働き方改革への対応方法とは?【弁護士が解説】
働き方改革の必要性、働き方改革関連法の内容、働き方改革のために取り組むべき施策等について、労働事件に精通した弁護士がわかりやすく解説します。
働き方改革の必要性
日本企業が持続的に成長するために、働き方改革は必須です。
その理由として、まず、人口減少と少子高齢化による労働人口の減少があげられます。
政府の試算によれば、就業者数は現状のままでは2030年には5561万人にまで減少する(2015年の6376万人から約13パーセントもの減少)と見込まれています(総務省「労働力調査」)。
働き手の減少は、人件費の高騰をもたらし、資金繰りを悪化させます。
中小企業ほど、労働人口の減少は深刻な影響を受けると思われます。
実際に、つい最近では、「人手不足倒産」という単語を耳にするようになりました。
次に、日本は労働生産性が低いということが懸念されます。
すなわち、日本は、欧米諸国と比較して就業1時間あたりに生み出す付加価値の量(国内総生産額)が低いと指摘されています。
労働生産性の低さは、日本企業の国際競争力の低さを示唆しています。
また、長時間労働は、社員の健康を蝕みます。
ローマ字で「karōshi」という言葉が英語辞典に掲載されるほど、日本の長時間労働や仕事上のストレスによる過労死は、社会問題化しています。
働き方改革関連法とは
上記のような危機的状況を背景として、2018年の国会(第196回国会)において、働き方改革を推進するための各種改正法が成立しました。
改正の対象となった法律は、労働基準法のほか、雇用対策法、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律等多岐にわたります。
働き方改革関連法とは、これらの改正法の総称です。
改正法の概要は、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する働き方改革を総合的かつ継続的に推進するために、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保等のための措置を講ずるというものです。
これらの法律が企業の労務管理に与える影響は極めて大きいと考えられます。
さらに、企業は法改正に対処するだけでは決して十分とはいえません。
売り手市場の中、企業が持続的に成長するためには、法律を順守するだけでなく、創意工夫をもってダイバーシティ・マネジメントを推進すべきです。
ダイバーシティ・マネジメントとは、これまで採用を控えていた子育て中の女性や高齢者、外国人など多種多様な人材を確保し、生産性の向上につなげていこうとする経営方針です。
働き方改革のために取り組むべき施策
それでは、企業は具体的にどのような施策を行っていくべきか。
以下、働き方改革の主要な取り組みについて解説します。
①長時間労働の是正
長時間労働の是正は、働き方改革の3本柱の一つです。
法改正によって、残業時間はこれまでよりも大幅に制限されることとなります。
②脱時間給(高度プロフェッショナル)制度について
いわゆる高プロは働き方改革の3本柱の一つです。
時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするという目的で制定された新しい制度です。
③同一労働同一賃金への対策
働き方改革関連法案の目玉の一つである「同一労働同一賃金」については多くの方がテレビや新聞、インターネットなど、何らかの媒体を通じてこの言葉に触れていると思います。
しかし、この定義については、明確ではないため、まずは正しく理解することが重要です。
④個の能力を活かす組織体制
企業が持続的に発展するためには、生産性を高めることが不可欠です。
そのためには、労働人口の減少、少子高齢化、労働生産性の低さなどの諸問題を克服して、様々な打ち手によって働き方を改革することが必要です。
しかしながら、国が法律をもって企業に改革を促すことができるのは、その一部にしか過ぎません。
法律は、国家が私人に対して義務を課すものです。
企業には、営業の自由や契約自由の原則が大前提として認められており、法律は、その自由を制限するものです。
したがって、広範囲に立法によって強制することはできません。
また、企業と一口にいっても、そのビジネスモデルや経営環境は様々です。
そのため、具体的な状況下において、各々の企業が取るべき改革の手法は異なってきます。
⑤女性が活躍できる組織体制
労働の中核をなす人口が減少する中、日本が成長を続け、豊かな社会を保つには、ヒトを含めた資源を有効活用し、かつ、これまで以上に生産性を高めていかなければなりません。
そのためには、女性や高齢者の活躍、AI(人工知能)の有効利用、経済のグローバル化など、様々な取り組みが必要です。
また、女性に活躍してもらうためには、そのための社会基盤の構築が前提となります。
例えば、待機児童問題の解消などのためには、国家レベルでの取り組みが必要となります。
しかし、国まかせではいけません。
企業が限られた労働力を獲得し、成長を続けていくためには、適切なマネジメント・システムを構築して、人材を採用し、育成していかなければなりません。
そのために、経営者や人事担当者等は、労働法令やマネジメントに関する基本知識が必要です。
そこで、以下のコンテンツでは、女性の力を発揮するための労務管理やマネジメントのあり方について解説しています。
⑥高齢者の活用
少子高齢化という日本社会の動きは依然として止まらずに進み続けています。
今回の働き方改革においても、高齢者の就業促進について、独立した一つの項目として取り上げられています。
そこでは、年齢にかかわりなく公正な職務能力評価により働き続けられる「エイジレス社会」を実現することが重要であると指摘されています。
高齢労働者をめぐる現行法の規定を確認した上で、今後企業が検討すべき施策について解説いたします。
上記の①から③までの対応策は、企業が今後取り組むべき施策の一部であり、必要最低限のものであると認識すべきです。
④から⑥では、働き方改革をすすめる上で、考えられる様々な施策について、解説しています。
ダイバーシティ・マネジメントを推進するために、法律に加えて経営コンサルティングの視点を付加して解説しています。
各企業におかれては、自社の実情に応じて、導入の是非等について検討していただければと考えています。
関連して以下では、組織において、個の能力を活かすための5つの施策について解説しています。