労働条件通知書の書き方|テンプレート付きで弁護士が詳しく解説!
この記事では、労働条件通知書の書き方について、テンプレート付きで解説します。
労働条件通知書は、従業員に対して労働条件を明示するための書面であり、記載に不備があると法令違反の問題が生じ得るほか、労働条件をめぐって従業員とトラブルになるおそれもあります。
労働条件通知書の作成をご検討されているようでしたら、この記事を参考に、適切なものを作成するよう心がけていただければと思います。
労働条件通知書とは?
労働条件通知書とは、会社から従業員に対して、賃金や勤務時間といった労働条件を明示するために交付される書面のことです。
労働基準法では、会社は従業員に対して所定の労働条件を書面で明示するものとされており、「労働条件の明示義務」と呼ばれます。
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
②・③ (略)
労働条件通知書は、この明示義務を果たすとともに、従業員との間で労働条件をめぐった紛争が生じることを事前に予防する意味も含めて作成されるものです。
労働条件通知書のテンプレート
労働条件通知書の記入例
労働条件通知書を作成する際には、明示が義務付けられている項目を網羅することや、後日解釈をめぐって疑義が生じないように明確な記載を心がけるといったことが重要となってきます。
労働条件通知書では、正社員やアルバイトといった従業員の雇用形態によって書きぶりが異なってきますので、ここでは従業員の雇用形態別にひな型をお示ししながら、それぞれの記入例をご紹介します。
正社員の記入例
▼クリックすると拡大できます。
正社員の場合、雇用契約の期間を定めないのが一般的です。
そのため、契約期間は期間の定めなしとした上、試用期間があればこれを記載します。
就業の場所は、雇用する従業員が主として勤務する場所を記載します。
会社に就業するにあたり、就業場所の予測可能性を高めるため、雇い入れ直後の就業場所に加えて、変更の範囲についても明示する必要があります(労働基準法施行規則5条1項1号の3)。
たとえば、就業場所の変更の有無に応じて、次のように記載します。
- 就業場所の変更があり得るケース
雇入れ直後:東京本社
変更の範囲:甲の定める全ての営業所 - 就業場所の変更がないケース
雇入れ直後:大阪支社
変更の範囲:変更しない
従事すべき業務の内容の欄は、従業員が従事する業務の内容を記載します。
業務の内容も就業の場所と同じく、雇い入れ直後だけでなく変更の範囲も記載する必要がありますので、業務内容の変更の有無によって書き方が変わります。
- 従事する業務の内容に変更があるケース
雇入れ直後:経理業務
変更の範囲:甲が指定する全ての業務 - 従事する業務の内容に変更がないケース
雇入れ直後:営業
変更の範囲:変更しない
労働時間に関する事項は明示義務の対象ですので、労働条件通知書に記載します。
就業時間については変形労働時間制などのケースもあるため、従業員の実情に応じて記載する必要があります。
従業員に適用される就業時間のルールによって、(1)~(5)のいずれかに〇をします。
それぞれの意味合いと記載例は、次のとおりです。
記入の参考としていただけるよう、(1)から(5)までのすべての記載例をご紹介しますが、実際は労働条件を通知する従業員の勤務形態に応じた箇所を記入してください。
始業時刻と終業時刻が毎日一定の場合に選択します。
始業(9時00分) 終業(18時00分)
変形時間労働制とは、1ヶ月、1年、1週間といった一定の期間内で、法定労働時間の変形を認める制度であり、業務の時期的な偏りがある場合などに利用されます。
たとえば、1年単位とする場合には次のような記載となります。
変形労働時間制等:(1年)単位の変形労働時間制・交替制として、次の勤務時間の組み合わせによる。
- 始業(8時30分)終業(17時30分)(適用日 会社カレンダーで指定する日)
- 始業(9時00分) 終業(19時00分)(適用日 会社カレンダーで指定する日)
- 始業( 時 分)終業( 時 分)(適用日 )
変形労働時間制のポイントについては、こちらの記事をご覧ください。
フレックスタイム制とは、1ヶ月などの単位期間の中で総労働時間を定めておき、各労働日の労働時間は従業員の判断に委ねるという制度です(労働基準法32条の3)。
フレックスタイム制度では一般的に、コアタイムとフレキシブルタイムが定められ、コアタイムは必ず勤務する必要がありますが、それ以外のフレキシブルタイムについては、トータルの労働時間が不足しない限りは自由に出退勤することができます。
(ただし、フレキシブルタイム(始業)8時30分から10時30分、
(終業)16時30分から18時30分、コアタイム10時30分から16時30分)
フレックスタイム制のポイントについては、こちらの記事をご覧ください。
事業場外のみなし労働時間制とは、労働者が事業場外で業務に従事した場合で労働時間が算定し難いときに、所定労働時間だけ労働したものとみなす制度です(労働基準法36条の2第1項)。
外回りが中心の営業職など、実労働時間の把握が難しい場合に導入されることがあります。
裁量労働制とは、業務の遂行方法や時間配分を一定の範囲で労働者の裁量に委ね、実際の労働時間と関係なく、あらかじめ定めた労働時間を働いたものとみなす制度のことです。
裁量労働制には、専門業務型裁量労働制(労働基準法38条の3)と企画業務型裁量労働制(労働基準法38条の4)の2種類があります。
詳細は、就業規則第〇条~第〇条
従業員の休憩時間を記入します。
会社の就業規則で定められた就業時間(所定労働時間)以外の労働(いわゆる残業)の有無を記載します。
休日欄には、会社が任意に定めた休日(「所定休日」といいます。)を記入します。
休日の定め方によって、記載の仕方が変わります。
- 休日が定期的な場合
定例日:毎週 土・日曜日、国民の祝日、その他(会社が指定した日) - 休日が不定期の場合
非定例日:〇週・月当たり 2日、その他(勤務シフト表により会社が指定する日)
休暇は、年次有給休暇等の法定休暇や、会社が定めた特別の休暇(夏季休暇、年末年始休暇、慶弔休暇)について記載します。
休暇の種類が多数であるときは、概要の記載にとどめて就業規則の該当箇所を示すことでもかまいません。
- ① 年次有給休暇 6か月継続勤務した場合→10日
継続勤務6か月以内の年次有給休暇 (有・〇無)
時間単位年休 (〇有・無) - ② 代替休暇(有・〇無)
- ③ その他の休暇 有給 (リフレッシュ休暇・ボランティア休暇等)
無給 (病気休暇・裁判員休暇等)
詳細は、就業規則第〇条~第〇条
賃金欄では、基本給や各種手当ての金額や計算方法のほか、支給日などの支給条件を記載します。
イ(通勤手当 月額30,000円まで/計算方法:距離に応じて支給)
ロ(職務手当 月額50,000円まで/計算方法:職務遂行能力に応じて支給)
イ 所定時間外、法定超 月60時間以内( 25 )% 月60時間超 ( 50 )% 所定超 ( 0 )%
ロ 休日 法定休日( 35 )%、法定外休日( 25 )%
ハ 深夜( 25 )%
残業代の割増率について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
賃金締切日は、賃金計算の締切日を記載します。
賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払う必要があります(労働基準法24条2項)。
就業規則等に定めている賃金支払日を記入してください。
賃金は、原則として従業員に全額を支払う必要があります(全額払いの原則)。
ただし、労働組合との協定がある場合は、賃金から一定の項目を控除して支給することができます(労働基準法24条1項ただし書)。
税金や社会保険料などを天引きして賃金を支給している場合には、「有」を選択し、費目を記入します。
控除する費目が多岐にわたるときは、次の例のように就業規則を参照してもかまいません。
労使協定に基づく賃金支払時の控除(無 、〇有(法定費目及び労使協定で定められた費目))
※詳細は、就業規則第◯◯条の定めるところによる
昇級の有無を選択肢し、時期や金額の考え方を記載します。
(時期等)
勤務成績その他が良好な労働者について、毎年◯月◯日をもって行うものとする。
ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は、行わないことがある。
金額等その他の詳細は、就業規則◯◯条~◯◯条に定めるところによる。)
賞与は毎月の給料以外に支給される臨時的な賃金であり、ボーナスや一時金などと呼ばれることもあります。
賞与は、就業規則に基づき夏季賞与と年末賞与の2回支給される会社が比較的多いですが、賞与の制度が存在しない会社もあります。
賞与欄では賞与の有無を選択し、賞与がある場合には支給条件を記載します。
賞与( 〇有(時期、金額等 ) 、 無)
(時期、金額等 )
6月30日、12月10日に支給する。
金額、算定対象期間、算定方法については、就業規則第◯条に定めるところによる。
ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由により、支給時期を延期し、又は支給しないことがある。
退職金も、賞与と同様に会社によって制度の有無が異なりますので、退職金の制度がある場合は、「有」を選択して支給条件を記入します。
退職に関する事項としては、定年制の有無のほか、退職後の再雇用などの諸条件について記載します。
従業員が所定の年齢に達したときに雇用契約を終了する制度を、定年制といいます。
定年制を導入する場合は、定年の年齢は60歳以上でなければならない点に注意してください(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律8条本文)。
参考:高年齢者等の雇用の安定等に関する法律|電子政府の総合窓口
定年後も本人の希望により引き続き雇用を継続する制度を、継続雇用制度といいます。
継続雇用制度を導入するかどうかは任意(ただし、高年齢者雇用安定法に基づいて、65歳までの継続雇用措置を講じる義務があるので注意が必要です。)ですが、仮に導入する場合は、すべての従業員を対象とする必要があります。
労働条件通知書の記載についていえば、「有」のものと「無」のものが混在し従業員によってまちまちになる、ということはありません。
創業支援等措置は、定年退職後の従業員が自営業など起業した場合に、会社がその元従業員と業務委託契約などを締結することで、定年後の創業を支援する制度です。
従業員が自己都合により退職する場合に、退職の何日前までに会社に申し出るべきかを記載します。
1ヶ月以上前と定めている会社もあるようですが、雇用期間の定めのない従業員の場合は、退職の2週間前までに申し出ればよいと法律上定められています(民法627条1項)。
参考:民法|電子政府の総合窓口
2週間を超える定めは無効と判断される可能性があるため、運用方法も含め、注意してください。
どのような場合に解雇になるかの解雇事由や、解雇に伴う手続き(たとえば、弁明の機会が与えられる場合はその旨)を記載します。
なお、就業規則の該当箇所を示すこともできます。
(就業規則に定めるところによる)詳細は、就業規則第〇条~第〇条
その他の欄には、社会保険の加入状況など、その他の労働条件の中でも特に重要なものを記載します。
- 社会保険の加入状況( 〇厚生年金 〇健康保険 厚生年金基金 その他( ))
- 雇用保険の適用( 〇有 、 無 )
- その他( )
※以上の他は当社就業規則による。就業規則を確認できる場所や方法(会社のシステムから閲覧可能)
パート・アルバイトの記入例
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パートタイマーは、法律上は「短時間労働者」といい、フルタイム勤務の従業員と比べて1週間あたりの所定労働時間が短い従業員のことです(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律2条1項)。
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律|電子政府の総合窓口
「パート」や「アルバイト」といった呼称は一般的なものであり、呼び方の如何にかかわらず、上記の定義に当てはまれば、法律上はみな短時間労働者となります。
期間の定めの有無を記載します。
また、期間の定めがある場合は、契約更新の有無についても記載する必要があります(このテンプレートでは、裏面に記載欄があります。)。
契約期間:期間の定めなし、〇期間の定めあり(〇年4月1日~〇年3月31日)
本解説ページの正社員の労働条件通知書の該当部分をご参照ください。
本解説ページの正社員の労働条件通知書の該当部分をご参照ください。
始業9時00分~終業18時00分まで(休憩時間60分) ※2
- 1 所定時間外労働をさせることが[有(1 週 時間、1 ヶ月 時間、1 年 時間)/〇無]
- 2 休日労働をさせることが[有(1 ヶ月 日、1 年 日)/〇無]
本解説ページの正社員の労働条件通知書の該当部分をご参照ください。
- ① 年次有給休暇 6 か月継続勤務した場合→ 10日
継続勤務 6 か月以内の年次有給休暇[有/〇無]→ か月経過で 日
時間単位年休[〇有/無] - ② 代替休暇[有/〇無]
- ③ 育児休業 〇取得可能、一定の要件を満たさなければ取得不可能
- ④ 介護休業 取得可能、〇一定の要件を満たさなければ取得不可能
- ⑤ 子の看護休暇 年5日、介護休暇 年5日
- ⑥ その他の休暇 有給( ) 無給( )
本解説ページの正社員の労働条件通知書の該当部分をご参照ください。
ただし、短時間・有期雇用労働者については、昇級、賞与及び退職金の有無を明示することが義務づけられている点に注意してください(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第6条1項、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則2条1項1号~3号)。
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律|電子政府の総合窓口
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則|電子政府の総合窓口
本解説ページの正社員の労働条件通知書の該当部分をご参照ください。
本解説ページの正社員の労働条件通知書の該当部分をご参照ください。
契約期間を「期間の定めあり」とした場合は、更新の有無、条件、上限について記載します。
- ① 契約の更新の有無[自動的に更新する・〇更新する場合があり得る・契約の更新はしない]
- ② 契約の更新は、次のいずれかにより判断する
・契約期間満了時の業務量 ・労働者の勤務成績、態度 ・労働者の能力
・会社の経営状況 ・従事している業務の進捗状況 - ③ 更新上限の有無(無・〇有(更新2回まで/通算契約期間 年まで))
また、有期雇用の契約期間が通算で5年を超える従業員については、希望により無期雇用に移行する権利(無期転換申込権)を有しますので、その旨を明示します。
本契約期間中に会社に対して期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結の申込みをすることにより、本契約期間の末日の翌日(2025年4月1日)から、無期労働契約での雇用に転換することができる。
この場合の本契約からの労働条件の変更の有無( 無 ・〇有(別紙のとおり) )
※2 ①~④のような制度が適用される場合に記入(①~④のうち該当するもの1つに○を付け、具体的な条件を記載すること)
本解説ページの正社員の労働条件通知書の「始業・終業の時刻、休憩時間、就 業時転換」の記載例をご参照ください。
労働条件通知書のテンプレートについてのQ&A
労働条件通知書は押印不要ですか?
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押印がないからといって、通知書が無効となることはありません。
ただし、記事中でもご紹介したとおり、双方の署名ないし記名押印によって作成される雇用契約書の方が、内容について従業員と合意できていることが明らかになるためおすすめです。
労働条件通知書は誰が作成するのですか?
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ただし、労働条件通知書に不備があると法的な問題に発展することもありますので、自社で作成する際にも、労働問題に詳しい弁護士に相談しながら作成することをおすすめします。
まとめ
この記事では、労働条件通知書のテンプレートについて、記入例や作成上の注意をご紹介しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 労働条件通知書とは、会社から従業員に対して、賃金や勤務時間といった労働条件を明示するために交付される書面のことをいう。
- 会社から従業員に対して通知される労働条件通知書よりも、会社と従業員の双方の合意による雇用契約書を作成することが望ましい。
- 労働条件通知書は、正社員やパートタイマーといった雇用形態に応じて適切に作成する必要があり、労働問題に詳しい弁護士に相談しながら作成することがおすすめである。
当事務所では、労働問題を専門に扱う企業専門のチームがあり、企業の労働問題を強力にサポートしています。
Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。
労働条件通知書の問題については、当事務所の労働事件チームまで、お気軽にご相談ください。
この記事が、労働問題にお悩みの企業にとってお役に立てれば幸いです。
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