歩合給を支給していますが残業代を支払う必要がありますか?
当社ではタクシー運転手に対して、時間外及び深夜の割増賃金を含むものとして歩合給を支給しています。このような場合でも、残業代を支払う必要がありますか?
当該歩合給において、通常の労働時間の賃金部分と割増賃金相当部分とが明確に区分されていない場合、割増賃金を支払う必要があります。
歩合給の場合
タクシー運転手など、歩合給や出来高払いの雇用形態についても、割増賃金の規制は及びます(労基則19条1項6号)。
したがって、使用者は、労働者に対して、時間外及び深夜の割増賃金を含むものとして歩合給を支給していたとしても、当該歩合給が通常の労働時間の賃金部分と割増賃金相当部分とが明確に区分されていない場合は、割増賃金を支払う必要があります。
参考裁判例
歩合給のリーディングケースとして、高知県観光事件(最二判平成6年6月13日労判653号12頁)を紹介します。
タクシー運転手である原告らの勤務体制が、隔日勤務であり、所定労働時間が午前8時から翌日午前2時まで(このうち2時間が休憩時間)でした。
原告らの賃金は、月間水揚高に一定率の歩合を乗じて得た金額を翌月5日に支払うというものであり、歩合の率は、勤務歴によって異なりますが、最高で46パーセント、最低でも42パーセントでした。
原告らが時間外又は深夜の労働を行った場合にも、割増賃金は支給されていなかったため、原告らが割増賃金等の支払を請求しました。
これに対し、会社側は、歩合給の率が他のタクシー会社の割増賃金を含めての歩合給の率と比較して遜色がなく、本件歩合給には時間外及び深夜の割増賃金に当たる分も含まれているから、原告らの請求する割増賃金は既に支払済みであると反論しました。
裁判所は、運転手らに支給された歩合給の額が、運転手らが時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものではなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったことからして、この歩合給の支給によって、運転手らに対して労働基準法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきであるとして、割増賃金の支払い義務を認めました。
このように、裁判例は、歩合給の場合についても、明確区分性の要件を満たしていなければ、有効な固定残業代とは認めていません。
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