休職を繰り返す社員にどう対応したらいいですか?
目次
休職を繰り返す社員が会社に与える影響
メンタルヘルス不調を原因として、職場に何度も休職と復職を繰り返す社員がいると、周囲の人もその人の扱いに悩み、結果として職場全体の生産性が下がってしまうことがあります。
休職の原因となったうつ病等のメンタルヘルスの不調を治癒させないままその社員を復職させてしまった場合、またすぐに不調に陥り休職をするという悪循環に陥りかねません。
そのため、会社としても、休職をした社員を復職させるにあたり、そのメンタルヘルスの不調が十分に回復したかを慎重に判断する必要があります。
休職を繰り返させないために会社が取るべき防止策
社員の休職を繰り返させないために、会社としては①復職の判断基準を明確にし、②復職までの手続きを整備することが必要となります。
復職の判断基準を明確にする
業務以外を原因とするメンタルヘルスの不調(傷病)により休職していた社員を復職させるためには、この傷病が「治癒」したといえることが必要となります。
では、どのような状態になれば、「治癒」したといえるのか、労働者の職種や職務が限定されている場合とそうでない場合で判断が異なります。
職種や職務が限定されている場合
社員を採用するにあたり、労働契約上、システム開発や営業のみというように職種や職務を限定する場合があります。
職種や職務を限定して採用された社員がメンタルヘルスの不調に陥り休職した場合、「治癒」したといえるためには、社員の健康状態が「従前の職務を通常程度行える」までに回復していることが必要となります。
参考判例
裁判例においても、治癒とは「原則として従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したときをいう」とされ、その判断基準として従前の業務を通常通りなしうることを挙げています(参考裁判例:千葉地判昭和60年5月31日昭和電工事件)。
原則として従前の職務を通常程度に行える健康状態に回復したこと
従前の業務を通常どおり行える状態となったか
もっとも、長距離トラックの運転手として職種を限定して採用された社員(慢性腎不全で休職)の復職の可否が問題となった事案で、この会社の就業規則上他の職種(作業員)への変更も予定され、社員がこの予定された他の職種でも就労が可能であり、また、トラック運転手としても業務を加減した近距離運転であれば就労可能であったことから、「運転手としての業務を遂行できる」と判断された例もあります(参考裁判例:カントラ事件 大阪高判平成14年6月19日)。
職種や職務を限定された社員の復職の判断においては、労働契約だけでなく就業規則においても職種や職務の変更が予定されていないか、その社員が変更された職種や職務での就労が可能であるかも慎重に判断する必要があるため、注意が必要です。
職種や職務が限定されていない場合
休職している職種や職務が限定されていない社員の復職に際しての「治癒」については、従前の業務のみを基準とすることなく、他の軽易な業務への現実的な配置可能性を踏まえて判断する必要があります。
参考判例
最高裁は、職種や職務の特定がなされていない事案において、労働契約上、労働者が提供すべき労働(債務の本旨に従った労務の提供)にあたるかの判断に関し、「能力、経験、地位、当該企業の規模、業績、当該企業における労働者の配置、異動の実情及び難易に照らして、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお、債務の本旨に従った履行の提供がある」と判示しています。
従前の業務のみならず、他の軽易な業務への現実的な配置可能性があること
能力、経験、地位、当該企業の規模、業績、当該企業における労働者の配置、異動の実情及び難易に照らして、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務での労務の提供が可能であるか
配置可能な業務とは
配置可能な業務に関し、裁判例の判断は分かれています。
労働者が身体障害によって従前の業務を元通り遂行できなくなった場合に、他の業務においても健常者と同様の労務提供を要求すれば、労務提供が可能な業務はあり得なくなるとしたうえで、「能力に応じた職務を分担させる工夫をすべき」であるとして配置可能な業務の範囲をかなり広く解した例(参考裁判例:東海旅客鉄道事件 大阪地判平成11年9月21日)。
大企業の総合職として雇用された労働者が視覚障害となった事例において、復職するにあたりパワーポイント等のソフトを利用しての企画書の作成ができるとのことから、「休職期間満了時点にあっても、事務職としての通常の業務を遂行することが可能であった」とし、総合職として採用されたものについても事務職の職務ができるとして復職させるべきと判断した例(参考裁判例:第一興商[本訴]事件 東京地判平成24年12月25日)。
一方、労働契約において予定された職務とはいえない職務についての遂行可能性があったとしても、それをもって労働者が本来なすべき労務の提供(債務の本旨に従った労務提供)とはいえないとして、復職に際して配置可能な他の職務の有無の判断についても、労働契約で予定されている職種について遂行可能性を検討すべきとする考え方もあります。
商社の「総合職」として採用された労働者の休職からの「復職可能性を検討すべき職種」は「総合職」であり、復職に際しての配置可能な「『他職種』とは、被告の総合職の中で原告が休業前に従事していた(特定の職種)以外の職種を指すと解すべき」であるとして、総合職の中での他職種の遂行可能性の有無を判断すべきとした例があります(参考裁判例:伊藤忠商事事件 東京地判平成25年1月31日)。
配置可能な業務については、慎重な判断が必要となりますので、社員の復職にあたり、配置が可能な職務があるかの判断にあたっては、事前に専門家にご相談されることをお勧めします。
リハビリ勤務制度の活用
メンタルヘルス不調者を復職させる前に、職場復帰に向けたリハビリテーション(リワーク)を行うことがあります。
これは、復職支援プログラムや職場復帰支援プログラムともいい、医療機関や地域障害者職業センター、企業内(職場)で行われることとなります。
会社において、メンタルヘルス不調により休職した社員を復職させるにあたり、軽易な業務から徐々に通常勤務に就かせるリハビリ勤務制度を設けることがあります。
厚生労働省が発表しているガイドラインには、「職場復帰に関して検討・留意すべき事項」のひとつとして「職場復帰前に、職場復帰の判断等を目的として、本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する」ことを挙げ、これを「試し出勤」と称しています。
参考:厚生労働省|心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き
これは、主治医の発行する復職可能の診断書どおりに復職させても再休職が多いという現実に対応する措置として、復職させてから安定した就労ができるのかを見極めることが大きな目的となります。
就業規則の規定の工夫
そもそも私傷病休職制度は、会社の社員に対する解雇猶予措置となります。
復職後まもなくの欠勤の取り扱いについて、就業規則に特段の定めがなければ、新たな休職発令の欠勤期間として扱い、再度の休職の発令が必要となります。
すなわち、休職した社員が復職をすると、その後すぐに欠勤して再び休職したとしても、直前の休職期間と新たな休職期間が通算されることはありません。
会社としてはその社員について、新たな休職期間での治癒を待つことになります。
社員によっては、メンタル不調に陥って休職した後、休職期間満了前に医師の診断書を添えて復職の申し出がなされ、復職させたにもかかわらず、すぐに再び欠勤をして復職と休職を繰り返すというような、休職制度を悪用しているのではないかと疑念を抱かせる事例も生じています。
このような事態は、他の社員への負担や職場のモラル等にも悪影響を及ぼし、休職制度のあり方としても本来の姿とはいえません。
休職制度の設置は、会社が法的に義務付けられているものではなく、会社側の裁量によるものです。
会社が休職制度としていかなる内容を設けるかは、合理的なものであれば自由に設計することができます。
そのため、就業規則の休職制度に関する規定を工夫することで、復職により直後の欠勤が生じても休職期間がリセットされることなく、社員が復職と欠勤を繰り返すという事態を防止する余地があります。
休職制度に関する規定の作成については、専門的な知識が必要となりますので、制度を作るにあたっては、事前に労働事件に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めします。
医師の診断書は重要!しかし鵜呑みにすることでの危険性もある
社員の復職にあたっての「治癒」の最終判断は、会社が行います。
しかし、メンタルヘルスの不調(精神疾患)の場合に復職可能であるかを判断することは非常に難しく、医師の診断が重要な意味を持ちます。
医師の診断を踏まえず、治癒していないとして復職を認めることなく退職または解雇した場合には、退職・解雇が無効となるリスクがあります。
また、医師の診断を軽視し、治癒していないにもかかわらず復職させてメンタルヘルスの不調を悪化させたような場合には、会社側の安全配慮義務違反を問われ、損害賠償責任が生じることもあるでしょう。
主治医と産業医
診断書に関し、主治医と産業医いずれの診断書をもとに復職判断をすべきかについて、決まりがあるわけではありません。
主治医による治癒または復職可能との診断書が提出されたとしても、産業医その他の医師の診断内容があれば、それらも判断材料として復職の可否を判断すべきです。
また、主治医と産業医の判断がわかれた場合(主治医は「復職可能」、産業医は「復職不可」)には、個別の事案ごとに、産業医の専門性やその社員に対する主治医や産業医の関与の程度を総合的にみて、いずれの意見を採用するかを決定すべきでしょう。
主治医の診断書のメリット・デメリット
主治医は、休職した社員のメンタルヘルスの不調を継続的に診察してきたものであり、病状については詳しいといえます。
一方、その社員の職務内容や職場の状況を熟知しているわけではなく、ときには業務を踏まえない診断をしていたり、その社員の言動を踏まえずに診断がなされているなど、診断書の内容に疑問が残るものもあります。
主治医の診断書の内容は、病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、その職場で求められる業務遂行能力まで回復しているか否かの判断とは限りません。
また、社員や家族からの「復職したい」、「復職できます」などの強い希望を受けて、その意向どおりの診断書が作成されることもあるでしょう。
参考:厚生労働省|心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援手引き
産業医の診断書のメリット・デメリット
産業医は、労働安全衛生法上、健康診断の実施や作業環境の維持管理、作業の管理、労働者の健康管理等の職務を行うものとされることから(労安法13条、労安則14条)、職場の状況等を把握しているものと考えられます。
しかしながら、産業医の現実として、専属産業医であることは少なく、産業医の多くは外部の嘱託産業医となっています。
そのため、産業医であるからといって、必ずしも職場の状況等を把握しているとはいえないのが実情でしょう。
退職させる・解雇することはできる?
私傷病による休職の場合、休職期間を満了しても「治癒」しない場合には、就業規則の定めにより退職または解雇をすることとなります。
メンタルヘルスの不調による休職も、業務によって発症したものではない場合は私傷病のひとつであり、休職期間が満了しても復職ができないときは、就業規則の定めに従い、退職又は解雇となります。
一方、業務に起因して発症したメンタルヘルスの不調は、私傷病休職規定の適用はありません。
この場合は、業務上災害として労基法19条(解雇制限)の規制を受けるため、療養のための休業期間中及びその後の30日間は解雇(退職)が禁止されることとなります。
復職後の社員の管理
メンタルヘルスの不調により休職した社員を復職させた後、会社としていかなる管理を行うべきでしょうか。
復職直後はストレスがかかりやすい時期!状況を報告させる
復職するにあたっては、実際に仕事をすることができるのか、他の社員たちと上手く関係性を築けるか、体調が悪くならないかというような復職に対する不安を抱えながら、休職していたときとは異なる生活環境に置かれることになります。
そのような時期に周囲のサポートがなければ、その社員がメンタルヘルスの不調を再発させることも十分に考えられます。
そのため、会社としては、その社員に状況を報告させて心身の健康状態の把握に務めるべきです。
定期的に声をかけ、社員の健康状態に留意する
また、会社は自発的に社員の健康状態を把握するよう務めるべきです。
そのため、上司等は定期的にその社員に声をかけて面談を行うなどして社員の状態を把握するようにしましょう。
状況次第では配転などを検討する
職場復帰にあたり、まずはもとの職場へ復帰させることが原則となります。
しかし、社員の病態やもとの職場における業務の内容・量などからみて、その社員の心身への負担が大きかったり、上手く適応ができていないなどの状況が生じた場合には、その社員本人や職場、産業医の意見等を十分に聴き取った上で、配置転換を検討する必要があるでしょう。
まとめ
以上、休職を繰り返す社員の対応について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
会社としてはメンタルヘルスの不調者を出さないことが一番ですが、社員それぞれの生活や生活状況、人間関係が存在しており、メンタルヘルスの不調による休職を防止することは困難です。
現代社会において、メンタルヘルスに不調を抱えて休職する社員は多くいます。
会社としてそのような社員の復職をサポートしつつ、休職を繰り返すことを防止する対策をとることで、人員を確保し、結果として会社の生産性を向上させることに繋がるでしょう。
メンタルヘルスに不調を抱えた社員への対応は、専門的な知識が必要となります。
現在お困りの方だけでなく、今後のリスクを軽減させたいと考えている方も、労働事件に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。