変形労働時間制における残業時間とは?【弁護士解説】
変形労働時間制であっても月単位や年単位、週単位の所定労働時間の上限を超えた場合は、時間外労働手当(残業代)を支払わなければなりません。
変形労働時間制は、一定期間内での法定労働時間の変形を認める制度です。
変形労働時間制を採用していれば、常に残業代を支払わなくてよいのかというとそうではないため注意が必要です。
このページでは、変形労働時間制の設定期間に応じた、残業時間の計算方法について弁護士が詳しく解説します。
労基署が調査する変形労働時間制のポイントについては以下をご覧ください。
1ヶ月単位の変形労働時間制の残業時間
1ヶ月単位の変形労働時間の場合、以下の時間が残業時間となります(最一判平成14年2月28日民集56巻2号361頁、昭和63年1月1日基発1号)。
①1日について
- 所定労働時間が8時間を越える日は、所定労働時間を超えた時間
- それ以外の日は、8時間を越えた時間
①の計算例
下記表は、計算例です。(※各表や計算式は分かりやすくするために、それぞれ独立した例を用いており、連動しているものではありません)
月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 合計 | |
所定労働時間 | 10 | 10 | 10 | 5 | 5 | 休日 | 休日 | 40 |
実労働時間 | 12 | 10 | 9 | 7 | 9 | 0 | 0 | 47 |
残業 | 2 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 3 |
- 月曜日 → 所定労働時間を上回っている2時間が残業となります。
- 火曜日 → 実労働時間が法定労働時間を上回っていますが、所定労働時間内に収まっているので、残業は発生しません。
- 水曜日 → 1日の法定労働時間(8時間)は上回っていますが、所定労働時間内に収まっているため残業は発生しません。
- 木曜日 → 実労働時間が所定労働時間を上回っていますが、法定労働時間(8時間)内に収まっているため残業は発生しません。
- 金曜日 → 法定労働時間(8時間)を上回っている1時間が残業となります。
②1週間について
- 所定労働時間が40時間を越える週は、所定労働時間を超えた時間
- それ以外の週は、40時間を超えた時間
(①で残業となる時間を除く)
②の計算
下記表は、計算例です。(※各表や計算式は分かりやすくするために、それぞれ独立した例を用いており、連動しているものではありません)
第1週 | 第2週 | 第3週 | 第4週 | 合計 | |
所定労働時間 | 50 | 30 | 30 | 50 | 160 |
実労働時間 | 45 | 45 | 35 | 55 | 180 |
残業 | 0 | 5 | 0 | 5 | 10 |
- 第1週 → 所定労働時間内に収まっているため残業は発生しません。
- 第2週 → 法定労働時間である週40時間を上回っている5時間が残業です。
- 第3週 → 実労働時間が所定労働時間を上回っていますが、法定労働時間内に収まっているため残業は発生しません。
- 第4週 → 所定労働時間を5時間上回っているので、その5時間が残業です。
ここで算出された残業時間から、①の計算で算出した残業時間を差し引いた時間が②の計算における残業時間となります。
③変形期間の全期間について
変形期間における法定労働時間の総枠(1週間の法定労働時間 ×(変形期間の日数 ÷ 7日)を超えた時間(①、②で残業となる時間を除く)
以上の時間が残業時間ということになります。
したがって、この時間については残業代てを支払わなければなりません。
③の計算方法
例えば、変形期間を4週間と定めた場合、
- 40(1週間の法定労働時間)×(28日(変形期間の総日数)÷ 7日)=160時間
この160時間が変形期間における法定労働時間の総枠となります。
したがって、この時間を越える実労働時間から、①と②で計算した時間を差し引いた時間が③の計算における残業時間となります。
以上のように、①~③で算出された時間が残業時間となりこの時間については、残業代を支払わなければなりません。
1年単位の変形労働時間制の場合の残業時間
1年単位の変形労働時間の場合、以下の時間が残業時間となります(昭和63年1月1日基発1号、平成6年1月4日基発1号)。
① 1日について
- 所定労働時間が8時間を越える日は、所定労働時間を超えた時間
- それ以外の日は、8時間を越えた時間
② 1週間について
- 所定労働時間が40時間を越える週は、所定労働時間を超えた時間
- それ以外の週は、40時間を超えた時間
(①で残業となる時間を除く)
③ 変形期間の全期間について
変形期間における法定労働時間の総枠(1週間の法定労働時間 ×(変形期間の日数 ÷ 7))を超えた時間(①、②で残業となる時間を除く)
計算方法は、1カ月単位の変形労働時間の場合と同様です。
1年単位の変形労働時間制を採用した場合に注意しなければならないのは、対象期間中に採用された労働者や退職した労働者に対する手当の支払いについてです。
これらの労働者は、週40時間を超える枠が設定されている期間のみ就労して、週40時間未満の枠が設定されている期間において就労していないという場合が生じる可能性があります。
したがって、このような労働者については、実際に働いた期間の労働時間の平均が週40時間を超える場合には、単位期間内の総労働時間が法定労働時間を超えていない場合であっても、時間外手当を支払わなければなりません。
1週間単位の変形労働時間制の残業時間
1週間単位の変形労働時間の場合、以下の時間が残業時間となります。
① 1日について
- 事前通知により所定労働時間が8時間を超える時間とされている日は、所定労働時間を超えた時間
- 所定労働時間が8時間以内とされている日は、8時間を超えた時間
② 1週間について
40時間を超えた時間(①で残業となる部分を除く)
以上のように、変形労働時間を採用した場合の残業時間の算定は複雑な計算になることから、お困りの際には、専門家である弁護士にご相談下さい。