整理解雇とは?4つの要件・手続の流れや注意点を弁護士が解説
整理解雇とは、余剰人員を整理するために行う解雇をいいます。
会社の経営状況が悪化し余剰人員を雇用し続けることが難しくなったときに、経営再建の一環として実施されます。
他方で、労働法上、従業員は保護の対象とされており、解雇事由は厳しく制限されています。
法律上の考え方を理解せずに整理解雇を行うと、後に訴訟に発展し、解雇が無効になることもあるのです。
このページでは、整理解雇が有効となるための要件や、気をつけるべきポイント、実際に問題となった事例などについて、弁護士が解説します。
目次
整理解雇とは?
整理解雇(せいりかいこ)とは、余剰人員(人手が余っている状態)が生じた場合に、これを削減するためにする解雇のことです。
整理解雇は社会状況の変化などにより、会社の業績が悪化したときに検討されることが通例です。
例えば、新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛の際は、飲食業界等を中心に経営状況が悪化しました。
また、円安や物価高、人件費の上昇によりコストが増大した企業においても経営状況が悪化しています。
このような企業の業績悪化を背景として、人員削減のための解雇が行われています。
解雇は簡単に認められない
そもそも解雇とは、会社が従業員を雇用しているという契約関係を、会社側の一方的な判断により終了させること(雇用契約の解除)をいいます。
従業員側に原因のある懲戒解雇と異なり、整理解雇は業績悪化や経営不振などの経営上の理由により人員に余剰が生じたために行われるものです。
純粋に人員整理のための解雇であり、従業員側には何の非もありません。
労働者は、会社と比べて弱い立場に置かれがちなことから、法律上手厚く保護されており、簡単に解雇することはできないのが原則です。
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
引用元:労働契約法|電子政府の総合窓口
整理解雇は認められる?
このように、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、解雇は権利の濫用として法律上無効とされるのです。
それでは、経営状態の悪化により人員が過剰であるという理由での解雇は、「合理的な理由」といえるのでしょうか。
たしかに、会社の経営が悪化した責任は従業員ではなく経営者にあると考えれば、これを理由とする解雇は「合理的な理由」を欠くともいえそうです。
とはいえ、会社が経営上の危機に瀕しているときにも一切解雇を認めないとしたのでは、最悪の場合、会社の倒産という事態を招くことにもなり得ます。
そうなっては、全従業員が一斉に失業するということにもなりかねず、結果的によりいっそう深刻な結末となってしまいます。
そこで、軽率な解雇を抑止しつつ、真にやむを得ない場合に限っては整理解雇を認めるため、裁判例の積み重ねを通じて、整理解雇の要件が確立されてきました。
要件が4つ存在することから、「整理解雇の4要件」として知られています。
整理解雇の4要件
紛争に発展しやすい整理解雇ですが、実際にはなかなか認められない傾向があります。
というのも、整理解雇には4つの厳格な要件があり、そのすべてを適切に満たしているケースはそう多くないためです。
整理解雇の4要件は、以下のとおりです。
①人員削減の必要性
有効な整理解雇を行うためには、人員削減の必要性がなければなりません。
人員を削減する必要性とは、会社の経営状況に問題があり、人件費を削減する必要があることを指します。
売り上げや利益の推移をはじめ様々な経営上の要素を考慮して、人員削減が必要であるかが判断されます。
裁判例では会社側の経営判断が尊重される傾向にありますが、新規採用を継続しているなど経営難と矛盾するような事情があれば、人員削減の必要性が否定されることもあり得ます。
決算報告書などで危機的状況であることを証明できるか
人員削減の必要性については、会社の経営判断が尊重される傾向にはあります。
とはいえ、まったくその必要性がない場合には整理解雇は認められませんので、人員を削減しなければならない経営状態にあることを最低限証明する必要があります。
具体的には、決算報告書などの客観的な数値に基づいて会社の危機的状況を説明できなければなりません。
実例 ゼネラル・セミコンダクター・ジャパン事件 東京地判平成15・8・27
売り上げが横ばいであることや相当額の利益剰余金があることを理由に、人員削減の必要性を否定(ゼネラル・セミコンダクター・ジャパン事件 東京地判平成15・8・27)
説得力が肝ですので、単に会社が赤字だというだけでなく、売上高に対しどれだけの経費が発生しており、どれだけ人件費を削減することでどのような経営改善効果が得られるかというところまで説明できると、なおよいでしょう。
企業の財務状況を正確に分析するためのフォーマットを掲載しておりますので、適宜お役立ていただければと思います。
②解雇回避努力義務の履行
整理解雇をするためには、単に経営上の必要があるというだけでは足りません。
解雇を回避できるよう、会社はまず解雇以外の手段を講じる義務があり、そのような義務を果たしてもなお経営上の危機を脱しない場合にのみ、整理解雇は認められるのです。
「解雇以外の手段」とは、経営を立て直すために取り得るあらゆる手段のことであり、たとえば次のようなものがあります。
- 残業規制
- 交際費や役員報酬の削減
- 非正規従業員の雇い止め
- 希望退職者の募集
実際にどのような手段を講じるべきかはそれぞれの企業の状況に応じて異なるため、これらの手段を余さず網羅的に実施しなければならないわけではありません。
しかし、仮に解雇の有効性が争われた場合には、どのような手段を講じたのかということの説明が求められますので、イメージとしては、あらゆる手を尽くした後の「最終手段」と捉えていただくのがよいように思います。
解雇を回避する努力を尽くすこと
整理解雇は、「最終手段」のイメージとご説明しました。
経営再建の手法はさまざま考えられ、実際に解雇以外のすべての手段を先にとらなければならないわけではありません。
しかし裁判の場では、どれだけのことをやったのかという点が厳しく問われますので、新規採用の凍結や希望退職者の募集など、一般的に想定される手段については可能な限り尽くしておくことが重要です。
事例 あさひ保育園事件 最判昭和58・10・27
希望退職者募集の措置をとらなかったことなどを理由に挙げて、解雇を無効と判断
引用元:最高裁判所判例集|裁判所
なお、当事務所では、希望退職者を募集するとき書式をホームページ上に公開しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
ぜひご活用ください。
③解雇対象者選定の合理性
整理解雇を実施するにあたっては、どの従業員を解雇するかという問題があります。
解雇対象者の選定が合理的であることも、整理解雇が有効となるための要件とされています。
整理解雇が行われる場面では、誰かしらが失職するという不利益を被ることは避けられないのですが、解雇される側からすると、「なぜ他の社員ではなく自分なのか」という点について納得のいく説明を求めたいはずです。
その点を可視化せず「ブラックボックス」としてしまうと、会社の主観に基づく濫用的な解雇を誘発するおそれもありますし、従業員の間に会社に対する不信感が芽生えることにもなりかねません。
そこで、解雇の対象とする従業員の選定に合理性が求められるのです。
選定が合理的であるといえるためには、客観的かつ合理的な選定基準をもうけた上で、それにのっとって対象者を選定することが重要です。
一般論としては、勤務成績や解雇による打撃の程度(扶養家族の有無)を基準とすることは合理的と考えられています。
一方、年齢を基準とすることは、たしかに1人あたりの人件費がより高額であるという意味では高齢層を対象とすることに合理性はあるともいえそうです。
ですが、高齢社員には再就職が困難という事情もあるため、そのような点をケアすることなく「53歳以上」という基準を用いることは従業員への配慮を欠き合理性がないと判断された例もあります(参考判例:東京地裁平成13年12月19日)。
このため、年齢については選定基準とすることが直ちに違法となるわけではありませんが、年齢を基準とする場合には、とりわけ慎重な配慮が必要となります。
なお、性別については、これを基準とすることは男女雇用機会均等法の関係で合理性が認められる余地はないと思われます。
このように、年齢を基準とすることには適当な面とそうでない面の二面性があることから、事案によって判断が分かれる傾向にあります。
実例
エヴェレット汽船事件 東京地裁昭和63・8・4
人件費の観点から「45歳以上の者」を対象とした基準の合理性を肯定
ヴァリグ日本支社事件 東京地裁平成13・12・19
経済的代償や再就職支援措置の提供なしに「53歳以上」を対象とすることは、労働者やその家族の生活への配慮を欠き合理性がない
このような裁判事例の傾向を考えますと、年齢を要件とする場合には、次のような点に留意する必要がありそうです。
- 様々な基準を設ける中で、その一つとして年齢を盛り込むことは必ずしも否定されない
- 高齢の従業員を対象とする場合は、解雇の不利益を緩和する措置を講じる
④手続きの妥当性
手続きの妥当性とは、従業員に対して、整理解雇について十分な説明を行い誠実に協議することをいいます。
会社は組合や従業員に対し、上記の3要件、すなわち整理解雇の必要性があること、解雇回避のためいかなる手段を尽くしたか、どのような基準で対象者を選定するか、といったことを中心に丁寧に説明しなければなりません。
以上のような要件を満たしていたとしても、整理解雇を進める手続きが妥当でなければ、整理解雇自体が無効となることもあります。
ここでいう手続きの妥当性とは、整理解雇の必要性や進め方について、組合や従業員に対して丁寧に説明することをいいます。
実例
あさひ保育園事件 最判昭和58・10・27
人員整理がやむをえない事情などを説明して協力を求める努力を一切せず、解雇日の6日前になって突如通告した事案において、解雇を無効と判断
ジャパンエナジー事件 東京地裁平成15・7・10
労働組合とは協議し合意を得ていたものの、解雇対象となる可能性の高い社員から意見を聞くといった手続きをとっていなかったことから、手続きの妥当性を否定
整理解雇によって、従業員にとっては自らに落ち度がないにもかかわらず失業という打撃を受けることになりますので、十分な説明が必要です。
従業員の理解を得るべきことは当然ですが、これを欠いた場合には解雇自体が無効となる重要な手続きですので、おざなりにならないよう丁寧に説明していかなければなりません。
整理解雇の流れ
整理解雇は、以上の4要件を満たすように丁寧に進めていく必要があり、1例として次のような流れで進むことになります。
整理解雇以外の手段を講じる
整理解雇は「最後の手段」ですので、まずは経営改善のために解雇以外の手段を講じる必要があります。
中でも、希望退職者の募集は実務上重要なプロセスといえます。
希望退職者の募集とは、自らの意思で退職を希望する社員を募ることをいい、多くの場合、退職金の上乗せなどの優遇措置を提示することになります。
希望退職ではあくまで本人の意思で退職しており、整理解雇のように一方的に解雇しているわけではない点で穏当な手段といえ、整理解雇の実行前にまず実施すべきものといえます。
希望退職者を募集する際の参考書式については、以下をご覧ください。
経営状況を整理し、整理解雇の必要性を裏付ける資料をそろえる
希望退職者の募集をはじめとする各種の措置を講じてもなお人員削減の必要性があるということであれば、その必要性を裏付ける資料をそろえておくべきです。
従業員と整理解雇の協議をするにあたって経営状況を客観的な形で提示する必要がありますし、後に解雇の有効性が争われた際に、整理解雇の必要があったことを示す根拠資料ともなるためです。
具体的には、損益計算書や貸借対照表等の財務諸表が重要な資料となります。
また、整理解雇に詳しい弁護士であれば、これらの財務諸表をもとに企業の経営状況を示す分析資料を作成してくれるでしょう。
解雇基準や条件、今後のスケジュールなどを作成する
解雇対象者選定のための基準を作成する
解雇対象者選定の基準についても、従業員との協議の際に必要となるほか、後に争いが生じたときに客観的な基準で選定したことを示す証拠とするために作成しておかなければなりません。
選定基準は、勤務成績など人選の合理性が説明できるものでなければならず、かつ客観性のある基準とすることが望まれます。
「職務に対する適性を有するか」のようなあいまいな基準では、せっかく基準を設けても人によって解釈がいかようにも別れ得るため、客観性を欠くと判断される懸念があります。
客観的といえる選定基準を作成するためには、「その基準を用いたならば、誰が人選を担当しても同じ従業員が選ばれることになるか」という視点を持つとよいでしょう。
解雇条件やスケジュールなどの詳細を詰める
解雇者を選定する基準以外にも、退職金を上乗せするか、再就職支援措置を講じるかといった、解雇に付随する条件も考えておく必要があります。
このような措置の有無は整理解雇による不利益を緩和するため対象者にとっても解雇を受け入れやすくなりますし、後に解雇の有効性が争われた場合にも、解雇の合理性を補強する材料ともなります。
選定基準や解雇条件などが固まったら、実際の整理解雇の時期などのスケジュールを詰めておきましょう。
このあたりの進行計画は、可能であればもっと前の段階から並行して進めても良いでしょう。
従業員と協議する
整理解雇を実施する前に、従業員に対し、整理解雇の必要性や選定基準などについて十分な説明を行う必要があります。
先述した経営に関する資料や解雇基準が準備できていれば、より従業員の理解も得られやすくなるでしょう。
このように、ここでお示ししている整理解雇の流れは、その1つ1つが次の手順を円滑に進めるための布石にもなっていますので、整理解雇を円満に完了させるには、それぞれのプロセスを怠ることなく着実に実施していくことが重要です。
整理解雇を実施する
以上のようなプロセスを経てなお経営難の状況が解消していなければ、最終段階として、整理解雇を実施します。
具体的には、整理解雇の基準に基づいて対象者を選定し、解雇の事実を告げることになります。
解雇の時期としては、即日解雇できるわけではなく、解雇を告げてから実際の解雇日までは30日以上の期間を空けなければなりません。
言い換えると、解雇日が決まっているのであれば、少なくともその30日以上前には解雇を告げておく必要があるということです。
このような事前の解雇の告知を、「解雇予告」といいます。
ただし、「解雇予告手当」といって、30日分以上の平均賃金を支払うのであれば、事前の解雇予告がなくとも即日の解雇が可能です。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。
三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
②・③ (略)
引用元:労働基準法|電子政府の総合窓口
整理解雇の実施を対象者に通知する際の参考書式については、以下をご覧ください。
整理解雇で退職金はもらえる?
退職金がある会社であれば、整理解雇であっても退職金は支給されます。
むしろ、解雇に伴う打撃の緩和措置として増額されて支給されることも多いです。
ただし、退職金は会社の定める就業規則や退職金規程に基づいて支給されるものであるため、これらの定めがない場合には、退職金は支給されません。
退職金をもらえない場合は、まず勤務先の就業規則等に退職金についての定めがあるかを確認する必要があります。
もし規程があるにもかかわらず退職金が支給されないということであれば、その理由を会社に確認してみるべきでしょう。
退職金規程の解釈や支給要件の認識に相違がある場合や、資金的な理由から不払い状態となっている場合など、事情はさまざま考えられるところですが、納得のいく説明が得られないようであれば、弁護士を通じて法的に請求していくのが確実といえます。
企業が知っておくべき整理解雇のポイント
解雇は、従業員にとっては職を失うことを意味し、その生活に与える影響は大変大きいものです。
このため、解雇は後々有効性が争われやすく、中でも整理解雇においては、従業員側に何らの非もないことから、特に紛争になりやすいといえます。
ここでは、整理解雇を実施する企業が知っておくべきポイントを解説します。
いずれも重要性の高いものばかりですので、整理解雇をお考えの際は、ぜひそれぞれの項目について十分にご検討頂きたいと思います。
解雇以外の手段も検討する
ここまでお読みいただくと、整理解雇が非常にハードルの高い手法であることがおわかりいただけたかと思います。
整理解雇は、人件費という固定費を大きく削減できる手段として、経営難の状況では魅力的な手段に見えるかもしれません。
しかし、整理解雇を実施するには上記の4要件を満たさなければなりませんので、いずれにしても、まずは解雇以外の手段から講じていく必要があります。
また、安易に整理解雇を行ってしまうと、経営危機を脱したときに今度は人手が足りないということにもなりかねません。
そこで、経営状況の厳しいときにおいても、視野を広く持って様々な角度から経営改善を図っていくという姿勢が重要です。
人件費は希望退職者の募集や非正規社員の整理によっても削減することができますし、配置転換などを工夫することによって人員の余剰を解消することも可能かもしれません。
また、退職勧奨を行うという方法も検討しましょう。
退職勧奨とは、解雇ではなく退職するよう説得する行為をいいます。
もし、従業員が退職勧奨に応じてくれれば、解雇を争われるリスクがなくなります。
なかなか難しいかもしれませんが、整理解雇以外の工夫を重ねておくことで、結果的に後々整理解雇に踏み切ることになったとしても、解雇回避努力義務を尽くしたものと評価されやすくなることが期待できます。
労働問題に強い弁護士のサポートを受ける
整理解雇が有効となるためには、整理解雇の4要件をきっちり満たした形で適切に手続きを進める必要がありますが、以上のように、そのハードルは非常に高いものとなっています。
法的観点を持たずに強引な整理解雇を断行してしまうと、後に訴訟で無効となるおそれもありますが、整理解雇の要件を満たしているかの判断は法的なものであり、法令や判例に精通していなければ的確な判断は非常に困難です。
そこで、整理解雇を検討されているのであれば、労働問題に強い弁護士のサポートを受けながら進めることをおすすめします。
労働問題に強みをもつ弁護士であれば、顧問先の企業などから日常的に労務関係の相談を受けていますので、整理解雇についても的確な見通しを立てながら助言することができます。
整理解雇を進める際には高度な法的判断が求められる場面が多々あり、ひとつ判断を誤ったがために整理解雇が無効となるということも考えられます。
「急がば回れ」という言葉があるとおり、自己判断で闇雲に進めるのではなく、専門家の支援を受けながら確実に実行することで、結果的に円滑な整理解雇が実現できるでしょう。
従業員が知っておくべき整理解雇のポイント
ここまで、整理解雇を実施する会社側の視点から、注意すべき点を説明してきました。
ここからは、整理解雇の対象とされた従業員にとって知っておきたいポイントを解説します。
整理解雇のとき失業保険はどうなる?
勤務先から整理解雇された場合、失業保険を受給することができます。
一般に失業保険と呼ばれているものは、正確には雇用保険法に基づく「求職者給付」というものであり、失業期間中に国から給付される給付の一種です。
失業保険を受け取れる日数や金額は失業者の年齢や雇用保険の加入期間によって変わってきますが、整理解雇は会社都合での退職ですので、「特定受給資格者」として、自己都合退職の場合と比べて有利な条件で受給することができます。
整理解雇は自らの意思に基づく退職ではなく、つぎの仕事を見つけるまでに時間がかかることも想定されるためです。
万が一離職票の離職理由が「自己都合」となっていれば、「特定受給資格者」としての扱いが受けられませんので、離職票の離職理由は必ず確認するようにしましょう。
整理解雇に納得がいかない場合
整理解雇は会社の都合で一方的に解雇されるものであるため、対象とされた従業員の側に不服がある場合も少なくありません。
整理解雇されたことに納得がいかない場合、法的な手段も視野に入れて対応していく必要があります。
具体的には、次のような点に気をつけるとよいでしょう。
退職証明書・解雇理由証明書をもらう
整理解雇に不満がある場合、会社に退職証明書または解雇理由証明書の発行を請求しましょう。
これらはいずれも、退職に関係する事実を証明する書類です。
退職証明書には対象者の業務内容や地位のほか解雇理由の記載があるのに対し、解雇理由証明書には解雇理由のみが記載されます。
会社は、解雇対象とした従業員からこれらの証明書の発行を求められたときは、必ずこれを交付しなければなりません。
(退職時等の証明)
第二十二条 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
② 労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。
③・④(略)
引用元:労働基準法|電子政府の総合窓口
退職証明書を請求できるのは退職後であり、解雇予告を受けてから退職日までの間に交付を請求するときは、解雇理由証明書を請求することになります。
このような証明書の交付が義務付けられている理由は、解雇理由の開示を義務づけることで濫用的な解雇を抑制し、解雇を巡る紛争を未然に防ぐためです。
退職証明書の交付を受けておくことで、後に解雇の有効性を争う際の有力な資料となりますし、仮に解雇理由の記載が不十分であれば、それだけで解雇の妥当性に疑念が生じることにもなります。
具体的な使い道のイメージが湧きづらいかもしれませんが、整理解雇に不満があるのであれば後々役に立つことがありますので、入手しておいて損はありません。
解雇理由証明書についての詳しい説明は、以下をご覧ください。
労働問題に強い従業員側の弁護士に相談する
整理解雇に納得がいかず、法的に争いたいという場合もあるかもしれません。
しかし、いくら整理解雇が法的に不当であるとしても、従業員個人が会社と争うことは非常に困難であり、独力で解雇を撤回させることはほとんど不可能と思われます。
解雇の有効性を争うのであれば、法律の専門家である弁護士に依頼するのが現実的な対応といえるでしょう。
労働問題における弁護士選びのポイントは、「労働問題に強い従業員側の弁護士に依頼する」ということです。
弁護士は法律のプロとして幅広い法令知識を身に着けている一方、それぞれの弁護士に得意分野や注力分野があります。
労働問題は、整理解雇ひとつとっても分かるとおり、判例の蓄積を通じて複雑な法理が形成されている分野であり、弁護士にも高い専門性と十分な経験が求められる案件といえます。
労働事件の取り扱いを標榜しているものの、実際には企業側の依頼しか受けていないという法律事務所も存在しますので、従業員側の労働事件を多く手掛ける弁護士に依頼することが大切です。
労働問題における弁護士の選びの重要性については、以下をご覧ください。
整理解雇に関するQ&A
ここでは整理解雇に関してご質問が多いものをご紹介します。
整理解雇の離職票は「会社都合」それとも「自己都合」?
離職票には離職理由を記載する欄がありますが、この離職理由をめぐって、しばしば物議を醸すことがあります。
離職票の離職理由は、「自己都合」と「会社都合」に別れます。
会社が従業員を解雇した場合、従業員に責任があるような例外的なケースを除いて、離職理由は会社都合となります。
整理解雇は経営不振という純粋に会社側の事情によるものであり、従業員の側には何の落ち度もありませんので、離職理由は原則どおり会社都合となります。
整理解雇は、問題を起こしたわけでもない従業員を会社の一方的な判断で解雇するというものであり、その性質上、紛争に発展するリスクがあります。
トラブルを未然に防ぎ円満な形で整理解雇を進めるためにも、離職票の離職理由は適切に記載することが重要と言えます。
まとめ
このページでは、整理解雇について、有効と認められる要件や適切な進め方、気をつけるべきポイントなどについてご紹介しました。
記事の要点をまとめると、次のとおりです。
- 整理解雇とは、経営上の理由から余剰人員を削減するために実施される解雇をいう。
- 解雇は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には無効となり、具体的には、「整理解雇の4要件」を満たす必要がある。
- 「整理解雇の4要件」とは、人員削減の必要性、解雇回避努力義務の履行、解雇対象者選定の合理性、手続きの妥当性である。
- 整理解雇はなかなか認められない傾向にあるため、解雇以外の手段を検討することが望ましく、仮に整理解雇を行う場合は、4要件を充足するよう1つ1つの手順を丁寧に進めていく必要がある。
- 整理解雇に関して不安や疑問があるときは、会社側と従業員側のいずれにおいても、労働問題に造詣の深い弁護士に依頼することが効果的である。
当事務所では、労働問題を専門に扱う企業専門のチームがあり、企業の労働問題を強力にサポートしています。
Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。
解雇問題については、当事務所の労働事件チームまで、お気軽にご相談ください。
この記事が、労働問題にお悩みの企業にとってお役に立てれば幸いです。