性同一性障害者であることを理由とした解雇は違法?

執筆者
弁護士 鈴木啓太

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士


性同一性障害者への差別

近年、性同一性障害については、その認知が広まってきています。

例えばですが、戸籍上は男性であっても、性自認が女性の方であると、学校や会社において、「女性用の制服が着たい」とか、「女性用のトイレや更衣室を利用したい」といった要望を持つことが当然あります。

会社側としても、このような要望に配慮しているところもあるようですが、まだまだ理解が不十分な会社としては、その要望を認めないところも多いものと思われます。

そのような社会状況の中で、会社が性同一性障害の方を解雇したという事案が裁判となりましたので、ご紹介したいと思います。

裁判例(東京地決平成14年6月20日)

事案の概要

 

Xは、平成9年にYに雇用され、本社調査部に勤務していたところ、平成12年に性同一性障害の診断を受けカウンセリングを受け始め、平成13年には家庭裁判所で女性名への改名を認められました。

Xは、平成14年1月、Yから製作部製作課ヘの配置転換を内示されました。
Xは、配転を承諾する条件として以下3点をYに申し出ました。

  1. ① 女性の服装で勤務する
  2. ② 女性用トイレの使用
  3. ③ 女性更衣室の使用

しかしYは、これを認めず同年2月に配置転換を命じました。

Xは、同年3月に女性の服装、化粧等をしてYに出勤しましたが、Yは、これを禁止する服務命令を発し、自宅待機を命じました。

その後、Yは、Xに懲戒処分を検討している旨通知して弁明聴取を行いました。

その後、Yは、配転命令を拒否したこと、女装で出勤しない等の業務命令に従わなかったこと、業務の引き継ぎをしなかったことなどを理由に懲戒解雇をしました。

これに対して、Xは、懲戒解雇の無効を主張し、地位保全及び賃金の仮払いを求めた事案です。

参考:公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会|判例検索

 

 

判決の概要

裁判所は、以下のように判断し、XがYに対し、女性の容姿をして就労することを認め、これに伴う配慮をしてほしいと求めることは、相応の理由があると認定しました。

「疎明資料によれば、性同一性障害は、生物学的には自分の身体がどちらの性に属しているかを認識しながら、人格的には別の性に属していると確信し、日常生活においても別の性の役割を果たし、別の性になろうという状態をいい、医学的にも承認されつつある概念であることが認められ、また、疎明資料(〈証拠略〉)によれば、Xが、幼少のころから男性として生活し、成長することに強い違和感を覚え、次第に女性としての自己を自覚するようになったこと、Xは、性同一性障害として精神科で医師の診療を受け、ホルモン療法を受けたことから、精神的、肉体的に女性化が進み、平成13年12月ころには、男性の容姿をしてYで就労することが精神、肉体の両面において次第に困難になっていたことが認められる。
これらによれば、Xは、本件申出をした当時には、性同一性障害(性転換症)として、精神的、肉体的に女性として行動することを強く求めており、他者から男性としての行動を要求され又は女性としての行動を抑制されると、多大な精神的苦痛を被る状態にあったということができる。
そして、このことに照らすと、XがYに対し、女性の容姿をして就労することを認め、これに伴う配慮をしてほしいと求めることは、相応の理由があるものといえる。」

さらに、以下のように判断してYの主張を排斥しています。

「このようなXの事情を踏まえて、Yの前記主張について検討すると、Y社員がXに抱いた違和感及び嫌悪感は、上記…に照らすと、Xにおける上記事情を認識し、理解するよう図ることにより、時間の経過も相まって緩和する余地が十分あるものといえる。
また、Yの取引先や顧客がXに抱き又は抱くおそれのある違和感及び嫌悪感については、Yの業務遂行上著しい支障を来すおそれがあるとまで認めるに足りる的確な疎明はない。
のみならず、Yは、Xに対し、本件申出を受けた1月22目からこれを承認しないと回答した2月14日までの間に、本件申出について何らかの対応をし、また、この回答をした際にその具体的理由を説明しようとしたとは認められない上、その後の経緯に照らすと、Xの性同一性障害に関する事情を理解し、本件申出に関するXの意向を反映しようとする姿勢を有していたとも認められない。」

「そして、Yにおいて、Xの業務内容、就労環境等について、本件申出に基づき、Y、X双方の事情を踏まえた適切な配慮をした場合においても、なお、女性の容姿をしたXを就労させることが、Yにおける企業秩序又は業務遂行において、著しい支障を来すと認めるに足りる疎明はない。」

裁判所は、YはXが女性として勤務することによって受ける不利益を回避する手段を検討すべきであったにも関わらず、それをしようとした形跡がないということを認定しています。

Yがその他に主張していた解雇事由についても裁判は認めず、Xを解雇は無効であると判示しました。

 

 

まとめ

この裁判例は、Xの申し出を正当なものと認め、企業側に性同一性障害の方に配慮するように求めた点に意義があるといえます。

このような配慮は、どの企業でも求められることであり、今後、コンプライアンスの問題としても無視できなくなってくると思われます。

 

 





  

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