就業規則の届出とは?必要書類や記入例をわかりやすく解説
就業規則の届出とは、就業規則を管轄の労働基準監督署に提出する義務のことをいいます。
10人以上の従業員を雇用している事業所では、就業規則を作成し、かつ、これを労働基準監督署へ届け出る法律上の義務があります。
就業規則の届出には、必要となる書類や守らなければならないルールがあります。
ここでは、労働問題に強い弁護士が就業規則の届出に必要な書類、届出の流れや注意すべきことについて、わかりやすく解説しています。
また、必要書類のサンプルや書式もご紹介していますので、ぜひ参考になさってください。
就業規則の届出とは?
就業規則の届出とは、就業規則を管轄の労働基準監督署に提出する義務のことをいいます。
就業規則の届出義務について
10人以上の労働者(以下「従業員」といいます。)を使用している事業所では、就業規則を作成し、これを管轄の労働基準監督署へ届け出ることが法律上義務づけられています(労働基準法第89条)。
また、一度届出済みの就業規則であっても、法律所定の重要な事項を変更した場合には、変更についても同様に届け出る必要があります(労働基準法第89条)。
10人以上とは
ここでいう「10人以上」は、会社全体で10人以上、ということではなく、事業所単位で10人以上である場合が該当します。
また、労働者には、いわゆる正社員だけではなく、パートタイム労働者やアルバイトなども含まれることに注意が必要です。
具体例
A株式会社には、東京都、大阪府、福岡県の3箇所に事業所がある。
それぞれの事業所の人員構成は次の通り。
東京都:正社員10名 パート3名 アルバイト3名
大阪府:正社員5名 パート3名 アルバイト3名
福岡県:正社員9名 パート0名 アルバイト0名
上記の場合、A株式会社は、東京都と大阪府の事業所については就業規則を作成し、届け出る義務があります。
しかし、福岡県の事業所については、10名未満ですので就業規則を作成する法律上の義務はありません。
10人未満の場合に就業規則は作らない方がいい?
10人未満の場合、就業規則を作成する義務はありません。
しかし、就業規則を作成し、届け出ても問題はありません。
また、よく考え抜かれた就業規則は会社を守る武器になります。
したがって、10人未満の会社であっても就業規則を作成し、届け出たほうが望ましいと考えます。
就業規則の届出を忘れるとどうなる?
この就業規則の届出を忘れてしまった場合など、届出義務を果たさなかった場合については罰則が用意されています。
具体的には、労働基準法上、「30万円以下の罰金に処する」ことが定められています(労働基準法第120条第1号)。
届出をしなかった場合に必ずこの罰則を受けるとは限りませんが、罰則を受けることがないよう、届出義務にしっかり対応するようにしましょう。
一 ~~省略~~、第八十九条、~~省略~~の規定に違反した者
引用元:労働基準法|e-Gov法令検索
就業規則の届出に必要な書類
就業規則を届出する際に必要となる書類が何か、具体的に見ていきましょう。
就業規則を届け出る際には、以下の3点セットを用意する必要があります。
※上記のうち、②については法的な義務ではありません。
就業規則
まず、届出の対象となる、就業規則の本体を用意する必要があります。
就業規則とは、原則としてその事業所の全労働者に適用される、労働条件や服務規律を定めるための社内ルールです。
提出部数について
法律上の決まりはありませんが、2部提出するとよいでしょう。
1部は労働基準監督署の控え、1部は自社に返却してもらうためです。
なぜ返却してもらったほうが良いかと言うと、労働基準監督署に届出済であることを証明できるからです。
すなわち、2部提出し、1部返却の依頼をかけると、労働基準監督署は就業規則の表紙に受理印を押してくれます。
受理印には日付が印字されており、いつ届け出たかを確認できるようになります。
就業規則については、厚生労働省がモデル就業規則を公表しています。
しかし、モデル就業規則については、安易に使用すべきではありません。
就業規則は、「会社を成長させるために」、また「会社を護るために」有効な武器といえます。
モデル就業規則は、厚生労働省が文字通りモデル的に作成した規則であり、上記のスタンスでは作成されていません。
就業規則は出来合いのものではなく、十分な時間と労力をかけて最適なものを策定すべきです。
就業規則届・就業規則の変更届の記入例
就業規則の届出をする場合、通常、所定の就業規則と合わせて「就業規則(変更)届」を記入して、提出する必要があります。
就業規則を新規で作成する場合には「就業規則届」、就業規則の内容を変更する場合には「就業規則変更届」になります。
就業規則(変更)届には定形の様式はありません。
一般的に、届出に記載する内容は、事業者名や所在地などの基本的な事項です。
以下、サンプルを示しますのでご参考にされてください。
意見書
就業規則の制定・変更の届出をするにあたっては、「意見書」を添付する必要があるとされています。
就業規則を作成又は変更する場合には、その事業所において労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合(仮に、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者)の意見を聴かなければならないとされています(労働基準法第90条1項)。
第九十条
使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
引用元:労働基準法|e-Gov法令検索
そして、就業規則の届出をする場合には、この意見を文書化し、資料として添付することが必要になります(労働基準法第90条2項)。
第九十条
② 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
引用元:労働基準法|e-Gov法令検索
意見書には、一般に、
- 会社名及び代表取締役氏名
- 意見聴取の日付
- 意見の内容
- 労働組合の名称又は労働者代表の氏名
- 労働者の過半数代表者を選出した方法
を記載します。
「意見の内容」としては、例えば「特になし。」「異議なし。」「(制定・改定に)賛成する。ただし~。」などのように記載してもらうことが一般的ですが、あくまで労働者側の正直な意見を記載してもらうことが必要です。
以下、サンプルを示しますのでご参考にされてください。
就業規則の届出の流れ
就業規則の届出について、具体的な手順・流れを見ていきましょう。
-
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- 1
- 就業規則の作成
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- 2
- 労働組合等との事前協議(就業規則内容の説明)
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- 3
- 従業員等への意見書作成依頼
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- 4
- 就業規則(変更)届の作成
-
- 4
- 届出・意見書・就業規則を管轄の労働基準監督署へ提出
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①就業規則の作成
まず、就業規則の作成に取り掛かりましょう。
新規に作成する場合には、労働法に詳しい弁護士に相談の上、自社の状況に合わせて調整するのがよいかと思います。
就業規則は社内ルールの中でも、労働法上特別な扱いを受ける重要規定になりますので、安易にモデル就業規則をそのまま採用するのではなく、慎重に作成する必要があります。
作成に当たって疑問点などがあれば、労働法に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。
②労働組合等との事前協議(就業規則内容の説明)
上でご説明の通り、最終的に従業員代表等から意見書を提出してもらう必要がありますので、その準備として就業規則の内容を従業員等へ説明する必要があります。
説明をするだけではなく、従業員側から質問があればそれに対しても真摯に回答するようにしましょう。
会社としては、就業規則の制定・改定内容を事前に従業員側に説明し、できるだけ賛成意見を得られるように調整を図ることになります。
③従業員等への意見書作成依頼
②での事前協議を踏まえて、就業規則の制定・改定に関する従業員等の意見書の作成を依頼します。
具体的には、所定の書式を会社側から提供し、従業員側に内容を記入してもらうなどの手順を踏むことになります。
④就業規則(変更)届の作成
次に、就業規則(変更)届を作成します。
上記のサンプルなどを参考にし、作成されてください。
⑤届出・意見書・就業規則を管轄の労働基準監督署へ提出
最後に、作成した3点セットを管轄の労働基準監督署へ提出します。
書面による提出が原則的な届出方法ですが、CD-ROMなどの電子媒体の形で提出することも可能です
電子媒体の提出の場合には、対応媒体、フォーマット、文書形式について決まりがありますので事前に確認しましょう。(平成25年にフロッピーディスクによる提出が認められくなるなど、ルールは順次変更になりますので注意ください。)
参考:就業規則等の電子媒体による届出|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
なお、管轄の労働基準監督署については、厚生労働省のホームページなどで案内されていますので、具体的に届出を行う先についてはこちらから確認しましょう。
就業規則の届出で注意すべきこと
賃金規程等も届け出る
多くの会社では「就業規則」という名称の社内規則とは別に「賃金規程」や「退職金規程」などが別規則として制定されています。
このような、賃金規程や退職金規程を制定・改定する場合にも、就業規則の届出が必要になりますので、注意しましょう。
上で説明したように、賃金や退職に関する定めは、法律上、就業規則に記載すべき内容です。
したがって、社内でどのような名称の規則であるかとは関係なく、賃金規程などは法律上の「就業規則」に該当します。
よって、その制定・改定時には就業規則の届出が必要になります。
従業員が10人未満でも就業規則の作成を検討すべき
上で解説したとおり、就業規則の作成が法律上義務付けられているのは従業員数が10人以上の事業所です。
そのため10人未満の場合、就業規則は不要かと思われます。
しかし、筆者の経験上、従業員が1名でもいれば就業規則を作成すべきだと考えます。
なぜならば、適切な就業規則を整備することで会社を守ることが可能となるからです。
例えば、解雇したいモンスター社員がいたとき、就業規則がなければ解雇は基本的に難しいです。
このように就業規則がなければ困ることが多々あるので、10人未満の会社でも就業規則を作成することをおすすめします。
就業規則を周知しないと効力が認められない
就業規則は作成するだけではなく、従業員に周知しなければ効力が認められません(労働基準法106条1項)。
上で解説したとおり、就業規則を労働基準監督署に届け出なければ30万円以下の罰金のリスクがあります。
しかし、届け出なかったとしても、効力は否定されません。
周知をしていないと、罰金どころか効力すら認められないので要注意です。
例えば、解雇したいモンスター社員がいたとき、就業規則を周知していなければ解雇の根拠を欠くこととなり、不当解雇となってしまうおそれもあります。
「周知」の意味については次のとおりです(労働基準法施行規則52条の2)。
- ① 常時作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付ける
- ② 書面を交付する
- ③ パソコン等に保存し、かつ、各作業場に従業員が内容を確認できる機器を設置する
例えば、就業規則を会社のキャビネットの中に保存し、従業員がその場所を知らなかったような場合は周知に該当しません。
事業所が複数ある場合は事業所単位で作成・届け出が必要である
就業規則の届出に関する法律は、基本的に事業所を単位として定められています。
したがって、複数の事業所を持つ会社の場合には、事業所ごとに就業規則の届出について検討する必要がありますので注意しましょう。
【ワンポイント:一括届出ができる場合】
一定の条件を満たす場合には、複数の事業所の就業規則の届出をまとめて行うことができます。(「就業規則一括届出制度」)。
これを利用する場合には、一括して届け出る複数の事業所の就業規則が同じ内容であることが必要になります。
また、事業場の数と同じ部数の就業規則と意見書などの用意が必要になるなど、所定の手続きがあるので必ず確認しましょう。
就業規則の届出についてのよくあるQ&A
就業規則は作成後、いつまでに届け出なければなりませんか?
就業規則の届出については、法律上明確な期限はありません。
しかし、適切な就業規則は会社を守る武器になります。
できるだけ早く作成し、かつ、届出をした方が無難でしょう。
就業規則の一括届出とは何ですか?
就業規則の一括届出とは、本社と他の事業所の就業規則が同じ内容である場合に本社で一括して届出をすることができる制度をいいます。
一括届出の場合も、事業所の数と同じ部数の就業規則と意見書が必要となります。
ただし、同じ監督署管内に複数の事業所がある場合、就業規則は監督署ごとに 1 部を提出すれば大丈夫です。
この場合も意見書は事業所ごとに1部必要となります。
まとめ
以上の通り、就業規則の届出について詳しく解説してきました。
就業規則は、社内規則の中でも特に企業経営において重要な規則で、労働基準監督署に提出する必要があるものですので、丁寧な作り込みが必要です。
(特に、厚生労働省が公表しているモデル就業規則をそのまま修正せずに利用してしまう、という安易な対応は避けるべきでしょう。)
もし、就業規則の作成・改定や、届出の手続きなどについて悩みがあれば、労働法に詳しい弁護士へ相談して慎重に対応することを心がけましょう。
デイライト法律事務所は、企業側の法律事務所として、就業規則に関する各種のお悩みについて、多くの解決実績を有しています。
就業規則についてお悩みの場合には、当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。
ご相談の流れはこちらから。