地域別最低賃金を下回る金額で労働契約を締結し、当該金額しか支払っていない場合がこれに該当する可能性があります。
最低賃金制度
労働基準法第28条
労働基準法第28条は、「賃金の最低基準に関しては、最低賃金法(昭和34年法律第137号)の定めるところによる。」と規定し、最低賃金についての規律は最低賃金法によるところになります。
最低賃金法、労働者の生活の安定や労働力の質を向上させること等に必要不可欠のものと考えられますが、実際にはこれに関する違反が多いのが現状です。例えば、外国人労働者(外国人技能実習生等)に対する最低賃金法違反により、労基署が監督指導した例が多数あります。
地域別最低賃金と特定最低賃金
最低賃金(時間額)は各都道府県ごとに、①地域別最低賃金と、②特定(産業別)最低賃金とが設けられています(時間額)。
地域別最低賃金
地域別最低賃金とは、一定の地域ごとの最低賃金をいい(最賃法第9条第1項)、地域における労働者の生計費、賃金、通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならないことになっています(同条第2項)。
なお、平成28年度地域別最低賃金改定状況(時間額)は、下図のとおりです。
北海道 | 786 | 滋賀 | 788 |
青森 | 716 | 京都 | 831 |
岩手 | 716 | 大阪 | 883 |
宮城 | 748 | 兵庫 | 819 |
秋田 | 716 | 奈良 | 762 |
山形 | 717 | 和歌山 | 753 |
福島 | 726 | 鳥取 | 715 |
茨城 | 771 | 島根 | 718 |
栃木 | 775 | 岡山 | 757 |
群馬 | 759 | 広島 | 793 |
埼玉 | 845 | 山口 | 753 |
千葉 | 842 | 徳島 | 716 |
東京 | 932 | 香川 | 742 |
神奈川 | 930 | 愛媛 | 717 |
新潟 | 753 | 高知 | 715 |
富山 | 770 | 福岡 | 765 |
石川 | 757 | 佐賀 | 715 |
福井 | 754 | 長崎 | 715 |
山梨 | 759 | 熊本 | 715 |
長野 | 770 | 大分 | 715 |
岐阜 | 776 | 宮崎 | 714 |
静岡 | 807 | 鹿児島 | 715 |
愛知 | 845 | 沖縄 | 714 |
三重 | 795 | 全国加重平均額 | 823 |
※単位:円
※平成28年10月発効
特定(産業別)最低賃金
特定最低賃金とは、特定地域内の特定の産業のうち、基幹労働者と使用者に適用される最低賃金をいいます。基幹労働者が適用対象となるため、例えば、18歳未満または65歳以上の労働者、雇入れ後一定期間未満の技能習得中の労働者には適用されません。
特定最低賃金が設定されるのは、例えば、製造業、出版業等です。
最低賃金法第15条第1項は、
「労働者又は使用者の全部又は一部を代表する者は、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣又は都道府県労働局長に対し、当該労働者若しくは使用者に適用される一定の事業若しくは職業に係る最低賃金(以下「特定最低賃金」という。)の決定又は当該労働者若しくは使用者に現に適用されている特定最低賃金の改正若しくは廃止の決定をするよう申し出ることができる。」
と規定しており、関係労使の申出後、最低賃金審議会の調査審議を経て設定されます。
両者の関係
最低賃金について上記2種類のものがあるため、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の両方が存在することもあります。
こうした場合、使用者はより高いほうの最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。まとめると下図のとおりとなります。
最低賃金の減額特例
上記最低賃金については、最低賃金法第7条に減額特例制度が規定されています。
すなわち、
① 精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者
② 試の使用期間中の者
③ 基礎的な技能及び知識を習得させるための認定職業訓練を受ける者
④ 軽易な業務に従事するもの
⑤ 断続的労働に従事する者
については、使用者が、所管労働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に申請し、その許可を受けたときは、その者について減額された最低賃金が適用されます。
その結果、減額特例対象の労働者については、その減額賃金を支払うことで足ります。
最低賃金の減額の特例許可申請書については、厚生労働省のホームページから取得することが可能です。
最低賃金法違反の効力
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならず(最賃法第4条第1項)、最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で、最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効となります(同条第2項)。
この場合、当該無効部分については、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます(同条第2項)。
また、使用者が地域別最低賃金の定めに違反した場合、50万円以下の罰金に処せられます(最賃法第40条)。
最低賃金違反に関する労基署の対応
労基署は最低賃金違反について、重点的に監督指導しており、平成29年度の「地方労働行政運営方針」にも、最低賃金額の周知徹底が盛り込まれています。
最低賃金額以上かどうかの確認方法
定められた賃金額を期間あたりの(平均)所定労働時間で除した金額に換算して、当該賃金が最低賃金額以上かどうかを確認します(最賃則第2条第1項)。
具体的には、日給制、週給制、月給制について下図の方法で計算されます。
なお、時間給制の場合は、当該時間給が最低賃金額(時間額)以上かどうかにより確認します。
最低賃金の確認方法
① 日給制
日給 ÷ 1日の所定労働時間数
※日によって所定労働時間数が異なる場合は、1週間における1日の平均所定労働時間数で割る。
② 週給制
週給 ÷ 週における所定労働時間数
※週によって所定労働時間が異なる場合は、4週間における1週の平均所定労働時間数で割る。
③ 月給制
月給 ÷ 月における所定労働時間数
※月によって所定労働時間数が異なる場合は、1年間における1か月の平均所定労働時間数で割る。
最低賃金に関する留意点
最低賃金に関して、その他、以下の各点に注意が必要です。
地域別最低賃金の対象者
地域別最低賃金は、当該都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます。そのため、パートタイマー、アルバイト、派遣労働者、日雇い労働者、外国人労働者等、雇用形態や国籍を問いません。
そのため、外国人労働者と地域別最低賃金を下回る金額で労働契約を締結し、当該金額しか支払っていない場合、最低賃金法に違反する可能性があります。
最低賃金制度の適用単位
最低賃金制度は、企業単位ではなく、事業単位で適用されます。そして、事業とは、工場、鉱山、事務所、店舗等の如く、一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいうと解されています(昭和22年9月13日 発基第17号)。
また、1つの事業であるか否かは主として場所的概念によって決定すべきもので、同一場所にあるものは原則として1個の事業とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業とすると解されています。
労基署との関係
使用者が労働者に対して、きちんと最低賃金を支払っているかどうかを監督するのは、労働基準監督署長および労働基準監督官です(最賃法第31条)。
労働基準監督官は、使用者の事業場への立入り、帳簿書類その他の物件を検査し、又は関係者に質問することができます(同法第32条第1項)。
また、労働基準監督官は、最低賃金法違反について、司法警察員の職務を行います(最賃法第33条)。
最低賃金等の賃金問題について、現在トラブルになっている場合は労働問題に精通した弁護士によるサポートが必要です。
当事務所では労基署への対応もしておりますので、お悩みの方は是非ご相談ください。