譴責(けんせき)とは|意味や処分の内容、出世への影響など
譴責(けんせき)とは、懲戒処分の一種で、一般的には懲戒処分の中の軽い処分に位置づけられます。
労働者が非違行為を行った場合に、始末書を提出させたうえで、改善を求め将来を戒める懲戒処分になります。
譴責処分は軽めの処分とはいえ、懲戒処分ですから、合理性と相当性がない場合には無効となるため注意が必要です(労働契約法15条)。
このページでは、どういった場合に譴責処分ができるのか、譴責処分を出すときの注意点など弁護士が詳しく解説します。
目次
譴責(けんせき)とは
譴責とは、懲戒処分の一種で、一般的には懲戒処分の中の軽い処分に位置づけられます。
労働者が非違行為を行った場合に、始末書を提出させたうえで、改善を求め将来を戒める懲戒処分になります。
似たような懲戒処分として、「戒告(かいこく)」というものもありますが、戒告との違いは、譴責が始末書の提出を求めるのに対し、戒告の場合、一般的には始末書の提出を伴いません。
譴責にしても戒告にしても、将来を戒めるにとどまることから、懲戒処分の中では軽い部類になります。
経済的な制裁もありませんし、出勤を禁じられるなどの効果もありません。
会社によっては、最も軽い処分が、譴責の会社もあれば、戒告の会社もありますが、多くの会社が就業規則に、戒告又は譴責のいずれか(又は両方)の規程を置いています。
譴責の読み方と意味
譴責は「けんせき」と読みます。
広辞苑では、「過失などをきびしくとがめせめること。」と解説されています。
譴責処分とは
懲戒処分の中での譴責処分の位置付け
一般的には、懲戒処分の中で、譴責は軽い懲戒処分になります。
会社によっては、最も軽い懲戒処分が譴責であることも多いです。
訓告、訓戒、譴責、厳重注意等との違いは?
譴責にせよ、戒告にせよ、労働基準法で用いられている用語ではありません。
そのため、会社によっては、就業規則上、譴責や戒告ではなく、訓告、訓戒という表現になっているかもしれません。
違いについて疑問に思われるでしょうが、結論からいうと、訓告、訓戒と戒告は、表現の問題であり、内容に違いはないと理解して差し支えありません。
そして、それらと比べ、譴責は始末書の提出を伴う点が特徴的です。
会社がどの表現を使っているかは、就業規則を確認しましょう。
なお、厳重注意というのは、懲戒処分を行う前になされる指導という位置付けです。
この場合、いきなり懲戒処分を行うのではなく、まずは、厳重注意で指導し、改善が見られない場合に、懲戒処分を行うということになります。
懲戒処分は、労働者に不利益を課すことになるため、適正手続に則ることが重要なので、厳重注意を行ったうえで改善がない場合に懲戒処分を行うということが推奨されます。
懲戒処分 | 始末書の提出 | |
---|---|---|
戒告、訓告、訓戒 | ○ | × |
譴責 | ○ | ○ |
厳重注意 | × | × |
どういった場合に譴責処分ができるのか
では、どのような場合に譴責処分ができるのでしょうか。
譴責とは、懲戒処分のなかで、軽めの処分になります。
そのため、就業規則に違反した行為があれば、広く、譴責の対象となります。
例えば、以下のような場合になされることが多いです。
- 欠勤や遅刻などの勤務態度が不良の場合
- 業務命令に反した場合
- 軽度のハラスメントがなされた場合
- 身だしなみの規定に違反する場合
- 業務とは関係ない軽微な私生活上の非違行為
もちろん、軽めの処分とはいえ、懲戒処分ですから、労働契約法15条の適用があり、合理性と相当性がない場合には無効となります。
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
そのため、懲戒処分に先立ち、まずは口頭又は文書での厳重注意や指導を行う方が穏当です。
しかし、厳重注意や指導にもかかわらず改善が見られないというようであれば、譴責処分を行って構いません。
譴責処分は、雇用契約が続くことを前提に将来を戒め反省を促すものですから、従業員に与える不利益は比較的軽いといえます。
そのため、たとえ、譴責処分の有効性が争われたとしても、就業規則上の懲戒処分事由があれば、広く有効と判断されることが多いです。
譴責処分を行うための2つの要件
上で解説したとおり、懲戒処分を行うためには「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」がなければなりません(労働契約法15条)。
では、どのような場合にこの要件を満たすのでしょうか。
ここではこの2つの要件を掘り下げて解説いたします。
客観的合理性の要件
客観的合理性とは何でしょうか。
とても抽象的でイメージしにくいかと思います。
この要件を会社に説明する際、筆者は経験上「就業規則に記載されている懲戒事由該当行為を行ったとき」と説明しています。
すなわち、懲戒処分を行うには、原則としてその根拠となる就業規則が必要です。
例えば、以下のような規程があったとします。
第⚫条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、譴責又は減給とする。
① 正当な理由なく無断欠勤をしたとき。
② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
③ 過失により会社に損害を与えたとき。
④ 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
この場合に、上記該当する行為を従業員が行ったとき、基本的に客観的合理性があると考えます。
社会通念上の相当性の要件
次に、社会通念上の相当性とは何でしょうか。
これは、問題行動とそれに対する懲戒処分のバランスが取れていることと考えます。
例えば、1回の遅刻に対し、懲戒解雇は明らかに重すぎです。
これに対し、無断欠勤を行った従業員に対し、譴責処分程度であれば通常は問題ないと考えられます。
譴責処分は懲戒処分の中では比較的軽い処分です。
したがって、就業規則の根拠があれば、「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」の要件をクリアできる場合がほとんどといえるでしょう。
譴責になると出世や賞与に影響する?
昇給、賞与(ボーナス)への影響は?
会社は、譴責処分を受けた従業員の昇給を遅らせたり、賞与(ボーナス)を減らしたりすることは可能なのでしょうか。
結論からいえば、可能です。
というのも、会社には人事権があるためです。
人事権は、従業員に対して業務内容や配転や出向、昇進、降格といった発令を出せる権利のことです。
会社には、従業員の地位の変動や処遇に関し決定権限がありますが、昇給や賞与というのは、まさに処遇に関することですから、会社は人事権を行使し、譴責処分を受けたという事実によりマイナス査定を行うことが可能なのです。
もっとも、処分の程度に見合わないほど不当に昇給を遅らせたり、賞与におけるマイナス査定を行ったりすると、それは権利の濫用として無効になる可能性がありますので、注意してください。
どの程度マイナス査定を行えば権利の濫用となるかは具体的な状況によって異なります。
また、適切に判断するためには労働問題に対する専門知識が必要となります。
そのため、できるだけ労働問題に詳しい弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
退職金への影響は?
譴責処分を理由に、退職金を不支給とすることはできるのでしょうか。
結論としては、不可です。
譴責は、雇用関係の維持を前提に、将来を戒め反省を促す懲戒処分ですから、それを理由に退職金を不支給とすることはできません。
ただし、多くの会社の退職金規定は、在職時の地位や給与のランクをポイントにし、それに勤続年数をかけるという算出方法をとっています。
そのため、譴責処分を受けた事実をもとに、人事権を行使し昇給を遅らせれば、結果的に退職金が減る方向に作用するということはありうるでしょう。
この場合も、前述したとおり、不当に昇給を遅らせると、それが人事権の権利の濫用として争われる可能性がありますので、その点はご注意ください。
転職への影響は?
譴責処分を受けた従業員は、転職をする際に、履歴書に記載することは必要なのでしょうか?
この点、明確な裁判例はありませんので、譴責処分の目的に遡って考えることが有用です。
譴責処分の目的は、従業員に問題行動についての反省を促し、改善を期待することです。
すなわち、解雇とは異なり、雇用関係が続くことを前提とした懲戒処分です。
譴責が雇用関係の存続を前提とした内部的な処分であるという点を重視すれば、譴責処分を受けたことを履歴書に書く必要性まではないといえそうです。
したがって、転職に与える影響は基本的にはないと言えるでしょう。
ただし、例外も考えられます。
例えば、元の会社A社から従業員Xが譴責処分を受け、現在、B者への転職を希望しているとします。
ここで、何らかの方法でB社がXの譴責処分を知ったとします。そうすると、B社はXの転職を拒否する可能性もあります。
B社がXの譴責処分を知る方法としては次のようなものが考えられます。
譴責処分を出す時の注意点
譴責処分に従業員が不満を抱いたとしても、譴責処分のみで、裁判になることはあまりないのが実情です。
その理由は、懲戒無効を争うコストが、弁護士費用等を含めてあまりにも高く、争うメリットが少ないことがあげられます。
しかし、例えば、譴責処分を行ったが、従業員に改善がみられず、問題行動が続くことを理由に普通解雇を行ったとします。
普通解雇は、従業員にとっては、一大事ですから、その処分が無効であるとして争われることは珍しくありません。
その際に、前提となった譴責処分の有効性が争われることになります。
譴責処分が合理性と相当性がない場合は、労働契約法15条により、その処分は無効となります。
前提となる譴責処分が無効であれば、前提を欠くため、普通解雇は認められません。
また、譴責処分をされた従業員がユニオン(合同労組とも呼ばれています。)へ加入するケースは散見されます。
この場合、ユニオンから会社に対し、団体交渉の申し入れがなされます。
すると、会社はこの団体交渉に応じなければならなくなり、長期的な紛争に発展する可能性懸念されます。
そのため、譴責処分であっても、その処分が法的に有効なものかをきちんと検討しなければ、後で痛い目に遭うことになります。
譴責処分の流れ
有効に譴責処分を行うための、手続の流れをご説明いたします。
①就業規則の規定上の懲戒事由にあたることを確認する
譴責といえど、懲戒処分ですから、従業員にペナルティを与えるものです。
したがって、他の懲戒処分と同じく、就業規則で定められた懲戒事由に該当することが、最低限必要となります。
処分を受ける従業員の行動が譴責処分の対象として規定されていれば、次のステップに進みます。
②弁明の機会を与える
譴責処分を有効にするためには、適正手続も重要です。
具体的には、従業員に対し、弁明の機会を与えましょう。
その弁明が妥当かどうかは、証拠に照らして客観的に判断し、そのうえで、弁明が通らないという場合には、譴責処分を行うことが可能です。
なお、従業員が事実を認めていない場合には、より一層、争われることに備えて、証拠を押さえておきましょう。
例えば、遅刻や無断欠勤が原因で譴責処分を行うという場合、タイムカード等の勤怠管理記録が証拠になりますし、業務命令違反という場合、業務命令通知書やヒアリングを行った際の議事録や録音データが証拠になります。
また、このとき、従業員から聞き取った結果を事情聴取書として書面化しておくと、トラブル防止に役立ちます。
なお、当事務所では、事情聴取書の雛形・書き方をホームページ上に公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
ぜひ参考にしてください。
③譴責処分の通知書を出す
実際に、譴責処分を行う場合には、必ず、通知書を作成し、交付することが重要です。
というのも、前述したとおり、譴責処分はそれ自体は軽い処分ではありますが、問題行動が止まない場合は、解雇することも視野に入るでしょう。
譴責処分と比較すると、解雇は格段に争われる可能性が高くなります。
解雇の有効性が争点となった場合において、裁判所が重視している要素の一つが、会社が改善の機会を与えたにもかかわらず改善が見られなかったという点です。
譴責とは、改善を求め将来を戒める処分ですから、譴責処分の通知書は、会社が改善の機会を与えたことを示す証拠にもなるのです。
したがって、譴責処分に際しては、必ず、通知書を作成し交付するようにしましょう。
なお、当事務所では、譴責処分通知書の雛形・書き方をホームページ上に公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。ぜひ参考にしてください。
④始末書の提出を命じる
順番を間違えないこと!
譴責処分は、始末書の提出を命じる懲戒処分です。
期限を決めて従業員に始末書の提出を命じましょう。
このとき、順番を間違えないようにしてください。
問題行動が起きた後に、始末書の提出を命じ、始末書の提出があったから事実が認定できるとして譴責処分を課すというのは、手続として間違いです。
譴責処分の効果として始末書の提出は命じられるものです。
そのため、事実認定のために従業員に出させるのであれば、それは始末書ではなく、報告書という位置付けにすべきで、別途、譴責処分を行った後に、始末書を提出させるべきです。
変なところで、足元を救われ、譴責処分が無効とされないように、手続面は慎重に行ってください。
始末書の内容
始末書の内容については、会社が主導するのではなく、従業員に任せるようにすべきです。
たとえ、内容が拙い形式的なものにとどまるとしても構いません。
例えば、問題行動が止まず、その後に解雇を行った際に、遡って当時の譴責処分の有効性が争われることは珍しくありませんが、その際に、従業員の反省があまりみられなかったことを示す証拠として有用だからです。
会社が、始末書の内容を主導してしまうと、そのような証拠として使うことはできなくなります。
始末書が提出されない場合の対応
では、始末書が提出されなかった場合、会社としてどう対応すべきでしょうか。
この場合に、始末書の不提出をもってさらなる懲戒処分を行うことは可能なのでしょうか?
裁判例は分かれていますが、始末書の不提出をもって、さらなる懲戒処分を行うことはできないと考えておいた方が穏当です。
譴責処分は、問題行動に対し反省を促し将来を戒める処分ですが、始末書を提出していないということは、反省がないと評価できる事実です。
反省がないため、同様の問題行動は繰り返される可能性は高く、そうなると会社としては、解雇を検討したくなるでしょう。
そして、解雇の有効性においては、裁判所は、会社が改善の機会を与えたが反省がなく改善されなかったことを重視していますので、譴責処分を行ったが始末書が提出されなかったことは、反省がなかったことを示す重要な事実となります。
始末書の不提出はそのような位置付けとしてとらえ、記録化しておきましょう。
具体的には、始末書の提出を再度求める旨の通知書を発し、それでも提出されない場合には、「当該事実について反省する姿勢がないものと評価せざるを得ません。今後、同様の事実が起きた場合、反省・改善の意思がないという前提で、処分いたしますので、ご了承ください。」という通知書をだして、警告したという証拠を残しておきましょう。
⑤事実の社内開示
譴責処分等の懲戒処分を公表する目的は、再発防止です。
全ての従業員に知らせることにより、同様の行為を抑止することが可能になります。
また、会社が、厳しい態度で臨んでいることを示すことは、真面目に働く他の従業員の士気を向上させることにつながります。
譴責処分の社内開示は、職場環境を良好なものとするという会社から従業員に向けたメッセージにもなります。
それゆえ、社内開示自体は行って構いません。
しかし、譴責処分を受けたという事実は、従業員にとっては、不名誉なことであり、他者に知られたくない事実です。
そのため、プライバシーへの配慮は必須です。
再発防止という目的からは、どういう問題行動が社内で起きたのかということと、どういう処分を会社は行ったかを周知すれば足ります。
したがって、氏名の公表は原則として行わない方が良いです。
開示は、①対象となった行為、②処分の内容(譴責処分)、③譴責の就業規則上の根拠規定にとどめるべきです。
公表の方法は、社内メール等、会社が通常の業務で行っている告知手段で行って問題ありません。
なお、仮に、譴責処分を受けた者のプライバシーに配慮していても、①~③の事実を開示した結果、他の従業員が、誰が譴責処分を受けたのかに気づいてしまうことはあるでしょう。
しかし、それは、再発防止という目的のためやむを得ないものとして、開示は正当化できます。
まとめ
このように、譴責処分は、問題行動に対し反省を促し将来を戒める、比較的軽めの懲戒処分です。
従業員にとっての不利益はそれほど大きくないため、譴責処分そのものの有効性が問題になることは少ないですが、問題行動が止まない場合に、会社が解雇を断行する場合に、紛争化することが予想されます。
解雇の有効性が争われるにあたり、解雇に先立って改善の機会を与えるために行った譴責処分の有効性が問題になるのが通例です。
また、従業員がユニオン・合同労組へ加入して、団体交渉を申し入れられるというリスクもあります。
そのため、会社は譴責処分を行う場合、決して楽観視せずに慎重に、かつ、手続きを遵守しなければなりません。
したがって、譴責処分等の懲戒処分については、労働問題に精通した弁護士に事前に相談されることをお勧めいたします。
この記事が労働問題に苦慮されている皆さまのお役に立てば幸いです。
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