ひどい!セクハラ事例|弁護士が悪質なセクハラへの対処法を解説
昨今では、属性や人格に関する言動などによって、相手に不快感や不利益を与え、尊厳を傷つける行為がハラスメントとして認知されるようになってきました。
その中でも、セクハラは早くからハラスメントとして認知されていましたが、未だに起こっています。
中には悪質なものもあり、被害者はもちろん、会社も深刻な被害を被ります。
ここでは、悪質なセクハラが行われた場合の被害者側の対応、会社の対応について、分かりやすく説明いたします。
セクハラの定義
職場のセクハラ(セクシャルハラスメント)とは、「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいいます(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(通称「男女雇用機会均等法」)第11条)。
「職場」とは
「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、従業員が通常就業している場所以外の場所であっても、従業員が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。
勤務時間外の「宴会」などであっても、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当しますが、その判断に当たっては、職務との関連性、参加者、参加が強制的か任意かといったことを考慮して個別に行う必要があります。
「労働者」とは
正社員のみならず、パート、契約社員などいわゆる非正規労働者を含む、事業主が雇用する従業員のすべてをいいます。
「性的な言動」とは
「性的な言動」とは、性的な内容の発言および性的な行動を指します。
男性から女性への言動、女性から男性への言動、同性から同性への言動、そして、LGBTに関する言動も、いずれも対象になります。
どのような行為がセクハラにあたるのか
セクハラの行為態様は、大まかに3段階に分けられます。
レベル3:刑事上の犯罪行為に当たる行為
相手方の意に反して性行為を行うという「強制性交等罪」(刑法第177条)、陰部や乳房をさわる行為や、無理やりキスをする等の「強制わいせつ罪」(刑法第176条)がこれにあたります。
レベル2:民事上の不法行為に当たる行為
明らかに犯罪行為にはならないとしても民事上問題となる行為があります。
具体的には、宴会の席上で押し倒す、衣服の上からお尻を触る、肉体関係を迫る等の行為が該当します。
レベル1:男女雇用機会均等法の要請を受け定められたセクハラ指針に該当する行為
レベル3、レベル2には該当しないが、従業員が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されるような行為をいいます、
具体的には、交際経験や性行為の経験、有無を聞くなどの行為、胸のサイズなど身体的特徴を聞いたり指摘したりする行為、性的な冗談を言う、執拗に食事に誘う、不必要に身体(肩など)を触る等の行為が該当します。
このように、レベル3、レベル2に該当しないといっても、悪質なものも含まれます。
セクハラのひどい事例
以下では、セクハラの中でも悪質な事例を紹介します。
裁判から見るセクハラ事例
判例 L館事件(最高裁平成27年2月26日)
会社の管理職である男性従業員2名が同一部署内で勤務していた女性従業員らに対してそれぞれ職場において行った性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた出勤停止の各懲戒処分は、次の(1)~(4)など判示の事情の下では、懲戒権を濫用したものとはいえず、有効である。
(1) 上記男性従業員らは、①うち1名が、女性従業員Aが執務室において1人で勤務している際、同人に対し、自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器、性欲等についての極めて露骨で卑わいな内容の発言を繰り返すなどし、②他の1名が、当該部署に異動した当初に上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていながら、女性従業員Aの年齢や女性従業員A及びBが未婚であることなどを殊更に取り上げて著しく侮蔑的ないし下品な言辞で同人らを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し、女性従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどと揶揄する発言をするなど、同一部署内で勤務していた派遣労働者等の立場にある女性従業員Aらに対し職場において1年余にわたり多数回のセクシュアル・ハラスメント等を繰り返した。
(2) 上記会社は、職場におけるセクシュアル・ハラスメントの防止を重要課題と位置付け、その防止のため、従業員らに対し、禁止文書を周知させ、研修への毎年の参加を義務付けるなど種々の取組を行っており、上記男性従業員らは、上記の研修を受けていただけでなく、管理職として上記会社の方針や取組を十分に理解して部下職員を指導すべき立場にあった。
(3) 上記①及び②の各行為によるセクシュアル・ハラスメント等を受けた女性従業員Aは、上記各行為が一因となって、上記会社での勤務を辞めることを余儀なくされた。
(4) 上記出勤停止の期間は、上記①の1名につき30日、同②の1名につき10日であった。
この裁判例では、加害者が自分の不倫相手との性行為の話や性器の話といった全く業務に関係のないことを1対1の場面で話を続けており、悪質なひどい事案といえます。
ニュースから見るセクハラ事例
発表によると、准教授は2013年4月1日の採用。
試験期間中にもかかわらず、2018年7月下旬の夕方からAらを呼び出して飲食店で飲酒し、「不快極まりない卑猥な性的発言」を繰り返したとされる。
その後、Aをアパートに送っていくとして、Aと二人きりになった午前1時40分ごろ、Aが住むアパート近くの路上で突然、Aの手を握って抵抗するAに抱きつこうとするなどしたという。
Aの母親から大学に連絡があり、こうした事実が発覚。准教授は大学の綱紀委員会で厳重な注意を受けたという。
ただ、それにもかかわらず、その翌日には別の女子学生であるBに対して午前0時から午前4時ごろ、4時間にわたって、次のような発言を繰り返したという。
「俺はBしかいない」「Bとお泊りしたい」「1泊しよう」「いちゃいちゃしたい」「Bの初めて(処女の意味)ほしい」「誰ともしてないなら、俺やる。誰ともやらないで」「Bに会ったら抱きつく」
結果として、AとBの2人は登校が困難になるほどの精神的ダメージを受けたという。
大学は「極めて悪質なセクシュアル・ハラスメント行為で、就業規則の非違行為に該当することは明らか」とし、大学の信頼を著しく損ねたことから、准教授を就業規則に定める懲戒免職処分としたとしている。
大学は、准教授の名前を実名で公表した理由について、「発表内容のほかにお伝えすることはない。学内の規定にのっとって対応している」(広報担当)とした。
引用元:ライブドアニュース
このニュースで報じられている内容からすれば、大学教授が生徒という関係である女性学生に性行為を迫る発言を繰り返しており、ひどい事例といえます。
事例② 「性欲ある?」忘年会で女性職員にセクハラ、市の部次長を懲戒処分(令和4年3月15日)
部下の女性職員に「性欲ある?」と尋ねるなど、部内の忘年会でセクハラ・パワハラ行為をしたとして、山口県長門市は14日、部次長の男性(58)を減給10分の1(1カ月)の懲戒処分とし、発表した。部次長は14日付で依願退職した。
女性職員は1月7日から病気休暇を取っているという。
市によると、忘年会は昨年12月10日夜、市内の飲食店で部次長と部下5人で開催。部次長はこの場で、隣にいた女性職員の腕を持ち上げたり、「(自分が生まれるのが)もう何十年遅かったら結婚していた」と言ったりした。女性職員が好まない種類の酒を飲むことを強要したり、この職員の口元に素手で食べ物を持っていったりした。
部次長は「酒に酔って覚えていない。周りが見たり聞いたりしているのなら、(自分がしたと)受け入れる」と話したという。
引用元:朝日新聞
本当に酔っていたかどうかはわかりませんが、仮に酔っていたとしても、許される発言でないことは明らかです。
出張中に部下の女性を抱きしめるセクハラをしたなどとして、神奈川県は27日、健康医療局の課長級の男性職員(49)を戒告の懲戒処分とした。県によると、男性は昨年10月、日帰り出張中に女性職員を抱きしめて「キスしていい?」「好きだよ」と発言した。同9~10月にも出張中に女性の頭をなでたり、携帯電話で女性を撮影して「スーツ姿かわいい」と言ったりした。同10月中旬、出張から戻った女性が被害を別の上司に申告して発覚した。県の聴取に対し、男性は「どうしてこういうことをしてしまったのか分からない。(女性に)恋愛感情はなかった。反省している」と話している。すでに女性とは別の部署に異動した。女性は「上司なので嫌とは言えず、露骨に振り払うこともできなかった」という。県は監督責任を問い、男性の当時の上司を厳重注意とした。
引用元:神奈川新聞
このようにひどいセクハラ事例は、実際に胸やお尻、陰部を触ったり、性行為、性器、胸のサイズなど、業務に関係のないことを直接話をしたり、交際を迫ったりといったものになります。
こうした行為以外にもセクハラになりうるものはありますので、くれぐれも気をつけましょう。
悪質なセクハラへの対処法
被害者側の対応のポイント
セクハラ被害を受けた場合、被害者側としては以下のような対処方法をとることが考えられます。
社内の相談窓口への相談
まずは、身近な同僚・上司に相談するということが考えられます。
もっとも、同僚・上司に相談したからといって、必ずしも詳細な調査や対応をしてもらえるとは限らず、具体的な解決に至らないこともあります。
さらには、相談をしたこと自体や相談の内容について、同僚や上司に噂を広められてしまうと、二次被害を受けることにもなりかねませんので、相談相手は見極めなければなりません。
2020年6月1日、改正労働施策総合推進法の施行に伴い、会社にはハラスメント相談窓口の設置が義務づけられています。
このハラスメント相談窓口が取り扱うのはパワハラだけではなく、セクハラも含めて職場における様々なハラスメントを取り扱います。
また、男女雇用機会均等法第11条では、会社は、セクハラ対策を行わなければならないことも定められています。
それゆえ、会社にはハラスメント相談窓口があることが多く、当該窓口へ相談することで会社が対応してくれるでしょう。
仮に、社内にコンプライアンス窓口がない場合は、人事部や内部通報窓口へ相談するといった方法が考えられます。
社外の相談窓口への相談
様々な労働問題に対応してくれる行政機関が労働基準監督署や労働局です。
セクハラ問題の個別相談にも応じてもらえます。
労働基準監督署や労働局で相談した場合、セクハラの事実が認められれば、企業に対し助言や指導が行われることもあります。
助言・指導で会社の改善が見られなければ、当事者同士での話し合いによる解決を仲介してくれる「あっせん」の対象になることもあります。
もっとも、行政機関は、軽微な事案の場合、あまり動いてもらえない可能性があります。
また、仮に動いてくれたとしても、行政指導・あっせんには法的な拘束力がないため、会社やセクハラ加害者が応じなければ、問題の根本的な解決は困難です。
そのような場合、加害者や会社へ損害賠償請求をするというのが考えられます。
慰謝料のほか、病院へ通っている場合は治療費、休職した場合は休業損害等を請求できる可能性があります。
会社や行政機関へ相談しても解決しない場合には、弁護士のアドバイスを受け、法的措置を検討することをお勧めします。
また、職場でのセクハラ発言については、言った、言わないの争いになる可能性もあるため、可能であれば録音するなどの証拠化することも検討する必要があります。
会社の対応のポイント
懲戒処分等を検討する
会社は、セクハラ行為の加害者に対し、会社内で責任をとらせるべく、懲戒処分を行うことができます。
例えば、懲戒解雇、普通解雇、降格、出勤停止、減給、譴責、戒告等があります。
具体的にどのような懲戒処分がふさわしいかについては、どういったセクハラが行われたのかによって検討しなければなりません。
ひどい事案であれば、注意や戒告にとどまらず、先ほどの裁判例やニュースのように減給や出勤停止、懲戒解雇もあり得ます。
セクハラの防止方法をセクハラにくわしい弁護士へ相談する
男女雇用機会均等法第11条では、会社は、セクハラ対策を行わなければならないことが定められています。
会社のセクハラ防止対策が不十分な場合は、会社が民事の賠償責任を追及される可能性がありますので、その意味でもセクハラ防止対策を講じておかなければなりません。
そのため、まずは、就業規則において、服務規定や懲戒規定を整備しておくことが必要です。
外部相談窓口を弁護士に依頼する
厚生労働省のパワハラ防止指針では、「相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。」が求められています。
しかし、実際には社内相談窓口だけで「適切な対応」ができるように準備することは容易ではありません。
そこで、セクハラのようなハラスメントリスクを未然に防止するためにも、弁護士(法律事務所)をセクハラの相談窓口として置いておき、従業員の方々に周知しておくという方法も考えられます。
まとめ
以上、悪質なセクハラの事例、実際にセクハラが起きた場合の対応方法等を解説いたしました。
被害者としては、セクハラに関して、「セクハラかどうか判断しにくい」、「セクハラだと訴えてしまうと会社に居づらくなる」、「会社に言ったがまともに動いてくれない」といった様々な悩みを抱えた方がいらっしゃると思います。
しかし、ご自身がさらに苦しくならないためにも、早めに動くことが重要です。
会社としては、男女雇用機会均等法(及びセクハラ指針)の要請に従い、普段から社内で研修を行ったり、相談窓口を整備したりセクハラの予防・防止に努め、実際にセクハラが生じた場合には、会社として手順を踏み、適切な対応をとることが重要です。
自社のセクハラ対策についてご不安な方、悪質なセクハラが発覚した場合の対応についてお困りの方は、弁護士にご相談されてみてはいかがでしょうか。
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