裁量労働制とは?デメリットや注意点をわかりやすく解説
裁量労働制とは、労働時間の管理を含めた業務の遂行を従業員の大幅な裁量にゆだねる必要のある一定の場合に、実際の勤務時間にかかわらず、所定の時間を労働したものとして扱う制度をいいます。
裁量労働制は、うまく活用することにより柔軟な働き方が可能になり業務効率の向上につながるなどの効果が期待できますが、その反面デメリットも存在します。
また、裁量労働制を導入するためには法律上さまざまな要件が定められており、適法に制度を運用するためには、法の仕組みを正確に理解しておく必要があります。
この記事では裁量労働制について、その意味や適用するための条件、注意すべきポイントや導入までの手続きなどについて、弁護士が解説します。
目次
裁量労働制とは?
裁量労働制とは、労働時間の管理を含めた業務の遂行を従業員の大幅な裁量にゆだねる必要のある一定の場合に、実際の勤務時間にかかわらず、所定の時間を労働したものとして扱う制度をいいます。
裁量労働制の意味
裁量労働制では上記のとおり、「実際の勤務時間にかかわらず、所定の時間を労働したものとして扱う」ことになります。
裁量労働制は「裁量労働のみなし労働時間制」ともいわれ、実際の労働時間にかかわらずー定の労働時間を勤務したものとみなす「みなし労働時間制」の一種です。
たとえば、裁量労働制の労働時間を1日8時間と取り決めた場合、裁量労働制の対象となる従業員については、実際の勤務時間が7時間でも9時間でも、8時間を勤務したものとみなされます。
これは、裁量労働制では、業務の遂行について、労働時間の管理を含めて従業員の裁量にゆだねていることを意味します。
このため、いかに業務の具体的な進め方について従業員の裁量を認めていたとしても、実際の労働時間に基づいて労務管理しているのであれば、裁量労働制にはなりません。
対象従業員の労働時間を実労働時間ではなくみなし労働時間で把握する点が裁量労働制の大きな特徴であり、単に従業員に業務遂行上の裁量が認められているという意味ではない点に注意してください。
裁量労働制の目的
本来、会社に雇われている従業員は、会社の指揮命令に基づいて業務に当たるのが原則です。
しかし、高度に専門的な業務や事業に関する企画の立案などの一部の業務については、会社が逐一指示を与えることになじまず、むしろ時間管理の点まで含めて従業員の自主的な判断にゆだねた方が、より業務の効率性が高まることがあります。
ただし、従業員はあくまで会社の管理下で業務を遂行するのが原則であり、裁量労働制が濫用されると、労働基準法が従業員の労働時間について厳しい規制を設けている趣旨が損なわれてしまいます。
そこで、対象となる職種などを限定し、かつ労使で協定するなど一定の条件を満たした場合に限って、裁量労働制を採用することが認められているのです。
裁量労働制の種類
裁量労働制は、労働時間の管理を含めて従業員に業務遂行の大幅な裁量を認める制度であり、対象となる業務の性質に応じて、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類が存在します。
専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制は、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に従業員の裁量にゆだねる必要があり、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し会社が具体的な指示をすることが困難な業務を対象とするものです(労働基準法38条の3)。
専門性の高い業務については、その業務に当たる従業員に専門的能力が備わっていることも多く、会社の側からあれこれ指示を与えるよりも、従業員自身の判断にまかせた方がかえって成果が上がると考えられます。
私たち弁護士も裁量労働制の対象になっていますが、案件の処理について、何時から何時まで働くようにと時間管理をするよりも、その案件をいつどのように進めるかの判断を一人一人の弁護士に任せた方がよいというのはイメージしやすいのではないでしょうか。
そこで、裁量労働制の一種として、専門的な業務を対象とした専門業務型裁量労働制が認められているのです。
ただし、専門的業務であることを口実に、裁量労働制を労働時間管理の抜け道とすることを防止するため、専門業務型裁量労働制を適用できる業務は法令によって限定されています。
具体的には、専門業務型裁量労働制の対象となる業務は、労働基準法施行規則24条の2の2第2項及び厚生労働省告示が定めている次の20の業務に限られます。
- ① 新商品や新技術の研究開発業務
- ② 情報処理システムの分析または設計の業務
- ③ 新聞、出版、放送などにおける取材、編集等の業務
- ④ 衣服、広告等の新たなデザインの考案の業務
- ⑤ 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサーまたはディレクターの業務
- ⑥ 広告、宣伝等における文章の考案(いわゆるコピーライターの業務)
- ⑦ 情報処理システムを活用するためのシステムコンサルタントの業務
- ⑧ 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する助言等の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
- ⑨ ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
- ⑩ いわゆる証券アナリストの業務
- ⑪ 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
- ⑫大学における教授研究の業務
- ⑬銀行または証券会社における顧客の合併および買収に関する調査、分析、助言等の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)
- ⑭ 公認会計士の業務
- ⑮ 弁護士の業務
- ⑯ 建築士(一級建築士、二級建築士および木造建築士)の業務
- ⑰ 不動産鑑定士の業務
- ⑱ 弁理士の業務
- ⑲ 税理士の業務
- ⑳ 中小企業診断士の業務
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制は、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務のうち、その性質上業務の遂行を従業員の大幅な裁量に委ねる必要があり、業務遂行の手段や時間配分の決定等について会社が具体的な指示をしないこととする業務を対象とします (労働基準法38条の4)。
企画業務型においては、専門業務型にもまして対象となる範囲が不明確となるおそれがあることから、拡大解釈によって制度が濫用されることのないよう、認められる対象が限定されています。
すなわち、企画業務型裁量労働制においては、対象となる事業場、業務、労働者の範囲について、次のような要件が存在します。
事業運営に関する企画等の業務は、本社等の中枢的機能を担う事業場で遂行されるとの想定の下、企画業務型裁量労働制の対象となる事業場は、次のいずれかに限定されています。
- ① 本社 本店
- ② 事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行われる事業場
- ③ 本社等からの具体的な指示を受けることなく独自に、事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等
企画業務型では、次のすべてを満たす業務が対象業務となります。
- ① 事業の運営に関する事項についての業務
- ② 企画、立案、調査及び分析の業務
- ③ 業務の性質上、その遂行を従業員の大幅な裁量に委ねる必要があること
- ④ 業務遂行の手段や時間配分の決定等について会社が具体的な指示をしないこと
企画業務型の対象となる労働者は、次のいずれにも該当する従業員となります。
- ① 対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者
- ② 対象業務に常態として従事している者
裁量労働制と他の制度との違い
裁量労働制はみなし労働時間制の一種であり、実際の勤務時間にかかわらず所定の時間を労働したものとみなされる点に特徴があります。
労働基準法にはこれと類似した制度が定められているため、ここではそれらの制度と裁量労働制の違いについて解説します。
裁量労働制とフレックスタイム制との違い
フレックスタイム制とは、あらかじめ一定期間の総労働時間(1か月160時間など)決めておいた上で、始業時間や終業時間を従業員が自由に決められる制度を指します。
たとえば、標準的な勤務時間が午前9時から午後6時までとされている会社において、午前8時に出勤し午後5時まで勤務する、といったことを認めたり、月曜日は午前9時から午後5時まで勤務して、火曜日は午前9時から午後7時まで勤務するというのがフレックスタイム制です。
フレックスタイム制では、一定期間の総労働時間が決まっており、その枠の中でどのような割り振りで仕事をするかという点について、従業員に裁量はありますが、裁量労働制と違って、完全な裁量はありません。
また、コアタイムといって、必ず働かなければならない時間帯を会社側で設定することもフレックス制の場合は可能です。
フレックスタイム制のポイントについての詳しい解説は、こちらの記事をご覧ください。
裁量労働制と固定残業制との違い
固定残業制は、実際の残業時間にかかわらず、毎月決まった時間分の残業代を支給する制度です。
たとえば、月の固定残業代を20時間分と定めた場合、実際の残業時間がこれに満たなくとも、固定的に20時間分の残業代が支給されます。
ただし、裁量労働制と異なり、実際の残業時間が20時間を超えた場合には、その超過した分の残業代が別途支給されます。
万が一、会社が支給していなかった場合には、未払い残業代の支払いが必要になりますし、そもそも、支払っていたお金が固定残業代として認めてもらえないリスクも出てきます。
固定残業制についての詳しい解説は、こちらの記事をご覧ください。
裁量労働制と管理監督者との違い
管理監督者とは、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」のことをいい、労働時間等に関する規定が適用されません(労働基準法41条2号)。
管理監督者も会社に雇われている従業員ではありますが、経営者に代わってある部門の監督を統括するなど、経営者と一体の立場にあることから、労働時間等に関する規定の適用が除外されている結果、残業代の支払いは生じないとされています。
管理監督者に該当するかは、その地位や職責などを総合的にみて経営者と一体的な立場にあると評価できるかによって決まり、裁量労働制のように業務の内容に制限はありません。
管理監督者は労働基準法上に規定されており、従業員がその要件を満たすのであれば、裁量労働制のような特別な労使による合意がなくとも、管理監督者に該当します。
管理監督者と認められるような立場の従業員であれば、業務についてもそれなりの裁量が認められていると考えられますが、みなし労働時間が適用されるわけではない点で、裁量労働制とは異なります。
管理監督者についての詳しい解説は、こちらの記事をご覧ください。
裁量労働制と高度プロフェッショナル制度との違い
高度プロフェッショナル制度は、専門性が高い業務において、仕事の成果と労働時間が必ずしも比例しないなどの場合に、労働時間等に関する規定の適用を排除する制度です(労働基準法41条の2)。
従業員の専門性に着目し、労働時間にとらわれない働き方を可能とする点で、高度プロフェッショナル制度は裁量労働制と類似しています。
ただし、高度プロフェッショナル制度では、対象者が一定以上の年収を支給されている者に限られ、また、休憩や休日・深夜割増賃金に関する規定も適用されないなど、裁量労働制をいっそう推し進めたような制度となっています。
高度プロフェッショナル制度についての詳しい解説は、こちらの記事をご覧ください。
裁量労働制のメリットとデメリット
裁量労働制は通常の働き方と異なり、業務遂行に従業員の大幅な裁量が認められます。
裁量労働制は会社と従業員の双方にとって大きなメリットをもたらす可能性がある一方、必ずしも良い点ばかりではありません。
裁量労働制をうまく活用していくためには、良い面ばかりに着目するのではなく、メリットとデメリットをしっかり把握しておく必要があります。
会社側のメリットとデメリット
メリット
裁量労働制がうまく機能すると、従業員の能力が最大限に発揮され、成果につながりやすくなります。
裁量労働制が適用されるような従業員の業務においては、会社よりも従業員本人の方が業務の実態に通じており、あれこれ指示を与えるよりも自身の判断で仕事を進めさせた方がかえって効率が向上するという状況があり得ます。
このようなケースで適切に裁量労働制を運用できれば、会社の業績アップに対する効果が期待できます。
デメリット
裁量労働制では、業務遂行を従業員の裁量にゆだねる必要があります。
良くも悪くも、従業員を「信じてまかせる」という形になり、業務遂行に具体的な指示を与えることができません (労働基準法38条の3第1項3号、38条の4第1項1号)。
会社の指示がなくとも従業員が自ら考える最適な方法で業務を遂行することは、成果が上がるのであればメリットとなりますが、そうでない場合は、逆にデメリットになり得ます。
従業員に広い裁量を認める裁量労働制では、長所と短所が表裏一体となっているといえるのです。
従業員側のメリットとデメリット
メリット
業務遂行において裁量が認められることは、すなわち自主性が尊重されることでもあります。
裁量労働制では、会社から事細かく指示を受けることなく、自らの判断において仕事を進めて行くことができます。
特に、能力の高い従業員にとっては、細かくマネジメントされるよりものびのびと働くことが可能となり、モチベーションの向上につながります。
デメリット
裁量労働制の大きな特徴である「みなし労働時間」という仕組みは、うまく業務を回すことができれば実労働時間を短縮することも可能となりますが、業務の進捗しだいでは、逆に過重労働を招くこともあります。
裁量労働制の導入に労使協定や労使委員会での決議が必要とされているのは、裁量労働制が従業員にとって不利な側面も有するからにほかなりません。
裁量労働制は時間管理を含めて従業員自身の裁量で業務を進めていくため、徹底した自己管理が求められることになります。
また、会社から裁量を認めてもらっている以上、その分結果も求められることになります。
結果が全く出ていない場合には、会社に対して説明責任を果たす必要もあると考えられます。
裁量労働制で残業代等が発生するケース
裁量労働制は、みなし労働時間制の一種です。
たとえば、1日のみなし労働時間を8時間と取り決めた場合、実際の労働時間にかかわらず8時間働いたものとみなされます。
このため、実際の労働時間が8時間に満たなくとも給料が減額されることはありませんが、その反面、1日8時間を超えて勤務したとしても超過分の残業代を請求することはできません。
ただし、この例で残業代を請求できないのは、あくまで従業員の労働時間が8時間とみなされた結果であり、みなし労働時間を法定労働時間を超える時間に設定したような場合には、時間外割増賃金が発生する余地があります。
たとえば、1日の法定労働時間は8時間ですので、みなし労働時間を1日10時間と設定すると、毎日2時間は時間外労働をしているものとみなされ、2時間分については時間外割増賃金を支払う必要があります。
裁量労働制では残業代を払わなくてよい場面が生じるのも事実ですが、会社としては残業代を全く支払わないようにするための制度と捉えるべきではないといえるでしょう。
深夜の労働について
従業員が深夜の時間帯(午後10時から午前5時まで)に勤務したときは、深夜割増賃金を支給する必要があり(労働基準法37条4項)、これは裁量労働制であっても同様です。
裁量労働制におけるみなし労働時間制は、労働した「時間数」に関するものであり、「時間帯」には適用されません。
つまり、実際に深夜の時間帯に労働したのであれば、これを日中に労働したものとみなす、といったことはできないのです。
このため、裁量労働制が適用される従業員であっても、深夜時間帯に勤務すれば深夜割増賃金を支払うことになります。
したがって、裁量労働制 = 会社が時間管理を全くしなくてよいというわけではありませんので注意が必要です。
休日の労働について
従業員が法定休日に労働した場合には休日割増賃金を支払う必要があり(労働基準法37条1項)、この規定もやはり裁量労働制であっても適用されます。
考え方は深夜割増の場合と同様であり、休日に労働したものを平日の労働とみなせるわけではないことから、休日の労働には割増賃金の支払いが必要となるものです。
裁量労働制についての法改正
裁量労働制については、2024年4月の法改正により、いくつかの重要なルールが追加されています。
従前の認識で裁量労働制を運用すると、改正に対応できず違法となるおそれがありますので、改正内容を十分把握しておく必要があります。
対象業務の追加
専門業務型においては20の対象業務が存在することをご紹介しましたが、このうち「銀行または証券会社における顧客の合併および買収に関する調査、分析、助言等の業務」については、2024年の法改正によって新たに追加されたものとなります。
これはいわゆるM&Aアドバイザーの業務に当たります。
労使協定事項、 労使委員会の決議事項の追加
後に紹介するとおり、裁量労働制を導入するにあたっては、専門業務型では労使協定の締結が、企画業務型では労使委員会による決議が、それぞれ求められています。
2024年の改正では、これらの事項に新たな項目が追加されています。
専門業務型
企画業務型では従来から必須とされていた、従業員による同意や、同意しない場合の不利益取扱いの禁止について、専門業務型においても協定決議事項として追加されました。
また、企画業務型とならんで、同意の撤回についても新たに追加されています。
企画業務型
企画業務型では、本改正前から従業員の同意が要求されていましたが、改正によって、同意を撤回する手続きについても労使委員会の決議事項として追加されました。
また、対象となる従業員の賃金・評価制度の変更をする場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うことについても、新たに追加されています。
裁量労働制の導入方法
裁量労働制の導入方法を一言に要約すると、裁量労働制の導入について労使で合意し、その旨を労働基準監督署に届け出るという流れになります。
ただし、専門業務型と企画業務型において具体的な手順が異なります。
専門業務型
専門業務型では、労働者の過半数で組織する労働組合(これがないときは労働者の過半数を代表する者)と労使協定を締結し、専門業務型裁量労働制に関する協定届(労働基準法施行規則様式第13号)を労基署に提出します。
労使協定では、次の事項について書面により定めます。
- ① 対象業務
- ② みなし労働時間
- ③ 業務の遂行手段、時間配分の決定などに関し具体的な指示をしないこと
- ④ 対象業務に従事する労働者の労働時間の把握方法と把握した労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置内容
- ⑤ 対象業務に従事する労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
- ⑥ 制度の適用に関して労働者の同意を取得すること
- ⑦ 同意しない従業員に対して不利益取扱いをしないこと
- ⑧ 同意の撤回についての手続き
- ⑨ 協定の有効期間
- ⑩ 上記④⑤⑥⑧に関する記録を期間満了後5年間(当面は3年間)保存すること
企画業務型
企画業務型の裁量労働制を導入する場合は、労働組合との協定ではなく、労使委員会を設置し、5分の4以上の多数決によって決議する必要があります。
労使委員会とは、賃金や労働時間等の労働条件に関する事項を調査審議し、意見を述べることを目的とする委員会であり、会社及び従業員の代表者によって構成されます。
また、過半数などではなく、5分の4以上とかなりの賛成を要するのが特徴です。
なお、労使委員会について法律で何人という決まりはありませんが、2人ではダメとされています。また、従業員側の委員が半数を占めていなければなりませんので、例えば、3名で2名が経営者側、1名が従業員側だとNGとなります。
他方で、委員の総数が5名で2名が経営者側、3名が従業員側ということであれば要件を満たしています。
決議の結果は、企画業務型裁量労働制に関する決議届(労働基準法施行規則様式第13号の2)によって労基署に届け出ます。
労使委員会で決議すべき事項は、次のとおりです。
- ① 対象業務
- ② 対象労働者の範囲
- ③ みなし労働時間
- ④ 対象業務に従事する労働者の労働時間の把握方法と把握した労働時間の状況に応じて実施する健康福祉を確保するための措置内容
- ⑤ 対象業務に従事する労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
- ⑥ 制度の適用に関して労働者の同意を取得すること
- ⑦ 同意しない従業員に対して不利益取扱いをしないこと
- ⑧ 同意の撤回についての手続き
- ⑨ 対象労働者の賃金・評価制度の変更をする場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと
- ⑩ 決議の有効期間
- ⑪上記 ④⑤⑥⑧に関する記録を期間満了後5年間 (当面は3年間) 保存すること
裁量労働制のポイント
適切な労務管理
裁量労働制では、労働時間の管理を含めて業務遂行を従業員の裁量にゆだねますが、これは会社が従業員の労務管理をしなくてもよいということではありません。
裁量労働制では、従業員による自己管理が基本となるため、過労が見過ごされやすいというリスクがあります。
このため、労働基準法では、裁量労働制が適用される従業員の健康及び福祉を確保するための措置を講じることが求められています(労働基準法38条の3第1項4号、38条の4第1項4号)。
たとえば、勤務状況や健康状況に応じた休暇の付与や、健康診断、産業医による指導助言といった方法が考えられます。
望ましい措置の詳細は、厚生労働省の告示(平成11年労働省告示第149号)をご確認ください。
参考:労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件確保を図るための指針|厚生労働省ホームページ
また、裁量労働制は運用の方法しだいで従業員に不利益を与えるおそれがあることから、苦情処理に関する措置を講じる必要があります(労働基準法38条の3第1項5号、38条の4第1項5号)。
裁量労働制に関する相談窓口を設けるなどして、従業員側の意見を適宜聞いていくという適切な運用が望まれます。
労働問題にくわしい弁護士に相談する
裁量労働制を運用するにあたっては、労働問題にくわしい弁護士に相談することも重要です。
裁量労働制は、業務遂行に関して従業員の大幅な裁量を認めるものであり、うまく機能すれば、従業員の能力が最大限に発揮され、会社の業績向上につながることが期待できます。
その一方で、裁量労働制は従業員の長時間労働を招くおそれがあるなど、デメリットも存在するため、これを適用するための条件が法律上細かく定められています。
また導入にあたっても、労使での合意など所定の手続きを踏む必要があり、規制の内容を正確に理解し適切な手順で導入する必要があります。
裁量労働制だから残業代は発生しないとして管理を不十分に行っていると、そもそも制度が無効で未払い残業代を請求されたりするリスクもあります。
裁量労働制を導入し適切に運用していくには、法律の専門家による助言が非常に有効です。
労働事件の経験が豊富な弁護士であれば、裁量労働制のポイントを押さえた的確なアドバイスが可能ですので、裁量労働制を導入される際は、労働問題にくわしい弁護士に相談されることをおすすめします。
労働問題における弁護士選びの重要性については、こちらの記事をご覧ください。
裁量労働制についてのQ&A
裁量労働制はやばいですか?
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裁量労働制であるという一点だけをもって直ちにやばいとはいえませんが、上記のようなケースもあることも念頭に、裁量労働制の運用実態を注意深く見極める必要があるでしょう。
裁量労働制は1日何時間働くの?
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裁量労働制では1日のみなし労働時間を取り決めますが、必ずしもその時間働く必要があるわけではありません。
まとめ
この記事では裁量労働制について、その意味や適用するための条件、注意すべきポイントや導入までの手続きなどについて解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 裁量労働制とは、労働時間の管理を含めた業務の遂行を従業員の大幅な裁量にゆだねる必要のある一定の場合に、実際の勤務時間にかかわらず、所定の時間を労働したものとして扱う制度であり、「みなし労働時間制」の一種である。
- 裁量労働制は、業務の性質に応じて、専門性の高い業務に適用される「専門業務型裁量労働制」と、事業の運営に関する事項についての企画、立案等の業務を対象とする「企画業務型裁量労働制」の2種類がある。
- 裁量労働制を導入するには、専門業務型では労働組合や従業員代表との協定締結が、企画業務型では労使委員会における5分の4以上の多数決による決議が、それぞれ必要となる。
- 裁量労働制を導入する際は、労働問題にくわしい弁護士に相談することが有効である。
当事務所では、労働問題を専門に扱う企業専門のチームがあり、企業の労働問題を強力にサポートしています。
Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。
労働問題でお困りの際は、当事務所の労働事件チームまで、お気軽にご相談ください。
この記事が、労働問題にお悩みの企業にとってお役に立てれば幸いです。
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