派遣法の3年ルールとは|3年以上働く方法はある?弁護士が解説
派遣法の3年ルールとは、派遣労働者が同一事業所や同一部署で勤務できるのは最大3年までというルールで、「事務所単位の制限」と「個人単位の制限」に分かれています。
このページでは、派遣法の3年ルールとはどういうものか、派遣法3年ルールの例外となる条件はなにか、派遣法のメリット・デメリットなどについて弁護士が詳しく解説いたします。
派遣法の3年ルールとは
派遣法の3年ルールとは、派遣労働者が同一事業所や同一部署で勤務できるのは最大3年までというルールで、「事務所単位の制限」と「個人単位の制限」に分かれています。
2015年9月に派遣法改正!目的は?
2015年9月に派遣法※が改正され、「3年ルール」が新設されました。
この3年ルールは、労働者派遣における最重要ルールのひとつです。
3年ルールの全体像
内容 | 根拠 | |
---|---|---|
3年ルール | 事業所単位の制限 | 派遣法第40条の2 |
個人単位の制限 | 派遣法第40条の3 |
3年ルールの目的は、同一の事業所に長期間勤務する派遣社員について、正社員や無期雇用に切り替えさせ、その待遇を派遣先企業に改善させる点にあります。
このページでは、この3年ルールについて詳しく解説していきたいと思います。
※「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」が法律の正式名称です。労働者派遣法とも略されます。
派遣法3年ルールには例外も
派遣法3年ルールには例外があります(派遣法第40条の2第1項各号)。
この例外に該当すれば、派遣でありながら、3年ルールの制限を回避することができます。
以下で例外の場合を具体的にみていきましょう。
派遣法の3年ルールの例外条件
派遣元と無期雇用契約を結んでいる場合
派遣会社と無期雇用派遣の契約を結んでいる派遣労働者の場合には、派遣法3年ルールは適用されません。
無期雇用派遣とは、派遣会社に常時雇用される契約形態で、有期雇用派遣とは異なる派遣の類型です。
※無期雇用とは、期間の定めのない雇用契約のことで、いわゆる正社員に該当します。
年齢が60歳以上の場合
3年が経過した時点で年齢が60歳以上の派遣労働者についても、派遣法3年ルールは適用されません。
高齢の労働者については雇用継続する必要性が特に高いため、厚労省によって例外として認められています(派遣法施行規則第32条の4)。
プロジェクトの期限が決まっている場合
プロジェクト業務、すなわち、「事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のための業務」で、その期限が明確に決まっているものに従事する派遣労働者についても、3年ルールが適用されません。
日数が限定されている業務の場合
1か月間の勤務日数が、通常の労働者(原則として、正規の従業員)の所定労働日数の半分以下で、かつ、月10日以下の場合にも3年ルールは適用されません。
出産・育児・介護などで休業中の社員の代わりに働いている場合
派遣先企業の労働者が、産前・産後休業、育児休業、介護休業を取得している場合に、その代わりに働いている派遣労働者についても、3年ルールは適用されません。
3年ルールが、出産、子育てや介護の障害にならないよう配慮するための例外です。
事業所単位の制限と個人単位の制限とは
事業所単位の制限
上記でお示しした通り、派遣法3年ルールには、「事業所単位の制限」と「個人単位の制限」の2つがあります。
このうち、「事業所単位の制限」とは、派遣先が、同一の事業所において派遣可能期間(3年)を超えて派遣労働者を受け入れることができない制限のことを指します。
なお、ここでいう事業所とは、工場、事務所、店舗など、場所的に独立している拠点をイメージしてください。
例えば、2年前からすでに別の派遣労働者が働いている工場で働き始める場合、その1年後が派遣として働けるデッドラインになります。
そのため、派遣先企業の状況次第で、3年より短い期間で派遣期間が終了されてしまうことにもつながります。
ただし、派遣先企業の事業所の労働組合(組合がなければ過半数代表者)から意見を聴いた上であれば、3年を限度として派遣可能期間を延長することができます。
個人単位の制限
仮に、「事業所単位の制限」の派遣可能期間を延長した場合でも、派遣先企業の事業所における組織単位で、3年を超えて同じ派遣労働者を受け入れることはできません。
これが「個人単位の制限」です。
個人単位の制限は、派遣労働者個人単位の制限であり、かつ、「組織単位」(「課」「グループ」など)ごとの制限になることがポイントです。
抵触日に注意!
派遣法3年ルールでは、その抵触日(派遣法上派遣として働ける期間が終了した、その翌日)を見誤ると違法になってしまうので、慎重に抵触日を判断する必要があります。
- 事業所単位の制限における抵触日:事業所で派遣社員を受入開始してから3年が経過した日の翌日
- 個人単位の制限における抵触日:個人が派遣として働き始めた日から3年が経過した日の翌日
具体例
例えば、甲事業所で、派遣労働者Aが2021年4月1日から働き始めており、そこに派遣労働者Bが2022年4月1日から働き始めたとします。
この場合、派遣労働者Bはいつまで甲事業所で働き続けることができるでしょうか。
「個人単位の制限」(派遣労働者B)の抵触日は、Bが働き始めた2022年4月1日から3年が経過した日(2025年3月30日)の翌日である、2025年4月1日です。
もっとも、「事業所単位の制限」の抵触日は、派遣労働者(A)が働き始めた2021年4月1日から3年が経過した日(2024年3月30日)の翌日である、2024年4月1日となります。
したがって、派遣労働者Bが、甲事業所で、2024年4月1日以降も働き続けることは派遣法に抵触してしまうことになります。
派遣法の3年ルールまとめ
以上の話を表にまとめましたのでご確認ください。
事業所単位の制限 | 個人単位の制限 | |
---|---|---|
基準となる単位 | 事業所 | 派遣労働者個人 組織単位(「課」「グループ」) |
制限期間 | 3年 | |
期間延長の可否 | 可能 ※労働組合等への意見聴取手続が必要 |
不可 |
抵触日 | 事業所で派遣社員を受入開始してから3年が経過した日の翌日 | 個人が派遣として働き始めた日から3年が経過した日の翌日 |
根拠法令 | 派遣法第40条の2 | 派遣法第40条の3 |
派遣3年が経ったらどうなる?
派遣期間が3年を経過した場合、派遣労働者にはどのような選択肢があるのでしょうか。
具体的にみていきましょう。
派遣先の企業に直接雇用してもらい働く
3年経過後も同一の職場で働き続ける選択肢として、派遣先企業から直接雇用してもらう道があります。
派遣先企業としても、慣れ親しんだ労働者に引き続き業務に従事してもらいたいはずなので、この選択肢を希望する場合には、一度派遣先企業や派遣会社に相談してみるのがよいでしょう。
別の部署に異動して同じ派遣先企業で働く
別の部署に異動することで、同じ派遣先企業で働き続ける選択肢もあります。
すなわち、上で解説した通り「個人単位の制限」の期間は、同一事業所の同一部署(課)の業務について適用されるため、3年経過後に他の部署(課)で働くことは可能です。
ただし、「事業所単位の制限」の期間延長の措置が必要となります(下図参照)。
部署が変わってしまうため全く同じ職場環境とはいきませんが、企業文化や社内ルールは共通ですから、派遣労働者にとってストレスの小さい選択肢といえるでしょう。
派遣先企業としても、優秀な派遣労働者に引続き類似の業務に従事してもらう道が開けるため、有用な選択肢となります。
無期雇用社員になる
派遣契約の形態を変更して、無期雇用派遣社員になる道もあります。
具体的には、派遣会社(派遣元企業)と派遣労働者とで、契約を変更することになります。
これにより、3年ルールが適用されない例外に当てはまるため、3年を超えて派遣先企業で働き続けることができます。
ただし、3年ルールが適用されないことの裏返しとして、派遣先企業の正社員登用への道が遠のく可能性もありますので、無期雇用社員になることには慎重な検討が必要です。
派遣先を変えて働く
派遣先企業を変更して、別の企業で働くことも選択肢です。
多くの企業を経験することでどんな職場でも通用する汎用的なスキルを身に着けることにつながります。
一方で、職場環境や企業文化が大きく変わる可能性があるため、これまで慣れ親しんだ環境やそれと似た環境で働き続けたい方には注意が必要です。
クーリング期間を設けて同じ企業で再度働く
3年ルールには、「クーリング期間」の考え方が採用されています。
すなわち、派遣期間を一度終了(中断)し、3か月を超えない空白期間をあけて、再度派遣を開始(再開)した場合でも、派遣期間が継続しているものとみなされます。
裏を返せば、3か月+1日以上の空白期間をあけて再度派遣された場合には、3年の期間計算がリセットされ、通算して3年以上同一の職場で派遣労働者として働くことが可能になるといえます。
ただし、この対応は脱法的になりがちであるため、慎重な検討が必要です。
厚生労働省は、公表資料上で以下のように注意喚起していますので、記載のような態様でクーリング期間を用いることは避けるべきでしょう。
●派遣元事業主が、同一の派遣労働者を派遣先の同一の組織単位の業務に継続して3年間派遣した後、本人が希望しないにもかかわらず、「クーリング期間」を空けて再びその組織単位の業務に派遣することは、派遣労働者のキャリアアップの観点から望ましくありません。
●派遣先が、事業所で3年間派遣を受入れた後、派遣可能期間の延長手続を回避することを目的として、「クーリング期間」を空けて派遣の受入れを再開するような、実質的に派遣の受入れを継続する行為は、法の趣旨に反するものとして指導等の対象となります。
派遣法3年ルールのメリット・デメリット
続いて、派遣法3年ルールのメリットとデメリットについて整理しておきましょう。
メリット
3年ルールの派遣労働者にとってのメリットは、派遣期間が満了した際に、派遣先企業から正社員登用される可能性があることです。
派遣先企業としては、別の従業員や派遣労働者を教育して業務を引き継がせることにはかなりのコストがかかります。
そこで、派遣可能期間以降も、同一人物を直接雇用(正社員や契約社員など)して業務に従事させたいモチベーションがあります。
ただし直接雇用でも、契約社員(期間の定めのある雇用)等の形態があり得るため、正社員登用されるとは限られない点には注意が必要です。
デメリット
一方で、派遣労働者としては、3年で派遣期間が終了し、別の部署や別の会社で働きなおしとなる可能性があります。
この場合、派遣労働者としては、新しい環境や新しい業務に適応する必要があり、手間がかかります。
派遣先企業としても、3年かけて業務に習熟した派遣労働者を手放し、別の労働者を教育する必要が生じることになります。
メリット・デメリットのまとめ
3年ルールのメリットとデメリットを以下の表のようにまとめました。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
企業側 | ― | 3年以上同一の派遣労働者を勤務させられず、別の労働者を教育する必要が生じる。 |
労働者側 | 正社員等として派遣先企業に直接雇用される可能性がある。 | 3年で同一部署での派遣期間を終了し、別の職場や別の勤務先で業務を覚えなおす必要が生じる。 |
まとめ
以上、派遣法3年ルールについて詳しく説明しました。
派遣法3年ルールは、労働者派遣における最重要ルールのひとつですから、会社の人事・労務ご担当者の方や、派遣労働者の方はしっかり内容を理解しておきましょう。
そして、ご自身の事例が3年ルールの適用対象になるか?脱法にならないか?などのお悩みがあれば、手遅れになる前に労働法に詳しい弁護士へ相談されることをお勧めします。
労働専門の弁護士については、企業側専門と従業員側専門に分かれていることが多いですので、それぞれの立場に寄り添ってくれる弁護士に相談することが解決の近道です。
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