就業規則・雇用契約書を見直す際のポイントについて

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

就業規則・雇用契約書は、会社と従業員との間を規律する大切なルールです。

また、会社の経営戦略と整合させることで、会社の成長に資することが可能です。

労務トラブルを回避するという点からも、会社のルールブックとなる就業規則、従業員との契約内容を示す雇用契約書はとても重要です。

一度作成しても、定期的に見直すことも必要です。

2024年4月1日からは労働条件の明示についてのルールも加わります。

デイライトの弁護士は、会社の就業規則や雇用契約書の診断・作成をサポートしています。

以下では、就業規則・雇用契約書の見直す際のポイントについて解説いたします。

就業規則とは

労働条件通知書のイメージ画像

就業規則とは、従業員が就業上遵守すべき規律や労働条件に関する内容について定めた規則のことをいいます。したがって、就業規則は会社のルールブックということになります。

なお、法律では、就業規則について、常時10人以上の従業員を使用する使用者の作成を義務づけています(労働基準法89条)。

根拠条文
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。

引用元:労働基準法|e-Gov法令検索

この就業規則には、

  1. ① どの会社でも必ず記載しなければならない事項(これを絶対的必要記載事項といいます。)
  2. ② その制度を置く場合は就業規則に記載しなければならない事項(相対的必要記載事項
  3. ③ 記載するかどうかが自由な事項(任意記載事項

の3種類があります。

①絶対的必要記載事項

以下の項目は、必ず就業規則に定めなければなければなりません。

  • 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
  • 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

 

②相対的必要記載事項

以下の項目は、その制度を置く場合は就業規則に記載しなければなりません。

  • 退職手当の定めをする場合
    :適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
  • 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合
    :これに関する事項
  • 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合
    :これに関する事項
  • 安全及び衛生に関する定めをする場合
    :これに関する事項
  • 職業訓練に関する定めをする場合
    :これに関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合
    :これに関する事項
  • 表彰及び制裁の定めをする場合
    :その種類及び程度に関する事項
  • 上記の他に当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合
    :これに関する事項

 

任意記載事項

上記の他に、任意記載事項として、企業理念、就業規則の目的、服務規律等が挙げられます。

特に、服務規律については、会社がどのような行為を許さないのか、何を大切にするのかを示すもので、会社ごとに記載することが多くあります。

したがって、自社の状況に応じてしっかりと検討した上で作成することが大切です。

なお、就業に関するルールは、一つの就業規則にすべてを記載する必要はなく、別規則を定めて記載しても差し支えません。

多くの企業では、就業規則(正社員用、契約社員用、パートタイマー用)というタイトルの規則の他に、賃金規定、育児休業規定、介護休業規定、個人情報保護規程、特定個人情報保護規定(マイナンバー関連)、私有車両通勤規定等の各種規程類を整備しています。

以下では、これらのルールを総称して「就業規則」といいます。

就業規則を定める場合、そこに書かれたルールがその会社の最低基準のルールとなります。そのため、就業規則で定めたルールよりも従業員に不利益なルールを課すことはできません。

自社の就業規則を把握しておかないと、従業員のマネジメントも適切に行えませんので注意しましょう。

 

 

雇用契約書とは

雇用契約書とは、会社(使用者)と従業員(労働者)との間の雇用条件について記載された契約書のことをいいます。

雇用条件に関しては、法律で「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定めています(労働基準法15条1項)。

このように、一定の労働条件については、会社から従業員に対する明示が法律で義務付けられています。

そのため、労働条件通知書という形で書面を交付されている会社が多くあります。この労働条件通知書は、会社から従業員に対する一方的な通知文書です。

これに対して、雇用契約書は、会社と従業員との雇用に関する条件について、双方が契約当事者となって署名するものです。

これは法律で義務付けられたものではありませんが、後述する理由から、会社としては一方的な通知である労働条件通知書よりも、できるだけ雇用契約書を整備すべきです。

なお、2024年4月1日から労働条件の明示についてのルールが改正されます。

具体的には、

すべての従業員との雇用契約について

就業場所・業務の変更の範囲についてのルールを明示することが追加されます。

また、

期間の定めのある従業員との雇用契約について
  1. ① 契約更新の上限があるかどうか、その内容について
  2. ② 無期契約への転換申込の機会についてと転換後の労働条件について

を明示することがそれぞれ追加されます。

引用元:令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます|厚生労働省

 

 

 

就業規則・雇用契約書が大切な理由

就業規則については、「法律で作成が義務付けられているもの」とだけ捉えている会社・経営者の方が多くいらっしゃいます。

しかし、就業規則は、「会社を成長させるために」、また、「会社を護るために」有効な武器といえます。

企業経営の武器

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企業が成果を上げるために最も大切なことは、経営戦略を明確にし、かつ、それを正しく実行することです。

自社の戦略を社員に実行してもらうには、経営者は、企業理念、ビジョン、行動指針等を示す必要があります。

また、企業にとって、人材は競争力の源泉です。人材の採用、配置、育成、報酬付与等について、会社の経営戦略と整合した人事システムを構築する必要があります。

このような経営に関する経営者の想いや企業戦略を社員に浸透させるために就業規則は有効なツールとなります。

したがって、就業規則は、ただ漫然と義務的に作るものではなく、企業経営に有効な武器であるという認識を持って、自社に沿うように作成、定期的に見直しをすることが重要です。

会社を護る武器

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就業規則や雇用契約書を整備しておくことで裁判等のトラブルから会社を護ることができます。

例えば、未払賃金をめぐる労働裁判では、定額残業制の有効性が問題となることがよくあります。

このような場合、会社が就業規則や雇用契約書において、通常の賃金部分と残業代である割増賃金部分を明確にわかるように区別しておかなければ、無効と判断されることがほとんどです。

いくら口頭で従業員に説明していても、有効とは判断されない可能性が極めて高いのです。

そうすると、就業規則や従業員のサインのある雇用契約書に書いておくことがいかに大切かということになります。

また、解雇をめぐる裁判では、具体的な解雇の理由が就業規則で定めるどの項目に該当するかがまず問題となります。

そのため、どのような場合に解雇できるのかという解雇事由について、そもそも就業規則等で明示しておかなければ、不当解雇と判断される可能性が高いです。

先ほども説明したとおり、就業規則は、労働条件の最低条件を定めるルールブックです。

労働契約法では、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となり(これを「強行的効力」といいます。)、無効となった部分については、就業規則の定める基準により規律されることになります(これを「直律的効力」といいます。12条)。

例えば、就業規則で「賞与は毎年6月と12月に必ず支払う」と賞与の支払義務を定めている場合に、会社が従業員と個別に「賞与は支給しない」という雇用契約を締結したとしても、その合意は無効となります。

このように、就業規則の策定は、企業経営に多大な影響を及ぼすといえます。

また、就業規則において重要なことは、ただ単に策定するだけではなく、それを所轄の労基署に届け出ることと、所属する従業員に周知することです。

特に、従業員に周知されていなければ、就業規則の効力は発生しません(最判平15.10.10)

中には、作成した就業規則を社長の鍵付きの棚に保管しているという会社があります。

しかし、これでは、従業員が見たいときに規則を見ることができず、周知されているとはいえないでしょう。

せっかく作った就業規則が全く無意味になってしまう可能性があります。

そのため、就業規則の周知は非常に重要です。

裁判では、「就業規則が周知されていたか否か」をめぐって争いとなることがあります。

会社側は「周知していた」と主張しても、従業員側から「就業規則を見ていない」などと反論されることがあるのです。

こうしたことを見据えて、就業規則の作成と合わせて、従業員との間で雇用契約書も締結しておくと安心です。

会社側からの一方的な通知文書である労働条件通知書と異なり、雇用契約書は従業員の署名押印があります。

そのため、「雇用契約の内容を知らない」などという従業員側の反論が不可能となります。

なお、就業規則の周知について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

会社の注意点

弁護士森内公彦画像

このように、就業規則や雇用契約書は、労務トラブルを未然に防止するという観点はもちろん、企業経営にとって、とても重要です。

現在、厚生労働省が作成しているモデル就業規則の雛形などは、インターネットで簡単にダウンロードすることができます。

しかし、こうしたモデル就業規則をそのまま鵜呑みにして、自分の会社の就業規則にするのには注意が必要です。

会社は、持続的な成長のために、十分な時間と労力をかけて、最適な就業規則を策定すべきです。

そのため、就業規則や雇用契約書の見直しは、労働問題に詳しい弁護士へご相談されることをお勧めしています。

デイライトのサポート

就業規則、雇用契約書の作成・見直し

今回紹介した就業規則や雇用契約書について

  • 今会社にないので1から作りたいけどどうしたらよいかわからない
  • 雇用契約書はあるけど、規模が大きくなってきたので就業規則を作りたい
  • 今ある就業規則、雇用契約書を見直したい

というお悩みがある会社の皆様には、デイライトでは就業規則、雇用契約書の作成・見直しのサポートを行っております。

会社の現状や将来ビジョンなどを弁護士が直接ヒアリングをして、会社の状況を踏まえた就業規則・雇用契約書の作成を行っております。

就業規則、雇用契約書の作成・見直しに関するご相談 初回無料
就業規則、雇用契約書の作成サポートのご依頼 雇用契約書の作成サポート 11万円〜
就業規則の作成サポート  1規程22万円〜

 

顧問契約による継続的な労務サポート

デイライトでは、複数の弁護士がオフィスをまたいで横断的に企業法務部に在籍しており、労務問題についての労働事件チームなどのチームも複数あります。

こうした組織化された企業法務部が顧問弁護士として、日々の会社のお悩みにご対応しております。

顧問契約について詳しくはこちらをご覧ください。また、顧問契約に関するご相談も初回無料ですので、ぜひお問合せください。

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執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

所属 / 福岡県弁護士会

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

専門領域 / 法人分野:労務問題、外国人雇用トラブル、景品表示法問題 注力業種:小売業関連 個人分野:交通事故問題  

実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所のパートナー弁護士であり、北九州オフィスの所長を務める。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行っている。労働問題以外には、商標や景表法をめぐる問題や顧客のクレーム対応に積極的に取り組んでいる。



  

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