管理職は残業代が出ないのか?弁護士がわかりやすく解説
「管理職だから残業代は支払わなくてよい」といった話を耳にしたことがある方も多いかもしれません。
しかし、「管理職には残業代を支給しなくてよい」といった決まりはなく、たとえ管理職であっても、法的には残業代を支給する必要があります。
例外的に残業代を支給する必要がないケースもあるのですが、それはあくまで例外にすぎません。
これが不正確に理解された結果、管理職には残業代を支給しなくても問題がないかのような誤解に繋がっているものと思われます。
法律上は残業代が支給されるのが原則であり、この点は管理職であっても基本的には同様です。
このページでは、管理職の残業代の考え方や、例外的に不支給となる場合の要件や注意点などについて、弁護士が解説します。
目次
管理職でも基本は残業代が出る
たとえ管理職であっても、残業代は支給されるのが原則です。
残業代とは
残業代とは一般に、法定労働時間を超えて労働した際に支給される賃金のことをいい、法律上は「時間外割増賃金」と呼ばれます。
残業代としては、上記の時間外割増賃金のほか、労働が深夜時間帯や法定休日に行われた場合には、「深夜割増賃金」「休日割増賃金」が発生します。
このように、残業代には3種類があるのですが、この記事では特に明示した場合を除き、これらをまとめて「残業代」と呼ぶことにします。
残業代は全額支給されるのが原則
労働基準法では、「賃金全額払いの原則」という考え方が採用されており、賃金は全額支給しなければならないことが法律に明記されています。
残業代も賃金ですので、例外的に許されている場合を除き、不支給があると賃金全額払いの原則に反して違法ということになります。
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(略)
引用元:労働基準法|電子政府の総合窓口
管理監督者には、残業代を支払う必要がない?
以上のように、残業代は労働基準法上全額支給されるのが原則であり、不支給が認められるのは例外的な場合に限られます。
例外のひとつが、労働基準法上の「管理監督者」に当たる場合です。
管理監督者とは
管理監督者とは、労働基準法に定められた「監督若しくは管理の地位にある者」のことを指します。
第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。一 (略)二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者三 (略)
引用元:労働基準法|電子政府の総合窓口
「監督若しくは管理の地位にある者」とは、「一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである。」とした通達が存在します(厚生労働省労働基準局昭和63年3月14日第150号通達)。
実際に管理監督者に当たるかどうかは専門的な判断となってきますが、ポイントとしては、「労務管理について経営者と一体的な立場」にあり、かつ、それは名称や肩書きではなく、実態に即して判断されるという点です。
管理監督者は、会社に雇われた従業員ではあるものの、経営者と一体的な立場で労働条件の決定に関与するなどの地位にある者をいいます。
そして経営者と一体的な立場にあるかは、従業員の役職や肩書きではなく、職務の実態が上記のようなものであるかによって判断されます。
管理監督者についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
管理監督者には残業代が出ない場合も
管理職であっても残業代は全額支給が原則であると説明してきましたが、管理監督者に当たる場合は、残業代が不支給となることもあります。
なぜ管理監督者には残業代が出ないのか
管理監督者といっても、会社に雇われた従業員であることに変わりはありません。
にもかかわらず、なぜ管理監督者には残業代が出ないのでしょうか。
色々な説明の仕方があり得るところですが、条文上、「残業代を支給しない」とされているわけではなく、「労働時間に関する規定を適用しない」となっているところにポイントがありそうです。
管理監督者は職務上、経営者と一体的な立場で労務管理に携わることから、一般の従業員のように会社から労働時間を管理される立場ではなく、むしろ管理する側の立場にあるといえます。
そこで、管理監督者については、経営者に類する立場にあって労働時間の管理になじまないと考えられた結果、残業代の支給を含めて、時間管理の対象から外れることになったと考えることができそうです。
深夜割増賃金の支給は必要
このように、管理監督者は労働時間に関する規定が適用されない結果、残業代が支給されないのですが、深夜割増賃金についてはその限りではありません。
深夜割増賃金とは、午後10時から翌朝5時までの間に労働した場合に発生する割増賃金です。
残業代には、「時間外割増賃金」「深夜割増賃金」「休日割増賃金」の3種類がありますが、このうち「深夜割増賃金」については、管理監督者であっても支給対象となるのです。
明文があるわけではなく、ひとつの解釈として主張されてきた考え方ですが、最高裁判例でも認められています。
深夜割増賃金は、深夜の時間帯に労働することに特別の負荷があることに着目して設けられた割増賃金です。
いかに管理監督者が経営者と一体であるといっても、深夜労働が体にとって負担となる点は、一般の従業員と異なりません。
深夜割増賃金は、「時間管理に馴染むかどうか」とはまた別の趣旨によって設けられたものですので、たとえ管理監督者に当たるとしても、等しく支給する必要があるというわけです。
管理職と管理監督者は似ているようで違う
例外的に残業代を支給しなくてよい場合もある「管理監督者」ですが、これと似て非なるものが、いわゆる「管理職」です。
「管理監督者」が労働基準法に定められた法的概念であるのに対して、「管理職」はそれぞれの会社が独自に定めた職制上の肩書きにすぎません。
一般的には、「部長」や「課長」といった部門の長や部下をマネジメントする立場にある従業員を管理職という会社が多いようですが、あくまで会社の内部的な地位であるため、その定義も役割も会社によってまちまちです。
この「管理職の定義や役割は会社によってまちまち」という点を、ぜひ強く意識してみてください。
そうすると、たとえば「管理職手当を支給するか」のような会社が自社のルールにおいて決定すべき事柄とは異なり、「残業代の支給対象となるか」といった法的判断の場面では、「管理職かどうか」は基準になり得ないことが、お分かりいただけるのではないでしょうか。
このように、「管理監督者」と「管理職」はまったく別の概念なのですが、両者が混同されているケースが大変多く見られます。
理由としては、ひとつにはもちろん字面が非常に似通っていることがありますが、それに加えて、「管理監督者」と「管理職」が重なっている場合もないわけではないということが挙げられます。
すなわち、いかに「管理職」が会社独自の概念であるといっても、通常は社内でそれなりのポジションにある従業員を管理職にすることが多いでしょうから、結果的に労働基準法上の管理監督者にも該当していた、という場合があるのです。
この場合でも、残業代を支給しなくてよいのはあくまで「管理監督者」に当たるからであって、「管理職」であるかは無関係なのですが、この点があいまいになり、「管理職には残業代を支給しなくてよい」といった誤解を招く一因となっているものと考えられます。
管理職の具体例
何をもって管理職とするかは会社によって異なりますが、一般には、部門の長や部下を管理する立場の職を管理職とする会社が多いようです。
- 部長
- 課長
- マネージャー
管理監督者の具体例
管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。
あくまで名称ではなく実態に即して判断すべきものではありますが、たとえば次のような職にあれば、管理監督者に当たる可能性があります。
- 部長
- 工場長
- 事業所長
- 店長
残業代を支給したくないがために、形だけの肩書きを付して管理職扱いしてしまうと、「名ばかり管理職」として問題となる可能性があります。
意味合い | 位置づけ | 残業代の支給 | |
---|---|---|---|
管理職 | 各社の定義によるが、一般には、部門の長や、管理業務に当たる者 | 会社の職制上の肩書き | 支給対象 |
管理監督者 | 労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者 | 労働基準法上の概念 | 支給対象外(ただし深夜割増賃金は支給) |
管理監督者に該当するかは専門的な判断を伴う難しいものですが、さらに詳しい解説はこちらをご覧ください。
その他残業代が必要ない場合
労働基準法においては、管理監督者以外にも、残業代の不支給が認められる例外として、次のようなものがあります。
- みなし労働時間制
- 1ヶ月あたり30分未満の端数時間
- 機密事務取扱者
あくまで残業代は全額支給が原則であることから、これらのいずれについても、認められるための要件が定められています。
従業員側が気をつけるべきポイント
就業規則や雇用契約書を確認
管理職であることを理由に残業代が支払われていないときは、まず雇用契約書や就業規則を確認してみてください。
賃金などの労働条件については、法律上従業員に対して明示しなければならないとされています(労働基準法15条1項)。
そのため、残業代の支給についてのルールがこれらの書面に記載されている可能性があります。
雇用契約書や就業規則の規定どおりに残業代が支給されていないとすれば、「名ばかり管理職」となっているおそれがありますので、まずは会社のルールを確認していただければと思います。
タイムカードや給与明細などを確認
会社の規定だけでなく、自身の残業時間を正確に把握することも重要です。
残業時間がはっきりしなければ、正確な残業代の金額が確定できず、残業代が未払いとなっているか否かの判断もつかないためです。
残業時間は、タイムカードや給与明細などで確認することができます。
これらは未払いの残業代を請求する際の根拠資料ともなり得る重要なものですので、証拠として残しておくことをおすすめします。
労働者側の弁護士へ相談
管理監督者に当たるかの判断は法的な専門性を要しますので、なかなかご自身で見極めることは難しいかもしれません。
そのような場合は、労働者側の事件を扱っている弁護士にご相談なさることをおすすめします。
管理監督者に当たるかの判断はもちろんのこと、仮に当たらない場合には未払いとなっている残業代を請求していくことも検討する必要がありますので、法律の専門家である弁護士へ相談することはきわめて重要といえます。
労働者側の事件を多く扱う弁護士であれば、「名ばかり管理職」の問題についても精通していますので、残業代に関してお悩みの場合は、ぜひ労働者側の弁護士にご相談いただければと思います。
労働問題における弁護士選びの重要性については、こちらをご覧ください。
会社側が気をつけるべきポイント
「管理職は残業代なしが当たり前」ではない!
この記事では、次の点を強調してきました。
- 管理職と管理監督者はイコールではない
- したがって、管理職であることを理由に残業代を不支給とすることは違法
弁護士の実感としましても、この点が誤解されているケースが非常に多く、残業代の支給を求める紛争が後を絶ちません。
「管理職は残業代なしが当たり前」どころか、むしろ「管理職であっても残業代を支給するのが当たり前」と言っても過言ではありません。
もしこれまで上記のような誤解をされていたようであれば、これを機にぜひ正しい考え方を身につけていただきたいと思います。
管理監督者性が認められるケースは多くない
労働基準法の管理監督者に該当するということであれば、深夜割増賃金を除き、残業代の支給は不要です。
ただし、管理監督者に当たるための要件は厳しく、実際に認められるケースは必ずしも多くありません。
「経営者と一体的な立場」というレベルが求められていることを考えると、会社の中でも該当する従業員はかなり限られてくるのが実態ではないでしょうか。
管理監督者と認められるためのハードルは非常に高く、しかもその判断は専門性が高く簡単ではありませんので、安易に残業代を不支給としないように気をつけなければなりません。
未払いがあると罰則のおそれがある
管理監督者の理解を誤って残業代の未払いが生じた場合、罰則を科されるおそれがあります。
具体的には、残業代の未払いがあった場合、労働基準法により「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」に処されるおそれがあります(労働基準法119条1号)。
残業代の未払いの全件にこのような罰則が科されるわけではなく、未払い分の残業代を適切に支給することで解決する事案もあります。
しかし罰則が法律に規定されている以上、悪質なケースと判断されれば、刑事罰の対象とされることも十分あり得ます。
罰則には罰金だけでなく懲役も規定されていますので、そうなってくると、問題はもはや金銭だけにとどまりません。
残業代の取扱いを誤るとこのようなリスクがあることをしっかり認識し、残業代の適切な支払いに努めていただきたいと思います。
会社側の労働専門弁護士に相談
もし管理職の残業代について適切に支給できているか不安があるようであれば、会社側の労働専門弁護士に相談することをおすすめします。
ここまでご説明してきたとおり、管理監督者に当たるかの見極めには法令の正確な理解が不可欠です。
会社側の労働専門弁護士であれば、残業代についての相談を受ける機会も多く、管理監督者の考え方について適切な知識を持っていると期待できます。
専門家からの的確な助言を受けることで、安心して事業活動に専念していただけるのではないでしょうか。
労働問題における弁護士選びの重要性については、こちらをご覧ください。
まとめ
この記事では、管理職の残業代について解説しました。
記事の要点は以下のようになりますので、改めてご確認ください。
- たとえ管理職であっても、残業代は全額支給が原則である。
- 労働基準法上の管理監督者に当たる場合、深夜割増手当以外の残業代は支給しなくてよい。
- 管理職と管理監督者はイコールではなく、管理職であることを理由に残業代を支給しないことは不適切である。
- 管理監督者に当たるための要件は厳しく、またその判断も専門性を要することから、労働問題に強い弁護士のサポートを受けることが有効である。
当事務所では、労働問題を専門に扱う企業専門のチームがあり、企業の労働問題を強力にサポートしています。
Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。
管理職の残業代の問題については、当事務所の労働事件チームまで、お気軽にご相談ください。
この記事が、労働問題にお悩みの企業にとってお役に立てれば幸いです。