外国人を採用するときの3つの注意点とは?【弁護士が解説】
外国人労働者は年々増加し、雇用する企業も増えています。
したがって、自社でも新たに外国人労働者を採用しようと考えている企業や人事担当者の方も多くいらっしゃるかと思います。
しかしながら、外国人労働者を採用するに当たっては、採用する前の段階で整理しておくべき注意点がいくつかあります。
①外国人を採用する理由を考える
企業が労働者を募集する場合、必ずそこには何らかの理由があるはずです。
大企業であれば、定年や定年後の再雇用者が退職するに当たって、大学生をはじめとする新卒の採用を毎年行っています。
こうしたケースではあらかじめ採用計画を定めて、求めている人材や採用する人員を決定しているのが通常です。
そして、将来の企業の中核を担う人材となってもらうために、長い期間をかけてOJTを積ませて育成します。
また、終身雇用制度が以前ほど当たり前ではなくなってきている中で、中途市場も活発になってきており、企業には即戦力人材を求める気運も高まっています。
実際、こうした動向を踏まえて、近年は一定の年収を得ていた層を対象とする求人を専門とする媒体も登場しています。
他方で、日本の少子高齢化による人口減少などを理由とした働き手の不足が問題となっており、人手不足が各所で叫ばれている状況です。
したがって、人手不足を解消するために、外国人を採用しようと考えている企業も多くいることでしょう。
2018年秋の入管法改正の理由として、人手不足の問題が挙げられていることも事実です。
ただ単に人手不足だけが理由で外国人を採用しようと考えているのであれば、今一度慎重に考えるべきだと専門家である弁護士としては考えています。
なぜなら、外国人労働者の雇用管理やマネジメントは、それほど簡単なものではなく、日本人を雇用する場合以上に注意しなければならないポイントが多々あるからです。
消去法的な理由の場合
日本人労働者が集まらず、人手不足なので外国人労働者を採用するという、どちらかといえば消去法的な理由の場合、採用の方法を見直してみたり、賃金体系を見直してみたりすることで問題は解決するかもしれません。
例えば、採用の方法であれば、ハローワークに求人情報を掲載するだけでなく、有料の求人媒体に情報を掲載する、すでに掲載している場合でも、掲載する時期を変えてみる、掲載の内容(記事や写真)を変えてみるといった施策が考えられます。
自社のHPに採用専用のページを用意したり、PR動画を作成してより企業イメージが伝わるようにしたりということも効果が出るケースがあります。
当法律事務所でも、弁護士はもちろん、パラリーガルやパートタイマーの募集を募るために自社のホームページに採用専門のサイトを作成したところ、ホームページへのアクセス数が以前よりも増え、採用希望者が増えたということがありますし、スタッフの仕事風景などを撮影した採用向けの動画も作成しています。
後者の賃金体系の見直しについては、同じエリア、同じ職種の募集条件を踏まえて、時給や基本給のアップ(ベースアップ)やパートタイマーにも賞与を一定額支給するなどの対策が考えられます。
外国人労働者の採用はそうした施策を講じた後からでも遅くはないでしょう。
積極的な理由の場合
他方で、外国人労働者を採用する理由が積極的なものである場合には、前向きに採用を検討すべきです。
具体的には、企業の成長戦略に外国人が必要であるかどうかです。
IT技術の進歩や交通網の整備、国際的な動きにより経済のグローバル化が進んでいます。
イギリスのユーロ離脱やアメリカと中国の間の貿易摩擦など、グローバル化に後ろ向きな動きもないわけではありませんが、それでも高度経済成長期の日本経済と現代の日本経済は大きく異なっています。
今や多くの企業が世界の企業としのぎを削らなければならない時代です。
製造業(スマートフォンやPC)の分野ではアップル、小売業の分野ではアマゾン、インターネットの分野ではグーグルやフェイスブックといった世界的な企業の影響が大きいことは誰もが実感しているところでしょう。
したがって、企業が海外進出するために、進出予定地の外国人を採用し、M&Aの調整やアライアンス先の選定、現地法人の立上げやチャネル開拓のために活動してもらうという理由で外国人を採用するのは、先ほどの人手不足の場合と比べて、外国人である必要性が高く、企業にとっても価値のある人材になるはずです。
今後、アフターコロナの時代には、ビフォーコロナのとき以上に、外国人観光客の数が増加していくと予想されます。
こうしたインバウンド市場に対応するべく、飲食業や小売業といったサービス業やホテルや観光地のガイドといった観光業で外国人を採用するということが考えられます。
この場合も、母国語で話し合えるスタッフがいるというのは外国人観光客にとって、その企業を選択する購買決定要因になるといえ、必要性が高いといえます。
ここまで検討してきたように、「自社がなぜ外国人労働者を採用するのか」という理由をきちんと説明できるか、そして、その理由が積極的な理由であるかどうかをチェックしましょう。
決して、外国人を雇用することが時代の流れ、トレンドだからといった理由で採用しないようにしなければなりません。
②外国人=コストの安い労働力は誤りであると理解する
外国人を採用する理由の一つとして、安い賃金(コスト)で採用できるという声を聞くことがあります。
しかしながら、このような考えは間違いと考えておくことが必要です。
外国人労働者にも労働法令の適用はあります。
技能実習生にも最低賃金法の適用がなされます。
技能実習については、技能実習法において、あくまで「実習」であること、そのため、技能実習制度を、労働力の需給の調整の手段として行われてはならないとされています(技能実習法3条2項)。
引用元:外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律 | e-Gov法令検索
しかしながら、他方で、技能実習だからという理由で、適切な報酬が支払われないということは、技能実習生の人権侵害となるため許されません。
したがって、時給500円で外国人労働者を雇用したり、社会保険に加入させない、有給休暇を与えないといった取扱いも全て違法です。
入管法改正の際に報道されたとおり、中には違法な労働条件で雇用して働かせている企業があることは事実です。
しかしながら、それは外国人労働者が声をあげていない、声をあげたくてもあげられないということに起因して表面化していないだけであり、正当化されたものでは決してありません。
悪質な企業と判断されると、刑事処分を受ける可能性があります。
③日本人と同じマネジメントではうまくいかないことを念頭においておく
外国人を採用する前に押さえておかなければならないポイントとしては、日本人と外国人では、文化や教育の違いによって、「働く」ということに対する意識や物事に対する価値観が全く異なるということです。
これも当然のことだと思われるかもしれませんが、実際に企業が外国人労働者を採用すると、今まで当たり前のこととして特に指導や配慮をしてこなかったことについても、意識せざるを得なくなります。
例えば、中国では日本の年末年始の期間に仕事を休むというのは当たり前のことではありません。
中国人にとっては旧正月に当たる2月の時期に休むというのがむしろ当たり前なのです。
このことを知らなければ、中国人の労働者が2月に「国に一度帰りたい」といって一斉に長期休暇を申請したりすることを、「この時期に休むなんて、何を考えているのか」、「企業のことを考えていない」などとしてトラブルに発展することになります。
他にも、中国人にとっては、数年の間に何度も転職をするというのは日本人に比べて抵抗感がなく、むしろ自身のキャリア形成にとっては必要で望ましいことであると考えられています。
この点は、いくら終身雇用制が崩れつつあるといっても、日本人の意識とは全く異なります。
したがって、外国人を受け入れるに当たっては、採用する経営者が文化の違いを理解し、適宜対応していく必要があるということを念頭に置いておかなければなりません。
可能であれば、実際に採用を考えている国を訪れて、街の様子や生活環境について経験するのが効果的です。
百聞は一見にしかずで、「中国は〇〇だから」、「ベトナムは、〇〇の人が多い」と抽象的な話をそのまま受け入れるのではなく、「どうして?」、「なぜ?」という視点をもって、現地を見ておくというのはそれ以降のマネジメントにプラスになるはずです。
もちろん、同じことは外国人労働者の側にもいえることです。
就業場所が日本の場合には、外国人労働者には日本の習慣にある程度合わせてもらうことも必要です。
ですが、外国人労働者としては、当たり前のこととして考えていることが日本人からすると違うということもたくさんあります。
したがって、このギャップを埋めていくためには、企業の側も日本人を雇用する場合以上に、コミュニケーションをとって、日本の文化や考え方を教育していくことが不可欠です。
採用の前にこうしたポイントに関する検討をした上で、採用手続を進めることでトラブルを防ぐだけでなく、企業の成長に役立つ人材戦略をとることができます。
弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会
保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
専門領域 / 法人分野:労務問題、ベンチャー法務、海外進出 個人分野:離婚事件
実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所の代表弁護士。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行なっている。『働き方改革実現の労務管理』「Q&Aユニオン・合同労組への法的対応の実務」など執筆多数。