企業がとるべきパワハラ対策とは?弁護士が解説
パワハラに厳しい昨今において、企業としても一定のパワハラ対策を行う必要があります。
パワハラ防止法や厚生労働省の指針において、企業がパワハラ対策をしなければならないことが記載されています。
企業がパワハラ対策を何もしないと、損害賠償責任を問われることもあります。
本記事では、企業が行うべきパワハラ対策について、労働問題を多く扱う弁護士が解説していきます。
企業が実施しなければならない4つの対策
そもそも、パワハラとは、パワーハラスメントの略で、職場において立場を利用した業務上不必要な言動で、受け手に身体的・精神的苦痛などを与えるもののことをいいます(筆者の定義)。
企業は、パワハラ対策を適切に講じなければ、安全配慮義務違反(民法415条1項)や使用者責任(民法715条1項)を負い、被害者の方に損害賠償をしなければならないということもあり得ます。
参考:民法|e−Gov法令検索
ここでは、企業が賠償責任を負わないための4つの対策をご紹介いたします。
4つともパワハラ防止法及び厚生労働省の指針に記載されているものになります。
- パワハラに対する方針の策定と徹底
- 相談窓口の設置等
- パワハラへの迅速かつ適切な対応
- プライバシー保護の措置等
パワハラに対する方針の策定と徹底
①パワハラの内容とパワハラを行ってはならない旨の方針を明確化して周知する
まずは、パワハラにはどういった行動があたるかを明確にすべきです。
その上で、パワハラを行ってはならない旨を明示します。
加えて、パワハラの発生原因や背景なども記載することも考えられます。
周知方法の例については、以下のとおりです。
- 就業規則
- パンフレット
- 社内掲示板
- 社内ホームページ
②パワハラを行ったものには厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則等で記載して周知する
パワハラを行ったものには厳正に対処する旨の方針と実際にパワハラが起きた場合にどのような対処(処分)をするのかを就業規則や服務規律が書かれている規程などに記載します。
対処の内容については、具体的には就業規則の懲戒規定にパワハラが適用対象になる旨等を記載することです。
相談窓口の設置等
企業は、パワハラの被害者が駆け込むことができる相談窓口を設置し、労働者に周知する必要があります。
相談窓口を設置していると評価される例としては、以下のとおりです。
- 相談に対応する担当者をあらかじめ定めること。
- 相談に対応するための制度を設けること。
- 外部の機関に相談への対応を委託すること。
相談窓口への相談方法は、面談、メール、電話、オンラインなど複数の手段を用意しておくのが望ましいです。
なお、ただ形式的に相談窓口を設置しているだけでは不十分で、内容や状況に応じて人事担当者や相談者の上司と連絡を取ることができるような体制を整えることも必要です。
社内に相談窓口を設置する場合、どのような方に相談員になってもらうか悩むかもしれません。
企業規模にもよりますが、以下のポイントに従って選任するのが良いです。
相談員については、一定の方をあらかじめ指定しておくというのがわかりやすくて良いです。
なお、相談員が当事者(例:パワハラの加害者)となるような特殊なケースでは、別途選任するべきです。
相談員の人数は2名ほどがベストです。
1名が聴取役、1名が記録を取るなどの役割分担をすると良いでしょう。
相談員を複数人選任する場合は、被害者の方が相談しやすいよう、属性を分けて選任すべきでしょう。
例えば、2名選任する場合は、
- 立場については管理職と現場の方を1名ずつ
- 性別については男女1名ずつ
などが望ましいです。
相談員がパワハラの加害者と親しい関係性の方は、中立性の確保という点では好ましくありません。
仮に、相談員がパワハラの加害者と親しい関係性の場合は、相談員から除外することも検討すべきでしょう。
パワハラへの迅速かつ適切な対応
パワハラの申告があった場合は、以下の対応を心掛けてください。
- ① 事実関係を迅速かつ正確に確認すること
- ② 被害者に配慮するための適正な措置
- ③ 加害者への適正な措置
- ④ 再発防止に向けた措置
①事実関係を迅速かつ正確に確認すること
まずは、被害者の申告するパワハラの事実関係の確認をしていくことになります。
事実関係は、被害者と加害者にそれぞれ聴取していきます。
両者の言い分が異なる場合は、必要に応じて第三者にも聴取します。
事実関係の確認が困難な場合は、パワハラ防止法(正式名称は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)第30条の6に基づく調停や中立な第三者機関に紛争処理を委ねることも検討します。
第三十条の六 都道府県労働局長は、第三十条の四に規定する紛争について、当該紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第六条第一項の紛争調整委員会に調停を行わせるものとする。
2 第三十条の二第二項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。
引用:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律|e−Gov法令検索
②被害者に配慮するための適正な措置
パワハラの事実が確認できた場合は、被害者に配慮するための適正な措置を行います。
被害者への適正な措置の例としては、被害者と加害者を引き離すための配置転換、被害者と加害者の関係を修復するための援助、加害者の謝罪の場を設けるなどです。
③加害者への適正な措置
パワハラの事実が確認できた場合は、加害者への適正な措置も怠ってはいけません。
加害者への適正な措置の例としては、被害者と加害者を引き離すための配置転換、注意指導、就業規則に基づく懲戒処分などです。
④再発防止に向けた措置
パワハラの事実が確認できた場合、確認できなかった場合どちらにおいても、企業は同様の事案が発生しないよう再発防止に努めなければなりません。
再発防止に向けた措置の例としては、パワハラへの企業の方針や厳正に対処する旨を改めて周知することやパワハラ研修の実施などです。
プライバシー保護の措置等
その他、併せて講ずべき措置として以下のような事項を行います。
プライバシー保護の措置
例えば、被害者や加害者のプライバシーを保護するためのマニュアルをあらかじめ作成し、相談窓口の担当者がそのマニュアルに基づいて対応するなどが考えられます。
不利益取扱いをされない旨を定め周知する
パワハラの相談をしたことや、事実確認に協力したことをもって解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発することが考えられます。
厚生労働省の指針については、以下をご参照ください。
参考:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】|厚生労働省
パワハラ防止のために実施したい取り組み
以下は、法的義務ではありませんが、パワハラ防止のために望ましいとされる取り組み(努力義務)についてご紹介いたします。
パワハラの原因や背景となる要因を解消
パワハラの原因や背景となる要因を解消するためには、以下のような取り組みが考えられます。
- 定期的にミーティングや面談を行い、意見を言い合える場を提供したり、風通しの良い職場環境を作っていくこと
- 過度に肉体的・精神的な負荷がかからないように、適正な業務量を配分して長時間労働の是正などを行うこと
アンケートや意見交換
雇用管理上の措置を講じる際に、必要に応じて、労働者や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、その運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めるようにします。
各種ハラスメントの一元的な相談体制の整備
ハラスメントはパワハラだけでなく、セクハラやマタハラもあります。
こういったハラスメント全般の相談窓口を一本化し、その旨を労働者に周知することが望ましいです。
被害者が気をつけたいパワハラ対策
以下では、被害者が気をつけたいパワハラ対策について触れていきます。
相談窓口や上司等に相談する
パワハラを受けた被害者は、悩まずにパワハラ相談窓口や上司に相談しましょう。
また、労働基準監督署や弁護士に相談するという方法もあります。
パワハラの録音は証拠となる?
パワハラの録音は証拠となり得ます。
パワハラがあったかどうか、どのようなパワハラがあったか等について争いになった場合は、基本的に証拠が必要となります。
その中で、録音は、客観的な証拠として価値が高いといえます。
録音以外の証拠としては、メール、防犯カメラなどが考えられます。
パワハラ対策の5つのポイント
①パワハラについて理解を深める
企業の中でも、特に経営者やパワハラ相談窓口の方は、パワハラの内容やパワハラが起きないための仕組みについて一定程度知識をつけていなければいけません。
パワハラへの理解を深めるためには、パワハラに関する解説記事や書籍で学習するということが考えられます。
②就業規則等を適切に作成する
パワハラに関連する部分の就業規則等を適切な内容で作成することも重要です。
パワハラに関する規定については、就業規則の中に記載しても良いですし、別途、「ハラスメント規程」などを作成しても構いません。
就業規則等には、
- どのような言動がパワハラにあたるか
- パワハラを行ってはいけない旨
- パワハラ調査の手続き
- パワハラ加害者への処分内容
などを記載するようにしましょう。
加害者への処分の内容は慎重に判断する
パワハラの事実が確認できた場合、加害者へ一定の処分を検討することになります。
もっとも、事案の内容に応じて適切な処分を選択しなければなりません。
特に、懲戒解雇は最も重い処分のため、よほどのことがない限りすべきではないでしょう。
加害者への処分は、加害者の行動の悪質性、反省の態度等を考慮して、見合った処分を選択してください。
相談窓口を外部の弁護士に委託する
パワハラの相談窓口は、できるだけ外部の弁護士に委託するようにしましょう。
理由としては、専門家による相談窓口としての適切な対応が期待できること、相談する被害者の立場としても相談先が専門家であるという安心感があることなどが挙げられます。
労働問題に強い弁護士に相談する
パワハラ対策については、労働問題に強い弁護士の専門領域です。
弁護士は、問題が起きた事後だけに活躍するものではなく、問題が起きる前の予防法務においても存在意義があります。
企業として適切な対策をするためには、弁護士の専門的な知識を借りることが重要です。
まとめ
- 企業が実施しなければならない4つのパワハラ対策とは、①パワハラに対する方針の策定と徹底、②相談窓口の設置等、③パワハラへの迅速かつ適切な対応、④プライバシー保護の措置等である
- 企業が実施することが望ましいパワハラ対策とは、①パワハラの原因や背景となる要因を解消すること、②アンケートや意見交換、③各種ハラスメントの一元的な相談体制の整備などが挙げられる
- パワハラ対策の5つのポイントは、①パワハラについて理解を深める、②就業規則等を適切に作成する、③加害者への処分の内容は慎重に判断する、④相談窓口を外部の弁護士に委託する、⑤労働問題に強い弁護士に相談することである。
- パワハラの相談は近年増加傾向にあり、今後はより一層企業のしっかりとした対策が必要になってきます。
もっとも、法律や厚生労働省の指針を意識した適切なパワハラ対策を行うことは簡単ではありません。
やはり、パワハラ対策は弁護士に相談した上で作り上げていくことが一番でしょう。
当事務所には労働問題に特化した専門チームがあり、パワハラ事案も多数の実績があります。
パワハラ対策にお困りの企業様はぜひ一度当事務所にご相談ください。