業務外の理由でメンタル不調の労働者の解雇は認められますか?
業務外の理由でメンタル不調に陥った労働者の対応に困っています。会社としては解雇したいのですが、解雇は認められますか?
私傷病による職務不能の場合であっても解雇には慎重な判断が必要です。特に精神不調者については配慮が必要とされます。
私傷病による職務不能と解雇
労働基準法は、「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間(中略)は、解雇してはならない。」と規定しています(労基法19条1項柱書)。
本条は、労働者が業務上の負傷・疾病の場合の療養を安心して行うために使用者の解雇禁止を定めたものです。
ここでいう「業務上」とは、当該企業の業務により負傷し、又は疾病にかかった場合をいい、業務とはまったく関係がない私傷病は含まれません。
では、労働者が私傷病によって職務不能となっている場合、解雇できるのかが問題となります。
労働者は、使用者に対して、雇用契約上、労務を提供する義務を負っています。これに対して、使用者は賃金を支払う義務があります。
このような契約当事者の一方が自らの義務を履行しない場合、契約自由の原則からすれば、契約を解除できるように思えます。
しかし、解雇については、労働者保護の観点から、労働契約法において、この契約自由の原則が修正されています。
すなわち、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効」となります(労契法16条)。
また、障害者雇用促進法は、事業主に対して、心身の障害をもつ労働者への合理的な配慮を義務付けています(同法5条)。
したがって、心身に障害をもつ労働者の場合、障害の内容に応じた合理的な配慮を行うことで雇用を維持できるような場合、解雇は労働契約法16条に違反し、無効と考えられます。
このようなことから、メンタル不調者に対する解雇は、特に慎重に判断すべきです。
参考裁判例
近年、被害妄想のメンタル不調に陥った労働者に対する長期無断欠勤を理由とした諭旨解雇について、精神科医の診断を得て休職すべきだったとして無効と判断した最高裁判決を紹介します。
【日本ヒューレット・パッカード事件、最二小判平24.4.27労判1055号5頁】
【事案の概要】
会社の従業員である労働者が、加害者集団から職場の同僚らを通じて嫌がらせの被害を受けているとして有給休暇を取得して出勤しなくなり、有給休暇を全て取得した後も約40日間にわたり欠勤を続けたところ、就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤があったとの理由で諭旨退職の懲戒処分を受けたため、会社に対し、上記欠勤は正当な理由のない無断欠勤には当たらず懲戒処分は無効であるとして、雇用契約上の地位を有することの確認と賃金等の支払を求めた事案。
【判決の概要】
従業員が、被害妄想など何らかの精神的な不調のために、実際には事実として存在しないにもかかわらず、約3年間にわたり盗撮や盗聴等を通じて自己の日常生活を子細に監視している加害者集団が職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほのめかし等の嫌がらせを行っているとの認識を有しており、上記嫌がらせにより業務に支障が生じており上記情報が外部に漏えいされる危険もあると考えて、自分自身が上記の被害に係る問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨をあらかじめ使用者に伝えた上で、有給休暇を全て取得した後、約40日間にわたり欠勤を続けたなど判示の事情の下では、上記欠勤は就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たるとはいえず、上記欠勤が上記の懲戒事由に当たるとしてされた諭旨退職の懲戒処分は無効である。
実務上の留意点
近年、メンタルヘルス問題は社会的にクローズアップされています。業務上の精神疾患はもちろん、私傷病の場合であっても、解雇は容易ではないことを使用者は認識すべきです。
また、メンタルヘルス問題は、不調者本人だけではなく、上司、同僚、部下など周囲の従業員も対応に苦慮するため未然防止が重要です。
普段から従業員の心情把握に努め、従業員がメンタル不調となった場合は主治医等と連携し、重症化を防止していくべきです。
解雇・退職問題については、労働問題に詳しい専門家にご相談ください。
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