セクハラは法律で処罰される?罰則や対処法を解説
セクハラを行った加害者は、刑法という法律で処罰される場合があります。
また、セクハラ防止措置を怠った会社は、場合によっては企業名を公表されることがあります。
本記事では、セクハラに関する法律や、セクハラが起きた場合の立場ごとの対処法を解説していきます。
この記事でわかること
- セクハラに関する法律
- セクハラが起きた場合の被害者、加害者、会社の対処法
セクハラは法律でどのように規制されている?
セクハラの被害者を守るための法律
セクハラを受けた被害者は、下記の法律に基づいて、賠償金を請求できる可能性があります。
- 加害者に対して
→不法行為(民法709条) - 会社に対して
→債務不履行責任(民法415条1項)
→使用者責任(民法715条1項)
引用元:民法|e−Gov法令検索
加害者に対して
不法行為は、①故意又は過失によって、②他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、③これによって生じた(因果関係)④損害があれば、賠償責任を負うとされています。
セクハラの加害者は、この不法行為責任に基づいて、被害者に対して金銭を支払わなければならなくなる可能性があります。
会社に対して
会社は、従業員と雇用契約を締結しています。
この雇用契約上の付随義務として、会社は従業員に対して、働きやすい職場環境を整備する義務(職場環境配慮義務)があると考えられています。
セクハラが発生すると、会社の職場環境配慮義務の違反の有無が問題となります。
そして、この義務に違反したと評価できる場合、セクハラ被害者は会社に対して、債務不履行責任として損害賠償請求ができます。
会社などの使用者に関して、被用者(従業員)が第三者に損害を与えた場合の賠償義務を規定しており、これを使用者責任といいます。
セクハラ被害者は、この使用者責任に基づいて、会社に対して賠償請求できる可能性があります。
なお、債務不履行責任も、使用者責任も、法律構成は異なりますが、金銭賠償をしなければならない点は同じです。
法律構成が異なるため、一方が否定されて、一方が肯定される可能性もあります。
そのため、実務上は、債務不履行責任と使用者責任の2つで責任追及されることが多い傾向です。
セクハラの加害者を処罰する法律
セクハラ=犯罪というわけではありません。
しかし、セクハラの態様が悪質な場合、直接の加害者には犯罪が成立して刑事罰を受ける可能性があります。
セクハラ行為で犯罪が成立する事案として、典型的なものをご紹介します。
強制わいせつとは、①13歳以上の男女に対し、相手方の反抗を著しく困難にさせる程度の暴行または脅迫を用いて、相手の身体に直接触れ、または衣服の上から触れること及び、②13歳未満の男女に対し、相手の身体に直接触れ、または衣服の上から触れることをいいます。
男性が、女性の手を抑えながら胸を触るなど。
強制わいせつの刑罰(法定刑)は、6月以上10年以下の懲役となっています(刑法176条)。
参考:刑法|e−Gov法令検索
強制性交等罪(元々は「強姦罪」(ごうかんざい)という名前でした)とは、①反抗を著しく困難にするような暴行または脅迫を用いて、無理やり13歳以上の者と性交等をすること、及び②13歳未満の者と性交等をすることをいいます。
性交等とは、性交、肛門性交または口腔性交を指します。性別を問わず、全ての方が加害者となりえますし、被害者ともなりえます。
強姦の刑罰(法定刑)は、5年以上の懲役となっています(刑法177条)。
参考:刑法|e−Gov法令検索
刑法は、懲役について長期を20年以下と規定しているので、強姦の法定刑は5年以上20年以下となります(ただし、2件ある場合は30年以下)。
このように、強姦は最短でも5年以上の懲役となっており、セクハラ関連の犯罪としては非常に重い刑罰となっています。
セクハラに時効はある?
セクハラの時効は、民事、刑事で以下のように決められています。
立場 | 内容 | 時効 |
---|---|---|
加害者 | 不法行為責任(民法709条) | 損害及び加害者を知った時から3年 生命・身体を害する時は、損害及び加害者を知った時から5年 |
会社 | 使用者責任(民法715条1項) | |
会社 | 債務不履行責任(民法415条1項) | 権利を行使することができることを知った時から5年 |
加害者 | 強制わいせつ罪(刑法176条) | 行為が終わった時から7年 |
加害者 | 強制性交等罪(刑法177条) | 行為が終わった時から10年 |
セクハラの防止を会社に義務付ける法律
セクハラの防止を会社に義務付ける法律として、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(通称「男女雇用機会均等法」)第11条1項があります。
第十一条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
なお、会社が行うべきセクハラ防止措置については、厚生労働省の指針で細かく定められています。
厚生労働省の指針の内容について、大まかにご説明いたします。
- 1 職場におけるセクハラの内容・職場におけるセクハラがあってはならない旨の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
- 2 セクハラの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
当法律事務所は、ホームページにセクハラ防止計画や周知文書のサンプルを掲載しています。
無料サンプルのダウンロードはこちらからどうぞ。
- 1 相談窓口をあらかじめ定め、周知すること。
- 2 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また広く相談に対応すること。
- 1 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
- 2 事実確認ができた場合は、行為者及び被害者に対する措置を適正に行うこと。
- 3 再発防止に向けた措置を講ずること(事実が確認できなかった場合も同様)。
- 1 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知すること。
- 2 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取り扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
指針の全文は以下のリンクをご覧ください。
参考:事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき 措置等についての指針(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)【令和2年6月1日適用】 |厚生労働省
なお、会社がセクハラ防止措置を怠った場合は、企業名が公表される場合もあります(男女雇用機会均等法30条)。
参考:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律|e−Gov法令検索
セクハラのトラブルへの対応法
会社でセクハラのトラブルが起きた場合、放置するのはNGなので、それぞれの立場に応じて適切な対応をしなければなりません。
以下では、被害者側、加害者側、会社側の立場のそれぞれの対応方法をご紹介いたします。
被害者側の対応のポイント
- 相手方に対して明確に拒否をする
- 上司やセクハラ相談窓口に相談する
- 労働基準監督署などに相談する
- 従業員側(労働者側)を取り扱っている弁護士に相談する
- セクハラの証拠を掴む
相手方に対して明確に拒否をする
セクハラは、何の前触れもなく突然行われることもあります。
被害者になる方は突然のことに驚かれるかもしれませんが、とにかくまずは冷静になってください。
そして、セクハラの相手方の発言や行為に対して、明確に拒否をする姿勢を見せてください。
特に、何度か繰り返し同様の行為が行われているケースでは、曖昧(あいまい)な反応をしてしまうと、加害者が調子に乗ってしまってどんどんエスカレートしてしまうことが考えられます。
上司やセクハラ相談窓口に相談する
被害者の方がセクハラを受けた場合、自分だけで解決しようとしてはいけません。
時には人に頼ることが必要です。
相談先としては、上司や、会社に設置されているセクハラ相談窓口などが考えられます。
他の人に相談することによって心理的に安心できることや、相談先の方にセクハラへの対策を考えてもらって二度と嫌な思いをしないように対応をしてもらいましょう。
労働基準監督署などに相談する
上記の上司やセクハラ相談窓口は、会社内部の人間であることも多く、場合によっては相談しにくい環境もあり得ます。
そのような時は、労働基準監督署や労働局(雇用環境・均等部(室))などの行政機関に相談窓口がありますので、そういった外部の機関に相談することも方法の1つです。
また、法務省が管轄する「女性の人権ホットライン」や「みんなの人権110番」などもセクハラの相談を受け付けています。
どこまでアドバイスをくれるかは担当者次第ですが、一度相談を検討してみても良いと思います。
セクハラの相談窓口について、詳しくはこちらをご覧ください。
従業員側(労働者側)を取り扱っている弁護士に相談する
従業員側(労働者側)を取り扱っている弁護士に相談し、今後の方針等のアドバイスを受けることも考えられます。
弁護士には守秘義務があり、相談内容は基本的に外に漏れることはありませんので、安心して相談することができます。
弁護士に依頼をすれば、被害者が相手方や会社とのセクハラに関する直接のやりとりをしなくてもよくなるので、心理的な負担感を減らすことが可能になります。
また、交渉、労働審判、裁判等で、加害者や会社に対して慰謝料などの金銭を請求してもらえる可能性があります。
セクハラの証拠を掴む
セクハラ問題で被害者が苦労する点は、証拠の確保です。
セクハラは密室で行われることも多く、一般的に証拠が少ないことが難点です。
特に、裁判などでセクハラの相手方が発言や行為を否定した場合、被害者が証拠によって事実を立証しなければなりません。
そこで、できるだけセクハラの証拠を残し、相手方が発言や行為を否定することに備えてください。
証拠の例としては、録音、会社のメールやチャット、LINEなどのSNS、防犯カメラ、同僚の証言などが考えられます。
これらの証拠を確保できない場合は、日記やメモなどに記載しておいた方が良いでしょう。
加害者側の対応のポイント
- セクハラ発言・行為をすぐにやめる
- 被害者に謝罪する
- やっていないことまで認める必要はない
- 上司等に報告する
- 刑事事件を多く扱う弁護士に相談して被害者と示談をする
- 警察に自首をする
セクハラ発言・行為をすぐにやめる
加害者は、なるべく早くセクハラ発言・行為をすぐにやめる必要があります。
一番良いのは、被害者がどこかに相談する前にやめるべきです。
加害者は、時に意図せずセクハラをしてしまっている可能性があります。
自分がセクハラをしてしまったかもしれないと思われている方は、以下のサイトをご覧になってセクハラについて正しい理解を得ましょう。
セクハラについて、詳しくはこちらをご覧ください。
被害者に謝罪する
仮にセクハラをしたことが間違いなければ、被害者へ謝罪することが大事です。
誠意を見せれば、状況次第で被害者に許してもらえる可能性があります。
ただし、被害者の気持ちも無視してはいけません。
被害者が加害者と話したくない、謝罪も受けたくないというような状況であれば、謝罪がかえって逆効果になることもあるので、状況をよく確認してください。
やっていないことまで認める必要はない
セクハラをしたことに間違いがなければ素直に認めて反省すべきですが、やっていないことまで認める必要はありません。
やっていないことまで認めてしまっては、思わぬ責任(刑事責任、民事責任、解雇等)を負わされる可能性がありますので、十分注意してください。
上司等に報告する
上司等にセクハラをしてしまったことを報告し、今後の対応を検討してもらうことも1つの対応です。
素直に早期に報告すれば、会社での処分も軽く済む可能性があります。
刑事事件を多く扱う弁護士に相談して被害者と示談をする
上記で解説した刑事責任を負うことになりそうな重大なセクハラ事案では、加害者だけで色々対応するのは間違った方向にいってしまうことがあります。
重大セクハラ事案では、被害者と示談できるかどうかで刑の重さも変わってくる可能性がありますが、加害者と被害者で示談交渉をするのは好ましくありません。
そこで、刑事事件を多く扱う弁護士に相談して、最終的に弁護士に被害者との示談交渉を依頼することも検討すべきです。
なお、事案の内容によっては、示談することで不起訴(何も罰を与えられない)もあり得るでしょう。
刑事の示談交渉について、詳しくはこちらをご覧ください。
警察に自首をする
上記で解説した刑事責任を負うことになりそうな重大なセクハラ事案では、警察に自首をすることも検討すべきでしょう。
正しい自首をすれば、刑が軽くなる可能性があります。
なお、刑事を多く扱う弁護士に相談すれば、最終的に弁護士が自首に付き添ってくれることもあります。
自首を弁護士に依頼するメリットについて、詳しくはこちらをご覧ください。
会社側の対応のポイント
- 被害者と加害者を引き離す
- 迅速な調査の実施
- 慎重な事実認定
- 被害者のメンタルケア
- 懲戒処分を検討する
- 再発防止に取り組む
- 弁護士に相談する
被害者と加害者を引き離す
被害者が加害者と職場で物理的に近い場所で仕事をしている場合、被害者が安心して仕事ができないこともあり得ます。
そのような場合は、被害者と加害者を引き離すような措置を検討すべきです。
被害者と加害者を引き離すような措置には、以下のような手段が考えられます。
被害者と加害者が同じデスクで仕事している場合や同じ部屋で仕事をしているような場合は、被害者とあまり顔を合わせないよう加害者の執務場所を変更するなどの措置が考えられます。
この執務場所を変更するのは、業務命令として行います。
ただし、他の従業員の方にセクハラ関係の措置であると知られないためにも、「業務上の都合で執務場所を一時的に変えています。」など抽象的な説明にとどめるべきでしょう。
被害者と一定期間距離を置くためや、下記で述べるセクハラの事実調査のために、加害者に自宅待機命令を出すことが考えられます。
この自宅待機命令は、あくまで業務命令として行われるものなので、給料を通常通り支払う必要があります。
なお、在宅ワークが可能な職業の場合は、加害者に在宅ワークをさせても構いません。
ただし、メール等のセクハラの証拠が残っていることが予想される事案では、パソコンを持って帰らせた場合は、証拠を消される可能性もありますので注意が必要です。
セクハラをしたことが明らかな場合などは、加害者について、最終的に配転なども検討すべきです。
配転には、(1)同一勤務場所で職務内容や所属部署を変更する「配置転換」や、(2)勤務場所を変更する「転勤」があります。
配転について、詳しくはこちらをご覧ください。
迅速な調査の実施
被害者からセクハラの申告があった場合は、素早く調査を実施して事実関係を明らかにする必要があります。
調査を実施するにあたっては、調査方法などについて自社の就業規則等に規定されている場合もありますので、まずは就業規則等をご確認ください。
セクハラの就業規則の条項例について、詳しくはこちらをご覧ください。
また、調査にあたっては、被害者のプライバシーに関わるため、加害者や関係者に事情聴取してよいか事前に同意を得るようにしましょう。
被害者の同意を得られることを前提に、以下の順番で事情聴取をすることが考えられます。
なお、事情聴取にあたっては、基本的には話す相手方に録音をする旨を伝えた上で、録音すべきでしょう。
どのような事情聴取をすればよいかについて、詳しくはこちらをご覧ください。
慎重な事実認定
調査を実施した上で、会社としてセクハラがあったかどうかの事実認定をします。
この事実認定は慎重に行ってください。
会社として難しい場面は、被害者と加害者の言い分が食い違っているときです。
言い分が食い違っている場合は、客観的証拠(録音、メール等のメッセージ、動画等)と照らし合わせて事実の有無を判断していきます。
慎重な調査をした上で、セクハラがあったかどうかにつき、どちらの言い分も正しく聞こえるような場合は、「疑わしきは罰せず」を基本とすべきなので、セクハラを認定すべきではないでしょう。
被害者のメンタルケア
セクハラを受けた被害者のメンタルケアも忘れてはいけません。
被害者がメンタル不調を訴えている場合には、業務の軽減、産業医による面談、休職制度の利用検討など適切な対処をしてください。
休職制度について、詳しくはこちらをご覧ください。
懲戒処分を検討する
セクハラの事実を認定し、見過ごせないような行為であった場合、加害者に対して懲戒処分をすることを検討しましょう。
懲戒処分は、例えば、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇(ゆしかいこ)、懲戒解雇などの罰を与える処分のことをいいます。
懲戒処分について、詳しくはこちらをご覧ください。
再発防止に取り組む
セクハラが起きた場合は、再発防止に取り組まなければなりません。
再発防止策としては、以下のようなものが考えられます。
代表取締役やそれに近い地位の方から、セクハラを許さない旨のメッセージを発信します。
メッセージの発信の仕方は、社内掲示板でポスターを貼る、社内報で発信するなどです。
社内でセクハラについての研修を行い、どのような場合にセクハラになるか等の教育を行っていきます。
社内で他のセクハラが起きていないか、アンケートを行ってチェックすることも一つの手段です。
セクハラアンケートの書式について、詳しくはこちらをご覧ください。
セクハラの加害者に対して懲戒処分を行った場合、社内で懲戒処分のことを公表して次のセクハラを防止するということが考えられます。
もっとも、プライバシーの問題から、対象者の個人を特定できないように公表する必要があります。
具体的には、加害者や被害者の個人名は出さず、懲戒処分の内容とセクハラの大まかな事実のみを公表することです。
懲戒処分はインパクトがありますから、上記のみを公表しても十分抑止効果は期待できます。
弁護士へ相談する
対処法で困った場合は、専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
対処法を間違えると、会社が被害者から損害賠償請求を受けることもあり得ます。
セクハラ問題を軽視してはいけませんので、労働問題を多く扱っている会社側の弁護士を頼ることも大事です。
なお、会社のセクハラ窓口を弁護士にやってもらうということも、場合によっては可能ですので、一度ご検討ください。
セクハラ問題の弁護士の活用法について、詳しくこちらをご覧ください。
まとめ
セクハラが起きた場合、法律を正しく理解した上で適切な対処をしなければ問題を解決することは困難です。
法律については、理解が難しいところも多く、一般の方が対応するのは限界があると思います。
セクハラ問題でお悩みの方は、労働問題に詳しい弁護士に相談するようにしてください。