残業20時間はホワイトorブラック?弁護士が対処法を解説
残業20時間とは、月に20時間の残業をする場合をいいます。
この、残業20時間に及ぶ働き方は、ブラックでしょうか?それともホワイトでしょうか?
結論からいいますと、残業20時間は、必要な手続きを経ている会社であれば適法です。
しかし、残業時間が月に20時間にもなる場合、通勤時間も考え合わせると、自宅でプライベートの時間を満足に取ることが難しい場合もあります。
日本の平均労働時間と比較した場合、残業20時間はやや長時間労働の傾向が認められるため、注意が必要です。
このページでは、残業20時間の働き方の注意点などについて、労働問題に詳しい弁護士が解説します。
残業20時間はホワイトorブラック?
残業20時間というと、人によっては「そんなに残業が多くない」、と思われるかもしれません。
ただ、この感覚も人それぞれです。
ここでは、残業20時間の働き方が、ブラックなのか、ホワイトなのか、詳しく見ていきましょう。
なお、このページでは、「残業20時間」を、「法定労働時間※を超えた残業時間が月間20時間」の場合と定義して解説しています。
※法定労働時間とは、1日8時間、1週間合計40時間のことをいいます(休憩時間を除きます)。
次に説明するとおり、労働基準法はこの時間を超えて残業させることを原則として禁止しています。
長時間労働の規制の内容
残業20時間が法律に違反していれば、その働き方は当然にブラックということになります。
では、どのような場合に残業20時間が適法となるのでしょうか。
長時間労働に関する法律上の規制を確認していきます。
実は、会社は原則として、従業員を法定労働時間を超えて残業させてはいけません(労働基準法第32条)。
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
引用元:労働基準法|e-Gov法令検索
例外的に、法定労働時間を超えて従業員に残業させることが許されるためには、あらかじめ会社が従業員代表等と「36協定」という労使協定を締結する必要があります。
そして、36協定で定めることが可能な残業時間の上限が、原則として「1か月について45時間、1年について360時間」です(労働基準法第36条第3項、同条第4項)。
(時間外及び休日の労働)
第三十六条
③ 前項第四号の労働時間を延長して労働させることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限る。
④ 前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。
引用元:労働基準法|e-Gov法令検索
多くの会社では、この上限時間を定めて36協定が締結されているはずです。
そのため、一か月について45時間、一年について360時間以内の残業であれば、適法となることが多いです。
したがって、「残業20時間」であれば、月間45時間以内に収まっていますし、毎月常に残業20時間だったとしても、年間360時間以内(残業20時間 × 12か月 = 240時間)となりますので、基本的に適法といえます。
残業20時間が適法である条件
以上で説明した通り、残業20時間は適法となるのが通常ですが、必ず適法であるとは限りません。
「残業20時間」が適法になるための条件を以下の通り整理しました。
- 「残業20時間」が適法である条件 ※全ての条件を充足する必要がある
- 事前に36協定が締結されている
- 36協定で定めている残業上限時間が、月20時間以上
- 36協定で定めている残業上限時間が、月45時間以下
- 36協定を労働基準監督署に届出済み
日本の平均労働時間との比較
以上の通り、基本的に適法といえる残業20時間ですが、残業20時間には全く問題がないのでしょうか。
日本の平均残業時間(所定労働外時間※、除くパートタイム従業員)の平均は、2022年で1か月あたり13.8時間です。
この数値は「所定時間外労働」ですので、「法定時間外労働」に換算すると、さらに残業時間は短くなることが推測されます※。
1日8時間の場合(法定労働時間と同じ)もあれば、1日7時間半(法定労働時間よりも短い)の場合もあります。
この残業時間の平均と比較すると、残業20時間はやや長時間労働の傾向が認められるといえます。
残業20時間は1日あたり何時間?
残業20時間の場合、具体的に1日当たりの働き方はどのようになるのでしょうか。
1か月の内で土日及び祝日がお休みの場合、実際に働く日は、1か月あたり約20日となります※。
したがって、月間残業20時間の場合、1日当たりの残業時間は1時間となります。
これが、法定労働時間(1日あたり8時間)を超えて残業した時間となるので、1日当たり9時間働くことになります。
残業20時間の場合の生活
「残業20時間」つまり、1日当たり9時間働く場合の生活を、以下の具体例でイメージしてみましょう。
具体例
- Aさんは、B社で働いており、通勤時間は片道45分。
- B社の所定労働時間は7時間30分(始業9時、終業17時30分。昼休み1時間)。
- Aさんは、食事やお風呂にそれぞれ30分かかる。
- Aさんは、帰宅後に自宅で映画のDVD(2時間)を鑑賞するのが楽しみ。
時間 | 所要時間 | Aさんの行動 |
---|---|---|
7:00~7:15 | ― | 起床~朝食準備 |
7:15~7:45 | 30分 | 朝食を摂る |
7:45~8:15 | 30分 | 出社準備(着替えなど) |
8:15~9:00 | 45分 | 通勤(往路) |
9:00~12:00 | 3時間 | 勤務開始~午前勤務 |
12:00~13:00 | 1時間 | 昼休憩 |
13:00~17:30 | 4時間半 | 午後勤務~所定終業時刻 |
17:30~18:00 | 30分 | 残業(所定時間外、法定時間内) |
18:00~19:00 | 1時間 | 残業(法定時間外) |
19:00~19:45 | 45分 | 通勤(帰路) |
19:45~20:00 | 15分 | 帰宅後、着替えなど |
20:00~20:30 | 30分 | 夕食を摂る |
20:30~21:00 | 30分 | 入浴 |
21:00~23:00 | 2時間 | 趣味の時間(映画のDVD鑑賞) |
23:00~23:30 | 30分 | 就寝準備(歯磨き、ストレッチなど) |
23:30~翌7:00 | 30分 | 睡眠時間 |
※青色部分が働いている時間
この例では、帰宅後の趣味の時間として映画DVD鑑賞の時間を2時間確保できています。
ただ、他にはプライベートの自由な時間を取れているとは言えません。
食事や入浴など、生活に必要な最低限の時間にも30分しか時間をかけられておらず、ゆっくり自分の時間を持ちたい人にとっては物足りない1日と言えるかもしれません。
もちろん、家庭がある場合には家族との団らんなどにも別途時間を使いたいところですから、自分一人の時間を確保することは一層難しくなることが予想されます。
また、趣味の時間を確保するために、睡眠時間は7時間半となっています。
適切な睡眠時間は人によっても異なりますが、日本人の平均睡眠時間は約8時間※とされていますので、7時間半というのは少し物足りないといえるでしょう。
参考資料:令和3年社会生活基本調査|総務省統計局
なお、この例では通勤時間が45分となっていますが、ドアtoドア※の通勤時間が1時間を超えるような職場も珍しくないので、実際には通勤時間がより長くなることも考えられます。
その場合には、より一層時間的な余裕がなくなってしまいます。
繁忙期などによって一時的に残業があるだけなら仕方ないといえるかもしれませんが、1年を通じて常にこのような残業がある場合には、やや仕事に偏った生活になってしまうといえるでしょう。
残業20時間が慢性的となっている働き方については、できるだけ改善していくことが望ましいです。
残業20時間の様々なリスク
残業20時間の働き方が続いた場合の様々なリスクについて見ていきましょう。
メンタル不調となるリスクはある?
残業20時間が、メンタル不調の原因になることは必ずしも多くはありません。
もっとも、仕事の大変さ、通勤時間の長さ、家庭環境などによってその方が受ける精神的な負担は大きく変わってくるでしょう。
そのため、状況によっては残業20時間であっても、メンタル不調を生じるリスクはあります。
過労死のリスクはある?
厚労省によれば、残業が45時間を超えて長くなるほど、病気発症のリスクが高まり、発症前の2か月から6か月間にわたって残業80時間超の場合や、直近1か月に残業100時間超の場合には、長時間労働と病気発症の関連性が高いです。
逆にいえば、残業20時間であれば、過労死につながる病気の原因になることは多くないといえるでしょう。
とはいえ、業務の身体的・精神的な負担、通勤時間や家庭生活、睡眠時間などによっては、残業20時間の疲労が蓄積していく可能性もあります。
したがって、残業20時間でも、状況によっては過労死につながるような深刻な病気を発症するリスクを否定できません。
従業員側の対処法
以上で見てきたように、残業20時間であっても、状況によってリスクがあります。
従業員としては、できる限りこのような残業時間を減らすことが望ましいですが、具体的にどのように対処すればよいでしょうか。
仕事の効率化を検討する
まずは、ご自身の業務を見直して、効率化を考えてみましょう。
特に、似た仕事をしている先輩など、仕事の早い同僚にアドバイスをもらうことが有用です。
残業時間が減るだけでなく、気持ちよく仕事ができることも多いので、ぜひ検討してみましょう。
仕事の断捨離を検討する
また、仕事の断捨離、つまり、必要性の低い仕事を無くせないかも考えてみましょう。
どんな会社でも、何となく続けている仕事の中に、実は必要性の低い仕事が隠れているものです。
もし、断捨離できそうな仕事を見つけたら、上司に思い切って相談してみるのがいいでしょう。
適切な残業代を請求する
もし、正しい残業代が支払われていないと感じる場合には、適切な残業代を請求することも必要です。
正しい残業代を支払っていないような会社では、残業を抑制しようという取り組みも十分になされていないことが多いです。
そのような場合には、まずは、適切な残業代を会社に請求することから始めてみましょう。
これによって、会社が割増賃金を含む残業代の支払をしないで済むよう、残業抑制の取り組みを進めてくれるかもしれません。
ただし、残業代の請求をする際、会社と揉める可能性があります。
これをきっかけに会社との関係を悪化させてしまい、働きづらくなってしまっては本末転倒です。
このような懸念がある場合、まずは弁護士に相談して、慎重に対応するようにしましょう。
上司へ相談する
残業が長くなる原因として、上司が部下の残業時間を十分に把握しないままに多くの仕事を指示してしまうことが考えられます。
このような場合には、自分が不必要と思われる残業をすることになっている現状を上司にしっかり伝えて意識してもらい、一緒に改善策を考えるのがいいでしょう。
もっとも、上司の性格やタイプによって、対応は異なります。
上司との関係性が悪化する可能性もありますので、上司をよく観察し、伝え方や相談の仕方には注意するようにしましょう。
きついときは医療機関を受診
残業による負担が辛いと感じる場合には、医療機関を受診しましょう。
何らかの疾患にかかっている可能性もあり、早期に治療をしないと大事になりかねません。
専門家への相談
残業が改善しない場合には、弁護士などの専門家に相談することも有用です。
何事も、一人で対処することには限界があります。
会社の上司や同僚が親身に協力してくれればよいですが、必ずしもそのような状況になるとは限りません。
弁護士などの協力者に早めに相談することが有効な解決策となりますし、心理的にも安心できると思います。
会社側の対処法
続いて、会社側で取りうる対処法を見ていきましょう。
36協定を締結して残業20時間超えを適法にする
「長時間労働の規制の内容」で説明した通り、36協定を締結していない場合には、残業20時間であっても違法になります。
法律に違反すると、罰則を受けたり、法令違反を起こした会社として会社名が公表されてしまうなど、大きな不利益を受ける可能性がありますので、会社としては必ず避けるべきです。
36協定を締結して残業20時間超えの場合を適法にしましょう。
不必要な労働時間の削減
不必要と思われる残業を削減することを検討しましょう。
不必要な残業を削減する方法は会社によって様々考えられますが、一般的には、「残業の許可制の導入」や「評価方法の改訂」などが考えられます。
残業の許可制の導入
従業員が自分の判断で自由に残業できる職場では、マイペースで仕事をするために、長時間の残業が慢性化しがちです。
そこで、会社や管理職が、不必要な残業を見極めて、従業員に早帰りさせるような仕組み作りが重要です。
具体的には、残業の許可制を導入することが考えられます。
上司の許可を得ないと残業ができないとすれば、従業員は許可を得るために残業理由を説明しなければなりませんから、理由がない残業を減らすことができるでしょう。
なお、仕事量の多い会社では、理由のある残業をする人も大勢いるため、上司が毎日許可を出すためには手間と時間がかかってしまいます。
そんな場合には「1日の労働時間が10時間を超える場合には許可が必要」といった限定的な許可制を取ることも考えられます。
評価方法の改訂
人事評価制度を改訂することで、残業を減らせることも多いです。
従業員が努力して業務効率化を図って残業を減らしたとしても、会社がそのことを評価しないとすれば、多くの従業員はマイペースに仕事をして残業代をもらう働き方に落ち着いてしまうでしょう。
そこで、長時間の残業をしている従業員を評価せず、生産性の高い従業員を評価するのがよいでしょう。
なお、筆者の経験上、会社の人事部が評価制度を変更したとしても、それが会社全体で正しく運用されないことは珍しくありません。
評価制度を改訂することに加えて、改訂の理由や目的を従業員全体にしっかり説明し、理解を得ることが重要です。
就業規則や雇用契約書の見直し
就業規則や雇用契約書を見直すことも検討しましょう。
これらを見直すことで、従業員の長時間残業を改善できる可能性があります。
例えば、以下のような内容に見直すことを検討してみましょう。
残業時間が少ない従業員を表彰する制度を導入する
例えば、半年間、残業時間が連続して月10時間未満の従業員を表彰する、など、生産性の高い従業員を表彰することによって会社全体で目標が明確になります。
有給休暇制度を工夫して、休暇取得を促す
残業時間を減らすためには、有給休暇の取得を促進することも有効です。
有給休暇の取得が進めば、勤務日が少なくなるので、月間の労働時間や残業時間は少なくなりやすいためです。
そこで、例えば、連続して5日間有給休暇を取得した場合には5万円支給する、等、従業員の有給休暇取得を強く応援するようなルール作りが考えられます。
または、年間で、原則2か月あたり1日、有給休暇を取得しなければならない、というように、半強制的に休暇を取得させるようなルール作りも考えられます。
企業側の労働専門弁護士に相談
会社における残業問題は、一歩間違えれば法律違反になり、会社に大きな損害を及ぼしかねません。
その一方で、上で記載したような対処法を実践するのも簡単ではなく、かなりの手間と時間がかかりますし、会社それぞれの事情によって最適な対処法は異なります。
そこで、従業員の長時間残業を改善したいとお考えの場合には、できるだけ早い段階から労働専門の弁護士に相談し、アドバイスを求めることを強くお勧めします。
特に、労働専門の弁護士は、企業型と従業員側に分かれており、専門が細分化されていますので、会社であれば企業側の労働専門弁護士へ相談することが重要です。
企業側の労働専門弁護士であれば、単に法律的な知識が豊富なだけではなく、会社や会社の経営者の目線に立って、有効な解決策を考えてくれます。
デイライト法律事務所では、企業側の労働専門弁護士が複数在籍していますので、どのような会社に対しても適切なアドバイス、対応が可能です。
まとめ
このページでは、「残業20時間」の場合について、適法となる場合の条件、問題点、対処法などについて詳しく解説してきました。
残業20時間と聞くと、そんなに長時間の残業ではないと漠然と考えられている方も多いかと思いますが、本記事の内容を読んでいただき、改めてその働き方について振り返っていただければと思います。
残業20時間といえど、リスクはあり、従業員の健康が害されてしまう恐れがあります。
その場合、従業員本人にとっては大きな痛手であることはもちろんですが、会社にとっても大きな損失になり、会社の評判にも影響を与えてしまいます。
ぜひ、このページで説明している対処法を実践し、長時間労働の抑制に取り組んで健康的な働き方を実現しましょう。
もっとも、残業については、法律規制が複雑なこともあり、会社としてなかなか手を出しにくい分野であることは否めません。
また、強引に対応を進めると、従業員と会社との間の関係がこじれてしまうことにもつながる可能性もあります。
そこで、弁護士などの専門家に早期に相談して、慎重に対応することを強くお勧めします。
デイライト法律事務所では、長時間残業への対策など、労務管理に関するご相談についても、トップクラスのサービスを提供しています。
ぜひ、お気軽にご相談ください。