謹慎処分(自宅謹慎)とは?謹慎中の給与や期間について解説
謹慎処分(自宅謹慎)とは
自宅謹慎と自宅待機は何が違うの?
自宅謹慎や出勤停止、自宅待機と呼ばれるものは、以下の2種類に分けられます。
内容 | 根拠の要否 | 賃金の支払の要否 | |
---|---|---|---|
懲戒処分としての出勤停止 |
|
|
賃金の支払は不要 |
業務命令としての出勤停止 | 出勤停止・自宅待機が業務上必要となった場合に行う業務命令 | 就業規則上の根拠がなくても命じることが可能 | 賃金の支払は原則として必要 |
会社において、「ある労働者が謹慎処分になった」、あるいは「出勤停止になった」、「自宅謹慎になった」、「自宅待機になった」という場合には、その文言にかかわらず、その扱いとなった理由や取扱いの内容により、上記の2種類のうちのどちらかに該当することとなります。
労働者が何らかの問題行為を行い、その結果、謹慎処分(自宅謹慎、出勤停止)となったという場合、ここでいう謹慎処分(自宅謹慎、出勤停止)は、一般的に、就業規則を根拠とした懲戒処分を行ったものであると考えられます。
就業規則上には、懲戒の種別として、「出勤停止」や「謹慎」として、規定されていることが多いと考えられます。
この懲戒処分としての出勤停止とは、労働者が企業の秩序を乱す行為を行った場合に、制裁として行う懲戒処分の一種であり、労働契約を維持したまま、一定期間、就労を禁止するという内容の処分です。
後ほど詳しくご説明するとおり、懲戒処分としての出勤停止の期間については、賃金が支払われないのが通常ですので、労働者に大きな影響を与える、懲戒処分の中でも重い処分の部類に入ります。
懲戒処分について詳しくはこちらをご覧ください。
一方、労働者の出勤を禁じ、自宅に待機して業務に従事しないことを命じる業務命令として、「自宅待機」や「自宅謹慎」、「出勤停止」が命じられることがあります。
これは、懲戒処分としての出勤停止が制裁として行われるのとは異なり、業務上、必要がある場合に行われます。
業務上の必要なく発せられたり、他の不当な動機・目的をもって発せられたような場合は、使用者のもつ裁量権を超え、これを濫用するものであって、その業務命令は無効となると考えられます。
そして、自宅待機命令がどのような場合に無効となるかは、その命令の業務命令としての必要性、動機・目的、命じられる労働者に与える影響の程度などを総合的に考慮して判断されることとなります。
業務命令として出勤停止を命じることが考えられる場合とは、たとえば、問題行為が疑われる労働者に対して、調査や処分内容の決定までの間、自宅待機を命じる場合や、経営上の理由で業務ができない場合に自宅待機を命じる場合、感染症等により自宅待機を命じる場合などがあります。
参考:東京高判平成24年1月25日|労働基準判例検索 全情報
このように、自宅待機や自宅謹慎といった言葉の意味が、明確に区別されて使用されているとはいえませんが、「謹慎」という言葉には、処罰的な意味合いがあることから、「謹慎」、「自宅謹慎」というと、一般的には、懲戒処分としての出勤停止を指すことが多く、「自宅待機」というと業務命令を指すことが多いと思われます。
懲戒処分としての出勤停止と、業務命令としての出勤停止とでは、その性質が全く異なり、服する規制も異なります。
外出禁止などのルールを設けることはできる?
懲戒処分としての出勤停止の場合
自宅謹慎が、懲戒処分としての出勤停止を指すことがあることは、上記でご説明したとおりですが、実際に、懲戒処分としての出勤停止において、就労を禁止することを超えて、自宅で謹慎すること、すなわち「外出しないこと」を義務付けることができるかというと、これは難しいと考えられています。
したがって、処分の対象となった労働者が外出していたことをもって、何らかの不利益処分をすることはできません。
もっとも、出勤停止処分の期間中に、労働者が、アルバイトをしていたというような場合には、就業規則上、兼業禁止の規定があれば、その行為について別途、処分を行うことができる可能性はあります。
ただし、兼業禁止の規定といっても、そもそも、あらゆる兼業や副業を禁止できるというわけではないということには注意が必要です。
会社が規定している労働時間以外の時間を、労働者が何に使うかは、基本的に自由であると考えられるからです。
兼業や副業の禁止が認められるのは、①会社での労務提供に格別の支障を生じさせる場合、②業務上の秘密が漏洩する場合、③競業となる場合、④会社の社会的信用や名誉を侵害する行為や信頼関係を破壊する行為がある場合と考えられています。
したがって、就業規則上、兼業を禁止しており、出勤停止期間中に、上記に当てはまるような兼業や副業を行っていたとすれば、そのことを理由に、新たに懲戒処分を行うことができる可能性があると考えられます。
業務命令としての出勤停止の場合
業務命令としての「自宅待機」、「出勤停止」である場合、外出禁止の業務上の必要性が認められれば、勤務時間内における外出の禁止を命じることが許容される場合もあると考えられます。
たとえば、外出を認めることにより、証拠隠滅のおそれが存在するなどの理由がある場合が考えられます。
業務命令としての出勤停止について、外出禁止を命じることが許容されるかどうかは、外出禁止を命じる必要性の程度や、外出禁止が本来の勤務時間内に限られているかどうかや、賃金が支払われるかどうかなどといった、労働者が特に不利益を受けるものでないかなどが考慮されることとなるでしょう。
謹慎処分中の社員へ給料を払うべきか
懲戒処分としての出勤停止処分の場合
賃金は、労働の対価として支払われるものですから、労働していない時間について、賃金は発生しないのが原則です(これをノーワーク・ノーペイの原則ということがあります)。
例外的に、労働ができなかったことについて、使用者に責任があるという場合には、賃金の支払が必要となる可能性があります。
懲戒処分としての出勤停止処分は、問題行為を行った労働者への制裁として行われるものですから、出勤停止期間中に労働ができないことは、労働者に責任があると考えられます。
したがって、通常は、処分の対象となった労働者に対して、出勤停止期間中の賃金を支払う必要はありません。
労働した時間に対し、本来支払われるべき賃金から減額するという、懲戒処分としての減給処分とは異なるため、その減給額の上限を定めている労働基準法91条の規定は、懲戒処分としての出勤停止処分によって減る賃金に対しては、適用されません。
懲戒処分としての減給処分の減給額の上限の考え方については、こちらを参考にされてください。
出勤停止処分中の有給休暇の使用について
出勤停止の期間中に、労働者が有給休暇を取得することは許されるでしょうか。
有給休暇は、労働者に労働義務が課されている日について、取得できるものです。
懲戒処分としての出勤停止は、就労を禁止するものですから、出勤停止期間中、労働者は労働義務を負いません。
したがって、懲戒処分としての出勤停止期間中に、労働者が有給休暇を取得することはできません。
ですから、会社は、出勤停止処分の対象となった労働者から、出勤停止期間中のある日のついて、有給休暇を取得したいと申出があったとしても、応じる必要はありません。
業務命令としての出勤停止の場合
業務命令としての出勤停止については、原則として、賃金の支払が必要であると考えられます。
もっとも、自宅待機を命じた労働者に対して、賃金の支払が必要かどうかについては、就業規則や労働契約上の根拠規定の有無や、出勤停止を命じなければならない状況となった理由が使用者の責任であるかなど、個々の場合に応じて検討すべき点があります。
問題行為の調査のため自宅待機を命じた場合
たとえば、ある労働者の問題行為の調査および処分の内容の決定のため、その労働者に自宅待機を命令する場合、この自宅待機は懲戒処分ではなく、会社の責任において、調査することが必要なため自宅待機を命ずるものであるので、原則として賃金の支払が必要となります。
暴力行為を理由に自宅謹慎(業務命令としての出勤停止)と懲戒解雇処分を受けた事例で、自宅謹慎期間中の賃金を支払わなかったことについて、「使用者は当然にその間の賃金の支払義務を免れるものではない」として、労働者を就労させないことにつき、不正行為の再発、証拠隠滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由が存するか、これを実質的な出勤停止処分に転化させる懲戒規定上の根拠が存在することが必要であるとの考えを示し、そのような理由、規定が存在しないことから、賃金の支払が必要と判断した裁判例があります。
参考:名古屋地判平成3年7月22日|労働基準判例検索 全情報
ただし、就業規則において、懲戒処分を行う前段階としての調査や処分決定のために、平均賃金の6割(休業手当と同額)を支払うこととして自宅待機を命じることができるとした規定や、無給の自宅待機を命じることができるとした規定を有効と判断している裁判例があります。
このように、就業規則上、懲戒処分の前段階として、問題行為の事実の調査や処分決定のために、賃金を支払わないで(または平均賃金の6割を支払って)自宅待機を命じることができると規定されている場合には、自宅待機の期間中、賃金を支払わないこと(平均賃金の6割の支払で済むこと)が許される可能性があります。
もっとも、賃金を支払わないで自宅待機を命じられるといっても、自宅待機を命じられる期間は、使用者が恣意的に決められるものではなく、調査や処分決定を行うための合理的な期間である必要があると考えられますから、不当に長期とならないよう注意する必要があります。
謹慎処分の期間はどれくらい?
出勤停止の期間の上限については、法律に規定はありません。
しかし、懲戒処分としての出勤停止処分の期間について、行政解釈によれば、「公序良俗(こうじょりょうぞく)の見地より当該事犯の情状の程度等により制限のあることは当然である」(昭和23年7月3日基収2177号)とされています。
つまり、出勤停止の期間は、問題行為の重大性と比較して、社会通念上相当な期間であることが求められます。
そもそも懲戒処分は、問題行為の重大性と均衡のとれた処分を選択する必要があります。
したがって、仮に出勤停止処分の有効性が争われた場合、裁判所は、その有効性を判断する際、問題行為の重大性と均衡のとれた処分といえるかを検討することになります。
その検討の中で、問題行為の重大性と比較して相当な期間であるかどうかについても考慮されることとなると考えられます。
そして、問題行為の重大性に比して、出勤停止期間が長すぎるという場合には、出勤停止処分が無効と判断されてしまう可能性があります。
謹慎処分になるケース
懲戒処分としての出勤停止となる場合としては、たとえば以下のような場合があります。
①無断欠勤、正当な理由のない欠勤・遅刻・早退などの勤怠不良
②過失により会社に損害を与えた場合
③就業規則に違反する行為を行った場合
④セクハラやパワハラを行った場合
⑤業務命令に従わなかった場合
労働者がどのような行為を行った場合に、出勤停止処分となるかは、あらかじめ就業規則に記載しておく必要があります。
したがって、個々の会社において、どのような場合に出勤停止処分となるかを確認するためには、就業規則をチェックすることとなります。
もっとも、懲戒処分は、上記でもご説明のとおり、問題行為の重大性と均衡のとれた処分である必要がありますから、就業規則上、出勤停止処分を行うことのできる場合として規定されていても、その問題行為の内容や性質、会社に与えた影響の大きさの程度などによっては、出勤停止処分では重すぎるという場合もあり、その場合には、より軽い処分を検討する必要があります。
出勤停止処分より軽い処分としては、けん責、戒告(かいこく)、減給等がありますが、どの処分を行うことができるかについては、個々の会社において、就業規則を確認してください。
また、就業規則の規定によっては、懲戒解雇や諭旨解雇(ゆしかいこ)ができる事由を定めた上で、情状によって、出勤停止処分とすることがあるとの規定をしている可能性もあります。
出勤停止処分を有効とした判例として以下のようなものがあります。
判例 最判平成27年2月26日
会社の管理職である男性従業員2名が、同じ部署で働いていた女性従業員らに対して、職場において性的な内容の発言等によるセクハラを行ったことを理由に、それぞれ30日、10日の出勤停止の懲戒処分をした事例において、最高裁は、これを有効と判断しています。
懲戒処分としての出勤停止の流れ
懲戒処分としての出勤停止処分を行う際には、以下の流れで実施を検討されるとよいでしょう。
①問題行為の調査
労働者に対して、懲戒処分としての出勤停止処分を行いたいと考えた場合、まずは、その理由となる問題行為について、十分に調査し、証拠の収集を行う必要があります。
調査や証拠の収集が十分でないと、出勤停止処分をした後、労働者から出勤停止処分が無効であると争われた場合に、出勤停止処分の理由となった問題行為の事実が証明できず、出勤停止処分が無効であると判断されてしまう可能性があります。
たとえば、勤怠不良の場合には、タイムカードなどが証拠となり得ます。無断欠勤などの場合には、日々の指導記録をメールや書面などで残しておくようにすると、これらが証拠となり得ます。
また、セクハラ・パワハラなどの場合には、被害者や周辺の者への聞き取り調査などが必要となるでしょう。聞き取り調査を行った場合には、聞き取った内容を書面にしたうえ、聞き取り対象者から署名捺印をもらっておくとよいでしょう。
なお、当事務所では、事情聴取のための雛形をホームページ上に公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。懲戒処分等をご検討されている方はぜひご活用ください。
また、問題行為の調査とあわせて、同一の行為について、過去に、懲戒処分を行ったことはないかについても確認しておきましょう。
②就業規則の確認
上記でもご説明のとおり、出勤停止処分を行うためには、就業規則上に懲戒処分として出勤停止処分ができる旨が、あらかじめ規定されている必要があります。
したがって、まずは就業規則に出勤停止処分を行うことができるという規定が存在するかについて確認しましょう。
そのような規定がない場合には、出勤停止処分を行うことはできませんから、別の処分をすることができるかの検討に移ることとなります。
出勤停止処分を行うことができるという規定があることを確認した上で、続いて、今回の問題行為が就業規則に記載されている「出勤停止処分を行うことができる事由」に該当するかどうかを検討します。
①で行った調査や収集した証拠をもとに、今回の問題行為が、就業規則記載の「出勤停止処分を行うことができる事由」に該当すると判断した場合には、問題行為の重大性に対して相当と考えられる出勤停止の期間を検討しましょう。
このとき、就業規則に期間の上限が定められている場合は、これを超えないようにしましょう。
③懲戒処分を行う際の手続について確認する
就業規則や労働協約において、懲戒処分を行う際の手続について定められていないかを確認しておく必要があります。
たとえば、就業規則において、懲戒処分を行う場合には懲戒委員会(賞罰委員会、懲罰委員会)を開いて審議すると規定されていることがあります。
また、労働組合がある会社では、労働協約で、懲戒処分を行う場合には事前に労働組合と協議することが定められていることがあります。
上記のような規定がある場合、その規定に従って適切に手続を行わないと、出勤停止処分が無効となってしまう可能性があります。
④弁明の機会の付与
出勤停止処分に先立って、労働者に弁明の機会を与える必要があります。
「弁明の機会を与える」とは、労働者本人の言い分を聞く機会を設けるということです。
これを行わなかった場合、出勤停止処分が無効と判断される可能性がありますので、適切に行っておく必要があります。
具体的な方法としては、一定の期間内に言い分を提出するよう求める書面を交付することが考えられます。
これにより、弁明の機会を付与したことを証拠に残すことができます。
なお、弁明の機会を与えることで足りますので、実際に労働者本人が言い分を出さなかったとしても、有効な出勤停止処分をすることは可能です。
⑤処分の可否の検討
労働者の言い分を踏まえて、出勤停止処分をすることが法的に問題ないかどうかを最終的に検討します。ここで、特に注意して検討すべきなのは、以下の点です。
懲戒処分は、問題行為の重大性と均衡のとれた処分である必要があります。
問題行為の重さに比して、出勤停止処分が重すぎる処分であると判断されれば、当該出勤停止処分は会社が懲戒権を濫用したものと判断され、無効となってしまう可能性がありますので、注意が必要です。
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
引用元:労働契約法|電子政府の窓口
また、会社における過去の処分事例と比較してみることも重要です。
たとえば、過去に他の労働者の同様の問題行為につき、戒告処分やけん責(けんせき)処分、減給処分など、より軽い処分を科すにとどまっていたにもかかわらず、今回問題となっている行為についてのみ出勤停止処分を行うとすると、公平性に欠けるため、相当でない処分として無効と判断される可能性があります。
したがって、過去の事例と比べて、今回が過度に重い処分となっていないか確認しておく必要があります。
⑥出勤停止処分通知書の交付
上記の検討を終え、出勤停止処分を行うと判断した場合には、出勤停止処分通知書を作成し、労働者に交付することとなります。
出勤停止処分通知書には、以下の内容を記載します。
- 出勤停止処分を行うこと(懲戒処分の種別を特定)
- 問題となっている行為の具体的内容
- 問題となっている行為が、就業規則上どの条項に該当する行為であるか
問題となっている行為の具体的内容に関しては、調査の結果、証拠に基づいて裏付けられた事実を記載するようにし、就業規則上、出勤停止処分を行うことができる事由に該当することがわかるように、行為を具体的に特定するようにします。
上記の内容をどのように記載するかは、懲戒処分通知書(停職)の雛形をご参考にされてください。
まとめ
以上のように、「出勤停止」、「自宅謹慎」といっても、懲戒処分としての出勤停止であるのか、業務命令としての出勤停止であるのかによって、就業規則上の根拠の要否や、賃金の支払の要否など、さまざまな違いがあります。
懲戒処分としての出勤停止を行う場合には、出勤停止期間中、賃金の支払が不要であることから、労働者が受ける不利益も大きくなりますので、懲戒処分の中では重い部類の処分であり、出勤停止処分の有効性が争われるケースも多いです。
また、業務命令としての自宅待機を命じる場合でも、そのような業務命令を出すこととなった理由や就業規則上の根拠の有無によって、賃金の支払の要否が変わることもあり、一概に判断することが難しくなっています。
賃金の支払が必要であるケースにおいて、誤って賃金の支払をしないという対応を取ってしまえば、裁判等で争いになり、会社にとっても大きな負担となり得ます。
また、懲戒処分の前段階として、調査や処分内容の決定のために命じることのある自宅待機は、業務命令ですが、懲戒処分としての出勤停止と混同されてしまうこともあり、注意が必要です。
懲戒処分としての出勤停止を行いたいと考えている場合や、業務命令としての自宅待機を命じたいが、賃金の支払の要否などで悩まれている場合には、早期に労働問題に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。