サービス残業とは?弁護士が解説【違法チェックリスト付】
サービス残業とは、一般に、本来支給すべき残業代が適切に支払われない残業のことをいいます。
残業代の不払いということですので、多くの場合違法なのですが、会社側・従業員側ともに、違法性の認識が必ずしも十分でなく、違法なサービス残業が横行しているという実態もあります。
サービス残業がまかりとおることは、給料を受け取る側の従業員にとってのみならず、支給する会社にとってもさまざまな悪影響をもたらすおそれがあります。
この記事では、サービス残業の定義や注意すべきポイント、サービス残業が発生した場合の対処法などについて弁護士が解説します。
サービス残業に関して気になることがおありの方は、ぜひ最後までお読みいただければと思います。
目次
サービス残業とは?
サービス残業とは、本来残業代を支給すべきであるにもかかわらず、これが適切に支給されていない残業のことをいいます。
簡単に言えば、出るはずの残業代が出ていない「タダ働き」状態のことです。
下記に当てはまると、サービス残業のおそれがあります。
- 労働時間が8時間を超えているのに残業代が支払われていない
- 始業時刻前に業務を行っているのに残業代が支払われていない
- 土日などの休日の業務に残業代が支払われていない
- 管理者(課長、部長、店長など)であることを理由に残業代が支払われていない
残業とは
残業とは、従業員が所定労働時間を超えて労働することをいい、正式には時間外労働といいます。
たとえば、1日の所定労働時間が午前9時から午後6時まで(休憩1時間)の8時間とすると、労働が8時間を超える、すなわち午後6時を過ぎても就業していれば、それが残業ということになります。
「所定労働時間を超える」というところがポイントですので、1時間早く午前8時に出勤した日があったとすると、午前8時から午前9時までの1時間ではなく、労働時間が8時間を超えることとなる午後5時から午後6時までの1時間を残業と考えることになります。
また、休日労働は法律上、上記の時間外労働とは異なるものであり、文脈によっては厳密に区別する必要があるのですが、「サービス休日出勤」というのもまどろっこしく感じられると思いますので、この記事では休日出勤も含めて「残業」と呼ぶことにします。
残業代とは
従業員が残業した場合、その労働の対価として支払うのが残業代です。
残業代は、次のように計算します。
基礎賃金とは、従業員の給与を時給に換算したものです。
残業した時間分の時給を支払うという考え方ですが、残業の場合は、さらに法定の割増率を上乗せして支給する必要があります。
残業代の計算について、詳しくはこちらをご覧ください。
残業代未払いの具体例
サービス残業は、従業員が残業し残業代を支給すべきであるのに、これが支払われていないということです。
以下に具体例を示すとおり、残業代未払いにはいくつかのパターンが考えられます。
【事例設定】
基礎賃金(給料を時給換算したもの)2,000円の従業員が、ある週(月曜日から金曜日まで)において、毎日2時間(計10時間)残業した場合
【正しい支給額】
25,000円(2,000円 × 10時間 × 1.25)
→時間外割増賃金の割増率は原則として1.25ですので、この事例では25,000円の残業代を支給するのが適切です。
以下、残業代未払いの具体例を紹介します。
完全不支給型
0円(2,000円 × 0時間)
→およそ残業代がまったく支払われていない例です。
法令の解釈を誤って残業代を支給しなくてもよいと考えていたり、半ば違法とわかりつつも、従業員が何も言ってこないのをいいことに泣き寝入りさせていたり、といったパターンがこれにあたります。
一部不支給型
12,500円(2,000円 × 5時間 × 1.25)
→残業代は支払われていますが、支給されているのは実際の残業時間の半分にとどまります。
従業員の残業時間を正確に把握していないとか、予算などの都合で一定時間以上の残業を申告しないよう従業員に圧力をかけているといったケースが想定されます。
割増率の誤り型
20,000円(2,000円 × 10時間 × 1)
→同じく残業代は支払われていますが、基礎賃金がそのまま支払われており、割増率が考慮されていません。
割増率に対する理解を欠いているために生じるのが典型的なケースです。
ただし、支給が不十分という点では一部不支給型と同様であり、残業代の額面からいずれであるかを判別することは困難なことも多いです。
たとえば上記の例では、割増率は適切に適用されているものの、残業時間を8時間と申告させたために、2,000円 × 8時間 × 1.25で20,000円となっている可能性も考えられるのです。
サービス残業は当たり前ではない
サービス残業は決して当たり前ではありません。
このような誤解が生じるのは「周りの従業員がサービス残業を行っているケース」です。
このような状況では、自分もサービス残業をして当然のように錯覚することがあります。
サービス残業は会社が労働基準法で定められている残業代を支払っていないことを意味し、従業員は残業代を受け取る権利があります。
また、次で解説するように違法な行為です。
サービス残業は違法?
サービス残業は、すなわち残業代の未払いということであり、労働基準法に反し違法です。
労働基準法24条1項は、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定めており、「全額」の箇所を捉えて、「賃金全額払いの原則」と呼ばれます。
残業代を支払わないということは、まさにこの「全額」を支払うという原則に反しており、違法となるのです。
残業代を正しく支給しなかった場合の罰則は、「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」です(労働基準法119条1号)。
自主的なサービス残業も企業側に罰則が科される?
サービス残業にまつわるトラブルでは、会社側から「サービス残業は従業員の自主的なものであるから、残業代の支払いは不要である」といった主張が聞かれることがあります。
結論として、このような主張が認められるケースは稀であり、会社には残業代の支払い義務があるケースが多く、罰則が科される可能性があります。
企業に課される罰則とは?
上で解説した通り、残業代の未払いがあった場合、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されるおそれがあります(労働基準法119条1号)。
自主的なサービス残業の具体例
自主的なサービス残業の具体例としては、次のものが挙げられます。
- 単に会社が残業代を支払わない
最も多いのは、単純に会社が残業代を支払っていない状況です。
このようなケースは中小・零細企業に多い傾向です。 - 会社が従業員に過少申告させる
従業員が法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超える労働を行っているにもかかわらず、会社が従業員に対し、実際より少ない労働時間として報告(タイムカードの打刻など)するように指示しているケースです。
このようなケースは会社が悪質であり、罰則を受ける可能性が高いです。 - 自宅に持ち帰って仕事をする
従業員が会社に報告せずに、自発的に自宅で仕事をしているようなケースです。
例えば、メールの送受信や書類作成等が典型的です。
会社が従業員が自宅で仕事をしていることを黙認している場合も含まれます。 - 早出残業を行っている
従業員が始業時刻前に出勤して仕事を開始しているケースです。 - 固定残業代として支払っている
残業代込みで給与を支払うことを固定残業代制といいます。
このような固定残業代制は法律の条件を満たしていれば有効ですが、この条件を満たしていない状態で残業代を支払っていないと違法となります。
- 管理者に残業代を支払っていない
課長・部長・店長などの管理職に対して、「管理監督者」であることを理由に残業代を支払っていない会社は多いです。
しかし、法律上、この管理監督者に該当することは稀であり、残業代を支払っていない場合、違法となる可能性が高いです。
サービス残業が合法となる例外的なケースとは?
会社が残業に関して業務命理に基づいて行うものであるというということを徹底しており、にもかかわらず、従業員が無断で残業を行っている場合、サービス残業が合法となる可能性があります。
例えば、残業の許可性を導入するなどして、残業は会社の指示によって行うということが厳格に運用されていたようなケースです。
逆にいえば、残業するかどうかが従業員各人の判断にゆだねられているのが実態であれば、会社の命令に基づく残業として残業代の支給対象と判断される可能性が高くなります。
サービス残業を未然に防ぐための3つのポイント
サービス残業の発生するパターンをご紹介しましたので、以下では、サービス残業を予防するために注意すべきポイントをご説明します。
残業代の仕組みを正しく理解する
完全不支給型のサービス残業では、残業代を支払わなくてよいという誤解や、従業員との力関係を背景に不払いがまかりとおっているという原因が考えられます。
まず、労働基準法を遵守することもコンプライアンスの一環であることを会社として強く認識する必要があります。
従業員の泣き寝入りを期待するようなことは、あってはなりません。
その上で、法律上いかなる場合に残業代を支給しなければならないのか、正しい知識を身につけることが求められるでしょう。
残業代を支給しなくてもよいのは例外的なケースであり、全額支給が原則です。
残業代を支給しなくてもよい場合についての詳細は、こちらをご覧ください。
従業員の残業時間を正確に把握する
従業員の残業時間の把握が不正確であると、残業代の未払いが生じサービス残業となるおそれがあります。
残業時間を自主申告制にすると、過少申告が生じるおそれがあります。
残業時間を正確に把握するためには、タイムカードやパソコンのログイン履歴など、客観的な方法によるのが確実です。
また、残業時間の端数を切り捨てることも、切り捨て部分の残業代が未払いとなりますので、原則として違法です。
たとえば、上司が部下に対し「残業は20時間までだからな」と言ったとします。
上司は、「20時間以上は残業をするな」という意味で言ったのかもしれませんが、部下は「実際の残業時間にかかわらず、20時間以上の残業をつけるな」と解釈する可能性があります。
残業をつけてはいけないという風潮が社内にあると、従業員の方でも残業を申告することがためらわれてしまうことが考えられます。
残業時間の過少申告を招かないためにも、従業員と丁寧なコミュニケーションを心がけ、風通しの良い職場環境を作るようにしましょう。
残業代の切り捨ても含めた詳しい計算方法については、こちらをご覧ください。
割増率を正しく理解する
割増率の適用を誤ることも、サービス残業の発生原因となります。
残業代を支給する際には、法律で定められた以上のパーセンテージを上乗せする必要があり、この割合のことを割増率といいます。
割増率には、時間外割増、深夜割増、休日割増の3種類があり、簡単に整理すると次のようになります。
割増の種類 | 条件 | 割増率 |
---|---|---|
時間外割増 | 労働時間が1日8時間以上又は週40時間以上 | 1.25(月60時間以降は1.5) |
深夜割増 | 深夜(22時から翌朝5時まで)に労働 | 1.25 |
休日割増 | 法定休日に労働 | 1.35 |
割増率の適用は複雑であり、正確に理解しておかないと、残業代の計算を誤る原因となり得ます。
サービス残業が発生しやすいケース
さまざま要因がサービス残業の発生原因となることをご理解いただけたかと思います。
ここでは、サービス残業の発生しやすいケースをお示しします。
サービス残業とは、残業代の未払いが生じていることを意味します。
すなわち、従業員が残業している限り、サービス残業の発生リスクがあるということです。
特に、下記の項目に該当している場合、サービス残業となっている可能性が否定できませんので、一度ご検討頂きたいと思います。
検討チェックリスト
- 1日8時間以上働いている
- 1週間40時間以上働いている
- 始業時刻前に清掃や朝礼その他稼働がある
- 休憩時間が完全に自由ではない
1日8時間以上働いている
法定労働時間を超えて働いた場合、時間外割増賃金が発生します。
法定労働時間とは、法律によって定められた労働時間の上限であり、1日8時間かつ1週あたり40時間が上限となっています(労働基準法32条2項、1項)。
そして、従業員がこれを超えて労働したときには、残業代として時間外割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条1項)。
具体例
定時が午前9時から午後6時まで(休憩1時間)の職場において、基礎賃金(給料の時給換算)2,000円の従業員が、午前9時から午後8時まで仕事した。→ 2,000円 × 2時間 × 1.25 = 5,000円の残業代が発生
以上はシンプルな事例ですが、実際の残業時間は日によっても従業員によっても異なるでしょうから、残業代を正確に計算することは簡単ではありません。
もし残業代の計算方法に自信が持てないようであれば、「残業代計算ツール」をご利用いただければと思います。
下記のページでは、いくつかの項目を入力するだけで、簡易的に残業代の目安を算出することができますので、是非ご利用ください。
1週間40時間以上働いている
法定労働時間は、1日では8時間、1週間では40時間ですので、週の労働時間が40時間以上の場合も、残業代が発生している可能性があります。
具体例
定時が午前9時から午後6時まで(休憩1時間)の職場において、基礎賃金(給料の時給換算)2,000円の従業員が、午前9時から午後6時まで週に6日出勤した。→ 2,000円 × 8時間 × 1.25(又は1.35) = 20,000円(又は21,600円)の残業代が発生
この事例では、1日の労働時間は8時間を超えていませんが、週の労働時間が40時間を超えており、割増賃金が発生します。
この事例では週に6日出勤しているため、出勤日に法定休日が含まれているかによって、割増率の適用が変わってきます。
残業代の計算には割増率の適用条件などの難しい判断も必要となってきますので、まずは残業代計算ツールにより目安の額を把握していただければと思います。
始業時刻前に清掃や朝礼その他稼働がある
始業時刻の前に清掃や朝礼などを行っている、という会社もあるかもしれません。
これらの時間が労働時間にあたるかは、強制の度合いなどによってケースバイケースですが、実質的に拒否することが難しいなど、労働時間に当たるケースも少なくないと考えられます。
具体例
午前9始業の会社において、午前8時55分から5分間朝礼を行っている
残業代は、1分単位で全額支給するのが原則です。
「たった5分」と思われるかもしれませんが、毎日のことですと、合計してみると結構な金額になる可能性もあります。
たとえ短時間であっても、このような業務外の雑務などのお心当たりがあるようでしたら、残業代計算ツールでだいたいの金額を確認してみてください。
休憩時間が完全に自由ではない
法律上、会社は従業員に所定の休憩時間を与えるものとされており、休憩時間は、従業員に自由に利用させなければならないものとされています。
第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
②(略)
③ 使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。
引用元:労働基準法|電子政府の総合窓口
「自由に利用」させているといえるためには、従業員が休息のために労働から完全に解放されることが保障されていなければなりません。
これを休憩の自由利用の原則といいます。
たとえ名目上「休憩時間」とされていたとしても、このような自由が保障されていないとすると、それは労働基準法上の定める「休憩時間」には該当しません。
つまりその時間は労働時間ということになり、残業代を支給しなければならないのです。
具体例
12時から13時までを昼休憩としているが、電話や来客があった場合にはこれに対応しなければならない。
このように、業務に従事していなくても、指示があれば直ちに従事できるよう待機している時間のことを「手待時間」と呼び、原則として労働時間に該当するものと考えられています。
結果的に来客などがなく対応の必要がなかったとしても、その可能性があることにより休憩時間の自由な利用が妨げられている点で、労働から完全に解放されているとはいえないためです。
労働時間に当たるにもかかわらず、これを休憩扱いにして残業代を支払っていないとすれば、サービス残業のおそれがあります。
休憩時間の考え方について、詳しくはこちらをご覧ください。
サービス残業とはならない場合もある
サービス残業とは、本来支払うべき残業代が未払いとなっていることをいいますから、そもそも残業代を支給する必要がないケースであれば、サービス残業にはなりません。
たとえば、裁量労働制が採用されている場合や、従業員が労働基準法上の管理監督者に当たる場合などは、法律上、残業代を支給する必要がないとされています。
もっとも、このような取り扱いは例外的なものであり、労働基準法の原則としては、あくまで残業代は全額支給すべきものといえます。
これらの制度が残業代を支給しない口実とされている場合、サービス残業となっている可能性も否定できません。
いかなる場合に残業代の支払いが不要となるのかについての詳細は、こちらをご覧ください。
ササービス残業をなくすための対策
サービス残業は、させられている従業員だけでなく、させている会社側にも問題を生じさせるおそれがあります。
以下にサービス残業に対応する際のポイントを例示しますので、サービス残業でお悩みの場合の参考としてください。
従業員側の対応のポイント
就業規則や雇用契約書を確認
残業代が支払われずサービス残業となっているときは、まず雇用契約書や就業規則を確認してみてください。
賃金などの労働条件については、法律上従業員に対して明示しなければならないとされています(労働基準法15条1項)。
そのため、残業代の支給についてのルールがこれらの書面に記載されている可能性があります。
雇用契約書や就業規則の規定どおりに残業代が支給されていないとすれば、サービス残業となっているおそれがありますので、まずは会社のルールを確認していただければと思います。
残業時間を把握
会社の規定だけでなく、自身の残業時間を正確に把握することも重要です。
残業時間がはっきりしなければ、正確な残業代の金額が確定できず、サービス残業となっているか否かの判断もつかないためです。
残業時間は、タイムカードや給与明細などで確認することができます。
仮にサービス残業となっていた場合、これらは未払いの残業代を請求する際の根拠資料ともなり得る重要なものですので、証拠として残しておくことをおすすめします。
また、これらに残業時間が正確に記載されていない疑いがある場合は、ご自身で日々の出退勤時間を記録し、照らし合わせてみるとよいでしょう。
労働者側の弁護士へ相談
残業代の計算は複雑ですので、就業規則や残業時間を確認したとしても、サービス残業に当たるのかの判断が難しいこともあるかもしれません。
そのような場合は、労働者側の事件を扱っている弁護士にご相談なさることをおすすめします。
残業代の正確な計算はもちろんのこと、仮にサービス残業に当たる場合には法的な手続きによって請求していくことも検討する必要がありますので、法律の専門家である弁護士へ相談することはきわめて重要といえます。
労働者側の事件を多く扱う弁護士であればサービス残業への対応経験も豊富ですので、サービス残業に関してお悩みの場合は、ぜひ労働者側の弁護士にご相談いただければと思います。
労働問題における弁護士選びの重要性については、こちらをご覧ください。
会社側の対応のポイント
残業代を適切に支払っているかの判断は難しい
残業代を適切に支払ってサービス残業を防止するためには、残業代の計算に関する法令の的確な理解と、従業員の残業時間の正確な把握という2つの要素が関係してきます。
毎月の事務だからといって流れ作業的に処理していると、いざ問題となったときに、自社の処理がサービス残業に該当するかの判断がつかないということにもなりかねません。
残業代を適切に支払ってサービス残業を予防することが、法的にも実務的にも難しい問題をはらんでいることを認識し、丁寧に対処する必要があるといえるでしょう。
未払いがあると罰則のおそれがある
サービス残業とは、残業代の未払い状態を意味します。
従業員から未払い残業代の支払いを求めて裁判を起こされるという民事上のリスクがありますが、それだけにとどまらず、罰則を科されるおそれがあるという刑事上のリスクも発生します。
具体的には、残業代の未払いがあった場合、労働基準法により「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」に処されるおそれがあります(労働基準法119条1号)。
サービス残業を強いた会社のすべてに、必ずこのような罰則が科されるわけではなく、未払い分の残業代を適切に清算することで解決する事案も少なくありません。
しかし罰則が法律に規定されている以上、悪質なケースと判断されれば、刑事罰の対象とされることも十分考えられます。
罰則には罰金だけでなく懲役も規定されていますので、そうなってくると、もはや金銭だけの問題とはいえなくなります。
サービス残業にはこのようなリスクがあることをしっかり認識し、残業代の適切な支払いに努めていただきたいと思います。
会社側の労働専門弁護士に相談
もしサービス残業となっていないか不安である、あるいは現に従業員からサービス残業との訴えがあるといったことがおありであれば、会社側の労働専門弁護士に相談することが重要です。
ここまでご説明してきたとおり、サービス残業かどうかの見極めには法令の正確な理解が不可欠です。
企業法務の分野ではサービス残業に関するトラブルも多いため、会社側の労働専門弁護士であれば、サービス残業問題についての処理経験も豊富に積んでいることが期待できます。
専門家からの的確な助言を受けることで、安心して事業活動に専念していただけるのではないでしょうか。
労働問題における弁護士選びの重要性については、こちらをご覧ください。
サービス残業についてのよくあるQ&A
従業員が会社を告発することができる?
従業員は、サービス残業を労働基準監督署に告発することができます。
サービス残業の証拠の有無や事案の性質などによって労基署の対応も変わりますが、是正勧告や指導の対処となったり、悪質な場合は前記の刑事罰が科されたりすることもあり得ます。
サービス残業で訴えられたらどうなる?
残業代の支払いを求める訴えが提起されたとすると、民事裁判が開始することになります。
残業代が未払いであるという従業員の主張が真実であり、そのことが証拠によって裁判で立証されたとすると、会社に未払い残業代の支払いを命じる判決が出ることになります。
明確に指示していない残業を黙認していたらどうなる?
従業員が残業しているのを黙認していた場合、実質的には会社の業務命令に基づく残業と認定される可能性が高いといえます。
もしその残業が会社の意思に反しており残業代を支給したくないということであれば、残業を明示的に制止する必要があります。
終業時刻後30分間は残業代をもらえない?
残業代は1分単位で全額支給するのが原則ですので、たとえ残業時間が30分未満であっても、残業代は支払わなければなりません。
ただし、1ヶ月の残業時間を合計したときに30分未満の端数があるときは、これを切り捨てることも許されます(30分以上1時間未満の端数がある際は1時間に切り上げることが条件となります)。
まとめ
このページでは、サービス残業の定義や具体例、問題点や対応方法などについて解説してきました。
最後に、記事のポイントを要約します。
- サービス残業とは、本来支給されるべき残業代が支給されていない未払いの状態を言う。
- サービス残業が発生する原因には、残業代に対する意識が不十分であることのほか、労働時間の不十分な把握や割増率に対する誤解などが考えられる。
- 従業員が法定労働時間外や深夜時間帯に働いているなど、割増賃金が発生し得る状況では、サービス残業となるおそれがある。
- サービス残業を防止するためには、従業員の労働時間の把握や残業代の計算方法を正確に理解することのほか、必要に応じて労働問題に強い弁護士に相談することが重要である。
当事務所では、労働問題を専門に扱う企業専門のチームがあり、企業の労働問題を強力にサポートしています。
Zoomなどを活用したオンライン相談も行っており全国対応が可能です。
サービス残業の問題については、当事務所の労働事件チームまで、お気軽にご相談ください。
この記事が、労働問題にお悩みの企業にとってお役に立てれば幸いです。
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