有給消化のルールとは?弁護士がわかりやすく解説
有給消化とは、従業員が保持している有給休暇について、実際に使用して休暇を取ることをいいます。
有給消化のルールは、労働基準法をもとに、従業員と会社の間で決められた、有給休暇を取得する際のルールのことです。
有給休暇が10日以上付与される従業員については、年5日は確実に取得させることが会社の義務となっています(労働基準法39条7項)。
年5日の有給消化の義務に違反した場合、会社は30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働基準法120条、同39条7項違反)。
このページでは、有給消化の義務化や期限、注意点、トラブル防止のための対策などについて、弁護士がくわしく解説します。
目次
有給消化のルール
有給消化の主なルールとしては以下があげられます。
- 有給休暇の権利
一定の要件を満たしていれば、正社員、パート、アルバイト、管理監督者(管理職)等の雇用形態は問わず付与されます。
- 有給消化の義務化
有給休暇が10日以上付与される従業員について、年5日は確実に取得させるべきことが会社の義務です。
- 消化できなかった有給の期限
当該年度に消化されなかった有給休暇は、翌年度に繰越しされます。ただし、有給休暇の権利が発生した日から2年で時効により消滅します。
- 有給取得日の変更
会社は原則として、有給取得の請求を拒否することはできません。例外的に、会社は時季変更権を使って、取得時期を指定できる場合もあります。
これらのルールについて、くわしく解説していきます。
有給消化とは?
有給消化とは、従業員が保持している有給休暇について、実際に使用して休暇を取ることをいいます。
有給(有給休暇)とは?
有給休暇は、一定の要件を満たしていれば、正社員、パート、アルバイト、管理監督者(管理職)等の雇用形態は問わず付与される休暇です。
- ① 勤務開始の日から6か月間継続して勤務していること
- ② 全労働日の8割以上を出勤すること
第三十九条 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。※2項〜10項は省略
会社を休んだ場合は、原則賃金は支払われませんが、
有給休暇の場合は、一定の賃金が支払われることが保障されているのが特徴です。
有給休暇が付与される条件や付与日数等について、詳しくは以下をご覧ください。
有給消化の義務化!年5日の有給取得
有給消化義務の内容
2019年4月から、有給休暇が10日以上付与される従業員について、年5日は確実に取得させるべきことが会社の義務となりました(労働基準法39条7項)。
つまり、年5日については、会社から積極的に時季を指定して、従業員に有給消化してもらわなければなりません。
・有給休暇が10日以上付与される者
・正社員、パート、アルバイト、管理監督者(管理職)等の雇用形態は問われない
年5日以上の有給消化の具体例
- フルタイムの正社員
- 入社日:2022年1月1日
- 有給休暇付与日:2022年7月1日
なお、従業員が自ら請求して取得した有給休暇の日数や、労使協定による計画年休により与えた有給休暇の日数は、その日数分を時季指定義務がある年5日から控除することができます(労働基準法39条8項)。
- 年10日付与される従業員
- 基準期間の間(1年間)にすでに従業員が3日分を自ら請求して有給休暇を消化した
→この場合は、会社は、2日(5日−3日)だけ時季を指定して有給消化をさせればよい。
- 年10日付与される従業員
- 基準期間の間(1年間)に、労使協定による計画年休でお盆休み期間に3日分を有給消化
- 基準期間の間(1年間)に、すでに従業員が4日分を自ら請求して有給休暇を消化した
→この場合は、すでに7日(計画年休分3日+従業員自ら請求分4日)を有給消化しており、年5日を上回っているため、会社は1日も時季を指定して有給消化させる必要はない。
また、会社は、年5日の時季を指定するにあたっては、従業員の意見を聴取しなければなりません(労働基準法施行規則24条の6第1項)。
そして、その従業員に意見を尊重し、できるだけ希望に沿った取得時季に指定しなければなりません(労働基準法施行規則24条の6第1項)。
従業員の意見を聴取するにあたっては、面談やメールなど、任意の方法で構いません。
労働基準法施行規則24条の6
第二十四条の六 使用者は、法第三十九条第七項の規定により労働者に有給休暇を時季を定めることにより与えるに当たつては、あらかじめ、同項の規定により当該有給休暇を与えることを当該労働者に明らかにした上で、その時季について当該労働者の意見を聴かなければならない。
② 使用者は、前項の規定により聴取した意見を尊重するよう努めなければならない。
なお、会社が従業員の意見を聴取して最終的に決定した有給休暇の日に従業員が勝手に出社してきたとしても、基本的には、当該日に会社は有給休暇を消化させたことになります。
もっとも、勝手に出社してきた従業員に対して、業務を与えたりして労務を受領したと評価される場合は、当該日に会社は有給休暇を消化させたとは認められない可能性があるので注意が必要です。
義務化されることでの会社への影響
改正前(2019年3月以前)までは、従業員が有給を使用しなかった場合に、会社側が特段の処置をする必要はありませんでした。
しかし、改正後(2019年4月以降)は、上記のとおり、要件を満たした従業員に対しては、会社側は年5日は最低でも有給消化させなければならなくなりました。
この年5日の有給消化の義務に違反した場合、会社には30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働基準法120条、同39条7項違反)。
このような罰則を受けないためにも、会社としては、従業員の有給休暇の情報(有給休暇の基準日、付与日数、ある時点での消化日数等)の徹底した管理が必要になってきます。
加えて、会社による有給休暇の時季指定を実施する場合は、対象となる従業員の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載しなければなりません(労働基準法89条1号)。
以下は、就業規則の記載例です。
記載例 (年次有給休暇)
第○条
1項~4項(略)
5 第1項又は第2項の年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。
ただし、労働者が第3項又は第4項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。
就業規則について、詳しくはこちらをご覧ください。
有給消化が促されるようになった背景
会社が時季を指定してまで有給消化を促されるようになった背景には、日本人の有給取得率が極めて低いことにありました。
例えば、厚生労働省の調査によると、2014年(平成26年)の従業員1人あたりの有給取得率は、47.6%であり、半分以下の割合でした。
このような有給取得率の低さの原因には、上司への配慮、周りが有給取らないから自分も取らない等の様々なものがあります。
上記のような状況を改善すべく、働き方改革の一環として、有給消化の義務化が制定されました。
なお、厚生労働省の調査によると、改正後の2020年(令和2年)の有給取得率は、56.6%であり、1984年(昭和59年)以降過去最高となっていて、一定の改正の効果が出ていると考えられます。
有給を消化できなかったら?
消化に期間はある?
当該年度に消化されなかった有給休暇は、翌年度に繰越しされると考えられています。
具体例
- 2022年10月1日(有給休暇の付与の基準日)に10日の有給休暇を付与された従業員
- 2022年10月1日〜2023年9月30日の1年間の間に、会社が5日時季を指定して有給休暇を取得させたが、残りの5日は従業員が自ら取得することはなかった
→この場合は、2023年10月1日〜2024年9月30日の翌年度有給休暇に、消化しきれなかった5日が繰り越される(翌年度の有給休暇付与日数+5日)。
ただし、有給消化には期間があり、有給休暇の権利が発生した日から2年で時効により消滅します(労働基準法115条)。
また、自主退職や解雇などによって労働関係が消滅する場合は、その時点で未消化の有給休暇は、退職と同時に消滅します。
会社は従業員の有給休暇を拒否できるのか
従業員が有給休暇の請求をしてきた場合は、会社は原則的にその請求を拒否することはできません(労働基準法39条5項本文)。
もっとも、例外的に、会社が従業員の請求のあった日とは別の日に有給休暇を取得するよう指定することができる場合があります。
この会社の時季を変更させる行為を、有給休暇の時季変更権といいます。
会社が有給休暇の時季変更権を行使できるのは、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」(労働基準法39条5項ただし書)に限られています。
有給休暇の時季変更権について、詳しくはこちらをご覧ください。
パートやアルバイトの有給取得
正社員だけでなく、パートやアルバイトの方も、一定の要件が満たされれば有給休暇を取得できます。
もっとも、パートやアルバイトの方は、労働条件によって、有給休暇の付与日数が正社員の方と異なってきます。
パートやアルバイトの方の有給休暇の付与日数について、詳しくはこちらをご覧ください。
また、上記で解説したとおり、会社は、パートやアルバイトの方でも、(要件を満たしていれば)年5日の有給消化ルールを守らなければいけません。
ただし、パートやアルバイトの方の年5日の有給消化ルール特有の問題として、以下のものがあります。
パートやアルバイトの方の年5日の有給消化ルール特有の問題
パートやアルバイトの方の年5日の有給消化ルールに関しては、1年以内に付与される(当年度)有給休暇の日数が10日未満の従業員が、前年度の繰越した有給休暇日数を含めると10日以上となる場合、有給休暇が10日以上付与される従業員として、年5日の有給消化ルールが適用されるのか、という特有の問題があります。
しかし、この場合、年5日の有給消化ルールは適用されません。
あくまで当年度で有給休暇の日数が10日以上付与される従業員が対象であり、前年度の繰越し分を考慮して判断する必要はありません。
退職時の有給消化について
企業側が有給休暇を買い取る際は要注意
退職予定者が、退職日までの残りの日数を余っている有給休暇を使用して出社しないということがよくあります。
このような退職予定者の行動は、有給休暇の要件を満たしている限り、当然適法です。
しかし、当該状況は、会社にとって困ることがあります。
例えば、業務の引き継ぎがある程度必要な仕事について、有給休暇を一気に使用されて引き継ぎが全くなされない場合等です。
そこで、会社が退職時までの有給休暇を買い取り、その代わりに出社してもらって業務を引き継いでもらおうとする会社があります。
ただし、有給休暇の買い取りは原則認められていません。
このような場合で会社が有給休暇の買い取りができるのは、基本的に法令(労働基準法)以上の有給休暇が与えられていた場合のみです。
上記のような例外的な場面でない限り、会社が強制的に有給休暇を買い取って、出社をさせて業務を引き継がせることは違法になる可能性が高いです。
また、有給休暇の買い取りが認められる例外的な場面だったとしても、買い取りのルールが就業規則に記載されている場合は、その就業規則に従って処理をする必要があります。
なお、上記のような退職時の引き継ぎの場面ではなく、以下のような場合は有給休暇を買い取ることが認められています。
- 法令(労働基準法)以上の有給休暇が与えられている場合
- 時効消滅した有給休暇
- 退職時までに消化しきれなかった(余ってしまった)有給休暇
有給消化をさせてもらえない!どうすればいい?
有給消化したいのに会社が認めてくれない場合
有給消化を申し入れたにもかかわらず、会社側に拒否された場合は、従業員としては、まずその拒否の理由を聞きましょう。
拒否の理由によっては、会社として時季変更権の行使かもしれません。
もっとも、単に、「他の従業員はみんな有給休暇取ってないから」とか「うちは、有給休暇の文化がないから」等の理由で拒否している場合は、違法である可能性が高いです。
違法である可能性が高い場合は、録音やメール等の客観的証拠を確保し、労働基準監督署や弁護士に相談することをお勧めします。
仕事が忙しすぎて有給消化ができない場合
自分の担当している仕事が忙しすぎて有給消化できない場合は、過度に膨大な業務量が与えられている可能性が高いです。
そこで、まず上司に業務量の調整の相談をしましょう。
その際は、有給消化したいことも合わせて相談すると、業務量を調整してくれるかもしれません。
有給消化に関するトラブルを防ぐには?
企業側の対策
年休管理簿の作成・保存
会社は、有給休暇(従業員による請求、計画的付与、会社による時季指定)を与えたときは、時季、日数及び基準日を従業員ごとに明らかにした書面を作成し、3年間保存しなければなりません(労働基準法施行規則24条の7)。
この有給休暇の管理に関する書面のことを、年休管理簿といいます。
年休管理簿は、作成が義務化されているだけでなく、実際に従業員がどのくらい有給休暇を消化できていないか等をチェックするために必要な書面になります。
会社としては、年休管理簿を適切に作成し、従業員ごとの有給消化状況の把握に努めましょう。
年休管理簿の書式については、こちらをご覧ください。
計画年休の導入
有給取得率の低い会社が改善をしていくためには、計画年休の導入の検討してみるのが良いでしょう。
計画年休とは、労使協定に基づいて、会社があらかじめ従業員の有給休暇取得日を指定できる制度です(労働基準法39条6項)。
計画年休は、会社側にとっては、従業員に一定の有給休暇の取得をしてもらえることや、業務への影響が少ない時季に有給休暇の指定をできる等のメリットがあります。
計画年休の導入について、詳しくはこちらをご覧ください。
有給消化がしやすい環境整備
筆者の私見ですが、今後はワーク・ライフ・バランスに力を入れている会社が成長していくと思います。
有給消化は、従業員にリフレッシュしてもらって、次の出社日にしっかり仕事に集中してもらう効果がありますので、従業員だけでなく、会社にとってもメリットがあります。
会社としては、有給消化の重要性を理解し、有給消化がしやすい環境整備に努めましょう。
具体的には、業務量の調整や、面談等で有給消化を促すなどの方法が考えられます。
従業員側の対策
就業規則や雇用契約書の確認
有給休暇に関するルールは、就業規則や雇用契約書に記載されていると思います。
労働者側としても、まずは、これらの記載内容を確認し、会社の有給休暇のルールについて正しく理解しておく必要があります。
例えば、会社の就業規則で、有給休暇の届出につき、「◯日前までに届出を要する。」という記載がされているにもかかわらず、特段の理由なしにそのルールに従っていない場合はトラブルになる可能性がありますので、注意が必要です。
上司や同僚とのコミュニケーション
小規模の会社の場合、有給休暇を取ることによって、上司や同僚に迷惑がかかると思い、有給休暇の取得を躊躇してしまうことがあるかと思います。
しかし、有給休暇は従業員に認められた立派な権利ですので、躊躇する必要はありません。
業務への支障については、上司や同僚としっかり事前にコミュニケーションを取って、有給休暇中の業務の引き継ぎをしておくなどの対応策を講じておけば良いと考えています。
まとめ
有給消化は日本全体の課題でもあり、正しい運用が難しい分野です。
まずは法令を理解し、その後に有給消化ができていない原因を検討していくことが大切であると考えています。
有給消化についてトラブルになってしまった場合は、迷わず労働を専門とする弁護士にご相談ください。