ハラスメントとは?意味や法律を簡単に解説|種類の一覧表

執筆者
弁護士 木曽賢也

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士

ハラスメントとは、嫌がらせをして相手に不快感を与える行為のことをいいます。

近年、ハラスメント事案は増加傾向にあり、重大な社会問題になっています。

また、一昔前からあるセクハラやパワハラに加え、「◯◯ハラ」という言葉が増えてきており、その意味内容などを理解することは簡単ではありません。

ハラスメントは職場で働く以上、誰しも被害者や加害者になり得ますので、決して他人事ではありません

この記事では、各ハラスメントの意味や関連する法律について、労働問題に注力する弁護士が解説しています。

最後までご覧になれば、一通りのハラスメント知識がつくと思いますので、ぜひ参考になさってください。

ハラスメントの意味

ハラスメントの定義

ハラスメントとは、嫌がらせをして相手に不快感を与える行為のことをいいます。

ハラスメントは、通常、「〇〇ハラスメント」と、別の単語と組み合わせて使用されます。

例えば、性的な嫌がらせについては、「セクシュアルハラスメント」といいます。

英語本来の意味

ハラスメント(harassment)の、英語の本来の意味は、「嫌がらせ」や「いじめ」などです。

なお、セクシャルハラスメント(Sexual harassment)は英語として通じますが、パワーハラスメントやマタニティハラスメントなどは、セクシャルハラスメントに似せて作られた和製英語になります。

 

ハラスメントは犯罪?

結論から申し上げれば、ハラスメントは犯罪になるものもあれば、犯罪にならないものもあります。

ハラスメントにもレベルがあり、非常に悪質といえるものだけが犯罪となる印象です。

以下、レベル別に解説していきます。

ハラスメントのレベル

ワンポイント解説!〜民事上違法とは何か?〜

ここでいう民事上違法とは、民法709条の不法行為に該当することをいいます。民法709条は、①故意又は過失によって、②他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、③これによって生じた(因果関係)④損害があれば、加害者は賠償責任を負うというものです。

参考:民法|e−Gov法令検索

実務上、よく問題になるのが、(1)そもそも問題となっている行為があったと認定されるか、(2)問題となってい行為が認定できるとして、民法709条の要件である上記①〜④に該当する違法なものといえるかという点です。

(1)そもそも問題となっている行為があったと認定されるか

事実に争いがある場合、事実認定ができるかどうかという問題です。

例えば、被害者が「加害者は殴った」と主張していることに対し、加害者は「被害者を殴っていない」と主張した場合、どちらの言い分が正しいかという話になります。

事実認定が問題となった場合は、客観的な証拠(文書、メール、写真、動画等)があるか、どちらの言い分に合理性があるか等の事情から事実を確定していきます。

(2)問題となってい行為が認定できるとして、民法709条の要件である上記①〜④に該当する違法なものといえるか

ハラスメントの内容によっても異なってきますが、大枠としては以下の要素などを考慮して違法性を判断します。

  • 行為の内容(どのくらい悪質か)
  • 行為がどのくらいの頻度で行われたか
  • 被害者と加害者の関係性(立場の違いなど)
  • 行為が行われた原因・背景

以上の(1)や(2)をクリアしたものでなければ、民事上違法なものにはなりません。

また、民事上違法となるようなケースでは、加害者に対する雇用契約上の処分(解雇等)が無効となる可能性が高いです。

 

レベル1:そもそもハラスメントにあたらないもの

このレベルは、ハラスメントのように見えるが、ハラスメントに該当しないというケースです。

具体例としては、以下のとおりです。

ハラスメントに該当しない例
セクハラ関連 重い荷物を持っていた女性従業員を助けようと、男性従業員が手を差し伸べた際に手と手が意図せず触れてしまう
パワハラ関連 無断欠勤が多い従業員に対して、書面で注意する
マタハラ関連 管理者が妊娠している女性従業員の体調に配慮して、仕事量を減らす提案をする

 

レベル2:犯罪ではないし民事上違法でもないが、ハラスメントとなるもの

犯罪にもならないし、民事上違法とまでもいえないほど軽微なものだが、一般的にはハラスメントに該当するというのがレベル2になります。

レベル2は犯罪ではないので刑事事件化することも難しいですし、民事上も違法にならないので損害賠償請求等もできないことになります。

犯罪ではないし民事上違法でもないハラスメント(※1)
セクハラ関連 女性に対して〇〇ちゃんと呼ぶ
パワハラ関連 強制参加の飲み会で、「お前、少し踊ってみろよ。」と言う
マタハラ関連 冗談が言い合える関係性の中で、「私もあなたみたいに早く妊娠して仕事投げ出そうかな(笑)」と嫌味を言う

(※1)当該行為が1度のみ行われたことを前提として執筆者の見解等に基づいて民事上違法ではないとしていますが、行為の回数や状況次第では民事上違法となる可能性もあります。

 

レベル3:犯罪ではないが民事上違法となるもの

レベル3は、犯罪とまではいかないが、民事上は違法となってしまうケースです。

このケースでは、加害者は刑事罰は受けないが、民事上の賠償責任は負ってしまうことになります。

犯罪ではないが民事上違法となるハラスメント(※2)
セクハラ関連 毎日のように容姿に関する発言や体型に関する発言を行う
パワハラ関連 合理的な理由もないにも関わらず、気に入らない社員を無視し続け、仕事も全く与えず、相手方に仕事ができないような環境にする
マタハラ関連 妊娠中に従業員が業務の軽減を申し出たことに対して、会社側の人間が「妊婦として扱うつもりないんですよ。」と言う

(※2)執筆者の見解等に基づいて民事上違法と判断していますが、そのほかの事情によっては民事上違法とならない可能性もあります。

 

レベル4:犯罪

最も悪質なハラスメントは、犯罪となるケースです。

犯罪となる場合は、加害者の方は逮捕されたり、裁判にかけられて刑罰(懲役や罰金)を受ける可能性があります。

犯罪になるケースをいくつかご紹介いたします。

セクハラの犯罪の例
  • 無理やり胸やお尻を触る・・・強制わいせつ罪(刑法176条)
  • 無理やり性行為をする・・・強制性交等罪(刑法177条)

参考:刑法|e−Gov法令検索

パワハラの犯罪の例
  • 殴る、蹴る・・・怪我をした場合=傷害罪(刑法204条)
    怪我をしなかった場合=暴行罪(刑法208条)
  • 大勢の前で人格的非難をする・・・侮辱罪(刑法231条)、名誉毀損罪(刑法230条)
  • 脅す、必要のない行為をさせる・・・脅迫罪(刑法222条)、強要罪(刑法233条)

参考:刑法|e−Gov法令検索

 

 

ハラスメントの種類一覧表

ここではハラスメントの種類を一覧表にしてご説明いたします。

【 職場で起こりやすいハラスメント20選 】

ハラスメントの名前(カッコ内は略称) 内容
セクシュアルハラスメント(セクハラ) 性的な嫌がらせ
パワーハラスメント(パワハラ) 立場を利用した嫌がらせ
マタニティハラスメント(マタハラ) 妊娠、出産、育児に関して女性従業員が受ける嫌がらせ
パタニティハラスメント(パタハラ) 男性従業員が受ける育児等に関する嫌がらせ
アルコールハラスメント(アルハラ) アルコールを無理やり飲ませたりすること等
スモークハラスメント(スモハラ) タバコに関する嫌がらせ
モラルハラスメント(モラハラ) 言葉や態度による精神的暴力
カラオケハラスメント(カラハラ) 無理やりカラオケで歌わせる等
スメルハラスメント(スメハラ) 匂いによって相手に不快感を与える行為
リモートハラスメント(リモハラ) リモートワーク時に行われる嫌がらせ
テクノロジーハラスメント(テクハラ) IT機器に不慣れな人に対する嫌がらせ
時短ハラスメント(ジタハラ) 会社が何ら対策を取らないまま、労働時間を減らすことを強要すること
リストラハラスメント(リスハラ) リストラ対象者に対する嫌がらせ
ブラッドハラスメント(ブラハラ) 血液型に関する嫌がらせ
カスタマーハラスメント(カスハラ) 顧客や取引先といった立場を利用して合理性のないクレームを言う等
エンジョイハラスメント(エンハラ) 楽しんで働くことを強制すること
就活終われハラスメント(オワハラ) 内定を出した学生に対して、就活を終わらせて自分の会社に入社するよう圧力をかけること
エイジハラスメント(エイハラ) 年齢や世代に関係する嫌がらせ
ケアハラスメント(ケアハラ) 仕事と介護を両方行っている人に対する嫌がらせ
ハラスメントハラスメント(ハラハラ) 自らが不快に感じたことに過剰に「それは◯◯ハラスメントだ」と訴えること

(1)セクシュアルハラスメント(セクハラ)

セクシャルハラスメントとは、性的な嫌がらせ(男女を問わない)のことをいいます。

セクハラは、ハラスメントの中で最も古くから使われている言葉です。

具体例 セクハラの例

    • 男性社長が女性従業員に交際を求めたところ、拒否されたため、その女性従業員に減給処分をする。
    • 女性従業員が好意を寄せている男性従業員の性事情を根掘り葉掘り聞く。

 

(2)パワーハラスメント(パワハラ)

パワーハラスメントとは、職場での立場を利用した嫌がらせのことをいいます。

パワハラと分けて考えるべきことは、業務上必要な指導や叱責です。

業務上必要な指導や叱責は、適正な範囲においてはパワハラになりません

もっとも、実務上は、パワハラといえるか、業務上必要な指導や叱責といえるか微妙なケースも多いです。

一つの目安としては、業務の指導に加えて、人格的非難(例えば、「お前は仕事ができないクズだ」という)をしている場合はパワハラになるといえます。

具体例 パワハラの例

  • 仕事でミスをした従業員を殴ったり、大声で何時間も怒鳴り続けたりする。
  • 過労死するレベルの残業を求める。

(3)マタニティハラスメント(マタハラ)

マタニティハラスメント(マタハラ)とは、妊娠、出産、育児をしている女性従業員が、その妊娠等について受ける嫌がらせのことをいいます。

具体例 マタハラの例

  • 出産や育児に関連する休暇の申請を拒否する。
  • 妊娠した女性従業員を解雇する。

 

(4)パタニティハラスメント(パタハラ)

パタニティハラスメントとは、男性従業員が受ける育児休暇等を利用することに対する嫌がらせのことをいいます。

パタハラは、「育児は女性が全て行うべき」という一昔前の時代の価値観を持った世代の管理職等が行いがちなハラスメントです。

男性が育児休暇の取得が推奨される現代において、パタハラは今後も深刻化する問題となる可能性があります。

具体例 パタハラの例

  • 男性従業員の育児休暇の取得を拒否する。
  • 「〇〇君のように、育児休暇を取って他の社員に迷惑を掛けないように」と朝礼で発言する。

 

(5)アルコールハラスメント(アルハラ)

アルコールハラスメントとは、会社の飲み会などにおいて行われる飲酒に関する嫌がらせのことをいいます。

お酒の弱い人に対して飲酒の強要をするなどがアルハラの典型例です。

具体例 アルハラの例

  • イッキ飲みを煽る。
  • 本人が嫌がってるにもかかわらず、罰ゲームで飲むように強要する。

 

(6)スモークハラスメント(スモハラ)

スモークハラスメントとは、タバコに関する嫌がらせのことをいいます。

スモハラは、喫煙者が減少してきた現代だからこそ、目立ってしまうハラスメントです。

具体例 スモハラの例

  • タバコを吸うように強要する。
  • 副流煙を気にせず、非喫煙者の前で堂々とタバコを吸う。

 

(7)モラルハラスメント(モラハラ)

モラルハラスメントとは、言葉や態度によって精神的に苦痛を与えるような行為のことをいいます。

職場におけるモラハラは、パワハラの一種と考えることができます。

具体例 モラハラの例

  • 「君みたいな人は採用しなければよかった」などの嫌味を言う。
  • 上司の仕事の指示に対して、部下が無視をする。

 

(8)カラオケハラスメント(カラハラ)

カラオケハラスメントとは、歌いたくない人に対してカラオケで歌うことを強要することをいいます。

具体例 カラハラの例

  • 歌が苦手な人に対して、無理やりカラオケに連れて行き、歌わせる。
  • 男性従業員が女性従業員に対して執拗にデュエットを誘う。

 

(9)スメルハラスメント(スメハラ)

スメルハラスメントとは、匂いによって周りの従業員等に不快感を与える行為のことをいいます。

具体例 スメハラの例

  • 強い匂いの香水を大量につけて、室内に匂いを充満させる。
  • 距離感がいつも近くて、キツイ匂いの口臭を嗅がせてしまう。

 

(10)リモートハラスメント(リモハラ)

リモートハラスメントとは、リモートワーク(在宅勤務)時に行われるハラスメントのことをいいます。

具体例 リモハラの例

  • リモートワークで映った自宅の風景に意味もなく言及する。
  • リモートワークで仕事をちゃんとしていないと決めつけて、必要以上に業務の進捗を確認する。

 

(11)テクノロジーハラスメント(テクハラ)

テクノロジーハラスメントとは、パソコンなどのIT機器が苦手な人に対する嫌がらせのことをいいます。

具体例 テクハラの例

  • パソコンでの作業が苦手な人に、「もう一回学校に戻ってパソコンの授業を受けたら?」と笑いながら言う。
  • IT機器が苦手な人に対して、高度で専門性が高いIT用語ばかりわざと使って、業務を進めさせないよう嫌がらせをする。

 

(12)時短ハラスメント(ジタハラ)

時短ハラスメントとは、会社が労働時間を減らす具体策などを提案しないまま、従業員の力のみに頼って労働時間を減らすことを強要することをいいます。

昨今、働き方改革による長時間労働を是正する取り組みが盛んですが、その流れを受けて会社側は是正する努力する必要があります。

もっとも、会社が何ら対策をせず、従業員の能力だけに頼って労働時間を減らすよう指示するのはジタハラとなります。

具体例 ジタハラの例

  • 業務量は減らさず、残業している社員に「早く帰れ」と言い続ける。
  • 人手不足を無視して、残業している従業員にケチをつける。

 

(13)リストラハラスメント(リスハラ)

リストラハラスメントとは、リストラ対象者に対して嫌がらせをして、自主退職に追い込むようにすること等をいいます。

具体例 リスハラの例

  • 退職勧奨を断った従業員に対して、仕事を全く与えなくなる。
  • リストラ対象者に、業務上必要のない配置転換などを行う。

 

(14)ブラッドハラスメント(ブラハラ)

ブラッドハラスメントとは、血液型に関して差別的な言動をするなどの嫌がらせのことをいいます。

血液型ごとに一定の特徴があると言われていますが、その特徴に固執した言動などがブラハラに該当します。

具体例 ブラハラの例

  • 「君はB型だからマイペースで仕事もできないんだよ」と言う。
  • 「A型で几帳面なんだから、もっと緻密に仕事しなさい」と言う。

 

(15)カスタマーハラスメント(カスハラ)

カスタマーハラスメントとは、顧客や取引先といった立場を利用して合理性のないクレームを会社の担当者等に言うことを指します。

なお、カスハラ対策については、以下の厚生労働省のマニュアルが参考になります。

参考:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル|厚生労働省

具体例 カスハラの例

  • 「お客様は神様だぞ!」と言って不合理に優位な立場に立つような発言をする。
  • 商品に問題がなかったにもかかわらず、自己の使用方法が原因でケガをしたことを商品のせいにして金銭を要求する。

 

(16)エンジョイハラスメント(エンハラ)

エンジョイハラスメントとは、楽しんで働くことを強要することをいいます。

働くことをどう感じるかについては、個々人の価値観が尊重されるべきですが、「仕事=楽しい」という一定の価値観に基づいて行われるハラスメントがエンハラです。

具体例 エンハラの例

  • 「俺の時はこの仕事楽しんでやっていたけどね。」とキツイ仕事をする部下に対して口癖のように言う。
  • 「君は仕事を楽しんでやっているかい?」と何度も言う。

 

(17)就活終われハラスメント(オワハラ)

就活終われハラスメントとは、内定を出した学生に対して、他社での就活を終わらせて自分の会社に入社するようプレッシャーをかけることをいいます。

具体例 オワハラの例

  • 内定を出した学生と面談をし、「就活を終わらせてない学生などうちにはいらない!」と発言する。
  • 内定を出した瞬間、その場で他の内定を出している企業に断りの電話をさせる。

 

(18)エイジハラスメント(エイハラ)

エイジハラスメントとは、年齢や世代を理由に嫌味などを言うこと等をいいます。

具体例 エイハラの例

  • 「ゆとり世代の社員は本当に仕事できないな」と若い世代の社員に対して言う。
  • 20代の社員が50代の社員に対して、「50代にもなって管理職にもなっていないのは終わっている」などと言う。

 

(19)ケアハラスメント(ケアハラ)

ケアハラスメントとは、働きながら介護を行っている人に対しての嫌がらせをいいます。

具体例 ケアハラの例

  • 介護休暇の取得を拒否する。
  • 「介護をやっている人に仕事なんて任せられるわけがない」などの嫌味を言う。

 

(20)ハラスメントハラスメント(ハラハラ)

ハラスメントハラスメントとは、自分が不快に感じたことは、何もかも「ハラスメントだ!」と訴えることをいいます。

もちろん、実際にハラスメント行為に対しては声を挙げることは大事ですが、およそハラスメントには該当しない行為にまでハラスメントと訴えることはハラハラとなります。

具体例 ハラハラの例

  • 業務上必要な指導に対して、「それはパワハラだ」と反論してくる。
  • 妊娠した従業員に気を遣って業務軽減の提案をしたところ、「それはマタハラだ」と反論してくる。

 

 

ハラスメントが増加傾向?

ハラスメントには上記のように様々な種類がありますが、このようなハラスメントは近年増加しているのでしょうか。

近年、ハラスメントという言葉は社会的な注目を浴びていることから増加していると感じる方もいらっしゃるでしょう。

当事務所にもハラスメント対策で訪れる企業の方はとても多いです。

下記は厚生労働省が実施した企業に対する調査結果( 過去3年間のハラスメント相談件数/該当件数の傾向)の要約となります。

  • パワハラ、妊娠・出産・育児休業等ハラスメント(マタハラ)、介護休業等ハラスメント(ケアハラ)では「件数は変わらない」の割合が最も高く、セクハラのみ「減少している」の割合が最も高かった。
  • 顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)のみ「件数が増加している」の割合の方が「減少している」より高かった。

参考:令和2年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書|厚生労働省

この調査によれば、カスタマーハラスメントの相談は増加しているものの、他のハラスメントについては横ばい、ないし減少傾向にあると言えます。

すなわち、ハラスメント全般に関しては、件数自体は増加はしているとはいえません。

社会的にハラスメントを防止しようとする動きが加速し、社会的に注目されているため、企業も対策に乗り出しているのが実情と考えられます。

 

 

立場別|ハラスメントがもたらす影響やリスク

ここではそれぞれの立場におけるハラスメントがもたらす影響やリスクについて触れます。

被害者への影響やリスク

心身のストレス

ハラスメントはマイナスイメージのものです。

程度にもよりますが、ハラスメントを受けている被害者の方は、何らかのストレスを感じて日々を過ごすことになります。

人によっては、業務時間だけでなく、業務時間外の私生活においても、ハラスメントのことを思い出して苦しい時間を過ごすこともあるでしょう。

 

業務のパフォーマンスの低下

ハラスメントの加害者と時間を過ごすことが多い状況の職場では、業務に集中できる環境とはいえません。

業務に集中できない結果として、被害者の業績が低下したり、不用意な業務上のミスが多発することも予想されます。

 

出勤等への影響

ハラスメントを避けるために、その会社に行かないという選択肢を取る方もいらっしゃいます。

そうすると、早退、遅刻、欠勤が多くなり出勤不良に陥ることも考えられます。

 

加害者への影響やリスク

調査への対応

ハラスメントが行われると、通常、会社側で調査が行われます。

調査とは、事実関係の確認、証拠の確認です。

加害者とされる方は、これらの調査に対応することになり、業務に影響が出ることが予想されます。

 

何らかの処分が下される可能性

ハラスメントの内容がひどい場合には、会社から何らかの注意指導や処分を受ける可能性があります。

ここでいう処分とは、戒告、出勤停止、減給、降格、懲戒解雇などです。

 

刑事事件化されるものもある

刑法上に触れるほどひどい内容のハラスメント(上記で解説したレベル4のもの)については、被害者が告訴することもあります。

告訴されれば、刑事事件となり、警察や検察の事情聴取に対応することになります。

また、犯罪が認められれば、罰金や懲役などの刑罰を受けることもあります。

 

噂が広まる

ハラスメントは話題性のあるものです。

自分が知らぬ間に被害者にした行為などが噂され、様々な職場の人が知っているという状態も想定できます。

また、噂は誇張されやすいものであり、実際に行ったもの以上の噂が広まる可能性があり、そうなると加害者の名誉が著しく害されます。

 

企業への影響やリスク

離職者が出る場合もある

ハラスメント事案が発生した場合、被害者や加害者が会社を辞めてしまうリスクがあります。

離職者が出れば、業務への影響は避けられません。

離職者が出れば、新たに採用の必要性も生じ、コストがかかることもあるでしょう。

 

企業のイメージダウン

ハラスメントが起きたことが、いつどこで誰の耳に入るかわかりません。

場合によっては、外部の方に漏れることもあるでしょう。

外部の方に漏れた場合は、企業のイメージダウンとなるリスクがあります。

 

損害賠償請求を受ける可能性

ハラスメントの被害者は、加害者相手だけでなく、会社に対しても使用者責任や安全配慮義務違反を根拠として損害賠償請求をする可能性があります。

適切な対応をしていなかった会社は、多額の損害賠償金を支払わなければいけないこともあります。

 

 

種類別|ハラスメントが発生する原因

共通する原因

個人の価値観の違い

人それぞれ価値観は異なります。

そういった価値観の違いから、すれ違いが生じ、ハラスメントに発展するケースがあります。

他者を思いやる気持ち、他者の価値観を受け入れるという姿勢などが欠けるとハラスメントが起きやすい印象です。

 

コミュニケーション不足

しっかりコミュニケーションが取れていない状況だと、一つの言葉や行動が誤解を招き、最終的にハラスメントが起きてしまうということもあります。

お互いのことをあまり理解していない中での言動には気をつけなければいけません。

 

ハラスメントに対する理解不足

どのような言葉や行動がハラスメントにあたるかの知識がなければ、自らの言動に対する自覚に欠けるといえます。

自覚がなければ、自らの言動を抑制することもできません。

そういった意味で、ハラスメントに対する理解不足もハラスメントが発生する共通の原因の一つといえます。

 

職場でハラスメントが発生する原因

上のような各種ハラスメントが職場で起こるのはなぜでしょうか。

筆者が多くの企業のハラスメント問題に対応している中で、実感しているのは次の5つの要因です。

ハラスメントが職場で起こりやすい5つの原因

①経営トップが重要性を認識していない

まず、組織のトップ(社長など)がハラスメント被害の深刻さ、組織に与える影響の大きさ等を認識していないということです。

「法律があるからとりあえずの対応」程度の認識だと、従業員全体にハラスメント防止への甘さが伝わってしまいます。

まずは経営トップ自らがハラスメント問題について真剣に考えることが極めて重要です。

②経営トップが防止を徹底していない

ハラスメントの防止の必要性や対策について、人事部や法務担当者らに任せっきりだと対策の効果は十分ではありません。

経営トップ自らが自分の口で、朝礼時などの機会を利用して防止の必要性等を語ることが重要です。

③相談窓口を設置していない

ハラスメント被害にあった方や目撃した方等が相談できる窓口を設置することで、深刻なハラスメント被害の防止に期待ができます。

自社での相談窓口の設置に加えて、外部の専門家も窓口にすると良いでしょう。

④社内研修を実施していない

ハラスメントを防止するためには一定期間ごとに社内研修を実施すべきです。

自社での対応が難しい場合、外部の専門家に依頼すると良いでしょう。

⑤風通しの良い組織風土を作り出していない

ハラスメントが発生するのは、「仲間を大切にしない」という職場の雰囲気があるからだと思われます。

「仲間の陰口は許さない」などの組織文化を醸成することで、ハラスメントを防止できると考えられます。

 

家庭でハラスメントが発生する原因

職場でのストレスが多い

職場でストレスが多い場合、家庭内では癒しを求めることが多いでしょう。

そのような中で、少しでも家庭内で自分の思い通りにいかない、パートナーに冷たくされたなどのことが起きれば、ハラスメントが起きやすい状況といえます。

 

加害者の元々の家庭環境

人は通常、家庭内のことは自分の育った家庭環境しか知りません。

加害者の育った家庭環境でハラスメント(モラハラ)が横行していた場合は、加害者はその行動が「当たり前」という認識をしていることがあり、元々の家庭環境がハラスメントの原因となり得るといえます。

 

学校でハラスメントが発生する原因

正しい教育という勘違い

学校で起こるハラスメントは、「それが正しい教育」という勘違いのもとに生まれるものも多くあります。

つまり、加害者に悪気はなく、それが行き過ぎたものであると気付かずに、「生徒のためを思って」やってしまうこともあると考えれらます。

 

被害者が子どもで発覚の可能性が低いと考える

学校で起こるハラスメントの中には、教師がハラスメントである自覚をしながら行われるケースもあります。

大人と違って子どもは自分の意見を他者に言えないことも多いため、ハラスメントの自覚のある教師でも発覚の可能性が低いと考え、行動がエスカレートしてしまうという場合もあり得ます。

 

 

ハラスメント防止法について

ハラスメントにはいくつか関連する法令がありますが、その一部をご紹介いたします。

ハラスメント関連の法令

ハラスメントの種類 関連する法令
セクハラ 男女雇用機会均等法(正式名称:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)
パワハラ パワハラ防止法(正式名称:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)
マタハラ
  1. ① 男女雇用機会均等法
  2. ② 育児介護休業法(正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)

 

セクハラ〜男女雇用機会均等法〜

男女雇用機会均等法は、第11条において、会社のセクハラ防止措置の義務化等を定めています。

参考:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律|e−Gov法令検索

 

パワハラ〜パワハラ防止法〜

パワハラ防止法は、第30条の2において、パワハラ防止措置の義務化等を定めています。

参考:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律|e−Gov法令検索

 

マタハラ〜男女雇用機会均等法、育児介護休業法〜

男女雇用機会均等法では第11条の3、育児介護休業法では第25条においてそれぞれマタハラ防止措置の義務化等を定めています。

参考:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律|e−Gov法令検索

参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律|e−Gov法令検索

 

各種ハラスメントに共通の法令

▼ 民法・・・加害者等に損害賠償請求をする場合

参考:民法|e−Gov法令検索

▼ 刑法・・・加害者の行為が犯罪にあたる場合

参考:刑法|e−Gov法令検索

▼ 労働基準法、労働契約法・・・加害者等が解雇などの処分を受ける場合

参考:労働基準法|e−Gov法令検索

参考:労働契約法|e−Gov法令検索

 

会社が実施しなければならない4つの対策

ハラスメント防止のために会社が実施しなければならない4つの対策

会社には一定のハラスメント対策義務があります

以下の4つの対策は、セクハラ、パワハラ、マタハラについての厚生労働省の指針に共通して記載されている事項になります。

①相談窓口を設置する

会社は、ハラスメント被害者が相談できる相談窓口を設置しなければなりません。

相談窓口の設置方法には、以下の3つがあり、どの方法でも設置義務を果たすことができます。

【 相談窓口の設置方法 】

  1. ① 社内にのみ設置する
  2. ② 社外にのみ設置する
  3. ③ 社内と社外の両方に設置するという

なお、社外に相談窓口を設置する場合は、専門家である弁護士に委託するのがベストです。

厚生労働省の指針上は、各種ハラスメントの相談窓口は一本化していることが望ましいとされています。

 

②ハラスメントに対する会社の方針等を明確化して周知

就業規則や掲示板において、どのような行動が各種ハラスメントに該当するかを示し、ハラスメントの加害者に対しては、懲戒処分などの厳しい処分が下される可能性があることを明確化して周知する必要があります。

周知にご活用いただける書式については以下をご覧ください。

 

③プライバシーの保護をする

ハラスメントの調査の過程では、会社側は、被害者や加害者などの多くのプライバシー性がある情報を扱うことになります。

そこで、会社は当事者のプライバシーを保護する措置を講じるようにしなければなりません

具体的には、以下のような手段です。

  • プライバシーを保護する手順などをマニュアル化し、そのマニュアルに従って相談窓口の担当者等が対応する
  • 聴取内容や証拠などの情報を共有をする範囲をあらかじめ定めておく
  • 調査協力者に口外禁止の誓約書を記載してもらう

※口外禁止の誓約書の例

誓 約 書

◯◯株式会社
代表取締役 ◯◯◯◯殿

 

私は、   年  月  日実施のハラスメント調査の内容、自ら発した回答内容、被害者や加害者とされる方の情報など、当該調査に関わる一切の情報を第三者に口外しないことを誓約いたします。

なお、私は貴社から、調査が進行する過程で、不安なことがある場合は、適宜ハラスメント窓口担当者に相談できることの説明を受けました。

 

年  月  日

住所                 

氏名                ㊞

 

④再発防止に取り組む

ハラスメントが実際に起きてしまった場合には、会社として再発防止の取り組みを行わなければなりません

再発防止策の例としては、①アンケート調査を実施し同様の事案がないか確認する、②懲戒処分をしたことを公表する、③就業規則の整備、④ハラスメント研修の実施などが挙げられます。

なお、懲戒処分を公表する際は、当事者のプライバシーに配慮した方法で行うようにしてください。

例えば、当事者や具体的な行為の内容などは明かさず、事案の概要とそれに対する懲戒処分の内容にとどめて公表するという方法です。

アンケート調査にご活用いただける書式は以下をご覧ください。

会社のハラスメント対策については、下記のページで詳しく解説しているので、参考になさってください。

▼セクハラ指針

参考:事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)【令和2年6月1日適用】|厚生労働省

▼パワハラ指針

参考:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】|厚生労働省

▼マタハラ指針

参考:事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成 28 年厚生労働省告示第 312 号)【令和2年6月1日適用】 |厚生労働省

 

ハラスメント研修について

ハラスメント研修を実施することは、ハラスメント対策として非常に有効だと思います。

ハラスメント研修を実施すると、以下のようなことが期待できます。

  • 従業員や管理者にハラスメントの知識や理解が深まり、職場でのハラスメントが減少する
  • ハラスメントに対する会社の考え方や加害者には厳しい処分が下される等の強いメッセージを発信することによって、抑止効果が期待できる
  • ハラスメント事案が発生した場合に、研修を実施して会社のハラスメントに対する方針等を再度認識させることによって、再発防止をする

ハラスメント研修をせっかくやるのであれば、会社としては意味のあるものにしたいところです。

充実したハラスメント研修を実施するためには、講師を専門家である弁護士に委託するのが一番でしょう。

 

 

 

ハラスメントが発生したときの対応方法

ハラスメントが発生したときの対応方法

①ハラスメントの相談・通報

被害者よりハラスメント窓口や上司にハラスメントの相談や通報などの申告があったときに、当該事実を会社側が把握することになります。

 

②事情聴取・証拠の検討

被害者、加害者、第三者などに事情聴取を行い、事実関係の有無の確認や時系列の整理などを行っていきます。

また、収集済みの客観的証拠の内容も検討し、事情聴取した内容と照らし合わせてハラスメントに該当するかどうかの事実認定を行います。

 

 

ハラスメントに該当すると判断した場合

③配置転換・懲戒処分の検討

ハラスメントに該当すると判断された場合、被害者と加害者を引き離すための加害者(場合によっては被害者)への配置転換を検討します。

また、行為の内容が許し難いもので看過できない場合、懲戒処分なども検討することになります。

 

④被害者へのフィードバック・メンタルケア等

被害者へ事実認定の結果及び(必要に応じて)配置転換・懲戒処分などの結果をフィードバックします。

また、被害者と面談などを通じてメンタルケアを行い、しっかりと業務しやすい環境になるよう配慮します。

 

⑤再発防止措置

最後に、今後同様のハラスメントが起きないよう、再発防止措置を行う必要があります。

再発防止措置は、上記でも解説したとおり、①アンケート調査を実施し同様の事案がないか確認する、②懲戒処分をしたことを公表する、③就業規則の整備、④ハラスメント研修の実施などが挙げられます。

なお、ハラスメントの事実が確認されなかった場合でも、可能な再発防止措置を行うべきと厚生労働省の指針で示されています。

 

 

ハラスメントに該当しないと判断した場合

⑥被害者・加害者への説明

ハラスメントに該当しないと判断した場合には、被害者や加害者に対して、可能な範囲での情報を与えた上で、該当しないと判断した結果やその理由を説明します。

 

 

ハラスメントについてのQ&A

ロジハラとはどういう意味ですか?

ロジハラとは、ロジカルハラスメント(Logical Harassment)の略で、正論を過剰に突きつけ、相手に精神的苦痛を与えることをいいます。

正論を話すこと自体は本来良いことですが、それを超えて相手を必要以上に追い詰めたり、少数の考え方への配慮を欠いた言動はこのロジハラに該当する可能性があります。

 

パワハラで言ってはいけない言葉は?

人格を否定するような言葉はパワハラになり得ます。
例えば、以下のような言葉が挙げられます。

「お前は猿以下だ。」

「頭本当に悪いな。小学生からやり直せ。」

「クズ。カス。死ね。」

「君の存在価値なんてないよ。目障りだから早くどっか行けよ。」

 

厚生労働省が規制するハラスメントとは?

厚生労働省は、セクハラ、パワハラ、マタハラについてそれぞれ指針を出して規制を行っています。

さらに、カスハラについても、厚生労働省は企業向けの対策マニュアルを出して注意喚起をしています。

 

 

 

まとめ

ハラスメント問題は、適切な理解と対応が求められる時代になっています。

上記で解説したとおり、現在では様々なハラスメントの種類がありますが、何ら違法とならないハラスメントから犯罪となってしまうハラスメントまでレベルの違いを理解するのは容易ではありません。

ハラスメント問題でお困りの方は、専門家である弁護士に相談してください。

デイライト法律事務所は、会社側のハラスメント問題の経験豊富な労働事件チームがあります。

ZoomやGoogleMeet等を用いたオンライン相談も承っており、全国対応をしておりますので、経営者や人事担当者の方はぜひ一度デイライト法律事務所にご相談ください。

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