請負や派遣でも安全配慮義務を負う必要はある?【弁護士解説】

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

 

企業は雇用する従業員について安全配慮義務を負っています(労働契約法5条)。

この安全配慮義務については、直接の雇用関係にない、下請会社で働く従業員や派遣労働者についても認められる可能性があります。

そのため、企業はこうした下請や派遣の従業員のマネジメントも適切に行う必要があります。

 

請負や派遣の法律関係

建築業や製造業の分野では、下請けを利用するということが一般的に行われています。

とりわけ、建築業では、下請けを受けた企業からさらに下請けをするという孫請けもよく行われています。

造船所そうすると、元請企業の指揮する現場には、下請企業の従業員、孫請企業の従業員がいるといったことも起こりえます。

このとき、元請企業と下請企業の従業員には、直接の雇用契約は締結されていません。

元請け、下請けの関係と同じく、派遣会社の従業員も派遣先企業と直接雇用契約を結んでいるわけではありません。

このように、従業員の立場からすると雇用主はあくまで下請企業や派遣元企業なのです。

 

 

請負、派遣と安全配慮義務

このような法律関係を前提とすると、下請企業の従業員や派遣元企業の従業員には労働契約法5条で定められている安全配慮義務を負わないとも考えられます。

しかしながら、裁判実務ではそのように取り扱われてはいません。

この点、最高裁判所は、安全配慮義務について、広く「特別の社会的接触関係」にある当事者間における義務であると考えており(最三小判昭和50年2月25日)、現在もこの考え方を基本にしています。

裁判や弁護士実際、下請企業の従業員や派遣元企業の従業員は、元請企業や派遣先企業の指示、監督のもと作業を行うことになり、作業場所の指示だけでなく、設備や器具の提供を受けたりしています。

したがって、請負や派遣という形態をとっていても、元請企業や派遣先企業の管理が事実上及んでいるのが通常です。

そこで、請負や派遣の場合でも、企業は安全配慮義務を負うことになっているのです。

安全配慮義務と密接に関係する労災においても、製造業及び土木・建設業について、数次の請負が行われる場合でも、そこで生じた労働災害については、被災者が下請企業の雇用する従業員であっても、元請企業を使用者とみなすと定められています(労働基準法87条1項、労働基準法施行規則48条の2)。

 

裁判例

請負や派遣で安全配慮義務が問題となった裁判例としては、以下のようなものがあります。

判例① 元請企業と下請企業の従業員

▪️元請企業の下請企業従業員に対する安全配慮義務

この事案では、元請企業の造船所の下請工等として、この造船所の敷地内で、騒音を伴う船舶の建造作業等に従事していた従業員が、元請企業より耳栓の支給が遅れたり必ずしも十分に支給されなかった結果、騒音性難聴に罹患したとして、元請企業に安全配慮義務違反が認められました。

【三菱重工業事件:最一小判平成3年4月11日】


判例② 派遣先企業と派遣労働者

▪️派遣先企業の派遣労働者に対する安全配慮義務

雇用されている派遣元企業から派遣されて派遣先企業の指導監督の下、深夜交代制でクリーンルーム内での半導体製造装置の検査業務に従事していた従業員が、過重な労働等による肉体的及び精神的負担によって罹患したうつ病により自殺したとして派遣元企業と派遣先企業に安全配慮義務違反が認められています。

【東京高判平成21年7月28日】


判例③ 親会社と子会社労働者

▪️親会社の子会社労働者に対する安全配慮義務

請負や派遣と似た関係にあるものとして親子関係にある会社が考えられます。こうした親子会社に関して、この裁判例では、石綿製品の製造作業に従事していた従業員がじん肺(石綿肺)に罹患したことについて、事実上、親会社から労務提供の場所、設備、器具類の提供を受け、かつ親会社から直接指導監督を受けて、子会社が組織的、外形的に親会社の一部門のような密接な関係を有していた等として、親会社に安全配慮義務違反が認められています。

【長野地判昭和61年6月27日】

 

 

 

まとめ

このように、直接の雇用関係にない請負や派遣に関しても、労災が発生すれば、元請企業や派遣先企業が労災保険の対応をしなければなりませんし、管理が不十分であれば安全配慮義務違反を問われるリスクがあります。

労働災害イメージ安全配慮義務違反を問われると、労災保険では補償されていない慰謝料といった損害賠償の請求を受けることになってしまい、企業に与える影響も大きくなります。

したがって、元請企業や派遣先企業については、従業員が「下請けだから」、「派遣社員だから」といってマネジメントをおろそかにせず、自社従業員と同じように指示や監督を行っていくことが大切です。

安全配慮義務について、詳しくはこちらをあわせて御覧ください。

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執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

所属 / 福岡県弁護士会

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

専門領域 / 法人分野:労務問題、外国人雇用トラブル、景品表示法問題 注力業種:小売業関連 個人分野:交通事故問題  

実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所のパートナー弁護士であり、北九州オフィスの所長を務める。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行っている。労働問題以外には、商標や景表法をめぐる問題や顧客のクレーム対応に積極的に取り組んでいる。




  

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