懲戒処分|判断基準・流れ・注意点を弁護士がわかりやすく解説

監修者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

懲戒処分とは

「懲戒処分」とは、一般に、従業員が何かよくない行為をした場合に、その雇い主(会社)が従業員に対して行う処罰的な措置のことをいいます。

 

 

懲戒処分の種類

懲戒処分にはいくつかの種類があります。

ただし、懲戒処分の種類は、法律で決められているわけではありません。

通常は、各企業がそれぞれ独自に定めている「就業規則(しゅうぎょうきそく)」という社内規程があり、その就業規則の中に、各会社の懲戒処分が定められています。

一般的な会社の就業規則には、次のような懲戒処分が定められていることが多いです。

処分の名称 内容
懲戒解雇 懲戒解雇とは、会社が 処罰として強制的に従業員を解雇するものです。
懲戒解雇の処分を受けた従業員には、退職金を支給しないのが一般的です。
懲戒解雇は、懲戒処分の中でもっとも重いものといえます。

懲戒解雇についてはこちらもご覧ください
懲戒解雇とは|要件・手続き・転職への影響【わかりやすく解説】

諭旨解雇(ゆしかいこ) 諭旨解雇とは、会社が処罰として従業員をやめさせるものですが、形のうえでは「会社と従業員が話し合って辞めることにした」ことにするものです。
したがって、諭旨解雇の場合、退職金制度のある会社では、退職金を支払うのが一般的です。
諭旨解雇は、懲戒処分の中でもかなり重い方の処分ですが、懲戒解雇と比べると少し温情的な処分といえます。

諭旨解雇についてはこちらもご覧ください
諭旨解雇(ゆしかいこ)とは

降格 降格とは、会社が処罰として従業員の社内上の地位を下げるものです。
例えば、課長から係長に降格する、などです。
出勤停止 出勤停止とは、会社が処罰として従業員の出勤を一定の日数にわたり停止するものです。
出金を停止された従業員は働くことができず、その間の給料ももらえません。
減給 減給とは、会社が処罰として従業員の給料を一定の期間だけ減らすことです。
例えば、「2か月間・10分の1減給」という形になります。
けん責(けんせき)、戒告(かいこく) これらは、会社が従業員に対して厳しく注意する、という懲戒処分です。
一般的には、けん責は従業員に反省文の提出を求めるなど重めの注意処分で、戒告は口頭での注意の場合が多いです。

これらの懲戒処分はあくまで一例です。

懲戒処分の種類や内容は会社によってさまざまですから、自社の就業規則をもういちど確認してみましょう。

例えば、厚生労働省のモデル就業規則は、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇の4種類の懲戒処分を定めています。

参考:厚生労働省|モデル就業規則令和3年4月版

懲戒処分は誰が決める?

懲戒処分は、会社が従業員に対して行うものです。

したがって、従業員に対する懲戒処分は、会社が決定します。

ワンポイント
具体的には、人事権を持っている方が最終決定することになります。
人事権は、通常、中小企業の場合は社長、大企業の場合は人事部長等、公務員の場合は任命権者などになります。
正確には規程などの根拠を確認する必要があります。

ただし、会社の一存で自由に従業員を懲戒処分にできるわけではありません。

会社が従業員に対して懲戒処分をする場合には、法律の要件に適合するように行う必要があります。

法律の要件を守らずに懲戒処分をすると、会社の懲戒処分が違法になることもあり得ます。

従業員が会社に対して懲戒処分の取り消しや損害賠償を求める訴訟を起こす可能性もあります。

 

 

懲戒処分を適法に行うための要件は?

会社が従業員に対して懲戒処分を検討する場合、事前に法律上の要件をきちんとチェックしましょう。

要件に外れた懲戒処分は違法になる可能性があります。

会社が懲戒処分をする場合のチェックポイント(処分の流れ)は次のとおりです。

会社が懲戒処分をする場合のチェックポイント

以下、詳しく解説します。

 

①会社に有効な就業規則があるか


就業規則とは、会社と従業員との関係を定める会社の内部規則です。

懲戒処分に関するルールも、就業規則に書かれてあるのが一般的です。

もし会社に有効な就業規則が存在しない場合は、懲戒処分に関するルールそのものが存在しないということですので、会社が従業員に対して懲戒処分をすることは難しくなります。

まずは自社に有効な就業規則があるかを確認しましょう。

 

②就業規則の中に従業員に対する懲戒処分のルールが書かれているか


懲戒処分のルールは、「従業員がこういうことをした場合は、こういう懲戒処分にする」という形で書かれているのが普通です。

 

③従業員が就業規則の懲戒処分のルールにあてはまる行為をしたか


従業員が、就業規則に書かれた懲戒処分のルールにあてはまる行為をしたかどうかを確認します。

例えば、就業規則に「従業員が過失により会社に損害を与えたときは、けん責、減給又は出勤停止とする」というルールがある場合、実際に従業員が「過失により損害を与えた」という行為をしたかどうかがポイントになります。

 

④懲戒処分を出す前に適切な社内手続きをとっているか


会社が懲戒処分を行うためには、いくつかの社内手続きを実行する必要があります。

会社によっては、就業規則に懲戒処分の社内手続きについてのルールが書かれていることがあります。

例えば、就業規則の中に「懲戒処分は、社員に懲戒処分の理由を開示して弁明の機会を与えたうえで、懲戒委員会で決定する」のようなルールが書かれているときは、会社は、このルールにしたがって手続きを実行しなければなりません。

また、就業手続に懲戒処分の社内手続きが書かれていない場合でも、会社は、懲戒処分をする前に従業員に「弁明の機会(べんめいのきかい)」を与えるようにしましょう。

「弁明の機会」とは、会社から従業員に対し「会社はこういう理由であなたを懲戒処分にしようとしています」と伝えたうえで、従業員が会社に対して自分の言いたいことを言える場を与えることをいいます。

 

⑤懲戒処分の内容は従業員のした行為とバランスがとれているか(懲戒処分が重すぎないか)


会社が行う懲戒処分は、懲戒処分の対象となった従業員の行為の重さとバランスの取れたものでなければなりません。

例えば、遅刻を数回しただけの従業員に対し、懲戒解雇するのは、明らかに懲戒処分が重すぎます。

このように、会社が行う懲戒処分が従業員の行った行為に比べて重すぎる場合には、懲戒処分は法律の要件にしたがっていないものとなり、違法になる可能性があるのです。

会社が上記①から⑤までの要件を守らずに従業員に対する懲戒処分を行うと、その懲戒処分が違法になることがあります。

懲戒処分が違法になると、従業員から訴訟を提起されたり損害賠償を請求されたりすることもありますので、懲戒処分は慎重に行いましょう。

実際に会社が上記①から⑤までの要件を守りながら懲戒処分を行うには、過去の裁判例などを踏まえた法律的な判断が必要なこともあります。

そのため、懲戒処分をする前に労働法に詳しい弁護士のアドバイスを求めることをお勧めいたします。

 

 

懲戒処分に該当するかの判断基準とは?

ここでは、ケース事例を使って上記①から⑤までの判断の流れをシミュレートしてみましょう。

ケース事例

X社で働いている従業員A氏は、毎週1~2回ほど無断で遅刻を繰り返していました。
A氏の無断遅刻があまりに続くので、上司のB課長が、A氏に対して「遅刻をしないように。
正当な理由があって遅刻する場合には、きちんと会社に連絡するように」といちど注意しましたが、A氏の遅刻グセは改まることがありませんでした。
X社としては、このA氏に対し、遅刻を繰り返したことを理由に、懲戒処分をしたいと考えています。

事例の関係図

 

シミュレーション
①有効な就業規則があるかをチェック

まず、X社は、上記①のステップとして、会社に有効な就業規則があるかどうかを確認します。

ほとんどの会社には有効な就業規則が存在するものと思われます。

X社にも、有効な就業規則がありました。

 

②就業規則の中の懲戒処分に関するルールをチェック

次に、X社は、上記②のステップとして、就業規則に書かれている懲戒処分のルールを確認します。

X社の就業規則には、次のようなルールがありました。

X社就業規則

第50条(懲戒の種類)
会社は、社員が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。
(1) けん責:始末書を提出させて将来を戒める。
(2) 減給:(省略)
(3) 出勤停止:(省略)
(4) 懲戒解雇:(省略)

第51条(懲戒の事由)
社員が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給または出勤停止とする。

(1) 無断でしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき
(2) (以下省略)

2 社員が次のいずれかに該当するときは、その情状に応じ、減給、出勤停止または懲戒解雇とする。
(1) 無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、3回以上注意を受けても改めなかったとき。
(2) (以下省略)

X社の就業規則の第50条を見ると、X社の懲戒処分は、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇の4種類であることがわかります。

次に、第51条をみると、

(a) 社員が「無断でしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき」には、「けん責、減給または出勤停止」の懲戒処分が可能である(上記X社の就業規則51条1項2号)というルールがあることがわかります。

また、(b)社員が「無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、3回以上注意を受けても改めなかったとき」には、「減給、出勤停止または懲戒解雇」の懲戒処分が可能である(上記X社の就業規則51条2項1号)というルールもあります。

 

③従業員の行為に適用できるルールを確認

では、A氏の行為がX社の懲戒処分のルールのどれに該当するかを検討しましょう。

今回のケースでは、A氏が実際に行った行為は、「毎週1~2回ほど無断で遅刻を繰り返しており、上司のB課長が1回注意したが、A氏の遅刻グセは改まらなかった」というものです。

A氏の行為は、X社のルールの上記(a)「無断でしばしば欠勤、遅刻、早退をした」には該当するといえそうです。

しかし、B課長がA氏に遅刻について注意したのは1回だけですから、X社のルールの上記(b)には該当しません。上記(b)のルールは、「3回以上注意を受けても改めなかったとき」となっているからです。

したがって、X社は、A氏に対し、上記(a)のルールに基づいて懲戒処分をすることができますが、上記(b)のルールに基づいて懲戒処分をすることはできません。

もしX社が(b)のルールを用いてA氏に懲戒処分をすると、それは法令違反になる可能性があります。

 

④必要な手続を行う

会社が従業員に対して懲戒処分を行う際には、一定の手続きを踏まなければなりません。就業規則に懲戒処分の手続きのルールが定められているときは、そのルールにしたがいましょう。

今回のケースでは、X社の就業規則には特に懲戒処分の手続きに関するルールは定められていなかったとします。

そこで、X社は、A氏に対し、「弁明の機会」を付与するという手続きをとります。例えば、X社は、A氏に対し、書面を送って弁明の機会を与えます。

例えば、次のようなテンプレートを使うとよいでしょう。

通知書(弁明の機会を与えるもの)

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上記の書式では、「弁明の機会」を与えるのは、上記の書式のように従業員を呼び出して直接話をする機会を与える方法としていますが、従業員に弁明の書面の提出を求める方法でもかまいません。

⑤ルールにしたがって懲戒処分の重さを決める

従業員の弁明を聞いたら、懲戒処分の重さを決めて懲戒処分を出します。

ルール(上記(a))


社員が「無断でしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき」には、「けん責、減給または出勤停止」の懲戒処分が可能である(上記X社の就業規則51条1項2号)

 

したがって、X社が行える懲戒処分は、「けん責」、「減給」、「出勤停止」の3つのうちのどれかです。

ただし、会社の行う懲戒処分は、従業員が行った行為と比べて重すぎてはいけません。

例えば、A氏の遅刻の回数が数回だけなのに、いきなり減給や出勤停止の懲戒処分とするのは、A氏の行為に比べて懲戒処分が重すぎるといえるでしょう。

そのような場合には、A氏に対して「けん責」の懲戒処分を行うようにします。

このケースのように、就業規則内のルールで複数の懲戒処分を選べる場合でも、会社としては、客観的な視点を保ち、従業員の行為とバランスのとれた(重すぎない)懲戒処分を選択することが大切です。

会社側が感情的になって重すぎる懲戒処分を出すことはやめましょう。

懲戒処分を決定したら、従業員に対して書面で通知します。

懲戒処分決定通知書のテンプレートをこちらに準備していますので、ぜひご活用ください。

会社が懲戒処分を出す際の流れと注意点は以上のとおりです。

法的な判断が必要になることも多いので、迷ったときはあらかじめ労働問題に詳しい弁護士にアドバイスを求めるのもよいでしょう。

 

懲戒処分を行う際の注意点

従業員の1回の行動に対して懲戒処分は1回だけ

会社は、従業員のひとつの行動に対して、懲戒処分を1回だけ行うことができます。

いちど懲戒処分を出した問題行動について2回目の懲戒処分を出すことはできません。

例えば、ある従業員が5月1日にパワハラ行為をしたので、会社がこれに対して「けん責」の懲戒処分をしたとします。

しかし、会社で「けん責だけでは不十分だった」と考えて、さらに、従業員の同じ問題行動(5月1日のパワハラ行為)に対して「減給」の懲戒処分を行いました。

これは、従業員のひとつの行動(5月1日のパワハラ行為)に対して2度目の懲戒処分をしたことになります。

このように、従業員のひとつの行動に対して2回の懲戒処分をすることは認められません。

 

 

懲戒処分となる行動の具体例

従業員のどのような行為が懲戒処分の対象になるかは、それぞれの会社の就業規則によって定められているのが一般的です。

まずは、自社の就業規則を確認することが重要です。

一例として、厚生労働省のモデル就業規則のルール(一部)をご紹介します。モデル就業規則では、従業員の次のような行動が懲戒処分の対象になるとされています。

各企業の就業規則のルールも、モデル就業規則と同じような内容を含んでいることが多いと思われます。

 

比較的軽めの懲戒処分になる例

  1. ① 正当な理由なく無断欠勤が〇〇日以上に及ぶとき。
  2. ② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
  3. ③ 過失により会社に損害を与えたとき。
  4. ④ 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。

 

比較的重めの懲戒処分になる例

  1. ① 重要な経歴を詐称して雇用されたとき。
  2. ② 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。
  3. ③ 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。
  4. ④ 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき。
  5. ⑤ パワハラ、セクハラなどハラスメント行為をし、その情状が悪質と認められるとき。
  6. ⑥ 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき。

参考:厚生労働省|モデル就業規則令和3年4月版

会社が問題社員やモンスター社員に対応する際のノウハウなどをこちらにまとめましたので、ぜひ合わせてご参照ください。

 

 

懲戒処分を受けると転職にどのように影響する?

転職への影響

ある人が前職で懲戒処分を受けていると、その人が前の会社で問題のある行動をしたという推測が働きます。

転職先の会社としては、過去に問題のある行動をした人を積極的に雇い入れたいと思わない可能性があります。

したがって、懲戒処分を受けたことが転職先の会社に知られると、転職によくない影響を与える可能性は否定できません。

 

転職先に懲戒処分の情報が引き継がれるのか?

一般に、懲戒処分は公表されるものではありません。

また、社内の懲戒処分に関する記録は人事情報ですから、社外秘として取り扱われるのが一般的です。

したがって、前の会社の懲戒処分の情報が次の会社に引き継がれることは、基本的にはありません。

ただし、懲戒処分の中でも重い処分である懲戒解雇については、転職先の会社に知られてしまうことがあります。

なぜならば、公的な書類である「雇用保険受給資格者証」という書類に、前の会社をどんな理由で辞めたかが記載されるからです。

引用元:労働局|受給資格者証の見方

前の会社を懲戒解雇によって辞めた場合、「雇用保険受給資格者証」には「被保険者の責めに帰すべき重大な理由による解雇」という記載がされる可能性が高いでしょう(「被保険者」というのは、従業員本人のことです)。

「被保険者の責めに帰すべき重大な理由による解雇」とは、「従業員側に非がある重大な理由があったので従業員は解雇された」という意味ですから、「雇用保険受給資格者証」にこの記載があれば、懲戒解雇であることが推測できます。

転職先の会社に入社すると、手続きとしてこの「雇用保険受給資格者証」を転職先の会社に提出することになりますから、それによって、転職先の会社は、従業員が前の会社を懲戒解雇されたことを知ることになります。

また、同じ理由で諭旨解雇の場合も転職先の会社に知られてしまうことがあります。

 

 

履歴書に書かないといけない?バレる?

懲戒処分を受けたことは履歴書の「賞罰」の欄に書くのが普通ですが、最近では「賞罰」の欄がない履歴書フォーマットもあると思います。

懲戒解雇や諭旨解雇などの重い懲戒処分でなければ、転職先の会社が前職での懲戒処分を知る可能性はとても低いですから、懲戒処分を履歴書に書かないことが問題になる可能性は低いと考えられます。

ただし、軽い懲戒処分でも、転職先が前の会社の同僚に対して行ったリファレンスチェックなどから、思わぬ形で転職先にバレてしまうことがあるかもしれません。

万一転職先にバレた場合には、懲戒処分を履歴書に書かなかったことが経歴詐称に該当する可能性がありますので注意が必要です。

したがって、履歴書や採用面接などで転職先の会社にあらかじめ説明をし自分の意見を伝えておくのもひとつの選択肢です。

 

 

懲戒処分決定までの期間は従業員へどう対応すべき?

懲戒処分決定までの期間の従業員への対応

会社が従業員による問題行動を知ってから、懲戒処分を出すまでの間には、ある程度時間がかかります。

会社として事実関係を調査したり、従業員に弁明の機会を付与したり、懲戒処分の重さを検討したりする時間が必要だからです。

この期間の間、会社は従業員にどう対応したらよいでしょうか。

会社の対応には、次のようなものが考えられます。

  1. ① 従業員にそのまま今の仕事を続けてもらう
  2. ② その期間中、従業員には別の仕事をしてもらう
  3. ③ 従業員には自宅待機をしてもらう

会社は上記①から③のいずれの方法もとることができますが、次の注意点に気を付けて慎重に対応する必要があります。

 

自宅待機などを命じる場合の注意点

懲戒処分とは、従業員の問題ある行動に対して会社が行う処罰的な処分のことでした。

したがって、最終的な懲戒処分が決定する前の段階では、会社は、従業員に対して処罰的な行為をすることはできません。

つまり、ある従業員が問題行動をした場合に、その問題行動に対する懲戒処分を出す前に、会社から「自宅で頭を冷やして反省しろ」という意味合いで自宅待機を命じることはできないのです。

懲戒処分決定までの期間の自宅待機は、あくまで、「会社が事実関係を調査するため」とか「会社内の秩序を維持するため」など従業員に対する処罰的な目的ではない目的のために、「業務命令」として行うことになります。

「業務命令として行う」とは、上司(会社)が部下に対して「今日は〇〇の書類を仕上げてください」などのように業務上の命令を出すのと同じ意味合いで、会社から従業員に対して「〇日間は自宅に待機してください」との命令を出す、ということです。

このような形でなされる自宅待機はあくまで「業務命令」ですから、会社は従業員に対してきちんと給料を支払わなければなりません。

なお、「業務命令」として自宅待機を命じる場合でも、従業員の問題行動と比べてバランスがとれていない(重すぎる)場合は違法になることがあります。

例えば、従業員の遅刻についての懲戒処分を検討するだけなのに、その従業員に長期の自宅待機を命じるのは、バランスがとれていないものと思われます。

 

 

 

懲戒処分を公表することは問題ない?

会社が従業員に対して懲戒処分をした場合、企業の秩序を回復するとか、他の従業員による同種の問題行動を防止するなどの観点で、懲戒処分を社内公表したいと考えることがあるでしょう。

一方で、会社は従業員のプライバシーの保護を図る必要もあります。

特に近年では、個人のプライバシー意識が高まっていますから、懲戒処分の安易な公表はかえって問題となることもあるでしょう。

以上を踏まえますと、懲戒処分を社内公表する場合には、基本的には個人名を出さず、処分の内容、処分の対象となった行為などの公表にとどめるのが望ましいと思われます。

このような形の公表であれば、個人のプライバシーに一定の配慮がなされているといえますし、また、企業の秩序を回復するとか、他の従業員による同種の問題行動を防止するなどの会社にとって大切な効果も期待できるからです。

なお、懲戒処分を社外に公表することはやめるのが無難です。

 

 

 

懲戒処分を受けた従業員の減給は認められる?

給料について

処罰の意味合いで給料を減らすことはできない

まず、「減給」の懲戒処分を受けた従業員の給料については、当然、その懲戒処分の内容どおりに給料を減らすことになります。

しかし、「減給」以外の懲戒処分を受けた従業員の給料を減らすことは、基本的にはできません。

例えば、会社がある従業員に対して「けん責」の懲戒処分を行ったとします。この場合、会社は、その社員が「けん責」の懲戒処分を受けたから給料を下げる、ということはできません。

なぜならば、そのような給料の下げ方をすると、適法な懲戒処分の要件を守らずに従業員を処罰したことになるからです。

 

人事評価や職務の変更を理由として給料を減らすことはできる

一方、従業員のパフォーマンスに連動して給料が決まるような場合に、従業員のパフォーマンスがよくなかったという理由で給料を下げることは禁止されていません。

これは、処罰としての減給ではなく、従業員のパフォーマンスを評価したうえでの査定だからです。

「降格」の懲戒処分を受けた従業員に対して、降格後の職位の給与テーブルを適用し、その結果、給料が下がることも禁止されていません。

なぜなら、このケースは処罰としての減給ではなく、職務の内容に応じて給料を適切に決めているといえるからです。

ただし、懲戒処分と同時に(あるいは近い時期に)このような形で従業員の給料を減らすと、そこにどうしても処罰的な色合いが混じることがあります。

そうすると、懲戒処分の要件を守らずに従業員を処罰したと評価されるリスクもあります。

この点は、過去の裁判例を踏まえた複雑な法的判断が必要になることも多いため、判断に迷われたときは労働問題に強い弁護士に相談することもよい方法です。

 

退職金について

懲戒解雇や諭旨解雇の場合に従業員に対して退職金を支払う必要があるかどうかは、会社の就業規則に定められています。

一般には、

  • 懲戒解雇は退職金を支払わない
  • 諭旨解雇は退職金を支払う

とされているケースが多いと思われます。

まずは自社の就業規則を確認しましょう。そのうえで、退職金については、自社の就業規則に定められたルールに沿って、支払うかどうかを決定しましょう。

 

 

まとめ

  • 「懲戒処分」とは、会社が従業員の問題行動に対して行う懲罰
  • どんな種類の懲戒処分があるかは、会社ごとに異なっている。会社の就業規則に書いてあるので、自社の就業規則を確認しよう
  • 従業員のどんな行為に対して懲戒処分ができるかというルールも、会社の就業規則に書いてある
  • 会社が「懲戒処分」をするときは、5ステップの要件を守って行う。要件を外れた懲戒処分はあとで違法と評価されるかも。訴訟リスクもある!
  • 従業員の1つの問題に対して懲戒処分は1回だけ
  • 特有財産に該当する場合
  • 軽い懲戒処分であれば転職先の会社にバレる可能性は低い。しかし懲戒解雇や諭旨解雇は転職先に知られる可能性あり
  • 懲戒処分決定までの期間は、従業員に対して処罰的な処遇は禁止。自宅待機などはあくまで業務命令として、必要な範囲で
  • 実名入りの懲戒処分の社内公表は避けよう。プライバシーへの配慮が不可欠な時代
  • 懲戒処分を受けた従業員の減給は基本的には禁止。パフォーマンスの結果や職位などの理由で給与が下がる場合も慎重な対応を
  • 判断に迷ったときは労働問題に詳しい弁護士に相談を

 

以上、懲戒処分について解説いたしました。

企業のみなさまのご参考になれば幸いです。

 

 




  

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