解雇予告の除外認定とは?弁護士が手続きの流れや注意点を解説
解雇予告の除外認定とは、従業員を解雇する際に本来必要となる「解雇予告」を省略するために、労働基準監督署長の認定を受けることをいいます。
解雇予告を省略できるということは、従業員を即時に解雇できるということです。
もっとも、従業員は会社に比べて弱い立場に置かれがちなことから、法律上さまざまな保護が与えられています。
従業員を解雇する際に原則として解雇予告が必要とされているのも、従業員に対する保護の一種です。
すなわち、解雇予告を不要とすることは、従業員の保護を弱めることを意味するのです。
簡単に除外認定が認められてしまっては、解雇予告を要求することで従業員を保護しようとした法の趣旨がないがしろになります。
このため、解雇予告の除外認定は、一定の要件を満たした場合に限って例外的に認められるものとされているのです。
このページでは、解雇予告の除外認定の意味や認められる条件、メリットや申請の手続きなどについて、弁護士が詳しく解説します。
目次
解雇予告の除外認定
解雇予告の除外認定とは、従業員を解雇する際に必要な「解雇予告」という制度について、その適用を「除外」するための「認定」のことをいいます。
除外認定の制度を正しく理解するには、その前提として、解雇予告について知っておく必要があります。
そこでまずは解雇予告の意味を解説しますので、その上で除外認定について理解を深めていただければと思います。
解雇予告とは
会社が従業員を解雇する際、即日の解雇はできないのが原則です。
従業員の解雇にあたっては、少なくとも解雇の日の30日以上前にそのことを従業員に予告しなければならないのです。
このような事前の解雇の通知を、「解雇予告」といいます。
従業員は、日々会社から給料を得ることで生計を立てており、突然解雇されたのでは生活が立ちゆかなくなるおそれがあります。
そこで、従業員の生活が破綻を来さないよう、解雇までに一定の時間的な猶予を与えなければならないとされているのです。
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
引用元:労働基準法|電子政府の総合窓口
条文の冒頭にある、「少くとも三十日前にその予告をしなければならない」というのが、解雇予告に当たります。
それに続いて、「三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない」とあるとおり、解雇予告をしない場合は、30日以上分の平均賃金を支払わなければなりません。
これを「解雇予告手当」といいます。
解雇予告が要求される趣旨は従業員の生活保障にありますので、金銭の支払いをもって、解雇予告に代えることができるとされているのです。
すなわち、従業員を解雇する際は、解雇予告によって時間的猶予を与えるか、どうしても即時に解雇したいのであれば、解雇予告手当の支払いによって金銭的に補償しなければないということになります。
解雇予告手当についてさらに詳しくは、こちらをご覧ください。
除外認定とは
除外認定とは、従業員を解雇する際に原則として必要となる「解雇予告」や「解雇予告手当の支払い」について、これらをいずれも不要とするための手続きをいいます。
先ほど、労働基準法の20条をお示ししましたが、除外認定についての条文の該当箇所を改めて確認したいと思います。
「但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。」
ここに記されている2つの事由があるとき、すなわち「やむを得ない事由により事業を継続できないとき」又は「従業員に解雇の責任があるとき」には、「この限りでない」されています。
「この限りではない」とは、すなわち解雇予告も解雇予告手当の支払いもいずれも不要ということです。
これら2つの事由は、解雇予告及び解雇予告手当の規定の適用を除外することから、「除外事由」と呼ばれることがあります。
解雇予告の制度趣旨は従業員の保護ですが、会社が事業を継続できない場合や、本人に解雇の責任があるような場合には、そのような保護を及ぼすことが不可能ないし不適切という場合もあり得ます。
そこで、解雇予告又は解雇予告手当の支払いを原則としつつ、このような規定を置くことで除外事由がある場合には例外的に解雇予告を不要とする道を設けているのです。
ただし、除外事由があればそれだけで直ちに解雇予告が不要になるというわけではありません。
上記条文の③が、次のように定めているからです。
「③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。」
ここでいう「前条第二項の規定」とは、20条の1つ前の条、すなわち19条の第2項のことを指しています。
19条の第2項は、次のとおりです。
第十九条
① (略)
② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
この「その事由について行政官庁の認定を受けなければならない」という規定が解雇予告の場合にも準用、すなわち同様に適用されます。
これによって、除外認定の場面でも、除外事由が存在することについて「行政官庁の認定」を受ける必要があるということになるのです。
この「解雇予告を除外するための除外事由を行政官庁によって認定してもらう手続き」が、除外認定と呼ばれるものです。
なお、ここでいう「行政官庁」とは「所管労働基準監督署長」のことです(労働基準法施行規則第7条)。
条文の準用なども出てきて非常に複雑な規定ですが、要するに、「解雇予告を除外するためには、除外事由が存在するだけでは足りず、そのことについて労基署の認定を受ける必要がある」ということです。
せっかく解雇予告という制度によって従業員の保護を図っているにもかかわらず、会社限りの判断で安易に「除外事由がある」とすることを認めると、従業員の保護という制度趣旨がまっとうされなくなります。
そこで、法の趣旨がおろそかになることのないように、労基署という外部の公的機関による認定が必要とされているのです。
ここで、解雇予告と除外認定の関係について、考え方を整理しておきます。
【 原則 】
解雇予告又は解雇予告手当の支払いのいずれかが必要
【 例外 】
除外事由が存在し、かつそれを労基署が認定(除外認定)
→解雇予告・解雇予告手当のいずれも不要
除外認定が認められるケースと認められないケース
除外認定が認められるとは、すなわち除外事由が存在し、かつそのことを労基署が認定することを意味します。
除外事由には、事業の継続が不可能な場合と、解雇の責任が従業員にある場合の2つがありました。
具体的にどのような場合がこれに該当するのか、ここからは除外事由の解釈について解説します。
除外事由の通達
労働基準法の解釈については、労働省(現在の厚生労働省)局長から都道府県労働基準局長に宛てて通達が出ています(労働省通達 昭和63年3月14日基発第150号)。
通達とは、行政機関が法令の解釈運用基準などを内部的に定めたものです。
通達はあくまで行政機関が独自に定めた内部的な事務処理基準にすぎません。
したがって、法令とは異なり、通達は直接国民を拘束するものではありません。
しかし、行政機関は通達が発出されている場合はこれに基づいて事務を処理しますので、結果的には通達の内容が国民に適用されているのと同じような状態となります。
上記の通達は、労働基準法の解釈方針を定めた通達であり、除外事由の解釈もこの通達に含まれています。
そこで以下では、除外事由の解釈について、通達の内容も踏まえながら具体的に解説します。
事業の継続不能
除外事由の1つは、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合」です。
単に事業の継続が不可能であるだけでは足りず、その原因が天災事変のようなやむを得ない事由による場合に限定されています。
通達では、「事業の継続が不可能」とは、事業の全部又は大部分の継続が不可能になった場合をいうとされ、経営上の措置を講じることで事業の継続が見込める場合はこれに当たらないとされています。
通達では、除外事由に当たらない例として、次のような具体例が示されています。
-
- 主要な設備等が残っており、多少の従業員を解雇すれば従来の事業を継続できる場合
- 従来の事業は継続できないが、多少の従業員を解雇することにより別の事業に転換できる場合
- 一時的に操業中止に至ったが、近々事業の再開が見込める場合
次に、「やむを得ない事由」とは、天災又はこれに準ずる程度の突発的な原因であって、経営者が必要な措置を講じてもどうにもならないようなものをいうとされています。
- 事業場が火災により焼失した場合(事業主の故意・重過失による場合を除く)
- 震災で工場・事業場の倒壊し事業が継続できない場合
- 事業主が経済法令違反のため強制収容されたり、事業に必要な機械や資材等を没収されたりした場合
- 税金の滞納処分を受け事業廃止に至った場合
- 経営上の見通しの誤りにより経営難を招いた場合
- 取引先からの発注が止まったことにより資金繰りが悪化した場合
これらはあくまで例であって、実際の事案が除外事由に該当するかは事案ごとの個別の判断となりますが、一般論としては、「やむを得ない事由」とは、いかんとも対処しがたい不可抗力のようなものに限られると考えられます。
従業員の責任による解雇
除外事由のもう1つは、「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」です。
「労働者の責に帰すべき事由」とは、従業員に解雇の責任があり、解雇予告という保護を与える必要がないといえるような場合がこれに当たります。
イメージとしては、懲戒解雇相当のような場合が典型例ですが、必ずしも就業規則で定める懲戒解雇事由と一致するわけではない点には注意が必要です。
後ほど詳しく解説しますが、除外事由としての「労働者の責に帰すべき事由」と、懲戒解雇の事由は、食い違うこともあるのです。
こちらの事由についても、やはり通達で考え方が示されており、除外事由に当たる例として次のようなものが挙げられています(昭和23年11月11日 基発1637号、昭和31年3月1日 基発111号)。
- 事業場内で窃盗、横領、傷害などの犯罪に及んだ場合(極めて軽微なものを除く)
- 極めて軽微な窃盗、横領、傷害ではあるが、会社がこれらを防止する手段を講じているにもかかわらず、従業員がこれらを反復して行った場合
- 事業場外で行われた窃盗、横領、傷害など刑法犯であって、それが著しく事業場の名誉や信用を失墜させるもの、取引関係に悪影響を与えるものまたは労使間の信頼関係を喪失させるものと認められる場合
- 賭博その他の行為によって職場の規律を乱し、他の従業員に悪影響を及ぼす場合
- 採用の条件に関わる要素について経歴を詐称した場合
- 他の事業場へ転職した場合
- 2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
- 出勤不良が継続し、数回にわたって注意を受けても改めない場合
こちらもあくまで例にすぎず、通達上でも、「認定にあたっては、必ずしも上記の個々の例示に拘泥することなく総合的かつ実質的に判断すること」とされています。
なかなかイメージを一般化するのは難しいところですが、上記の例示を見る限りでは、単に仕事をサボりがちであるという程度では除外事由としては不十分といえそうです。
遅刻や欠勤が相当反復されたり、犯罪行為によって職場の秩序を乱したりといった、雇用を継続することが会社にとって多大な不利益となるような、悪質性の強い場合に限られていると考えておくとよいでしょう。
除外認定と懲戒解雇の関係
除外事由の2つめ、つまり従業員に解雇の原因がある場合、従業員を懲戒解雇するケースも多いかと思います。
そこで、除外認定と懲戒解雇の関係性が問題となってきます。
すなわち、労基署で除外事由が認められれば懲戒解雇も当然に有効となるのか、ということです。
結論としては、両者は直接関係するものではありません。
つまり、労基署で除外事由が認められたからといって、必ず懲戒解雇が有効になるというわけではありません。
その逆に、除外事由が認められなかったからといって、懲戒解雇が無効というわけでもありません。
両者の判断は実質的には重複する部分もありますが、それぞれ独自の観点からの判断となりますので、結論が食い違うこともあるのです。
そのような結論の不一致が生じた事例としては、次のようなものがあります。
判例 除外事由は認定されたが、懲戒解雇は無効とされた例
飲酒運転により懲戒免職となった市職員について、人事委員会は解雇予告の除外認定をしたが、物損事故にとどまることや、前日の酒が残っていたにすぎないといった事情が考慮され、懲戒免職処分を違法と判断
判例 除外事由は認定されなかったが、懲戒解雇は有効とされた例
商品取引業者の従業員が、借名口座により取引を行うなどの不正行為を働いた上、会社側の調査に非協力的であった事案について、除外認定はされなかったものの、懲戒解雇は有効と判断
除外認定が認められるメリット
除外認定が認められると、解雇予告と解雇予告手当の支払いのいずれも不要となり、従業員を即時に解雇できることになります。
これが除外認定が認められるメリットであり、除外認定はまさにこのような効果を目的に行われるものといえます。
このメリットについて、もう少し詳しく見ていきます。
除外認定が認められると、事前の解雇予告を経ることなく、即時の解雇が認められます。
除外認定が認められるということは、事業が継続できないとか、従業員に責任があって解雇したいといった、雇用を継続しがたい事由が存在する場合ですので、可能ならば即時に解雇できるに越したことはありません。
事前の解雇予告手続きを経ることなく即時に解雇できるのは、除外認定が認められる大きなメリットの1つといえます。
除外認定が認められるもうひとつのメリットは、解雇予告手当の支払いも不要となる点です。
単に従業員を即時に解雇したいというだけであれば、解雇予告手当を支払えば可能となりますので、必ずしも除外認定を取る必要はありません。
ですが、解雇予告手当の金額は平均賃金の30日分以上ですので、解雇予告手当を支払うのであれば、即時に解雇できたとしても人件費としては30日後に解雇したのと等しい負担が生じることになってしまいます。
どうせ30日分の人件費が発生するのであれば、即時に解雇するよりもその間働いてもらった方が得とすらいえます。
ですので、解雇予告手当を支払ってでも即時解雇するケースとしては、不祥事を起こしたなどの理由で一刻も早く会社から排除したいような場合に限られてくると思われます。
除外認定のメリットはまさにここにあります。
すなわち、解雇予告なしでの解雇が可能である上に、しかも解雇予告手当の支払いについても不要となるので、上記のような負担感に頭を悩ませることなく即時の解雇に踏み切れるのです。
解雇予告は従業員を保護するための制度ですので、懲戒解雇に相当するような場合にまで適用してしまっては、過剰な保護になってしまいます。
問題社員を解雇する場合、除外認定を取ることで本人にペナルティを与えるのはもちろん、不正に対して毅然と対応するという会社の姿勢を示すことで、職場の秩序を回復することにもつながるのです。
除外認定の本来の効果はあくまで解雇予告が不要となる点ですが、このような付随的な影響についても、小さくないメリットといえるでしょう。
除外認定が認められないデメリット
除外認定が認められない場合、解雇の原則どおりに解雇予告又は解雇予告手当の支払いが必要となってきます。
これが、除外認定が認められないことの典型的なデメリットです。
さらに加えて、次のような点も除外事由が認定されないことのデメリットとしてあげることができるでしょう。
除外認定を得るには、労働基準監督署長に対し所定の申請書を提出する必要があります。
その際、除外事由の存在を示す根拠資料として、本人の書いた弁明書などを添付するのが通常です。
さらに、除外認定を申請すると、後日労基署による聞き取り調査を受けることになります。
このように、除外認定の手続きには諸々の事務作業が必要となってきますが、仮に除外認定の申請が認められないとすると、これらの作業がすべて無駄だったということになってしまいます。
もしその間に30日以上経過するようであれば、結果的に初期の段階で解雇予告を行っていた方が手間も少なく、かつ解雇の時期も早まっていたということにすらなるのです。
除外認定は、従業員に対する保護を排除するという強力な効果をもつものですので、労基署でも要件を満たしているかが厳しく審査されることになります。
解雇対象者本人にも聞き取りを行い、仮にそこで本人が調査を拒んだり、除外事由に該当することを争ったりした場合は、除外事由の存在に疑義があるとして、除外認定が認められる可能性はかなり低くなります。
除外認定を申請するのであれば、社内の規律維持のために経済的な不合理性を承知の上で断行するか、あるいは認められる可能性が高いものに絞って申請するといった工夫が必要といえるでしょう。
労働問題に精通している弁護士であれば、認定の得られる見通しについて的確な助言ができますので、そのような弁護士にご相談されてみるのもよいでしょう。
除外認定が認められないということは、労基署が除外事由の存在を認定しなかったということです。
特に懲戒解雇の事案では、これによりあたかも「労基署が従業員に非のないことを認定した」かのように見えてしまう点も、除外認定が認められないデメリットといえるでしょう。
すでにご説明したとおり、「除外事由が認定されるか」と「懲戒解雇の有効性」はそれぞれ別の判断であり、除外認定が認められなかったからといって、懲戒解雇が無効になるというものではありません。
ですが、労基署という公的機関が除外事由の存在を認めないという判断を下したことにより、「懲戒解雇とすると覆されるのではないか」といった不安が社内に生じるかもしれません。
このような場合も、懲戒解雇相当の事案といえそうか、労働問題に強い弁護士に相談すると的確な助言が得られるでしょう。
【 除外認定のメリットとデメリットのまとめ 】
認められるメリット | 認められないデメリット |
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除外認定の手続きの流れ
除外認定を申請する場合、手続きの流れは次のようになります。
①解雇予告除外認定申請書の提出
除外認定の申請は、管轄の労働基準監督署長に対して「解雇予告除外認定申請書」を提出して行います。
その際、除外事由の存在を根拠付ける資料として、懲戒解雇の場合であれば、本人作成の始末書や弁明書などを添付することが多いです。
参考:都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧|厚生労働省
②労基署の調査
除外認定の申請を受けると、労基署は会社及び従業員の双方に対して聞き取り調査を行います。
従業員が調査委に対し解雇原因を否認したような場合には、除外認定が認められるのは難しくなってきます。
そこで、除外認定を申請する段階で、対象となる従業員の認識を示した書面を提出するといった先手の対応が重要となってくるのです。
③認定結果の通知
除外認定の申請を行ってから、調査の進捗具合にもよりますが、1週間から2週間程度で認定又は不認定の結果が通知されます。
解雇予告を除外するための手続きという性質上、あまりに時間がかかっては意味がありませんが、標準的にはこの程度の期間を要するものと見込んでおくとよいでしょう。
④解雇
認定結果の通知を受けると、実際の解雇手続きに移ります。
除外認定が認められた場合は即日解雇となりますが、認められなかったのであれば、原則どおり解雇予告または解雇予告手当を支払った上で解雇することになります。
なお、解雇する際は、トラブル防止のために、解雇通知書や解雇予告通知書等を交付するようにしましょう。
当事務所では、これらのサンプル書式をホームページ上に掲載しており、無料で閲覧やダウンロードが可能です。
除外認定に必要な書類や提出先
除外認定を申請するには、所定の書式に必要書類を添付して労基署に提出することになります。
ここからは、実際に除外認定の申請をするにあたって必要となってくる具体的な手続きについて、解説します。
申請書の書式
除外認定の申請は、決められた書式で行う必要があります(労働基準法施行規則7条)。
除外事由のうち、事業の継続不能を理由とする場合は様式2号により申請します。
従業員に原因のある解雇の場合は、様式3号を使用します。
それぞれの様式については、こちらをご参照ください。
申請書の書き方
除外認定の申請書には、事業の名称や事業所の所在地といった一般的な事項を記載するほか、会社の考える除外事由を記入して説明します。
様式2号には「天災地変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった具体的事情」を、様式3号には「労働者の責に帰すべき事由」を記載する欄があります。
この欄の記載は概要の説明程度に留め、詳細は別紙として資料を添付するのが通常です。
その他必要書類
申請書以外に、上記の事情説明のための資料が必要となってきます。
様式2号であれば、次の資料を添付します。
- 解雇対象者の範囲が明らかになる資料(解雇対象者の名簿)
- 事業場の被害状況について客観的に判断できる資料(地方自治体が発行する罹災証明書、事業場施設の被害状況全体が把握できる写真)
様式3号の場合は、解雇の原因が従業員にあることを示す書類が添付書類となります。
こちらに関しては、会社が作成したものは会社側の言い分に過ぎず、信ぴょう性が限定的であることから、本人作成の反省文や弁明書を提出することが多いです。
本人作成のものであっても、「会社に無理やり書かされた」といって後日反論されるケースもありますので、本人と会社で認識の齟齬がないよう、弁明(本人の言い分)の機会を十分に与えなければなりません。
具体的には、次の資料が必要となります。
- 解雇対象者の生年月日、雇入年月日、職種、住所、連絡先等が明らかになる資料
- 解雇の原因が従業員にあることを示す資料(経緯説明書、本人作成の顛末書、懲罰委員会などの会議の議事録、新聞等で報道された場合はその記事の写し等)
- 就業規則(解雇・懲戒解雇等の該当部分)
- 解雇通知をしている場合は、解雇予告日及び解雇日が分かる書面
提出先
申請書の提出先は、会社の事業所を管轄する労働基準監督署です。
上記で示した申請様式及び添付資料を、各々2部ずつ提出することになります。
解雇する場合に企業が押さえておくべきポイント
ここまで、解雇予告の除外認定について、手続きや問題点を解説してきました。
除外認定以前の問題として、解雇自体が、会社の一方的な判断により従業員を失職させるものであることから、非常に紛争に発展しやすい性質があるといえます。
ここでは、従業員を解雇する際に会社が気をつけるべきポイントについて、解説します。
いずれも重要なものばかりですので、もし解雇を検討されているようであれば、よくお読みいただくことをおすすめします。
解雇は正当な理由がないと認められない
解雇は、よほどの事情(正当な理由)がないと認められません。
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
引用元:労働契約法|電子政府の総合窓口
実際にどのような理由であれば解雇が正当と認めてもらえるのかの判断は非常に難しく、多数の類似の事案を分析して見通しを立てるしかありません。
具体的な解雇の事例について詳しくお知りになりたい場合は、こちらをご覧ください。
解雇予告や解雇予告手当の支払いを検討する(除外認定を申請しない)
除外認定が認められると、解雇予告も解雇予告手当の支払いもなく、即時に従業員を解雇できる、これが除外認定を取る主なメリットでした。
しかし、除外認定は審査のハードルも高くなっており、申請しても認められないというケースも多いです。
認められないデメリットの項目でお伝えしたとおり、そうなると、申請までの事務作業がすべて無駄だったということになってしまいます。
また、仮に認められたとしても、認定が出るまでに1週間程度かかるとすると、その日数分だけ解雇が遅れますので、解雇予告をした場合と比べて、きっちり30日間解雇を前倒しできるというわけではありません。
除外認定によって解雇予告や解雇予告手当の支払いを免れることができれば、たしかにその分のコストは浮くとはいえます。
しかしその代わりに、除外認定の資料を作成したり、調査に対応したりといった申請手続きの事務負担が発生しますので、差し引きでどれほど得になっているのかと考えると、疑問もあります。
このように考えますと、職場規律維持の観点から損得を度外視してでも除外認定を取って懲戒したいといった強い意向がないのであれば、解雇予告または解雇予告手当の支払いによって解雇するというのも、合理性のある選択といえそうです。
原則にしたがった対応であれば従業員から争われるリスクも多少なりとも軽減されるでしょうから、どちらによりメリットがあるかを、総合的に考えて判断する必要があるでしょう。
退職勧奨など解雇以外の方法も検討する
除外認定を申請しないという考え方をご説明したところですが、さらにもう一段階進んで、退職勧奨などの解雇しないで済ませるやり方についても検討したいところです。
退職勧奨(たいしょくかんしょう)とは、会社が経営難や勤務成績不良などの理由で退職してほしい従業員がいる場合に、自らの意思で退職するように働きかけを行うものです。
退職勧奨の場合、あくまで会社からは退職を打診しているにすぎず、最終的に退職の意思決定をするのは従業員自身となります。
このため、退職勧奨には解雇のような強制力がないという点で限界はあります。
しかし、解雇と違って本人の意思に基づく退職ですので、後に退職の有効性を争われるといったリスクが大幅に低下すると考えられ、この点は会社にとっても大きなメリットになってきます。
退職勧奨に応じてもらうには、退職金を割り増して支給するといった措置が必要となることもありますが、円満な形で人員整理をすることができると考えれば、検討に値するといえるでしょう。
解雇前に労働問題に強い弁護士に相談する
解雇された従業員は、自らの意思に反して失職しているため、解雇に納得していないことも少なくありません。
そして解雇の効力を従業員が争う場合、労働審判や訴訟といった法的手続きが取られるのが通常です。
そうなると、会社側にも訴訟に対応するための費用や事務負担が発生することになります。
経営判断として、どうしても解雇を検討せざるを得ないという場面もあるかと思いますが、解雇というリスクの高い手段に踏み切る前に、労働問題に強い弁護士へのご相談を強くおすすめします。
労働事件を多数手掛ける弁護士にとって、解雇の相談を受けることは多く、経験の蓄積があります。
事案を的確に分析した上で、適切な解雇へ向けてのさまざまな助言やサポートが受けられることが期待できます。
弁護士に相談しながら解雇を進めておけば、仮に後日紛争となったとしても迅速な対応が可能となりますので、積極的にご検討いただきたいと思います。
労働問題での弁護士選びの重要性については、こちらをご覧ください。
除外認定を任せるなら労働問題に強い弁護士へ
上記のように、解雇は労働問題に強い弁護士へ相談して進めるのが望ましいのですが、除外認定をお考えであれば、特に弁護士選びが重要となってきます。
以下では、除外認定を弁護士に任せるメリットをご紹介しますので、参考にしていただければと思います。
除外認定が認められるか否かについて助言をもらえる
除外認定を申請するに当たっては、除外認定が認められるかの見通しを正確に立てるのが重要になってきます。
除外認定が認められるかの見極めは、その事案が除外事由に該当するかという法律判断にほかならず、法律のプロである弁護士の得意とするところです。
中でも、労働問題に強い弁護士は除外認定の相談を受けることも多く、経験という裏付けも備えています。
弁護士といえども100パーセント認められるといったことを断言できるものではありませんが、労働事件に精通していればいるほど見立ても正確になっていきますので、計画的に手続きを勧めていく上で、その助言を得ておくことはきわめて重要といえます。
除外認定の手続きを任せることができる
除外認定を申請する場合、弁護士から助言を受けるのが有用なのはもちろんのこと、手続き全体を一任するというやり方もあります。
除外認定の手続きは、所定の申請書を作成した上で、必要な書類を整えて申請しなければなりません。
形式的な要件を満たしていなかったり、些末な不備があったりといったことで時間が取られてしまうと、それだけ認定まで余分な時間がかかることになります。
除外認定の申請は日常的に行うようなものでもなく、担当者も慣れていないでしょうから、申請手続きを含めて弁護士に依頼されることをおすすめします。
労働問題を得意とする弁護士であれば除外認定に必要な手続きを熟知していますので、そのような弁護士に委任することで、会社の負担も軽減され、本来業務に集中できるといった効果が期待できます。
解雇よりリスクが少ない退職勧奨をサポートできる
知っておきたいポイントとして、解雇以外の退職勧奨のような手段のメリットをご説明しました。
労働事件に強みを持つ弁護士であれば、解雇以外の退職勧奨といった対応を取る際にも、法的な観点からサポートをすることができます。
退職勧奨は、会社による一方的な解雇と異なり、従業員の自由意思での退職となる点で、紛争となるリスクは相対的に低いものといえます。
ただし、このような利点に囚われるあまり、どうしても退職に応じさせようと強いプレッシャーをかけすぎてしまうと、表面上自主退職の形を取りながら実質的には退職を強要したとして、違法となる可能性がでてきます。
退職強要の程度によっては、裁判で損害賠償の支払が命じられたり、退職そのものが無効になったりすることもあります。
法的リスクを嫌って解雇を避けた結果そのような事態を招いたのでは、本末転倒と言わざるを得ません。
そのようなことにならないためにも、退職勧奨だからといって解雇よりリスクが低いと油断することなく、弁護士の助言を得ながら慎重に進めていくのがよいでしょう。
除外認定についてのQ&A
除外認定が出る前に解雇できる?
できるという考え方もありますが、おすすめはできません。
除外認定が出るまでに日数を要するため、除外認定が認められてから解雇したのでは、解雇予告の場合と比べてきっちり30日解雇を前倒しできるわけではないという問題がありました。
そこで、まず解雇を先行させてから、事後的に除外認定を取れないかという疑問が出てくるかもしれません。
通達では、除外認定が事後的に認められた場合、その効力は解雇の日にさかのぼるという考え方が示されています(昭和63年3月14日基発150号)。
これだけを読むと、事後的な除外認定でも良さそうに見えますが、これはあくまでそのような事例が生じた場合の考え方を示したものにすぎません。
また、事後的に申請した除外認定が必ず認められるとは限らないという問題もあります。
除外認定の手続きを知らずに誤って即時解雇をしてしまったような場合であれば、次善の策として事後的にでも除外認定の申請を検討すべきですが、法律上は、除外認定を先行させるのが原則となります。
公務員の場合にも除外認定がある?
地方公務員については、除外認定の適用があります。
地方公務員は地方公共団体等の職員であり、労働者として保護を受ける立場にある反面、職務が公共的性質を有することから、民間の労働者とまったく同一の保護が与えられているわけではありません。
具体的には、地方公務員法で、労働基準法などの諸法令の規定のうち、適用されないものが列挙されています(地方公務員法58条)。
この条文の中で、解雇予告の除外認定については地方公務員への適用が除かれていないことから、地方公務員についても解雇予告の除外認定が適用されることになります。
他方で、国家公務員については、国家公務員法付則16条で、一部の職員を除いて労働基準法の適用が全面的に排除されていることから、解雇予告の除外認定の適用はありません。
まとめ
このページでは、解雇予告の除外認定について、認められる条件やメリット、申請の手続きなどについてご紹介しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 解雇予告の除外認定とは、従業員を解雇する際に本来必要となる「解雇予告」を省略するために、労働基準監督署長の認定を受けることをいう。
- 解雇予告の除外認定を取ることで、解雇予告や解雇予告手当の支払いなく従業員を即時に解雇することができる。
- 除外認定が認められるのは、事業の継続不能や、従業員に解雇原因があるといった除外事由が存在する場合に限られる。
- 除外認定の申請は、所定の申請書に必要書類を添えて、管轄の労働基準監督署に提出して行う。
- 解雇よりもリスクが低い退職勧奨などの方法も検討すべきである。
- 除外認定が認められるかは難しい判断であり、手続きを含めて労働問題に強い弁護士に依頼することが効果的である。
当事務所では、労働問題を専門に扱う企業専門のチームがあり、企業の労働問題を強力にサポートしています。
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この記事が、労働問題にお悩みの企業にとってお役に立てれば幸いです。