新型コロナウィルスの影響による休業と会社の賃金支払義務
前号(2020年5月号)のタイムズでも「コロナウィルスで休業した場合の従業員給料はどうなる?」という記事で触れていますが、特に、給与は翌月払いということが多いことから、緊急事態宣言の延長により6月支払分の給与も影響を受ける会社は少なくないと思われます。
厚労省の「新型コロナウィルスに関するQ&A(企業の方向け)」に基づき、深堀りする形で解説を行いたいと思います。
新型コロナウィルス(COVID-19)による休業要請
新型コロナウィルス(COVID-19)により、多大な影響を受けておられる会社も多いと思います。
福岡県の動きを振り替えると、2020年4月7日の緊急事態宣言を受け、福岡県知事より、県民に対し、生活維持に必要な場合を除いた外出の自粛、同4月14日からは、県内の事業者に対して休業等の要請が出されています。(この緊急事態宣言は、本稿作成時点で、2020年5月末日までの延長が決まっております。)
そのため、4月14日以後、休業をされている会社も少なからずあるでしょう。
しかし、休業を行うということは、従業員との間で給与の支払い等で問題が生じえます。
かかる休業の場合にも、会社は、従業員に対して、給与を支払わなければならないのでしょうか。
本稿では、この点について解説したいと思います。
休業と労働法
では、まず、休業について、法はどのように規定しているかという原則をみていきましょう。
会社に故意・過失がある場合の休業
休業が専ら会社都合によるものである場合、従業員は会社に対して賃金を100%支払わなければなりません(民法536条2項)。
ただし、この民法の規定は危険負担といいますが、当事者の特約で変更できます。
したがって、就業規則等により民法536条2項の適用を排除していれば、賃金を100%は支払う必要はなくなります。
もっとも、労働基準法26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」と規定しております。
労働基準法は、最低基準を定めたものですから、就業規則や個別の契約でそれを下回る合意は無効となります。
したがって、賃金の6割は必ず支払わなければなりません。
会社に経営、管理上の障害が生じたがゆえの休業
この場合、会社に故意・過失があるとはいえませんが、労働基準法26条により、賃金の6割を支払う必要があります。
これは、会社に非がなくとも、会社に対して6割の賃金の支払い義務を負わせるものであり、特約で排除できないことから、労働者たる従業員を厚く保護する規定です。
たとえば、取引先や鉄道・道路が被害を受け、原材料の仕入れ、製品の納入等が不可能となったことにより労働者を休業させる場合も、会社は賃金の6割は支払う必要があります。
そのため、従業員の安全確保のために休業しなければならない状況が民法536条2項にいうところの、会社の責に帰すべき事由で生じたのではない場合であっても、従業員の就労が可能な状況において、会社の判断で、従業員の安全確保のために休業した場合には、労働基準法26条にもとづく賃金の6割の支払い義務は生じるのです。
天変地異等の不可抗力による休業
天変地異等の不可抗力による休業については、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」とはいえないため、賃金の6割の休業手当を支払う必要はありません。
ただし、厚労省によると、その場合にも
- ① その原因が事業の外部から発生した事故であること
- ② 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること
を要件としているので、注意が必要です。
厚労省も「例えば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当の支払が必要となることがある」旨を指摘しています。
新型コロナウィルスの影響による休業
では、新型コロナウィルスの影響による休業の場合、どのように考えるべきでしょうか。
この点、いくつかの場合分けを行い解説したいと思います。
従業員が新型コロナウィルスに罹患した場合
この場合には、都道府県知事が行う就業制限により、労働者が休業する場合にあたり、「使用者の責に帰すべき事由による休業」(労基法26条)に該当しないと考えられます。
したがって、休業手当を支払う必要はありません。
なお、この場合、従業員の方から、「給与が支払われないと生活ができない。」と言われることがあるかもしれません。
この場合には、被用者保険に加入している場合はが支給されます。
具体的には、療養のために就労できなくなってから3日を経過した日から、直近12か月の平均の標準報酬日額の3分の2について、傷病手当金により補償されますので、その旨を案内することになるでしょう。
従業員が新型コロナウィルスに罹患した疑い(濃厚接触者等)がある場合について
従業員が新型コロナウィルスの感染の疑いがある場合、最寄りの保健所などに設置される「帰国者・接触者相談センター」に問い合わせるように促しましょう。
新型コロナウイルス感染症ポータルページ 医療機関の受診に関する相談
「帰国者・接触者相談センター」での相談結果を踏まえると、職務の継続が可能という場合もあるでしょう。
その場合に、会社が他の従業員の安全を確保するため等の理由で、休業を促す場合、「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあたり休業手当を支払う必要があります。
全く仕事を行っていない従業員に休業手当を支払うのは会社にとっては打撃かもしれませんが、後述の雇用調整助成金を活用して、乗り切るほかありません。
従業員が発熱などの症状があるため自主的に休業している場合
この場合には、通常の病欠と同じ扱いでかまいません。
ただし、会社として、一律に発熱した者は出勤させない等の措置をとる場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあてはまり、休業手当の支払いが必要です。
事業の休止に伴う休業の場合
例えば海外の取引先が新型コロナウィルスの影響を受け事業を休止したことに伴う事業の休止という場合であっても、休業手当を支払わなければならない可能性は高いです。
天変地異の場合で、取引先や鉄道・道路が被害を受け、原材料の仕入れ、製品の納入等が不可能となったことにより労働者を休業させる場合も、会社は賃金の6割は支払う必要があるとされていることとパラレルに考えるとそのような結論になるでしょう。
ただし、厚労省は、「当該取引先の依存度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要がある」としています。
自粛要請に応じる休業の場合
新型インフルエンザ等対策特別措置法による対応が取られる中で、協力依頼や要請などを受けて営業を自粛することもあるでしょう。
この点、営業自粛は飽くまでも要請であり、強制ではないため、休業手当は支払わなければならないというのが基本的な考え方になるでしょう。
すなわち、前述のように労基法26条の休業手当を会社が支払わなくて良い場合というのは、不可抗力による場合に限られており、具体的には、
- ① その原因が事業の外部により発生した事故であること
- ② 事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること
という要素をいずれも満たすことが必要です。
今回の休業要請は、①は満たすでしょう。
ただし、②に該当するといえるためには、使用者として休業を回避するための具体的な努力を最大限尽くしていると言える必要があります。
休業回避のための具体的な努力とは、例えば、i 在宅勤務などの方法により従業員を業務に従事させることが可能かを十分に検討すること、ⅱ休業ではなく別の代替業務で就労させることが可能かを十分に検討することが挙げられるでしょう。
従業員と賃金についてトラブルになった際に、休業回避のための具体的な努力はしつくしていたか?という点を、きちんと釈明できるように検討した内容を議事録等で残しておくことがおすすめです。
とはいえ、そう簡単には、今回の新型コロナウィルスの影響による休業について不可抗力とは認定されませんので、休業手当を支払わなければならない場合の方が多いと思います。
しかしながら、自粛要請を国や都道府県が発信しているなか、休業するのは半ば当然であり、その負担を会社にのみ負わせるのは相当とはいえません。
そこで、雇用調整助成金の活用をぜひ検討しましょう。
これは、事業主たる会社が支払った休業手当の額に応じて、助成金が支払われるというものです。
休業手当を支払う場合の国の援助について
前述のように、労働基準法は労働者保護の観点から、極めて広い範囲で休業手当を支払うよう要請しています。
そのため、そのアンバランスを是正すべく、雇用調整助成金という制度があります。
雇用調整助成金とは、端的にいえば、休業手当を支払う会社に対して、一部を助成するというものです。
その結果、会社負担は、賃金の6%〜10%程度にとどまります。
詳しくは厚労省のホームページを確認してください。
緊急事態宣言中でも休業手当の支払い義務が生じるのは確かに過酷かもしれませんが、雇用調整助成金を活用し、なんとか新型コロナウィルスが収束するまで、耐えていただければと思います。
新型コロナウィルスの影響による休業に伴う労働問題について質問がある方は、詳しくは、当事務所までご相談ください。
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