セクハラの事例を一挙公開|状況別に弁護士が徹底解説

執筆者
弁護士 木曽賢也

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士

セクハラの事例を一挙公開

セクハラという言葉を一度は聞いたことがあるかと思います。

セクハラは、職場において行われる相手方の気持ちを無視した性的な発言や性的な行動をいいます。

では、具体的にどういった発言や行動がセクハラになるのでしょうか。

この記事では、裁判例、行政のガイドライン、ニュース、SNSを題材にして、世の中にあるセクハラ事例をご紹介します。

セクハラのひどい事例

まずは、数あるセクハラの中でも特にひどい事例をご紹介いたします。

セクハラのひどい事例

体に触るなどの行為〜裁判例〜

横浜セクシュアル・ハラスメント事件(東京高裁平成9年11月20日労判728号12頁)

事案の概要

男性上司が、女性の従業員に対して、以下のような行為をしたことが認められています。

  • 肩を叩く
  • 髪をなでたり、束ねたり、指ですくなど髪を触った。
  • 「私の手は人の手より熱いんだよ。どう、良くなってきた。」と言いながら、腰を触った。
  • 後ろから抱きついた。
  • 首筋にキスをした。
  • 顎を無理やりつかんでキスした。
  • 腰を被害者の身体に密着させたまま上下に動かし、指を被害者の股間に入れてズボンの上から下腹部を触った。
裁判所の判断

加害者などに慰謝料250万円等の支払義務があることを認めました

ワンポイント解説!

セクハラの中でもひどい部類なのは、業務とは関係がないのに体に触ったり、キスをするといった行為です。

このように、相手方の同意がないにも関わらず、しつこく体に触ったり、キスをするなどの行為は、強制わいせつ罪(刑法176条)に該当し、懲役などの刑罰を受ける可能性があります

参考:刑法|e−Gov法令検索

セクハラに関する法律について、詳しくは以下をご覧ください。

どのような行為がセクハラになるのか、以下でも詳しく解説しておりますのでご覧ください。

 

性的な関係を要求して従わない人に罰を与える〜行政のガイドライン〜

事例

事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇すること。

参考:事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!! P5|厚生労働省

ワンポイント解説!

性的な関係を要求するとは、例えば、キスや性行為をするような間柄になることを求めることです。

このガイドラインの事例のように、職場において行われる性的な言動に対する従業員の対応により当該従業員がその労働条件につき不利益を受けるような事象を「対価型セクシュアルハラスメント」と呼びます。

ガイドラインの事例では、解雇という従業員にとって最も重い処分が課されている点で、悪質なセクハラ事例です。

このような不当な理由による解雇は、無効となり、会社側は争っても負ける可能性が非常に高いといえます。

解雇について、詳しくは以下をご覧ください。

 

複数人でのセクハラ〜ニュースになった事例〜

2022年12月、元陸上自衛官の女性が、複数の男性隊員からセクハラを受けていたというニュースが話題となりました。

被害を受けた女性は、実名を出して事実の公表をし、世間から注目されるようになりました。

女性が訴えている内容は、おおむね以下のとおりです。

元陸上自衛官の女性が訴えている内容
  • 抱きつかれたり、柔道の技をかけるふりをして腰を振るしぐさをされたりという行為があった。
  • 野営訓練では、テントで複数の男性隊員からTシャツ越しに胸を触られ、ほおにキスをされ、男性隊員の陰部を触らせられた。
  • 3人の男性隊員から格闘技の技をかけられ、ベッドに押し倒され、男性隊員が被害者に覆いかぶさり、股を広げ、何度も腰を振ってきた。十数人の男性隊員が見ていた。上司2人は行為を見て笑っていた。

参考:セクハラ、パワハラへの感覚がまひ…防衛省はもっと声を上げやすい仕組みを 元陸上自衛官の五ノ井里奈さん訴え【動画あり】|東京新聞

ワンポイント解説!

男性が多い職場で、複数人で女性に対してセクハラをするのは非常に悪質です。

今回女性が訴えている内容については、仮に事実だとしたら、体を触る行為などを複数人でやっていることから女性を相当傷つけているものだといえます。

複数人の加害者は、相当程度高額な賠償金を支払わなければならない可能性があります。

複数人でセクハラが行われる場合の問題点として、加害者達が口裏合わせをしてセクハラの事実を隠そうとする可能性があります。

口裏合わせを防ぐ方法として、元陸上自衛官の女性のようにメディアに訴える方法は効果的ですが、なかなか簡単なことではありません。

複数人からセクハラを受けた被害者は、一人で抱え込まずに、まずは適切な相談窓口に相談し、事案に即したアドバイスを受けることが重要です。

 

 

グレーゾーンのセクハラ事例

次に、事案の内容次第でセクハラになったり、逆にセクハラにならなかったりするグレーゾーンの事例を紹介いたします。

食事やデートへ誘う〜行政のガイドライン〜

上司から部下に対して食事やデートに誘う行為も、セクハラになり得る行為です。

この点について、行政のガイドラインでは、セクハラにあたる例として、「食事やデートへの執拗(しつよう)な誘い」を挙げています。

参考:事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!! P4|厚生労働省

ワンポイント解説!

仕事上必要な食事の誘いについては、基本的にセクハラとならないでしょう。

もっとも、仕事とは無関係の食事やデートの誘いはセクハラとなる可能性があります。

上記の行政のガイドラインでは、「執拗(しつよう)な誘い」という言葉が使われていました。

つまり、誘った相手方が拒否しているなどにも関わらず、何度もしつこく誘ったりする場合などは、執拗な誘いといえ、セクハラにあたるでしょう。

 

「〜君」や「〜ちゃん」と呼ぶ〜ニュースの事例〜

2023年3月15日のニュースで、大学の教授が複数の学生らに対して、「~ちゃん」付けで呼んだりしたことがセクハラにあたるとして停職2か月の懲戒処分にしたと報じられていました。

参考:「ちゃん付け」「スタイルいいね」 60代の男性教授をハラスメントで停職処分 広島市立大|YAHOO!JAPANニュース

ニュースは大学の事例ですが、職場でも従業員を呼ぶ際、男性に対して「〜君」、女性に対して「〜ちゃん」と呼ぶ場合がセクハラにあたるかという問題があります。

ワンポイント解説!

筆者としては、「〜君」、「〜ちゃん」は、現代において、(性別+地位の低い方)に向けられる言葉の典型であり、基本的にはセクハラにあたると考えております。

もっとも、会社の事業内容や業界の風習で、「〜君」、「〜ちゃん」と呼ぶのが当たり前で誰も不快に思わないという環境もありえるかと思います。

そのような誰も不快に思わない環境では、例外的にセクハラにあたらない可能性があります。

いずれにしろ、セクハラにならないようにするには、男性に対しても女性に対しても「〜さん」と呼ぶのが無難です。

 

脱衣所で話しかける〜裁判例〜

日本郵便公社事件(大阪高裁平成17年6月7日労判908号72頁)

事案の概要

女性の職員が防犯パトロールの一環として、勤務時間中に男性職員がいた脱衣室の扉をノックをせず開けて近づいて話した。

裁判所の判断

女性職員の行為は、あくまで防犯パトロールの一環として行われたものであり正当な行為としてセクハラとは認定しませんでした。

ワンポイント解説!

裁判所は、この女性職員の見回りが職務の範囲内で仕方ない行為だったことを重視していると思われます。

また、裁判所は、着替え中の男性職員に近づいて話しかけた行為も、その男性職員が勤務時間内かどうかを確認するためのものであったため正当なものと評価しています。

以上から、セクハラかどうか微妙なケースでは、その仕事をする上で最低限必要な発言や行為だったかが重要なポイントとなります。

例えば、男性職員と女性職員が荷物を運んでいるときに手が触れあってしまうなどの場合は、それが業務上必要最低限であるとき、セクハラにはあたらないでしょう。

 

 

女性が加害者となるセクハラ事例

セクハラの多くは、男性が加害者、女性が被害者というパターンです。

もっとも、女性が加害者、男性が被害者というセクハラもあります。

ここでは、女性が加害者となるようなセクハラをみていきます。

 

「男のくせに」というような発言〜行政のガイドライン〜

行政のガイドラインでは、「男のくせに根性がない」というのがセクハラの一種であることが示されています。

引用元:事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!! P7|厚生労働省

同様の発言でいえば、「男なんだから力仕事できなきゃ」というような発言もセクハラにあたると考えられます。

ワンポイント解説!

「男だから〜」というような発言は、性的な役割分担を強要するような発言であり、セクハラとなってしまいます。

このような発言は、やる気を出させるために用いられていると考えられますが、言葉選びを間違えているといえます。

なお、逆のパターンとして、男性が女性に対して、「女性に重い責任の仕事を任せられない」などの発言もセクハラになります。

 

 

シチュエーション別のセクハラ事例

職場の典型的なセクハラ事例

胸や尻を触る、卑猥(ひわい)な質問をする等〜SNS上での訴え〜

2019年6月頃、一人の女性がSNS(Twitter)上で職場でのセクハラを告発しました。

内容としては、ヒーローショーの現場で、男性器のあだ名をつけて呼ぶ、すれ違い様にお尻を揉む、卑猥な質問や直接胸を触るといったセクハラでした。

引用:Twitter

このSNSでの訴えをきっかけに、会社側も調査をしてセクハラ等があった事実を認め、加害者を社内規定に基づいて処分したことが公表されています。

参考:ヒーローショーの運営におけるハラスメント被害に関するお詫びと最終報告|東映株式会社

ワンポイント解説!

胸や尻を触る、卑猥(ひわい)な質問をするなどは、明白なセクハラにあたります。

この事案のように、セクハラが認定された場合は、加害者は会社から一定の処分を受ける可能性があります。

セクハラの処分について、詳しくは以下をご覧ください。

 

学校でのセクハラ事例

教師の生徒に対するセクハラ〜ニュースの事例〜

2022年5月18日に報道されたニュースによると、静岡県の県内の公立学校に通う小学5年生から高校3年生を対象に、教職員のセクハラについてアンケート調査を行った結果、115人の児童・生徒が昨年度、教職員からセクハラを受けたと感じたことがあると答えました。

実際に申告があったセクハラの具体的な内容としては、以下のとおりです。

申告があったセクハラの内容
  • 褒められたときに頭をなでられた
  • 不必要な接近・凝視(ぎょうし)
  • 特定の性別や容姿に対する差別的対応 など

参考:NHK 静岡 NEWS WEB

ワンポイント解説!

学校で教師が生徒に対してセクハラをすることを、「スクールハラスメント」(略して「スクハラ」)と呼んだりします。

スクハラは、被害者が未成年であることが多く、被害の声を上げにくいという点で非常に悪質です。

この静岡のニュースの注目すべき点は、アンケート調査を行った結果としてセクハラが認知されているという点です。

学校や職場でセクハラを認知するためには、時にはアンケート調査をする必要があると考えています。

セクハラアンケートについて、詳しくは以下をご覧ください。

 

冤罪のセクハラ事例

草津町町長冤罪事件〜ニュースの事例〜

2019年に草津町長が当時町議だった女性にセクハラをしたという疑惑が浮上しました。

しかし、2023年になって女性が嘘の証言をしていたことがわかり、いわゆる冤罪(えんざい)であったことが発覚し、話題となりました。

参考:YAHOO!JAPANニュース

ワンポイント解説!

セクハラは密室で行われることがしばしばあり、証拠に乏しく、「やった、やらない」の議論になりやすいです。

そして、加害者とされる方は、「やっていないことの証明」は難しく、冤罪であることを明らかにするのは簡単ではありません

したがって、特に異性間での仕事の打ち合わせ等は、1対1で密室で行うことは避けるべきでしょう。

なお、被害者とされる方も、公の場で人の社会的評価を下げるような発言をすることは刑法上の名誉毀損罪(刑法230条1項)に該当する可能性がありますし、嘘の証言で告訴をした場合は虚偽告訴罪(刑法172条)に問われる可能性もあります。

引用元:刑法|e−Gov法令検索

冤罪であるのにセクハラを疑われている場合は、刑事事件を得意とする弁護士に相談した方が良いです。

 

 

セクハラに該当する場合の解決法

セクハラ行為が行われた場合は、被害者、加害者、会社のそれぞれの立場で解決法を考えなければいけません。

以下、それぞれの立場ごとに紹介いたします。

被害者側

まず、被害者が問題を解決するためにできることは以下のとおりです。

【 被害者側の解決方法 】

  • 加害者にセクハラをやめるように意思表示をする
  • 上司に相談する
  • セクハラ相談窓口に相談する
  • 従業員側の労働問題を多く扱う弁護士に相談する
  • セクハラの証拠を集める

 

加害者側

次に、加害者が問題を解決するためにできることは以下のとおりです。

【 加害者側の解決方法 】

  • 被害者に謝罪する
  • 被害者と示談する
  • 上司に報告する

 

会社側

最後に、会社が問題を解決するためにできることは以下のとおりです。

【会社側の解決方法】

  • 素早くセクハラがあったかどうかの調査をする
  • 配転等により、被害者と加害者を引き離すことを検討する
  • 加害者の懲戒処分を検討する
  • 再発防止に努める
  • 会社側の労働問題を多く扱う弁護士に相談する

 

 

まとめ

この記事では、世の中にあるセクハラ事例をご紹介いたしました。

セクハラにあたるかどうかについて、明確な基準があるわけではなく、事案の内容に応じて適切に判断していく必要があります。

適切な判断をするためには、裁判例や行政のガイドラインなどをしっかり把握しておかなければならず、専門的知識が必要となります。

セクハラ問題でお困りの方は、法律の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

 

 




  

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