うつ病の社員に、病院の受診命令を出すことはできますか?
会社に、だれかれかまわず暴言を吐いたり、独り言をぶつぶつと話す社員がいます。
最近では、「家でも会社でも、周りの人に常に監視されている。」「四六時中、周りの人から耳元で悪口をささやかれ、耐えられない。」と話すようになり、事実と異なる発言が目立つようになりました。当然、任せた仕事も全くこなすことができない状況です。
明らかに様子がおかしいため、病院を受診するようすすめましたが、本人はどこもおかしくないと言い張り、病院に行こうとしません。今後の対応はどうすればよいでしょうか。
メンタル不調を抱える人は、自覚症状がない人も多いです。そのため、周りがどんなに病院に行くよう促しても、素直に従ってくれない場合があります。
そのような場合、まずは、就業規則に病院の受診命令に関する規定があるかどうか確認しましょう。
就業規則にその規定がある場合は、就業規則に基づき、当該社員に病院を受診するよう命令を出します。仮に受診命令に従わない場合、状況に応じた懲戒処分を出すなどして、当該社員に受診を促すことが可能です。
他方で、就業規則にその旨の規定が無い場合、どのように対応すべきか問題になります。
この場合は、個別具体的な対応が必要になりますが、メンタル問題が疑われる社員がずっと欠勤を続けており、復職の見通しも立っていないような場合、メンタル不調が回復しない限り出勤は期待できないため、使用者としても健康診断を実施し、必要に応じて休職等の処分を検討すべきと考えられます。裁判例でも、同趣旨の判断を示したものがあります。
また、メンタル不調が業務に起因するものかどうかが争われている場面では、労働者が持参した診断書だけでは適切な判断が難しい場合もあります。その場合は、労働者に対し、使用者が指定した医師の診察を受けるよう指示ができると判断した裁判例もあります。
当該社員が会社の指示に従わず、メンタル不調を悪化させた場合、その社員が、メンタル不調が悪化したのは会社の責任だと主張してくることがあります。
そのような事態に備えるため、会社が従業員に対し、受診をすすめたり、受診命令を出したりしたことについてはきちんと記録に残し、会社が適切な対応をしたことを証拠化しておく必要があります。
メンタル不調の社員は、自らその問題を気づきにくいため、周囲の者がその対応に苦慮します。しかし、対応を誤ると、最悪の事態を招くことになりかねません。
メンタル不調の社員に対する対応には、労働問題に関する専門的な知識が必要です。
メンタル不調の社員を抱えてお困りの方は、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。
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