労働条件の明示とは?【弁護士が徹底解説】

執筆者
弁護士 鈴木啓太

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士


質問 社員従業員を雇用する場合、どのようなことを明示しなければなりませんか?また、明示義務に違反した場合はどうなりますか?

Answer

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を書面などで明示しなければなりません。これらを明示しない場合、罰則の対象となります。

 

労働条件の明示義務

明示事項

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければなりません(労基法15条1項)。

明示しなければならない事項は以下のとおりです。

  1. 1 労働契約の期間に関する事項
  2. 2 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
  3. 3 就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
  4. 4 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
  5. 5 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  6. 6 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
  7. 7 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
  8. 8 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
  9. 9 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  10. 10 安全及び衛生に関する事項
  11. 11 職業訓練に関する事項
  12. 12 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  13. 13 表彰及び制裁に関する事項
  14. 14 休職に関する事項

上記の7〜14については、会社が定めを置かない場合には明示する必要はありません。

「3 就業の場所及び従業すべき業務に関する事項」に関しては、法改正により、2024年4月1日以降、就業の場所と業務内容の変更の範囲についても明示する必要があります。

有期の雇用契約の場合には、以下の事項も明示する必要があります。

  1. ① 昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無に関する事項
  2. ② 雇用管理の改善などの相談窓口に関する事項
  3. ③ 更新上限の有無と内容に関する事項
  4. ④ 無期転換申込機会、無期転換後の労働条件に関する事項

③と④は、法改正により、2024年4月1日以降、明示が必要となった事項です。

④に関しては、無期転換申込権が発生する契約更新時と、無期転換申込権の行使による無期労働契約の成立時に明示することになります。

 

 

有期労働契約を更新する場合の基準

有期労働契約に関しては、使用者と労働者との紛争を未然に防止するために、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を厚生労働大臣が定めることができる旨規定しています(同法14条2項)。

そして、これを受け、通達により、雇止めに関する基準が定められています(平成15年10月22日基発第1022001号)。

解説する弁護士のイメージイラストこれに従えば、例えば、「更新の有無」については、①自動的に更新する②更新する場合があり得る③契約の更新はしない、等を明示することが考えられます。

また、「判断の基準」については、①契約期間満了時の業務量により判断する②労働者の勤務成績・態度により判断する③労働者の能力により判断する④会社の経営状況により判断する⑤従事している業務の進捗状況により判断する、等を明示することが考えられます。

 

明示方法について

上記のとおり、法律上は、すべての労働条件について、書面明示は義務付けられていません。

しかし、トラブル防止の観点からは、できるだけ書面で明示しておくべきです。すなわち、労働問題をめぐる紛争は、労働契約の内容が不明確なことが原因となって起こることがあります。

例えば、昇給に関して、使用者側は定期昇給を約束していないのに、労働者側は定期昇給があると思いこんでいる場合です。このような場合、「言った言わない」の状況になることがあります。

このような事態を防止するために、労働条件は可能な限り書面化して、明示すべきです。

雇用契約書また、法律上、労働条件は、使用者から一方的に通知することのみを要求していますが、トラブル防止の観点からは、雇用契約書にしておいた方が望ましいと考えます。

すなわち、使用者、労働者の双方が契約内容について、署名押印を行う方法です。雇用契約書は使用者と労働者との合意内容を証明するものですので、労働条件に関するトラブルの未然防止に資する効果があります。

雇用契約書の書式は、こちらからどうぞ。

 

 

労働条件をメールなどで明示できる?

従来、労働条件の明示は、書面の交付に限定されていました。しかし、時代はデジタルシフト化しています。

ペーパーレス化に対応するため、労基法規則が改正され、2019年4月1日からメール、FAX、SNS等で明示できるようになりました。

ただし、メール等で明示する場合は、以下の要件が必要となります。

 

メール等で明示する場合の要件

労働者の希望があること
メール等での労働条件の明示は、労働者が希望した場合のみ許容されます。

 

出力して書面を作成できること
メール等の記録をプリントアウトできることが必要です。
なお、労働者の個人的な事情(例えば、プリンターを持っていない)ではなく、一般的に出力可能な状況であれば、この要件を満たすと考えられます。

【労働基準法施行規則第5条4項】

法第15条第1項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。

ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。

  • 一 ファクシミリを利用してする送信の方法
  • 二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

 

メール等で明示する場合のポイント

社員のイメージイラスト

添付ファイルで送信する

メール等で労働条件を明示する場合、メールの本文に労働条件を記載する方法も考えられます。

しかし、その場合、保存やプリントアウトがしにくいという問題があります。

したがって、メール本文ではなく、PDFなどの添付ファイルで送信した方がよいでしょう。

また、ショートメールは、添付ファイルで送信できないため、通常のメール(Gmail、Yahoo!メール)などがよいと思われます。

SNSはプライバシーに配慮

SNSの場合、LINE等の利用が考えられます。

労働者個人のブログやFacebook等で第三者が閲覧できる状態のページに書き込む場合、当該労働者のプライバシーを侵害する可能性があります。

また、労働条件の明示とはいえない可能性があるため、このような書き込みはすべきではありません。

 

返信等で確認する

メール等の場合、労働者が受信の制限をかけているとメールが届かない可能性があります。

また、受信制限をかけていなくても、迷惑メールに振り分けられている可能性もあります。

したがって、メールが届いたか、返信を促すなどして確認した方がよいでしょう。

 

労働者の希望の有無を記録に残す

チェック表上述したとおり、メール等での労働条件の明示は、労働者自身の希望が要件となっています。

希望については、法律上、口頭でも良いのですが、口頭だけだと、後から「言った言わない」のトラブルになる可能性もあります。

そのため、メール等の明示の希望について、記録に残る形にした方がよいでしょう。

例えば、労働条件の明示を希望する労働者は、その旨を人事担当者にメール等で送信してもらい、それに返信する形で労働条件を添付ファイルで送信する、などの方法です。

 

 

シフト勤務の場合の労働時間の明示はどうする?

シフト勤務の場合は、可能な限り、具体的に明示すべきです。

もっとも、シフト勤務が複雑など、明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合、労働者の利便性も考慮し、勤務の種類ごとの始業および終業の時刻、休日等に関する考え方を示した上、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項等を網羅的に示すことで足りると考えられます(平成11年1月29日基発第45号)。

 

 

まとめ

以上、労働条件の明示方法について、詳しく説明しましたがいかがだったでしょうか?

雇用契約書の具体的な記載事項は、ケース・バイ・ケースですので、上記は参考程度にとどめ、詳しくは労働問題に詳しい弁護士へご相談ください。

当事務所の労働弁護士は、使用者側専門であり、企業の人事労務戦略をサポートしています。

まずはお気軽にご相談ください。

 

 

 


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