退職する従業員からの残業代請求を1か月で示談成立させた小売業
弁護士に依頼した結果
依頼者:小売業
解決までの期間:1か月
状況
Sさんは、個人で小売業を運営していました。
従業員のIさんは、約7年前にアルバイトとしてSさんのもとで働き始め、その後正社員となりました。
SさんはIさんを正社員にする際、口頭で基本給などの給与について説明していましたが、雇用契約書などの書類を作成してはいませんでした。
Iさんには夜間の勤務もあったため、夜間の部分も含めて基本給を支払うとSさんは説明していました。
その後、Sさんは本格的に事業展開をしていく中で就業規則を作成し、労基署に届け出ていましたが、給与については個別に定めるとして、具体的な規定を設けていませんでした。
Iさんは、プライベートな悩みをSさんに相談するなどして、良好な関係を築いていましたが、ある日突然体調不良を原因に退職したいとの申出がありました。
Sさんとしても残念でしたが、Iさんの退職を受け入れ、円満退社をしたつもりでいました。
しかしながら、退職してまもなく、Iさんからこれまでの未払残業代の請求書がSさんのもとに届きました。
SさんはIさんからの要求に困惑して、どうすべきかわからず弁護士に相談されました。
弁護士の関わり
弁護士は相談の段階で、Iさんの主張する残業がそもそも発生しているかどうかをSさんから聴取し、Iさんの就労状況のわかる資料がないか確認しました。
その上で、依頼を受けてすぐに、Sさんの説明をもとに、未払残業代が発生しているかどうか、発生しているとしてどのくらいになるかを計算しました。
弁護士のシュミレーションでは、一定の未払残業代が発生しており、支払は避けられないと判断しました。
そこで、弁護士はSさんに計算結果を表にまとめたうえで説明し、示談交渉により解決を図るべきであるとアドバイスしました。
Iさんとの示談交渉では、試算結果をもとに交渉し、Iさんの早期解決のメリットを説明しました。
具体的には、訴訟や労働審判となった場合、Iさんにとっても弁護士に依頼する費用や労力、解決までの期間を要することを説明しました。
その結果、交渉開始から2週間という短期間で裁判等にならずに示談により解決することに成功しました。
補足
深夜労働の給与
午後10時〜午前5時の間に労働を行った場合、通常の賃金に付加して25%の割増賃金を支払う必要があります。
時給制の従業員であれば、通常の時給に25%割増した額を支払えばよいため、比較的わかりやすいです。
しかしながら、正社員の場合には注意が必要です。
Sさんの場合のように、あらかじめ深夜労働が予定されている場合、基本給で深夜分も考慮して支給しているケースが見受けられます。
しかしながら、深夜勤務が具体的に何日、何時間になるかについては、通常一律ではないはずです。
それにもかかわらず、単純に「基本給〇万円(深夜分含む)」という定め方で給与を支給してしまうと、実際に深夜勤務の手当がいくら支給されているのかわからないということになります。
このように、深夜勤務の手当が具体的にいくらで、何時間分に対応するものかが明確になっていない場合、深夜割増しを支給していると裁判所に認定してもらうことは非常に困難です。
したがって、深夜労働が予定されている場合でも、時給制を採用しないのであれば、基本給部分と深夜労働の割増部分は別の項目として(深夜手当)支払うべきで、その場合、何時間分の賃金なのかも毎月の給与明細に記載するようにしてください。
残業代の示談交渉のポイント
残業代の請求を従業員から受けた場合、「残業があった」、「いや、なかった」と話しているだけでは、互いの主張は平行線のままで解決の糸口が見いだせません。
そのため、残業代請求を受けた企業としては、タイムカードや業務日報といった業務上作成される資料をもとに残業代の計算を行い、シュミレーションすることが必要です。
このシュミレーションを通じて、従業員の主張とどの程度の差異があるのか、裁判などで支払を命じられる可能性のある額がどの程度発生しそうなのかといった点を把握することができます。
この点を踏まえて、個別の請求に対してどのように対応していくのがベストなのかを検討し、示談交渉に臨むことが早期解決の観点はもちろん、適切な解決の可能性を高めることにつながります。
こうしたシュミレーションや方針を立てるためには、過払金請求と異なり、複雑な計算が求められる残業代請求では、残業代問題を数多く取り扱う弁護士に相談してサポートを受けることが大切になってきます。
今回のSさんも、どこから話を進めればよいかわからないというところから、弁護士に相談し、シュミレーションの結果、一定額の支払を早期に行って示談すべきという方向性に沿って交渉を進められた結果、依頼から1か月というスピード解決につながっています。
未払残業代の時効が3年間となり、今後ますます請求が増えることが予想されます。残業代の請求を受けた場合には、早めに弁護士にご相談ください。
ご相談の流れについてはこちらをごらんください。