病気を理由に解雇できる?|解雇できるケースや注意点を解説
病気を理由として解雇できるかどうかは、ケース・バイ・ケースであり、後のトラブルを防止するためには、具体的な状況に応じて、適切な判断をすることが必要となります。
業務上の事由により従業員が病気となり、その療養中である場合、労働基準法第19条により、会社はその従業員を解雇することができません。
従業員の病気が業務と関係なく生じた場合、解雇できるかは①休職の規定が設けられているかどうか②病気により解雇できる旨の規定があるかどうかを確認しましょう。
このページでは、病気を理由に解雇できるできるケースとできないケース、病気を理由に解雇する際の注意点などについて弁護士がくわしく解説します。
病気を理由に解雇できる?
従業員が病気となった場合、病気によっては、それまでに行っていた業務をすることが難しくなったり、勤務することができない時期が長期にわたることがあります。
そのような場合、会社としては、その従業員について、病気を理由として解雇することもやむを得ないと考えられることもあるでしょう。
しかし、病気を理由として解雇した場合、その従業員との間で、当該解雇の有効性について争いになることがあります。
病気を理由として解雇できるかどうかは、ケース・バイ・ケースであり、後のトラブルを防止するためには、具体的な状況に応じて、適切な判断をすることが必要となります。
そこで、まず、解雇することができるケース、できないケースをご紹介します。
解雇できるケース
病気を理由として解雇できるか否かを判断するために重要な基準となるのが、まず、その病気が、業務と関係なく生じたものか、それとも業務が原因で生じたものかということです。
病気が、業務と関係なく生じたものなのか、業務が原因で生じたものなのかによって適用されるルールが異なるからです。
そこで、業務と関係なく生じた病気を理由に解雇することができるケース、業務に起因して生じた病気を理由に解雇することができるケースを順にご紹介します。
業務と関係なく生じた病気を理由とする場合
従業員の病気が業務と関係なく生じた病気(「私傷病」ということがあります。)である場合に、この従業員を解雇したいと考えたときには、就業規則を確認する必要があります。
この際に、確認すべきポイントは、以下の2点です。
- ① 休職の規定が設けられているかどうか。
- ② 病気により解雇できる旨の規定があるかどうか。
まず、①について、多くの会社では、就業規則において、休職制度が設けられています。
以下のように、厚生労働省が提供しているモデル就業規則においても、休職制度を定める規定があります。
第9条 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
① 業務外の傷病による欠勤が か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき◯年以内
② 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき必要な期間
2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。
3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。
会社の就業規則に、このような休職制度を定める規定がおかれている場合、従業員が業務と関係なく病気を発症すると、この規定にしたがって、当該従業員を休職させることとなります。
上記のモデル就業規則では、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって「退職」とすると定められていますが、会社によっては、「解雇」すると定めている場合があります。
この場合、休職期間の満了時に、復職可能であるかを検討し、復職が不可能であると判断した場合には、当該従業員を解雇することができます。
ただし、解雇予告または解雇予告手当の支払をし、適切な解雇手続をとる必要があります。
なお、「退職」と定めている場合は、解雇ではなく、退職扱いとなります。
この場合は、解雇予告等の手続きは必要ありません。
次に、②について、会社に休職制度がない場合でも、従業員が病気となったからといって、ただちに解雇できるという結論になるわけではなく、会社が従業員を解雇することができる事由として、就業規則に規定されている必要があります。
以下、具体例をご紹介します。
厚生労働省の提供するモデル就業規則では、解雇(51条)に関する規定の中に、解雇できる事由として、以下の事由があげられています。
第51条 労働者が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。
④精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき。
このような規定がある場合、従業員が業務と関係なく生じた病気により、業務に耐えられない場合も、上記の事由に該当するとして、解雇が可能となる可能性があります。
解雇できるケースの裁判例
判例 日本電気事件 東京地判平成27年7月29日
就業規則の定める休職期間の満了時に、復職できなければ自然退職となる定めのある会社において、業務と関係のない原因による病気(アスペルガー症候群)により休職していた従業員について、復職の要件を満たさず、退職扱いとしたことは適法であると判断した事例があります。
適切な解雇の方法について、詳しくは以下をご覧ください。
業務が原因で生じた病気を理由とする場合
従業員の病気が、業務が原因で生じたものである場合には、労働基準法第19条1項の規定の適用を受けます。
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
そのため、従業員の病気が、業務が原因で生じたものである場合には、療養のために休業する期間と、療養のために休業する期間の終了後30日間は、解雇することができません。
例外的に、労働基準法第81条の規定にしたがって、打切補償(うちきりほしょう)を支払う場合には、解雇することができるとされています。
この場合、当該従業員の平均賃金の1200日分を支払うこととなります。
第八十一条 第七十五条の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。
解雇できないケース
業務と関係なく生じた病気を理由とする場合で、就業規則に病気を理由に解雇することができることが規定されている場合であっても、会社側に認められている解雇権の行使が行き過ぎていると判断されると、解雇が無効と判断される可能性があります(労働契約法16条)。
就業規則に休職制度の規定のある会社において、休職制度の適用の対象であるにもかかわらず、休職させることなく解雇した場合、解雇権の濫用などを理由として無効となる可能性があります。
また、上記でもご説明した通り、従業員の病気が、業務が原因で生じたものである場合には、療養のために休業する期間と、療養のために休業する期間の終了後30日間は、解雇することができません。
解雇できないケースの裁判例
判例 神戸地判平成17年3月25日
〈 事案の概要 〉C型肝炎を患っている従業員を、①C型肝炎の発病により長期休暇を取らざるを得なくなった場合に、現場に相当の負担がかかること、②作業においてカッターナイフを日常的に使用することから感染の危険性が皆無ではないことを理由として、「勤務態度が不良の為、就業に適しないと認められる時」に該当するとして解雇した事案。
〈 裁判所の判断 〉
裁判所は、以下のような理由を述べて、上記の解雇は当該従業員がC型肝炎であることのみを理由としてなされた違法なものであると判断しました。
ア そもそもC型肝炎ウイルスは、主として感染者の血液が他人の血液内に入ることによって感染するものであり、通常の日常生活において感染することはなく、当該従業員の健康状態としても、定期的な通院は必要であるものの、就業に関しては、一般的な労働に従事するのは支障ないと診断されていることからすれば、当該従業員がC型肝炎に罹患していることのみを根拠として「就業に適しない」に該当するとはいえない。
イ 会社側の主張する①については、当該従業員の健康状態からすれば、近々に原告のC型肝炎が増悪して長期の休暇が必要になるほどの切迫した事情はうかがえないことなどから、単なる抽象的な可能性に過ぎず、「就業に適しない」とはいえない。
ウ 会社側の主張する②については、当該従業員が行う作業において、カッターナイフを用いることは予定されていなかったこと、仮にカッターナイフを持ちる作業があったとしても、当該従業員を排除しなければならないほどの感染の危険性があったとは認められない。
病気を理由に解雇する場合の注意点
退職理由(会社都合 or 自己都合)
会社都合の離職(従業員と会社の雇用関係が終了することをいいます)となるか、自己都合の離職となるかは、主に離職する従業員の失業保険給付に関わってきます。
また、会社によっては、退職理由が会社都合であるか、自己都合であるかによって退職金の支払額の基準が異なる場合もあります。
ここでは、病気を理由として離職する場合に、会社都合と扱われるケース、自己都合と扱われるケースをご説明します。
会社都合として扱われるケース
- ① 会社が病気を理由として従業員を解雇する場合
- ② 会社が従業員に対して退職勧奨を行い、従業員がこれに応じて退職する場合
自己都合として扱われる場合
- ① 従業員自らが病気を理由として退職を申し出た場合
- ② 休職制度が設けられている会社において、休職期間満了時に、従業員が復職できる状態になく、就業規則の規定により自然退職となる場合
退職金について
退職金の支払を受けることができるか、支払額がいくらになるかということについては、すべての会社に適用される一般的な基準があるわけではなく、個々の会社の就業規則や退職金規程の定めに従って決まります。
したがって、個々のケースにおいて、退職金の支払額がいくらになるのかは、就業規則や退職金規程を確認することが必要です。
病気を理由に解雇された場合の保険や手当等
失業保険
一般に言う失業保険とは、求職者給付の基本手当をいい、雇用保険の被保険者が失業した場合に、要件を満たすと受給することができます。
「失業」とは、雇用保険の被保険者が離職し、労働の意思および能力を有しているにもかかわらず、職業に就くことができない状態にあることをいいます(雇用保険法4条3号)。
労働の意思および能力を有していることが前提となるため、病気により全く働けない状態である場合には、「労働の能力を有している」といえないため、失業保険の給付を受けられません。
そのような場合には、健康保険の傷病手当の支給を受けられる可能性があります。
もっとも、仕事の内容によっては、働くことができる状態である場合には、「労働の能力を有している」といえるため、他の要件を満たせば、失業保険の給付を受けることができます。
失業保険の受給資格を得るには、通常は、離職の日以前2年間に被保険者期間が12か月以上である必要がありますが、病気による離職の場合、自己都合の退職であっても、「特定理由離職者(とくていりゆうりしょくしゃ)」に該当する可能性があり、離職の日以前1年間に被保険者期間が6か月以上であれば、受給資格を得ることができます。
傷病手当
傷病手当とは、健康保険の被保険者が病気やケガのため労働ができなくなった場合に支給される給付金です。
傷病手当金の給付の条件は、以下の4つの要件をすべて満たすことです。
- ① 病気やケガの療養のため休んだこと
- ② 労働することができないこと(就労不能)
- ③ 連続する3日間を含み4日以上労働できなかったこと
- ④ 休んだ期間について傷病手当金の額より多い賃金の支払がないこと
ただし、病気による退職後に、継続して傷病手当の給付を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- ① 被保険者の資格を喪失した日の前日までに継続して1年以上の被保険者期間があること
- ② 資格喪失時に傷病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしていること
「被保険者の資格喪失をした日の前日」とは、つまり「退職日」のことです。
退職日に出勤してしまうと、傷病手当金の給付の要件③を満たさないことになってしまうため、注意が必要です。
また、傷病手当金の支給される期間は、支給を開始した日から通算して1年6か月となります(支給を開始した日が2020年7月2日以降の場合)ので、退職後も継続して支給を受けられるといっても、その期間には限りがあります。
労災保険
業務上の事由により従業員が病気となりその療養中である場合、労働基準法第19条により、会社はその従業員を解雇することができません。
したがって、業務上の事由により病気となった従業員は、解雇以外の理由により離職しない限り、会社に在籍しながら療養することとなります。
業務上の事由により病気となった従業員は、その療養期間中、休業補償給付の支給を受けられる可能性があります。
休業補償給付を受けるための要件は以下の3つです。
- ① 業務上の事由による病気やケガの療養をしていること
- ② 上記の病気やケガの療養のため労働できないこと(就労不能)
- ③ 賃金の支払を受けていないこと
ただし、会社が、労働基準法第81条の規定に従い、療養を開始してから3年を経過しても従業員の病気が治らない場合に、平均賃金の1200日分の打切補償を支払った場合には、適法に解雇することが可能となります。
「平均賃金」とは、従業員が休業を開始した直前の賃金締切日からさかのぼって3か月間に支払われた給与の総額を、その期間の暦の日数で割ることにより算出される金額をいいます。
なお、3か月間に支払われた賃金の総額に、ボーナスや臨時に支払われる賃金は含みません。
また、従業員が、療養開始後3年を経過した日以後において、労災保険の傷病補償年金(しょうびょうほしょうねんきん)の支給を受けている場合には、会社は、上記の打ち切り補償を支払うことなく、その従業員を解雇することができます。
傷病補償年金とは、業務上の事由により、負傷するか又は病気にかかった従業員が、療養を開始して1年6か月を経過してもなお、傷病が治っておらず、その傷病による傷害の程度が厚生労働省の定める傷病等級に該当する場合に、その状態が続いている間支払われる給付です。
なお、傷病補償年金の支給と、休業補償給付を同時に受けることはできません。
労災保険の給付について、詳しくは以下をご覧ください。
解雇以外の離職の場合
業務上の事由により病気にかかった従業員が、解雇以外で離職した場合、たとえば、自ら退職した場合、定年退職となった場合、契約期間の満了により退職となった場合であっても、条件を満たす限り労災保険の給付を受けることができます。
生活保護
上記のような保険給付以外で、国民の生活を保障する制度として、生活保護の制度があります。
生活保護を受けるための条件を満たすことが必要ですが、病気で働けなくなり、生活に困窮している場合には、受給の検討または相談をされるとよいでしょう。
まとめ
従業員が病気となってしまった場合でも、休職制度などにより、従業員に安心して療養してもらい、その後復職して活躍してもらうことが理想ではあるものの、病気により、それまでに行っていた業務をすることが難しくなったり、勤務することができない時期が長期にわたることもあり、会社としては、その従業員について、解雇を検討せざるを得ないということもあるでしょう。
しかし、病気を理由として解雇をするには、上記でご説明したとおり、具体的な状況に応じて、適切な判断をすることが必要となります。
解雇が不当なものであると、後々トラブルに発展し、病気となり解雇されてしまった従業員にとっても、会社にとっても大きな負担となり得ます。
したがって、病気となった従業員の解雇を検討されている場合には、労働問題に詳しい弁護士に相談されることをおすすめします。