パワハラで訴えられたらどうする?弁護士がわかりやすく解説
「パワハラ」という言葉が浸透して、最近では、何かあるとすぐに「パワハラ」と指摘されるということも起こっています。
そのため、「部下からパワハラと会社に相談された」という管理職の方や「退職した従業員からパワハラと訴えられた」という会社も増えてきています。
そもそも、職場におけるパワハラ(パワーハラスメント)とは、以下の①〜③を満たすものと定義されています。
- ① 優越的な関係に基づいて行われる行為であること
- ② 業務の適正な範囲を超えて行われること
- ③ 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
引用元:厚生労働省
例えば、上司が部下に対して、明らかに無理な業務量を押し付け、これを達成できなかったことを大声で怒鳴りつけるといった行為が上記①〜③を満たし、パワハラに該当します。
従業員からパワハラ被害を訴えられた場合に、管理職の方がどのように対処すればよいか、また、会社としてどのように対処すべきかを解説いたします。
パワハラで訴えられたときの対応
上司の方が部下の従業員からパワハラを理由に訴えられた場合、中途半端な対応を行うとかえって状況を悪化させる危険性があります。
そこで、できるだけ早くパワハラ問題に詳しい弁護士に相談することを強くお勧めいたします。
会社にパワハラの問題について打ち明けることで降格処分といった不利益な処分がなされることを恐れて、会社にそのことを報告することは非常に不安だと思います。
そこで、直接会社に報告することに抵抗を感じる場合には、まず、今回の問題で会社に報告する必要があるのかといった段階から弁護士に相談することもできます。
部下からパワハラを受けたと言われた時に、決してやってはいけないことはご自身で解決しようとすることです。
既に記載した通り、会社に報告すると大問題となって自身が処分されてしまうことを不安に思って個人的に内々で解決しようとする方々が多くいます。
心情としてはとてもよく分かるのですが、例えば個人的にお金を渡して解決しようとした場合、後々お金を渡されて口封じされたといった主張をされる危険性があります。
したがって、個人的に解決を図ろうとすることはやめましょう。
むしろ、きちんと会社に報告することは第三者的な立場である会社を介入させるという意味で透明性のある問題解決を図ることができるという意味で問題の早期解決に繋がることにもなり得ます。
また、早めに部下とのトラブルを相談しておくことで、きちんと自分のやったこと、やっていないこと、ご自身の認識を会社に説明することも可能です。
報告が遅れてしまうと後手後手になるリスクもありますので、注意しましょう。
パワハラと言われた段階(裁判の前)
自分のやったこと、やっていないことを整理する
部下からパワハラを受けたと主張された内容が仮に事実である場合は、速やかに自分の行動を振り返り、必要があれば部下に謝罪をすべきです。
一方、身に覚えのないことであったり明らかに事実に反する主張である場合には、事態を収めるためであっても、謝罪をする趣旨の言動は部下のパワハラの主張を認めたと思われかねません。
そこで、直接部下からパワハラと言われた場合には、まずはご自身のやったこと、やっていないことを整理することがポイントです。
もっとも、部下との間で、直接やり取りをして、部下の主張が間違っていると一方的に頭ごなしに否定することは事態を悪化させる可能性があります。
そこで、一度被害を訴える部下の話を聞いた後に会社に報告し、人事部や上司に間に入ってもらって、対応を検討してもらいましょう。
管理職の場合は対応を上司へ報告する
部下からパワハラを受けたとの申告があった場合、その申告を蔑ろにしてはいけません。
きちんと部下の話に耳を傾けてできるだけ状況を把握するように努めましょう。
一旦状況を把握した後は、部下のパワハラ被害の申告があったことと把握した状況を上司と共有し、その後の対応方法を検討しましょう。
経営者の場合は弁護士へ相談する
昨今、パワハラ問題を起こした会社に対する社会の目は日に日に厳しくなっています。
SNSにより個人の情報発信力が強くなっていることから、パワハラは一個人の問題では済まされない可能性があります。
パワハラ問題の解決の鍵は早期に対応し、早期解決を図ることです。
そこで、パワハラ問題が発覚した場合は、すぐに弁護士に相談し、その後の対応を検討しましょう。
会社が取るべき対応
パワハラにくわしい弁護士へ相談する
パワハラ問題は、被害を主張する従業員と被害を否定する上司との間で見解が大きく異なることが多いものです。
そして、会社がこの問題に入ろうとすると従業員としては、会社は上司の味方をするのではと思われ余計に解決が遅れてしまう可能性があります。
そこで、弁護士を入れることによって従業員の抵抗感を軽くし会社の独断で決めているのではないという印象を与えることができます。
また、パワハラ問題は具体的な問題が発覚した後の会社の対応も重要となってきます。
そこで、パワハラ問題を大きな問題に発展させないために弁護士に相談し、後々裁判になったとしても法的に問題のない解決方法を検討した方がよいでしょう。
労働問題を弁護士に相談すべき理由についてはこちらのページをご覧ください。
事実関係の調査
すでにご説明したとおり、パワハラ問題は被害を主張する従業員と被害を否定する上司との間で事実関係を争う場合が多いです。
そのため、両者の事実関係を整理することは非常に困難を極めます。
そこで、両者の主張する事実関係を正確に把握するための方法を考える必要があります。
主な調査方法としては、以下の流れになります。
-
- 1
- 被害を申告した従業員のヒアリング
-
- 2
- 加害者とされる従業員のヒアリング
-
- 3
- ヒアリングを前提にメールや社内掲示板などの客観的な資料の調査
-
- 4
- 同僚や目撃者などの部署内の従業員のヒアリング
まずは、パワハラ被害を訴えている従業員に何があったのかをヒアリングすることがスタートになります。
その上で、加害者とされる従業員のヒアリングも行っていきます。
この調査の中で双方の言い分を裏付ける客観的な資料がないかを確認していきます。
その主なものがメールや社内の掲示板、LINEのトーク履歴などです。
ボイスレコーダーの録音があることもあります。
また、部署の同僚や実際の言動を目撃していた従業員のヒアリングを行うなどして、具体的な事実認定をする必要があります。
こうした事実認定をするにあたって、ヒアリングした内容を書面でまとめておくことが大切です。
下記のテンプレートのような事情聴取書を利用することで、聞き漏らすことなく、正確に被害内容を把握することができるとともに、後日紛争になった際の証拠資料とすることができます。
被害者の意向を確認する
被害を訴えている従業員のヒアリングをする中で、パワハラを訴える従業員が何を会社に求めているのかを会社はきちんと把握する必要があります。
例えば、パワハラをした上司の配置転換を求めている、会社に慰謝料を支払ってもらいたい等が考えられます。
中には、今の段階では、加害者には伝えてほしくはなく、状況を伝えて会社に注意深く見守っていてほしいという意向の場合もあります。
このように被害にあった従業員の意向をしっかり確認することで問題解決までの道のりが明らかになり、早期解決につながります。
加害者に対しては厳正な処分を行う
パワハラ問題はある一つの行為が問題となることは稀で、ほとんどは習慣的になされている行為が積み重なって問題となります。
例えば、ミスをした際に怒鳴られる、物言いが高圧的であるといった、その人のもともとの性格、人間性に関わる部分があります。
このようにパワハラ気質のある上司は俗に”モンスター社員”と呼ばれています。
モンスター社員については、例え業績に貢献していたとしても、職場環境を悪化させるのであっては、むしろマイナスな存在です。
その上、往々にして自分がパワハラをしているという認識がないことが多いのです。
そこで、モンスター社員によるパワハラに対しては、懲戒処分も視野に厳正な処分を下し、職場環境を良好に保つ必要があります。
また、一度パワハラ問題を見て見ぬふりをしてしまうと新たなモンスター社員を生み出してしまうことにもなりかねません。
モンスター社員の発生を予防するという意味でも厳正な処分は必要となってくるのです。
モンスター社員(問題社員)の特徴や対応方法についての詳細は下記のページをご覧ください。
再発防止を徹底する
残念なことに社内でパワハラ問題が発生してしまった場合、その事例だけを解決することでは根本的な問題は解決しません。
会社としては、なぜパワハラ問題が発生してしまったのかをはっきりとさせる必要があります。
起こってしまった問題の原因を解明するのは今後の再発防止策を考えるに当たって必須の作業です。
原因が解明できたら、次は具体的な再発防止に取り組みましょう。
実際に起こったパワハラに対して、人事異動や懲戒処分を行うこと以外の再発防止の方法としては、例えば以下のものが考えられます。
- 会社内部のルールを作成・改良する
- 社内でパワハラ防止研修を行う
- パワハラ防止のポスターを社内に掲示する
- 常設のパワハラの対策機関を設置する
会社内部のルールを作成・改良する
社内で二度とパワハラ問題を発生させないようにするためには、問題の当事者間だけでの解決案を示すだけでは足りません。
社内において共通するルールを設定し、これを従業員に守ってもらうことが重要となってきます。
例えば、従業員がパワハラ問題を目撃した場合に通報するようにするといった通報制度の導入や月1回にパワハラ被害に遭っていないかを確認するアンケートを実施するといったルールを設定することが考えられます。
また、パワハラ問題が発生した場合には懲戒処分をはじめとするペナルティを科すといったルールをしっかりと整備しておくことが大切です。
ただ、ペナルティの設定については発生した問題に対して不当に重いものではいけませんので、ルールを作成する際は、類似事例でどのような処分がなされたのかを確認して作成する必要があります。
妥当な処分ラインというのは、実際には非常に難しい問題ですので、専門家である弁護士に相談して、アドバイスももらいながら、自社でのルール作りと運用を進めていくのがよいでしょう。
社内でパワハラ防止研修を行う
社内で外部講師を招いて社内でのパワハラに対する問題意識を高めることはパワハラ問題発生防止に効果的といえます。
このような機会を定期的に提供することで従業員の中でパワハラ問題への問題意識を喚起することができます。
パワハラ防止のポスターを社内に掲示する
パワハラが問題がタブーであることは誰しもがわかっていることです。
しかし、日常の業務等によりパワハラ問題への意識が疎かになってしまうことがあります。
そこで、日常的にパワハラ問題を意識するようにすることが重要です。
例えば、職場の目に付く場所にパワハラ問題防止のポスターを掲示しておくことで、ふとした拍子にパワハラについて意識させることができます。
常設のパワハラの対策機関を設置する
パワハラは従業員の生産効率を下げるマイナスな行為です。
常設のパワハラ対策機関の設置は、従業員に適切な職場環境を保証することになり、従業員の生産効率を高めることに繋がります。
したがって、有事の際にすぐに問題に対処できるように常設のパワハラ対策機関を設置することを強くお勧めします。
このような体制が会社に整備されていること自体が従業員の安心に繋がります。
具体的には、人事部や総務部に対策機関を設置したり、複数の部門から選任してハラスメント防止委員会という委員会を設ける、法律事務所をはじめとして外部に相談・対策窓口を設置するという方法などが考えられます。
具体的なパワハラの防止方法については下記のページをご覧ください。
パワハラの裁判に時効はある?
パワハラの裁判には実は時効が存在します。
パワハラの被害にあい、損害賠償請求をする権利が発生したとしても、一定期間が経過するとその権利が消滅してしまいます。
会社に対する請求は、安全配慮義務という義務違反を理由として請求することが多いため、原則として、パワハラ被害を受けたところから5年以内になります。
他方で、パワハラをした上司に対する請求の場合には、不法行為という法律構成になるため、民法が改正された令和2年4月1日より前の場合(令和2年3月31日までに起こったこと)、一律に「被害者が損害と加害者を知った時から3年間」となっていました。
しかし、民法が改正されてからは、パワハラ被害の内容が従業員の生命や身体を害するものであった場合は、時効は5年に伸長されています。
これは、生命や身体を害するようなものについてはなるべく長い期間権利行使を認めることで被害者救済を図るためです。
もっとも、けがなどが生じていない精神的な損害の場合、適用される時効は3年なのか5年なのかが微妙なケースも生じます。
また、パワハラ行為が随分と昔のことで請求権が時効にかかっているかどうか判断がつきにくい場合も多いかと思います。
その際は、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
パワハラ対応でのNGなこと
パワハラ問題は非常にデリケートな問題です。
パワハラ問題への対応としてやってはいけない対応があります。
パワハラ対応において代表的なNG行為は以下の通りです。
①被害者の申告を無視する
まず、被害者の申告を無視することはパワハラ問題の隠ぺい行為と思われかねない行為であるためNG行為です。
被害者からパワハラ被害の申告があった場合は、まずその申告を真摯に受け止めましょう。
本当にパワハラ被害があったのか否かについては、実際に調査してみなければ分かりません。
被害者の申告があった時点で何かしらの問題があったことは確かなはずです。
実際に調査を実施して実態が明らかにするためにも被害者の申告を無視してはいけません。
調査の結果、パワハラの事実がなかったことを証明できることもありますので、上司としては、身の潔白を示す意味でも被害者の申告に耳を傾けましょう。
また、会社としても、放置しないようにしましょう。
②加害者の言い分を聞かない
既にご説明した通り、被害者の申告を無視してはいけません。
一方で、会社としては加害者の言い分についてもきちんと耳を傾ける必要があります。
被害者の申告が虚偽である可能性も否定しきれない以上、被害者の申告のみを頼りに処分を決定することはNGです。
パワハラ問題は、被害者と加害者の間の問題ですので、被害者の言い分のみを聞くのではパワハラ問題の実態を掴むことはできません。
会社としては、被害者の言い分と加害者の言い分をそれぞれ聞く機会を作ることが必要となってきます。
その際は、被害者・加害者双方に不信感を持たれないように、事情を聞く際は、あくまでそれぞれの認識を聞くだけであってそれがパワハラに当たるかといった評価はその場では行わないことを事前に説明しておくと良いでしょう。
③過去の同種事例から外れた処分を行う
過去の同種事例に対して行った処分と現在の同種事例に対して行った処分が違うと不平等な対応となってしまいます。
例えば、上司が部下を平手で叩いた事例で過去は口頭での注意のみであったのに対し、現在では減給の処分とされたのでは納得がいかないと思われることでしょう。
処分が妥当なものであるかは現在起きているパワハラ問題との関係だけでなく、過去の同種事例との関係とのバランスも要素となります。
もちろん、過去に比べてハラスメントの問題は社会的にも重大な問題となってきているので、多少重くなることはやむを得ない側面はあります。
ですが、1か月前にAさんは口頭注意、Bさんは懲戒解雇では明らかにバランスがおかしくなっています。
これでは、社内秩序を維持できません。
過去の同種事例を踏まえつつも、今回問題となっている行為についてどのような処分を検討するのかは慎重に判断すべきです。
もし、不適切な処分をしてしまうとその処分を受けた従業員から逆に訴えられてしまう危険性があります。
そうならないためにも、処分を行う前に労働問題に詳しい弁護士に処分方法、処分の重さの程度等を相談することをお勧めいたします。
④証拠を隠す・捏造する
パワハラの事実を調査するにあたって、当事者の主張以外の事情の把握の手段として挙げられるものとしては、日頃の上司と部下との間のメールでのやりとりや他の従業員の証言等が考えられます。
この時に、メールの文面でパワハラの事実を確認できる文章が見つかる可能性があります。
また、実際に上司が部下を怒鳴りつける様子を他の複数の従業員が目撃している可能性があります。
このような場合に、該当箇所のメールを削除する、目撃した従業員に口封じをするといった行為は絶対にやってはいけません。
いくら隠そうとしてもいつかは必ずバレてしまうものです。
むしろ隠そうとした事実が明るみに出れば隠さずに問題に対処した時よりも状況は悪くなります。
したがって、パワハラの事実が確認できる証拠や証人に対して不当な働きをすることはNGです。
まとめ
以上の通り、社内でパワハラ問題が起きてしまった場合の会社の対応方法を開設いたしました。
パワハラの予防が最優先事項ではありますが、問題が発生してしまった場合にどのように対処するか、どのように再発防止を行うかも非常に重要になってきます。
このように問題の予防、発生後の対処、再発防止はサイクルをなすものですので、パワハラ問題が発生した以上、きちんとこのサイクルが機能するように社内でのルールを整備する必要があります。
この社内でのルールの整備について悩まれた際は、是非労働問題を専門とする弁護士にご相談することをお勧めいたします。
デイライト法律事務所の企業法務部には、パワハラも含めて労働問題に精通した弁護士で構成される労働事件チームがあり、労働問題でお困りの企業の皆様を強力にサポートしています。
企業のご相談は初回無料でご相談いただけます。
当事務所はZOOMやスカイプを活用して、全国に対応を行っておりますので、まずは一度ぜひご相談ください。